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ロバと王女
PEAU D'ANE
(1970年 フランス 90分)
pic 実の父である王に求婚されたため、ロバの皮に身を包んで別の国へ逃げ、ひっそりと暮らす王女。彼女の美しさを垣間見た王子はたちまち恋に落ちてしまって…
2006年11月4日から11月10日まで上映 ■監督・脚本 ジャック・ドゥミ
■音楽 ミシェル・ルグラン
■出演 カトリーヌ・ドヌーヴ/ジャン・マレー/ジャック・ペラン/デルフィーヌ・セイリグ

■オフィシャルサイト http://www.cetera.co.jp/roba/

さて、これだけつっこみどころ満載な映画もなかなかお目にかかれるものじゃございません。 原作は「長靴をはいた猫」「シンデレラ」「眠りの森の美女」などでおなじみの シャルル・ペロー。絵本の世界をそのまま実写化してみました、的アプローチです。 甘甘砂糖菓子のような、カラフルでキッチュなファンタジーワールド。

ドレスのパフスリーブ具合が半端じゃなかったり、お妃さまの棺が ガチャポンみたいな球型透明ドームだったり、 王さまの玉座が白いふわふわの巨大ネコ(→)だったり、 結婚をあきらめさせる為に王女が王さまにつきつける条件が「空のドレス」「月のドレス」「太陽のドレス」だったり。

中でも「空のドレス」は必見!生地の上を、本当に雲が流れているのです!ステキ。

結婚を拒んでいたはずの王女ですら、きらびやかな3着のドレスを前に、「きれいだわ。結婚しちゃおうかしら」なんて、思わずつぶやいてしまうほど。やっぱりいつの時代も、女の子ってのは「きれいなお洋服」とか「ぜいたくなプレゼント」には目がないものなのです。

そんな王女に向かって、「一体どんな教育を受ければ、そんな理屈が出てくるの」とぴしゃりと言ってのけるのがデルフィーヌ・セイリグ扮するリラの妖精。娘と結婚したがる父親や、その愛になぜ応えてはいけないのかが解らない娘など、ちょっと困った人たちの中で、唯一まともな意見をびしばし言ってくれます。存在自体が一番ファンタジックな妖精が、一番現実的というのも面白い。そしてそのオチがこれまたステキすぎる。まさしく大人のための童話です。

王女と恋に落ちる王子さまは、ジャック・ペラン。『ニュー・シネマ・パラダイス』でいぶし銀の魅力を発してたあの人です。 いつも温和なニヤケ顔で、かぼちゃパンツに真っ赤なタイツなんて格好、着こなせる人はそうそういません。これぞ王子さま。 カトリーヌ・ドヌーヴと一緒に、野原を駆け回って土手をでんぐり返って、アハハウフフなんて、 観ている側の脳味噌が溶けそうなことをやってても、何故か絵になるから不思議。

王女に結婚を迫る困った王さまはコクトーの映画でおなじみのジャン・マレー。『美女と野獣』の王子を思い出してしまう人も多いはず。娘に結婚を申し込むシーンで王さまが朗読する「未来の詩人の詩」は、コクトーの「ピカソに捧げるオード」からの一節だったり、いたるところにコクトーへのオマージュが感じられるのも、映画ファンにはうれしいところです。

ところで、どんなキラキラのドレスよりもロバの皮を着ているカトリーヌ・ドヌーヴが一番かわいかった!と思うのは私だけでしょうか。ロバも、せっかく金銀宝石を生む才能があったのに、あっさり殺されてしまうんですから、なんだかかわいそう。心なしか、ロバの目が悲しく涙ぐんでいるように見えてしまいます。


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シェルブールの雨傘
LES PARAPLUIES DE CHERBOURG
(1963年 フランス 91分)
pic シェルブールの傘屋の娘ジュヌヴィエーヴと、工員の青年ギイ。恋人同士だった二人だが、ギイがアルジェ戦争へ行ってしまい、離れ離れになってしまう。そのあと、ジュヌヴィエーヴの妊娠が発覚して… 2006年11月4日から11月10日まで上映 ■監督・脚本 ジャック・ドゥミ
■音楽 ミシェル・ルグラン
■出演 カトリーヌ・ドヌーヴ/ニーノ・カステルヌオーヴォ/マルク・ミシェル

■1965年カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞ほか

そして、『シェルブールの雨傘』。これはもう本当に大好きな映画なので、今回早稲田松竹で上映できて心底うれしいです。ミュージカルと言えば、感情が盛り上がると台詞が歌に、動きがダンスに、突如変わっちゃうのが定番ですが、台詞をひとつ残らず全部歌わせてしまったのが『シェルブールの雨傘』。ほんとに全部歌ってます。「♪ガソリンは満タンですか〜?」なんてせりふも歌なら、「税金払えない〜♪」なんてせりふも歌います。そして踊りません。

この「最初から最後まで全部歌」というのが、始めは少し違和感を感じるのですが、意外とすぐに慣れてしまいます。なぜなら、ミシェル・ルグランの美しい旋律が、フランス語の優しい語感とあまりにもしっくりいってるから。

そして注目すべきは、ほぼワンシーン・ワンソングの撮影方法。主演以外の脇役の人まで、曲にあわせてカメラから出たり入ったりしています。修理工場に車が入ってくるタイミングまで音楽にピッタリ!素晴らしい。

ストーリーはよくある悲恋もの、メロドラマと言ってしまえばそれまでの、シンプルなお話。でも、そのシンプルさがとてもいい。一度でも恋したことのある人ならきっと胸が痛いはず。質問に答えてくれなくなったとか、話題をさりげなくそらされたり、とか、相手の温度がだんだん変わっていく様子に、身に憶えはありませんか?ひとつの恋愛を完全に描ききったこの作品は、悲しいけれど美しくて、洒落ているけど残酷で。切なすぎるラストシーンがいつまでも胸に残ります。

でも、一番いいのが「映画自体の美しさ」。カトリーヌ・ドヌーヴの可愛さや美しさはもちろんだけど、画面全体がとにかく美しい。色使いが印象的な映画というと、私は真っ先に、ゴダールが61年に初めてカラーで撮った『女は女である』を思い出すのですが、それと匹敵するほどの鮮やかな色使い。色の洪水とも思えるほどの多色使いが、とても品良くまとまっています。なかでも壁紙のカラフルさは、一度見たら忘れられなくなってしまうほど。そんな鮮やかな世界が、白い雪を背景に黒い服で締めくくられるという奥ゆかしさ。そう言えば、『ロバと王女』も「青の国」「赤の国」でカラフルに幕を開けましたが、終わるときは全員が白い服に身を包んでいましたね。

入替なし・途中入場OK!な早稲田松竹ですが、『シェルブールの雨傘』はぜひ最初からご覧ください。オープニングの傘と駅のシーンはお見事!の一言に尽きます。いい映画というのは、どこから観てもいいものではありますが、このオープニングクレジットを見逃すなんて勿体無さすぎ! 今週は是非とも時間厳守で。

(mana)



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