【2021/3/20(土)~3/26(金)】『パラサイト 半地下の家族』『グエムル-漢江の怪物-』

ミ・ナミ

2020年2月10日という熱気を帯びた日のことは、韓国映画ファンなら今でも昨日のように覚えているのではないでしょうか。かくいう私も、「彼」に対する絶大な信頼と期待、それでもなお抱く不安ではちきれそうな気持ちで、米国アカデミー賞の中継を食い入るようにみつめていました。「彼」とは、新作『パラサイト 半地下の家族』でカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞していたポン・ジュノ監督です。その後の顛末は、ご存じの方も多いでしょう。作品賞を含むアカデミー賞4冠受賞という快挙を成し遂げた、花も実もある世界のポン・ジュノとして躍り出たのでした。

とはいえ、ポン・ジュノ映画の推進力は、アカデミー賞受賞という目に見える形で評価された『パラサイト 半地下の家族』だけではなく、かねてから彼のどの作品にも確固たるものでした。彼の鋭敏すぎるリアリズム・コメディ・知性のバランスと時代の速度がようやく一致したのかもしれません。ポン・ジュノ監督の作品は、社会風刺を効かせたブラックな初期短編群から最新作に至るまで、すべてに一癖も二癖もあるからです。そうはいっても、彼の映画を人物にたとえたならば、一見したたかそうに見えてどこか人間味を感じさせるというのが、また魅力なのだとも感じます。

今週の早稲田松竹は、『パラサイト 半地下の家族』と『グエムル-漢江の怪物-』を上映いたします。とことん映画を愛し、また映画に愛されてもいるポン・ジュノのテクニックを存分に味わっていただける二本立てです。

グエムル-漢江の怪物-
The Host

ポン・ジュノ監督作品/2006年/韓国/120分/35mm/ビスタ/SRD

■監督・原案 ポン・ジュノ
■脚本 ポン・ジュノ/ハ・ジョンウォン/パク・チョルヒョン
■撮影 キム・ヒョング
■編集 キム・サンミン
■音楽 イ・ビョンウ

■出演 ソン・ガンホ/ピョン・ヒボン/パク・ヘイル/ペ・ドゥナ/コ・アソン/イ・ジェウン/イ・ドンホ

■2006年青龍賞最優秀作品賞受賞/大鐘賞最優秀監督賞受賞/アジア・フィルム・アワード最優秀作品賞受賞

©2006 Chungeorahm Film. All rights reserved.

【2021年3月20日から3月26日まで上映】

お父さん、助けて!

ソウルの中心を南北に分けて流れる雄大な河、漢江(ハンガン)。ある日、突然正体不明の巨大怪物<グエムル>が現れた! 人間を襲う<グエムル>。その魔の手は河川敷でバイテンを営むパク一家に迫った。そして<グエムル>は長男カンドゥの娘ヒョソンをさらい消えてしまう…。この事態を受け政府は、<グエムル>感染者を死に至らしめるウイルスの宿主だと発表、一帯を封鎖した。悲しみに暮れるパク一家だが、ある日カンドゥの携帯電話にヒョンソから着信が。ヒョンソの声を聞いた父と一家は政府に追われながらも漢江に向かうのだが…。

世界が震撼した怪物<モンスター>パニック! 120分間、息つく間もなく襲い掛かる、恐怖と興奮と迫力の映像体験!

韓国を象徴する河・漢江に唐突に現れた謎の生き物にさらわれた末娘を、一家総出で救出に向かう『グエムル-漢江の怪物-』は、ほとんど彼の作品群の核でもあるのではないでしょうか。本作は、マクファーレン事件という、韓国で実際に起きた在韓米軍毒物漢江無断放流騒動に、ポン・ジュノ自身が「少年時代、漢江鉄橋から川面に得体の知れない生き物を見た」という、ごく私的な経験が加味されています。しかし現在では、未知のウイルスが人類を覆ってしまった世界を図らずも撃つ優れた社会派映画となりました。

ポン・ジュノ映画を展開させるひとつの鍵は「家族」の描き方です。“いろいろ軋轢はあったけれど、最後は大団円に収まる”ことが家族映画というジャンルムービーの典型でもありますが、ポン・ジュノの作品はそこから外れ、クリシェになることに反抗しています。あらゆるすべてはもっと非情に流れるものだと言わんばかりです。一方、「家族」を表現することが映画に一筋の光を残しているようにも感じます。劇中で流れる曲「漢江賛歌」のリズムが、ホームドラマに愁いというエッセンスを加えて、独特な可笑しみを演出しています。(ミ・ナミ)

パラサイト 半地下の家族
Parasite

ポン・ジュノ監督作品/2019年/韓国/132分/DCP/PG12/シネスコ

■監督 ポン・ジュノ
■脚本 ポン・ジュノ/ハン・ジヌォン
■撮影 ホン・ギョンピョ
■プロダクション・デザイナー イ・ハジュン
■編集 ヤン・チンモ
■音楽 チョン・ジェイル

■出演 ソン・ガンホ/チャン・ヘジン/チェ・ウシク/パク・ソダム/イ・ソンギュン/チョ・ヨジョン/イ・ジョンウン/チョン・ジソ/チョン・ヒョンジュン/パク・ソジュン

■2019年アカデミー賞作品賞・監督賞・脚本賞・国際長編映画賞受賞ほか2部門ノミネート/カンヌ国際映画祭パルムドール受賞/ゴールデングローブ賞外国語映画賞受賞ほか2部門ノミネート ほか多数受賞・ノミネート

© 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

【2021年3月20日から3月26日まで上映】

幸せ 少し いただきます

全員失業中。日の光も、電波も弱い“半地下住宅”で暮らす貧しいキム一家。大学受験に失敗し続けている長男ギウは、ある理由からエリート大学生の友達に家庭教師の仕事を紹介される。身分を偽り訪れた先は、IT企業を経営するパク社長一家が暮らす“高台の大豪邸”。思いもよらぬ高給の“就職先”を見つけたギウは、続けて美術家庭教師として妹ギジョンを紹介する。徐々に“パラサイト”していくキム一家。しかし、彼らが辿り着く先には、誰にも想像し得ない衝撃の光景が待ち構えていた――。

2020年米アカデミー賞作品賞! 全世界が熱狂した、超一級エンターテインメント!!

無職で貧困にあえぐ(それでもどこか悲壮感は薄い)一家が、ハイ・ソサエティーな家族に取り入って侵入していくこの映画は、“ポン・ジュノ調”の真骨頂とも言えるのかもしれません。戯画的な構図。ワンシーンやひとつのセリフだけで細部を述べてしまう語り。隠さずちりばめられた辛辣さと毒気。卓越したユーモア。『パラサイト 半地下の家族』では、ポン・ジュノ調とも呼べる一貫したこの柱に、貧しい者が富める者に寄生しているようで、実際は二匹のウロボロスの蛇のように互いを食い合っているというねじれた図式が、見事にはまっています。

韓国以外にもあてはまる格差社会をモチーフ的に利用していると指摘されることの多い本作ですが、ポン・ジュノは常に俗世間を反映する鏡のようなわかりやすさを持ちつつも、古典映画にも通じる品格の高さを忘れません。それこそが、彼が映画マニアと大衆とを惹きつける理由なのだと思います。(ミ・ナミ)

参考文献:下川正晴「ポン・ジュノ 韓国映画の怪物」