やさしい嘘
DEPUIS QU'OTAR EST PARTI...
(2003年 フランス/ベルギー 102分)
2005年5月14日から5月20日まで上映
■監督・脚本 ジュリー・ベルトゥチェリ
■脚本 ベルナール・レヌッチ
■脚色 ロジェ・ボーボ
■出演 エステル・ゴランタン/ニノ・ホマスリゼ/ディナーラ・ドルカーロワ/テムール・カランダーゼ
■2003年セザール賞年新人監督作品賞受賞
(C)1999 ECM Recordsあなたを思うと、
本当のことが言えなかった──
エカおばあちゃんの楽しみは、フランスで働く最愛の息子オタールから届く手紙。毎日今か今かと手紙が来るのを楽しみにしています。ところがある日、オタールが交通事故で死んだという知らせが。娘のマリーナと孫のアダは、おばあちゃんの気持ちを思うと、事実を知らせることができません。オタールのふりをして手紙を書き続けることにするのですが…
思いやりが生む嘘、というモチーフは、昨年上映した『グッバイ、レーニン!』を思い出しますが(そういえばノスタルジックな視線で、崩壊した社会主義を見つめるところも共通しています)、こちらはもっとシビアに現実を描いた映画です。
舞台となるグルジアはソ連が崩壊して独立した国。崩壊後に起きた民族紛争や内戦による混乱後の生活は、決して快適とは言えず、しょっちゅう停電したり、断水したり、突然電話が切れたり。その不安定な社会・政治情勢が映画にも表れています。家庭内のおしゃべりに普通にスターリンが出てきたりとか…。(ちなみにスターリンはグルジア出身)。そんな中、女三世代の衝突や心の交流が、まるでドキュメンタリーのようなシンプルな演出で、きめ細かく描かれています。
孫のアダに読んでもらう本がプルーストだったりする素敵なエカおばあちゃんは、とにかく仕草が可愛らしい。90歳でもマニキュアを塗る、その失われないお洒落心は見習いたい所です。一方で、観覧車の一番高い所で煙草を一服するシーンは、長い人生の歴史とその奥深さが表情に滲み出ていて、突き刺さります。演じるエステル・ゴランタンは91歳。85歳で女優デビュー、昨年は来日も果たした、文字通りパワフルなおばあちゃんです。
監督のジェリー・ベルトゥチェリはオタール・イオセリアーニ(『月曜日に乾杯!』 『素敵な歌と舟はゆく』)の助監督としてグルジア・ロケに参加して以来、グルジアに魅せられるようになったとか。この息子の「オタール」という名前も、イオセリアーニの名に因んでいるのかもしれません。
原題は「オタールがいなくなってから…」という意味。「やさしい嘘」とは、もちろんオタールが死んだ事を隠すためについた嘘。でもその本当の意味は?それは最後まで観た人にだけそっと明かされるのです。
(mana)
エイプリルの七面鳥
PIECES OF APRIL
(2003年 アメリカ 80分)
2005年5月14日から5月20日まで上映
■監督・脚本 ピーター・ヘッジズ(『ギルバート・グレイプ』原作・脚本)
■出演 ケイティ・ホームズ/パトリシア・クラークソン/デレク・ルーク/オリバー・プラット
■2003年サンダンス映画祭審査員特別賞受賞/2003年アカデミー賞最優秀助演女優賞ノミネート(パトリシア・クラークソン)/2003年全米批評家協会賞助演女優賞受賞
(C)ギャガ・コミュニケーションズ何気ないふりをして、特別な朝はやってくる。ニューヨークで黒人のボーイフレンド、ボビーと暮らすエイプリルは、初めての料理と格闘していた。アメリカ中のオーブンが、七面鳥を焼くためにフル稼働する日、感謝祭。もう何年も会っていない家族を、自分のアパートに招待するのだ。
ファッションから生き方まで自由奔放なエイプリルは、典型的な中流家庭の家族に何かと反発してきた。しかし、特に仲の悪い母親が、ガンで余命わずかと知り、母の大好物である七面鳥のローストを作ろうと決意する。
ところが、頼りのボビーは、なにやら用事があるとかで出かけてしまうし、時間が無いのにオーブンは壊れてしまうし、助けを求めてアパート中を駆け回り…で、前途多難。一方、両親と祖母、妹と弟を乗せた車もエイプリルのアパートへと向かうが、いい思い出を語り合おうとしてるのに、でてくるのは散々な思い出ばかり…。車は徐々に減速していき、なかなかニューヨークにたどり着けない。
エイプリルから見た家族は、保守的でダサイ人たち。家族からすればエイプリルは、問題ばかり起こす危険人物。両者の間にはアタマにくる思い出しかなかった。
これが初監督作であり、自ら脚本も担当しているのはピーター・ヘッジズ。彼は『ギルバート・グレイプ』の原作・脚本家としても知られている。
色んな意地や、絡み合った複雑な感情。しかし、そこにあるちょっとしたユーモアが心をなごませる。シンプルなストーリーと、デジタルカメラで撮影されたドキュメンタリーのようなカメラワークが、現実からかけ離れた物語ではなく、日常をそのまますくい取ったような印象を与えてくれる。生と死をまっすぐに見つめながらも重くならず、なぜか優しい気持ちになってしまう、そんな作品だ。
(ロバ)