ヒューマンネイチュア
HUMAN NATURE
(2001年 フランス/アメリカ 94分)
2005年7月9日から7月15日まで上映 ■監督 ミシェル・ゴンドリー
■製作 スパイク・ジョーンズ
■製作・脚本 チャーリー・カウフマン

■出演 ティム・ロビンス/パトリシア・アークエット/リス・エヴァンス/ミランダ・オットー/ロバート・フォスター

(C)2002 FINELIN FEATURES. ALL RESERVED

もし、貴方がリュデビーヌ・サニエかトム・クルーズ並みの麗しき肉体の持ち主で、これっぽっちも悩みを抱えていない人間なら、この作品を見る必要はない。何故ならこれは一人の異常に毛深い女の、魂の彷徨を描いた深遠な作品だからだ。そのシリアスさは、コンプレックスなど鼻にもかけないような非・繊細な方には理解しようがない。恐らく貴方は物語の途中で席を立つことになるだろう。あるいはあまりの深刻さに打ちのめされるかもしれない。部屋で全裸になり、鏡に映る自分に見入ることをお勧めする。

picもし、貴方が電車の中で平気で携帯電話をかけられるような非常識な人間なら、この作品を見る必要はない。何故なら、これは厳格な養母の躾がトラウマになり、ネズミにテーブルマナーを仕込む、35歳童貞の心理学者の苦悩の物語りなのだから。マナーのマの字も知らないような方にとっては、まったくもってどうでもいい話であり、劇場でも携帯電話を掛けずにいられなくなるだろう。それは他の大部分の常識的な観客にとって大迷惑である。

picもし、貴方が極度のシティボーイ(あるいはガール)で、アウトドアなんてまっぴらだという人間ならば、この映画を見る必要はない。何故ならこれは、自らを類人猿と思い込んで、裸で森の中で生活していた男が必死に文明へ順応していく過程を描いた物語りだからだ。努力する彼の姿はあまりに深刻で、悲しい。PDAをもってメトロに乗り、iーpodでGorillazを聞いて、コンクリートジャングルの王様気分に浸っているような方には、この映画はラジカセで聞く美空ひばり程も価値がないだろうから。

picというわけで、上記のどれにもあてはまらない人間である貴方は『ヒューマンネイチュア(Human Nature)』を是非観るべきである。これは、観客を大いに選ぶと同時に、一人でも多くの人間に見てもらいたい作品だからである。

(Sicky)


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エターナル・サンシャイン
ETERNAL SUNSHINE OF THE SPOTLESS MIND
(2004年 アメリカ 107分)
pic 2005年7月9日から7月15日まで上映 ■監督・原案 ミシェル・ゴンドリー
■脚本・原案・製作総指揮 チャーリー・カウフマン
■音楽 ジョン・ブライオン

■出演 ジム・キャリー/ケイト・ウィンスレット/キルステン・ダンスト/マーク・ラファロ/イライジャ・ウッド/トッム・ウィルキンソン

■2004年アカデミー賞脚本賞受賞

(C)GAGA-HUMAX

大好きだった人、一緒に過ごした時間、
癖、仕草、名前を呼んでくれる声。
思い出したくないのに甦る記憶、
思い出すたびに苦しくて痛くてつらいから、
忘れたい。でも忘れられない。
こんな記憶、全部消えてしまえばいい。

ミシェル・ゴンドリー×チャーリー・カウフマンの二作目は、ミシェル曰く「記憶の物語」。 嫌な記憶だけ消してもらえるという設定は、SFぽい感じがしますが、これはむしろすごく良く出来た恋愛映画。 出会って、デートを重ねて、一緒に住んで、何度も喧嘩して、慣れが倦怠を生む。ドラマチックなことなんて起きない。描かれる普通の恋愛は、でも普通だからこそ、切なくて、痛々しい。

pic今回の二本立てでぜひ注目してほしいのが、同じカウフマン×ゴンドリー作品でありながら、それぞれ全く違うテイストに仕上がっているという点。『ヒューマンネイチュア』にはカウフマンらしさが、『エターナル・サンシャイン』にはミシェルらしさが、より濃く出ているのです。友人との会話からこの映画のストーリーを思いついたミシェルは、脚本をカウフマンに依頼しましたが、カウフマンはそのとき『アダプテーション』の脚本で消耗しきっていたため、ミシェルと共に話を練りながら脚本を書き上げました。カウフマンが一人で書き上げた『マルコヴィッチの穴』『アダプテーション』そして『ヒューマンネイチュア』に比べて、独特の奇抜さがもっとソフトに、そして普遍的でロマンチックな内容になっているのは、おそらくミシェルの色なのでしょう。

pic目まぐるしく展開する、いかにもミシェルらしいセンスの映像、音楽(特にラストのBECKが素晴らしい!)、また「パラドックスにつながりを持たせるのに苦労した」と語るだけあって、完成度の高いプロットは、一度観た後でも、もう一度最初から観て細部を確認したくなります。ほかの映画ではブサイク呼ばわりされているけど、本作ではかわいいキルスティン・ダンストを始めとした、豪華な脇役が織り成すそれぞれの恋愛模様にもまた、色々と思うところが。

pic生きる上で、過去の記憶は一体何の役に立つのだろう。忘却は前進につながる?それでも、今この自分は紛れもなく過去の記憶の集積で。 消してしまいたい記憶も思い出も感情も、 全て自分を構成している要素なのです。 記憶を失うということは、自分自身を失うこと。 それはとても悲しいことではないでしょうか。

失う痛みを、こんなに切実に描いているにも関わらず、 「また恋がしたくなる」というキャッチは本当でした。 ああ、恋愛って素晴らしい、と思える一本。傑作!おすすめです。

(mana)



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