【2021/2/27(土)~3/5(金)】『ウルフウォーカー 』『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』『ブレンダンとケルズの秘密』

パズー

「カートゥーン・サルーン」という名前をご存じですか? もし初めて聞いた! という方がいたなら、ぜひ、この機会に覚えていただきたいです。

今週早稲田松竹で上映する作品はすべて、同じアニメーションスタジオによって制作されています。そのスタジオこそ、アイルランドのキルケニーという歴史ある町に拠点をもつ「カートゥーン・サルーン」なのです。設立は1999年、長編映画は今回上映する3作品ともう1本『生きのびるために』のわずか4本でありながら、そのすべてが米アカデミー賞にノミネートされるなど高い評価を受けています。

スタジオの代表でもあるトム・ムーア監督は、日本のアニメーションが大好きで、とくにスタジオジブリの作品に多大な影響を受けているそう。確かに、手書きによる作画の緻密さ、そしてキャラクターの可愛らしさなどは、大人向けで写実的・シンプルなものが多いヨーロッパのアニメ作品とは違う、日本のアニメーションに近しいような感じがします。実際、カートゥーン・サルーンはいま「ポスト・スタジオジブリ」とも称されています。

今回上映する3作品はシリーズになっていて、どれもアイルランドに伝わる民話や伝説から着想を得ています。9世紀のアイルランドの修道士によって作られたアイルランドの国宝「ケルズの書」を巡る『ブレンダンとケルズの秘密』、あざらしの姿をした妖精セルキーの伝説をもとにした『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』、人間とオオカミがひとつの体に共存する少女たちを描いた『ウルフウォーカー』、まとめて「ケルト三部作」と呼ばれています。

ケルト神話に共通しているのは、自然との共生やアニミズム(精霊信仰)、つまり、すべてのものには霊が宿っているという考え方。実はこれ、八百万の神や自然信仰が信じられてきた日本人にとってはとても馴染みやすいもので、とくにアニメーションにおいては『もののけ姫』や『となりのトトロ』など、まさにスタジオジブリが扱ってきたテーマでもあるのです。

ここまで読んでいると、ジブリの真似なのでは? と思う方もいらっしゃるかもしれません。けれど作品を観てみれば、すぐにそんなこと杞憂だとおわかりになるでしょう。まずなにより圧倒されるのは一枚一枚の画の美しさ。隅々まで書き込まれたイラストと鮮やかな色彩は絵画を見ているかのようで、つぎのカットに変わってしまうと「あ~待って!」と心の中で叫んでしまうほど。ケルトの象徴である「渦巻き模様」(循環する生命を表しているそう)が随所にちりばめられていたり、装飾にもこだわり抜いていて、限られた尺のなかでアニメーションの技術ををこれでもかと詰め込んでいるのがわかります。

そして最も素晴らしいのは、前述した「自然や動物とのかかわり方」を提示する物語のテーマ。最新作『ウルフウォーカー』にはたくさんのオオカミが出てきますが、アイルランドでは18世紀頃に野生のオオカミは絶滅してしまったそうです。それは近隣のヨーロッパ諸国でなされていたオオカミの駆逐が原因でした。物語のなかで、オオカミは人間界と自然界との均衡をとるバランス的存在として描かれています。近代化によって人間が行ってきた環境破壊のツケがいよいよ迫ってきているいま、「人間も地球の循環の一部である」というケルトの伝統的な考え方は、子どもにも大人にも真っ直ぐ響くはずです。

ワクワクするおとぎ話のなかに現代的なテーマを盛り込んだ「カートゥーン・サルーン」の珠玉のアニメーション。忘れられない映画体験をお約束します!

ウルフウォーカー
WolfWalkers

トム・ムーア | ロス・スチュワート監督作品/2020年/アイルランド・ルクセンブルク /103分/DCP/ビスタ

■監督 トム・ムーア/ロス・スチュワート
■製作 ポール・ヤング/ノラ・トゥーミー/ トム・ムーア/ステファン・ローランツ
■脚本 ウィル・コリンズ
■音楽 ブリュノ・クレ/KiLA(キーラ)
■楽曲 AURORA/マリア・ドイル・ケネディ/ソフィア・クレ

■声の出演 オナー・ニーフシー/エヴァ・ウィッテカー/ショーン・ビーン/マリア・ドイル・ケネディ/サイモン・マクバーニー
■声の出演(日本語吹替版) 新津ちせ/池下リリコ/井浦新

