瀬々敬久監督特集

ルー

平成の始まった89年に監督デビューした瀬々敬久監督は、実際に起こった事件・犯罪を現在のまなざしから照らし出す作品を数多く撮ってきました。リアリティに肉薄しようとするその姿勢は、メジャーとインディペンデントを行き来して多彩な作品を撮るようになった現在でも、瀬々監督の創作の根底にあるのだと思います。平成が終わり新しい時代に入ろうとする今、瀬々監督は再び事実に材をとった『友罪』『菊とギロチン』を世に問いました。

『友罪』は90年代に日本を震撼させた神戸連続児童殺傷事件の記憶から出発していますが、加害者だけの問題にとどまらず、彼を信じ、共存しようとする人々の痛みに徹底的に寄り添うことで、最終的には誰もが経験しうる普遍的な問題を提示します。特に凶悪犯罪は自分とは無関係な彼岸の問題としてとらえがちです。SNSなどで日々大量に流される情報の表層だけを根拠に、感情的な意見を拡散してしまった経験がある人は少なくないと思います。そんな時代だからこそ瀬々監督はわかりやすい悪者をやり玉にあげるのではなく、一歩踏みとどまってその割り切れなさ、面倒くささまで真正面から受け止めようとしたのだと思います。瀬々監督のキャリアの頂点をなす新たなる傑作です。

瀬々監督の長年の念願だった企画を映画化した『菊とギロチン』は、弾圧や規制の厳しい時代に打ち勝とうとしたアナーキストたちと、運命に負けず強くありたいと願った女相撲とりたちとの運命が交錯する青春群像劇です。3時間超える大長編ですが、彼らの湧き上がるエネルギーに引っ張られたような怒涛のテンションで駆け抜けます。決して晴れやかなばかりの物語ではありませんが、躍動しつづける画面からは、撮りたい映画が撮れる!という瀬々監督のピュアな喜びが溢れかえっています。クラウドファンディングをつかったインディペンデントな製作体制も含め、現状を打破しようとするパワーに満ちた本作は、閉塞した時代でも戦い続ける人々への、厳しくもやさしいエールのような作品です。

この二本に加えて、今回は90年代の代表作『雷魚』をレイトショー上映します。本作の題材だけを取り出せば、凡庸とすら言えてしまいそうな三面記事的な事件なのですが、加害者と被害者、それを取り巻く男たちの生の痛みを掘り下げることによって、画面はほとんど神話的な崇高さすら湛えます。安川午朗による印象的な音楽も忘れ難い、90年代日本映画屈指の名作です。

友罪
My Friend 'A'

開映時間 ※上映は終了しました
瀬々敬久監督作品/2018年/日本/129分/DCP/シネスコ

■監督・脚本 瀬々敬久
■原作 薬丸岳「友罪」(集英社文庫刊)
■撮影 鍋島淳裕
■照明 かげつよし
■美術 磯見俊祐
■音楽 半野喜弘

■出演 生田斗真/瑛太/佐藤浩市/夏帆/山本美月/富田靖子/奥野瑛太/飯田芳/小市慢太郎/矢島健一/青木崇高/忍成修吾/西田尚美/村上淳/片岡礼子/石田法嗣/北浦愛/坂井真紀/古舘寛治/宇野祥平/大西信満/渡辺真起子/光石研

©薬丸 岳/集英社 ©2018映画「友罪」製作委員会

【2019/2/2(土)~2/8(金)上映】

いくつもの人生が、決定的に変わってしまった“その日”。 すべては、ふたりの男の出会いから始まった――。

ある町工場で働き始めた元週刊誌ジャーナリストの益田と、自らの経歴を一切語らない鈴木。年齢以外の共通点は何もないふたりだが、同じ寮で暮らすうちに友情を育ててゆく。そんななか児童殺害事件が起こり、17年前に日本中を震撼させた凶悪事件との類似性が囁かれる。当時14歳だった犯人の少年Aはすでに出所していて、今度も彼の犯行ではないかというのだ。ネットに拡散していた少年Aの写真を見た益田は愕然とする…。

隣りで静かに微笑む友が かつて日本中を震撼させた“あの事件”の 少年Aだったら――その問いに答えはあるのか。 瀬々敬久監督、渾身のヒューマンサスペンス!

