この世の外へ クラブ進駐軍
(2003年 日本 123分)
2005年12月3日から12月9日まで上映 ■監督・脚本 阪本順治(『顔』『どついたるねん』
■出演 萩原聖人/オダギリジョー/松岡俊介/MITCH /村上淳

(C)2003『この世の外へ クラブ進駐軍』製作委員会

ジャズを奏でるミュージシャン。渋谷の街角で、中央線の高架下で、多摩川の河原で、あるいはバラックの立ち並ぶ戦後日本で。富と平和があたりまえのようにある現代の日本と、敗戦まもない戦後日本の景色は雲泥の差だ。焼け跡にバラック小屋が立ち並び、薄汚れた服と顔の人々。文字通り泥にまみれた、単色の世界。方や、雲も空も制し、我が物顔の高層ビル群とネオンサイン。人々の生き方は確実に変わった。それでも、今日もどこかで奏でられる旋律と、あの日どこかで奏でられた旋律は、もしかしたらつながっているかもしれない。

pic異国の地で敗戦を迎えた健太郎(萩原聖人)が帰国した。かつての軍楽隊の先輩・ジョーさん(松岡俊介)が米軍相手のジャズバンドで演奏し生計を立てていることを知った健太郎は、自らもジャズの世界に飛び込むことに。ピアニストの明(村上淳)、ウエスタンバンドのトランペッター・広行(MITCH)、太鼓しか叩いたことのないドラマー・昌三(オダギリジョー)らを加え、5人編成のバンド・ラッキーストライカーズを結成する。

米軍兵士の慰安クラブで演奏することを許されるものの、5人のつたない演奏はアメリカ兵のピーター(シェー・ウィガム)の怒りに触れる。「ジャズを舐めるな」といわれる5人。ピーターの言葉に反発し、貪欲にジャズを吸収していく5人の姿に、クラブの責任者である軍曹のジム(ピーター・ムラン)や、ピーターの気持ちが動かされていく。次第に腕を挙げていくラッキーストライカーズであったが、各々が抱える戦争の傷跡が表面化するにつれて、5人は次第にバラバラになり…。

pic9・11をきっかけにつくられたという今作は、ステレオタイプな戦後日本の「外へ」向かっている。薄っぺらな反戦映画にせず、骨太さをのこしつつエンターテインメントとして成立させたのは、人間を描くことで定評のある阪本監督の手腕によるところ大であろう。

現代日本の旬の役者を配して作り上げた、戦後日本の青春。モノクロ写真やドキュメンタリーで目にする単色の世界からは想像もつかないほど鮮やかな青春。バラックを背景にしても、ネオンを背景にしても変わることのない確かな旋律が奏でられた青春映画である。

(Sicky)


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亡国のイージス
(2005年 日本 127分)
pic 2005年12月3日から12月9日まで上映 ■監督 阪本順治
■脚本 長谷川康夫 / 飯田健三郎
■原作 福井晴敏 『亡国のイージス』(講談社刊)

■出演 真田広之/寺尾聰/佐藤浩市/中井貴一/吉田栄作/勝地涼/チェ・ミンソ/谷原章介/豊原功補/光石研

(C)松竹

イージス…ギリシャ神話に登場する最高神ゼウスが娘アテナに与えた、あらゆる邪悪を払う「無敵の盾」のこと。同時に、最新鋭の防空システムを搭載し、専守防衛の象徴ともいえる海上自衛隊の護衛艦をも指し示す(イージス艦)。

pic語るべき未来も見えず、守るべき国家の顔さえも失った「亡国の盾」に果たして意味などあるのか。福井晴敏の大ベストセラー『亡国のイージス』が日本映画界の実力派、阪本順治監督のもと、映画化された。人間ドラマを描くことにおいて高い評価を受けている監督と、俳優たち個々の能力が、スケールの大きい本作を、より力強くしている。

海上自衛隊のイージス艦「いそかぜ」副長(副艦長)の宮津弘隆2等海佐【寺尾聡】は、東京湾沖で訓練航海中に某国対日工作員のヨンファ【中井貴一】と共謀の上、艦長を殺害し「いそかぜ」を乗っ取った。彼らは乗組員を強制的に退艦させ、日本政府に宣言する。「現在、本艦の全ミサイルの照準は東京・首都圏内に設定されている。その弾頭は通常にあらず」

pic彼らの手にはわずか1リットルで東京を壊滅させる特殊兵器「GUSOH(グソー)」があった…。防衛庁情報局(DAIS)の渥美大輔内事本部長【佐藤浩市】らが事件解決に当るが、政府になす術はない。

艦の構造を誰よりも知る先任伍長の仙石恒史【真田広之】は、「いそかぜ」を取り戻すべく、たった一人で艦へと引き返す。謎めいた乗組員、如月行1等海士【勝地涼】はテロリストの一味なのかそれとも…。

温厚で部下の信頼も厚かった宮津副長が反乱を起こした理由とは?タイムリミットが迫る中、仙石はヨンファたちと死闘を繰り広げながら意外な真相へとたどり着く…。

一級のエンターテイメントである、この作品の根底にあるものとはなんなのだろうか。商業的な意識を感じつつ、そうしなければ伝えられないものもあるのだと思う。日頃、この日本で暮らしていて、国というものを意識することは、あまりない。けれども、この作品を観終わったあとには、おのずと考えさせられる。国ってなに?日本って?…と。

(ロバ)



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