■2021年アカデミー賞長編アニメ映画賞ノミネート/2020年NY批評家協会賞最優秀アニメーション賞受賞/LA批評家協会賞最優秀アニメーション省受賞/ゴールデン・グローブ賞アニメーション作品賞ノミネート/英国アカデミー賞アニメーション賞ノミネート

©WolfWalkers 2020

神秘の森の不思議な子。オオカミで人間で私の友だち。

イングランドからオオカミ退治の為にやってきたハンターを父に持つ少女ロビン。ある日、森で偶然友だちになったのは、人間とオオカミがひとつの体に共存し、魔法の力で傷を癒すヒーラーでもある “ウルフウォーカー”のメーヴだった。メーヴは彼女の母がオオカミの姿で森を出ていったきり、戻らず心配でたまらないことをロビンにうちあける。母親のいない寂しさをよく知るロビンは、母親探しを手伝うことを約束する。

翌日、掃除の手伝いをしていたロビンは、メーヴの母らしきオオカミが檻に囚われていることを知る。ロビンはなんとしてもメーヴの母を救い出し、オオカミ退治を止めなければならない。それはハンターである父ビルとの対立を意味していた。それでもロビンは自分の信じることをやり遂げようと決心する。そしてオオカミと人間との闘いが始まろうとしていた。

ケルト三部作完結! 中世アイルランドの伝説に基づく、ウルフォーカー・メーヴと少女ロビンの物語。

製作した長編作品すべてがアカデミー賞にノミネートされ新作を最も待ち望まれるアニメーション・スタジオの一つ、カートゥーン・サルーン。本作はケルトの伝説に着想を得た『ブレンダンとケルズの秘密』『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』に続く三部作の最終作として構想から7年をかけて製作された。2D手描きアニメーションの世界観はそのままに、今回新たにオオカミから見た風景を、3Dソフトウェアを使ってダイナミックなカメラワークで表現。森の生物や植物などスタジオ史上最多のキャラクターが登場し、オオカミの群れとの迫力ある闘いのシーンなどエンターテイメント性の高いファンタジー作品に仕上がった。

この作品は世界的なロックダウン中に完成した。共同監督のトム・ムーアは「現在の危機の大部分は、私たちグローバル社会が動物に対して行ってきた、無計画かつ好ましくない態度が生んだものだ。」*と語る。全ての生命に対して謙虚であろうとすること、それが本作の持つ優しさの由縁だ。アイルランドでは1786年を最後にオオカミは絶滅してしまった。長い間語り継がれた伝説に新しい生命がふきこまれ、魅力的なキャラクターと共に再生した物語は、深い傷を負った現代を生きる私たちに、優しい感情を取り戻させてくれる。(*IndieWire 4.27.2020)

ソング・オブ・ザ・シー 海のうた
Song of the Sea

トム・ムーア監督作品/2014年/アイルランド・ルクセンブルク・ベルギー・フランス・デンマーク/93分/DCP/ビスタ

■監督・製作 トム・ムーア
■脚本 ウィル・コリンズ
■ヘッド・オブ・ストーリー ノラ・トゥーミー
■音楽 ブリュノ・クレ/KiLA(キーラ)

■声の出演 デヴィッド・ロウル/ブレンダン・グリーソン/フィオヌラ・フラナガン/リサ・ハニガン/ルーシー・オコンネル/ジョン・ケニー
■声の出演(日本語吹替版) 本上まなみ/リリー・フランキー/中納良恵

■2014年アカデミー賞長編アニメ映画賞ノミネート/アニー賞7部門ノミネート/2015年東京アニメアワードフェスティバルグランプリ受賞/2015年ヨーロッパ映画賞長編アニメ賞受賞

©Cartoon Saloon, Melusine Productions, The Big Farm, Superprod, Nørlum

忘れないで 母さんは あなたのことが大好き ずっと

海辺の灯台の家で、両親と暮らしていた少年ベン。彼は優しくて物知りな母に、アザラシの妖精セルキーの不思議な伝説や、古い言葉で綴られる美しい歌など、たくさんのことを教えてもらっていた。ある日、ベンは母に海の歌が聞こえる貝の笛をもらい、喜んで眠りにつく。しかし次の日起きると、母は小さな妹シアーシャを残して姿を消してしまう。母がいなくなったのは妹のせいだと思っているベンは、彼女に優しくすることができなかった。