デビュー作で江戸川乱歩賞を受賞した人気作家・薬丸岳のベストセラー小説「友罪」。様々なタイプのミステリー作品を世に出したてきた彼が「発表する時、喜びよりも先に恐れを抱いた」と告白する問題作だ。そんな原作が、『64-ロクヨン-』など、緊迫感溢れるサスペンスと人間の本質を問う重厚なテーマを融合させた作品を作り続けてきた瀬々敬久によって映画化された。

益田役には生田斗真、鈴木役には瑛太。若手俳優の中で傑出した存在のふたりが、史上最難関の役に挑んだ。また、ふたりと関わることになる人々に扮するのは、夏帆、山本美月、富田靖子、そして佐藤浩市といった俳優陣。彼らもまた、他人には言えない秘密や罪を抱えており、物語の重要なピースとなっていく。

なぜ殺したのか? 益田が犯した罪とは? 鈴木に関わるふたりの女性の想いの行方は? 物語は予想もしない衝撃の結末へとなだれこんでいく。人間存在の謎に満ちた深みへと導くヒューマンサスペンスに、観る者すべてが心打たれる。

菊とギロチン
The Chrysanthemum and the Guillotine

開映時間 ※上映は終了しました
瀬々敬久監督作品/2018年/日本/189分/DCP/R15+/シネスコ

■監督・脚本 瀬々敬久
■脚本 相澤虎之助
■撮影 鍋島淳裕
■照明 かげつよし
■音楽 安川午朗

■出演 木竜麻生/東出昌大/寛一郎/韓英恵/渋川清彦/山中崇/井浦新/大西信満/嘉門洋子/大西礼芳/山田真歩/嶋田久作/菅田俊/宇野祥平/嶺豪一/篠原篤/川瀬陽太/永瀬正敏(ナレーション)

© 2018 「菊とギロチン」合同製作舎

【2019/2/2(土)~2/8(金)上映】

同じ夢を見て 闘った

大正末期、関東大震災直後の日本。混沌とした情勢の中、急速に不寛容な社会へとむかう時代。山形で発祥し、かつて実際に日本全国で興行されていた「女相撲」。様々な過去を背負い、強くなりたいと願う女力士たちが、少し頼りないが「社会を変えたい、弱い者も生きられる世の中にしたい」という大きな夢だけは持っているアナキスト集団「ギロチン社」の若者たちと運命的に出会う。

立場は違えど、彼らの願いは「自由な世界に生きること」。次第に心を通わせていく彼らは、同じ夢を見て、それぞれの闘いに挑む――。

時代に翻弄されながらも<自由>を求めて疾走する 若者たちの辿り着く先は――? 史実をもとにしたアナーキー青春群像劇!

傑作『ヘヴンズストーリー』から八年。瀬々敬久監督が、構想三十年、自身のオリジナル企画第二弾としてついに完成させた入魂作が『菊とギロチン』だ。

ヒロインの新人力士・花菊役には、約300名の応募者の中から選ばれた、本作が映画初主演となる木竜麻生。ギロチン社のリーダーで詩人の中濱鐵役に東出昌大。そのほか、寛一郎や韓英恵らフレッシュな「今」を感じさせる役者たちが、監督の情熱にこたえ、大正時代の若者役に体当たりで挑んだ。また、『バンコクナイツ』の相澤虎之助が共同脚本をつとめているのも注目だ。自身が所属する映像制作集団「空族」以外の作品での脚本執筆は、本作が初となる。

時代に翻弄されながらも、歴史の影でそれぞれの「生きる意味」を模索して、もがき、泥だらけになり、時にかっこ悪い姿をさらしながらも、自由を追い求め、世界に風穴をあけたいと願った若者たちの物語――アナーキーなエネルギーが溢れだす青春群像劇が誕生した。

【特別レイトショー】雷魚
【Late Show】Woman with Black Underwear: Snake-Headed Fish

開映時間 ※上映は終了しました
瀬々敬久監督作品/1997年/日本/75分/35mm/R/ビスタ/MONO

■監督・原案・脚本 瀬々敬久
■脚本 井土紀州
■出演 佐倉萌/伊藤猛/鈴木卓爾

★レイトショー上映はどなた様も一律1000円でご鑑賞いただけます。
★チケットは、連日9:40より受付にて販売いたします(当日券のみ)。
★ご入場は、チケットに記載された整理番号順となります。
★『雷魚』は、公開当時R指定を受けた作品です。当館では15歳未満のお客様のご入場をお断りさせていただきます。
★英語字幕付き上映となります。

【2019/2/2(土)~2/8(金)上映】

生き残ったんだよ、あたし・・・

利根川沿いの地方都市。妻が妊娠中を良い事に、女遊びに耽るサラリーマン。かつての愛人に子供を溺死させられ、世捨て人のように生きる男。不倫・中絶の果てに心も身体も病んでしまった人妻。罪を背負って男と女が出逢い、辺境の大地を血に染め、人間どもを嘲笑うかのごとく雷魚がのたうつ——

実際の事件を題材に、行き場を失った人間たちの狂気の様を衝撃的にとらえ、人間の業を真摯に見詰めた愛の寓話。