6年が過ぎて、母の命日でもありシアーシャの誕生日でもある日の夜、シアーシャは不思議な光に導かれ、父が隠していたセルキーのコートを見つけ海に入ってしまう…。

母が残した”うた”を頼りに、幼いふたりの大冒険がはじまる! アイルランド発、心に響く、珠玉の家族の物語。

第87回アカデミー賞長編アニメ映画賞ノミネートをはじめ、アニメ界のアカデミー賞と言われるアニー賞に7部門でノミネート、2015年東京アニメアワードフェスティバルではグランプリを受賞するなど、世界中のアニメーション界を席巻した『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』。アイルランド神話を基に描く、幼い兄妹の大冒険、そして別れが、絵本から動き出したかのような、息を呑む圧倒的な映像美で紡がれていく。

2014年にアイルランド、ルクセンブルク、ベルギー、フランス、デンマークの5カ国の国際共同製作によってつくられた本作。制作は、本作の監督トム・ムーアが設立し、“ポスト・スタジオジブリ”と本国アイルランドで称される制作会社“カートゥーン・サルーン”だ。音楽は、『コララインとボタンの魔女』など数々の映画音楽を手掛ける、ブリュノ・クレが担当している。世界中のアニメーション界で注目され、今後のアニメーションを語る上で外すことができない大型新人監督の登場となった。

ブレンダンとケルズの秘密
The Secret of Kells

トム・ムーア | ノラ・トゥーミー監督作品/2009年/フランス・ベルギー・アイルランド/78分/DCP/ビスタ

■監督・原案 トム・ムーア
■共同監督 ノラ・トゥーミー
■脚本 ファブリス・ジョルコウスキー
■アートディレクター ロス・スチュアート
■音楽 ブリュノ・クレ/KiLA(キーラ)

■声の出演 エヴァン・マクガイア/ブレンダン・グリーソン/クリステン・ムーニー/ミック・ラリー
■声の出演(日本語吹替版) 斎藤楓子/市橋尚史/丸塚香奈/菊池康弘

■2009年アカデミー賞長編アニメ映画賞ノミネート/アヌシー国際映画祭観客賞受賞

©Les Amateurs, Vivi Film, Cartoon Saloon

世界を救えるのは、この美しい魔法の本だけ!

9世紀のアイルランド。バイキングの襲来にそなえ、ケルズ修道院を囲む塀を作る大規模な工事が続く中、バイキングに襲われたスコットランドのアイオナ島から、高名な修道士エイダンが、一冊の「聖なる書」を携え逃れて来る。その本には隠された知恵と力が秘められていた。本を完成させるためブレンダンは、インクの原料である、ある植物の実を探しに、危険を冒して、不思議な生き物が隠れ住む魔法の森へ出かける。森でオオカミの妖精アシュリンの助けを得てブレンダンは、無事に実を持ち帰るが、バイキングの襲来がケルズにも迫っていた。ブレンダンは本の力によって、迫りくる闇を打ち砕き、世界に光を取り戻すことができるのか?

世界一美しい聖なる本「ケルズの書」を巡る、少年修道士ブレンダンの冒険ファンタジー

2016年日本でも公開され注目を集めた『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』。同作にさきがけ、トム・ムーア監督のデビュー作『ブレンダンとケルズの秘密』は、アカデミー賞長編アニメ賞にいきなりノミネートされるという快挙によって、世界中を驚かせた。

『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』の青に対し、本作はアイルランド・カラーの緑一色。ごく一部のシーンを除き、伝統的な2Dの手描きで作られており、中世絵画にならって現代的な遠近法を排し描かれた。「ケルズの書」の鮮やかで美しいケルト文様が万華鏡のように動きだす様は圧巻だ。その技術の高さ、表現の豊かさは、アニメーションを超えて、一級の絵画を見るような印象を与える。音楽は『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』同様、数々の映画音楽を手掛けるブリュノ・クレとアイルランドを代表する音楽グループ、KiLA。

「ケルズの書」とは、9世紀、アイルランドの修道士によって作られた豪華な装飾が特徴の福音書。マタイ伝、マルコ伝、ルカ伝、ヨハネ伝が納められている。「世界で最も美しい本」として知られ、ダブリン大学トリニティ・カレッジ図書館に17世紀から350年にわたって保管され、年間90万人が訪れるというアイルランドの国宝である。ケルト特有の渦巻き、人、動物が描かれ、ケルト美術の最高峰とも言われている。