【2020/1/23(土)~1/29(金)】ロシア・アニメーション傑作選“チェブラーシカとミトン(ほか2作品)”+“ユーリー・ノルシュテインの世界”

ミ・ナミ

今週の早稲田松竹は、ロマン・カチャーノフ監督とユーリー・ノルシュテイン監督のロシア・クラシック・アニメを上映します。カチャーノフ監督によるチェブラーシカのふわふわとした毛、ユーリー・ノルシュテイン監督『霧の中のハリネズミ』のハリネズミ・ヨージックの内緒話のような声、そして何よりもシンプルかつ繊細な動きには、見ているだけで心が温まり頬をゆるませる時間になるのではないでしょうか。

一方、人形劇だからといってかわいらしい世界観だけではなく、時に成熟した横顔をみせることがあります。たとえば、ノルシュテイン監督の『アオサギとツル』。意地を張り続けてしまう孤独な二羽の恋の行方は、幼い子供たちよりもむしろ我々の方にこそ思い当たる節がありそうです。カチャーノフ監督の『ミトン』は、子犬を飼うのを母親に反対された少年に起こる奇跡を実に愛らしく表現していますが、事の真相に衝撃が走るとともにせつない気持ちにさせられるのです。たった一人でオレンジの箱の中にいたチェブラーシカのくるくると変わる表情は一瞬、さみしげにも映るときがあります(彼のキャラクター設定が「天涯孤独で寂しがり屋」というのにもうなずけます)。

これらのアニメーションの内に存在するさみしさや満たされなさは、どこか懐かしいものでもあり、現在進行形のものでもあります。わたしたち成長した大人の傷にも優しく触れるからこそ、国や世代を越えて長く愛されているのかもしれません。

Ⓐプログラム:チェブラーシカとミトン(ほか2作品)
Ⓐ:Cheburashka & Mitten

ロマン・カチャーノフ監督作品/1967~1974年/ロシア/計90分/ブルーレイ/スタンダード

■監督 ロマン・カチャーノフ
■「チェブラーシカ」原作 エドゥアルド・ウスペンスキー
■美術 レオニード・シュワルツマン
■制作 ソユーズムリトフィルム

■『ミトン』1968年アヌシー国際アニメーション映画祭第一等賞受賞、1970年モスクワ国際映画祭銀賞受賞

© MOVCO/SMF

【2020年1月23日から1月29日まで上映】

人形アニメ界の父的存在、ロマン・カチャーノフ監督の特集。ロシア史上最も愛される人形童話「チェブラーシカ」をはじめとする6作品。

『ミトン』(1967年/10分)
アヌシー国際映画祭グランプリを獲得した世界最高の人形アニメーションの一つ。デザイン、音楽、物語、アニメーション、すべてが一流の短編アニメーション。社会風刺を交え、誰もが感じる幼少期のエピソードをファンタジーに仕上げている。

『ママ』(1972年/10分)
ロシア国家の作詞家として著名な詩人 セルゲイ・ミハルコフが脚本を書いた異色作。子供を思う母の気持ちが不思議な演出で表現される。

『レター』(1970年/10分)
『ミトン』と同じく、レオニード・シュワルツマンを美術監督、ジャンナ・ヴィッテンゾン脚本で贈るファンタジー。寂しい心の動きがパペットを通して観るものに迫る。

『ワニのゲーナ』(1969年/19分)
チェブラーシカ第1話。正体不明のチェブラーシカがロシアのある町にやってくるはじまりの物語。一人孤独を感じるゲーナのために、たくさんの友達を作ろうとチェブラーシカが奮闘する。

『ピオネールになりたい!』(1971年/20分)
『ワニのゲーナ』の大ヒットを受けて制作され、初めて「チェブラーシカ(原題)」というタイトルが使われた第2作。多くの児童映画祭で受賞歴があり、当時のソ連の日常が楽しく描かれている。

『シャパクリャク』(1974年/20分)
チェブラーシカシリーズの最終話として制作された、もう一人の主人公「シャパクリャク」の名を冠した作品。可愛らしさと社会性が盛り込まれた第3作。この10年後に第4話が制作されたが、民主化の波が押し寄せる厳しい時代ということもあり、少し印象の違う作品になっている。

Ⓑプログラム:ユーリー・ノルシュテインの世界
Ⓑ:Yuriy Norshteyn

ユーリー・ノルシュテイン監督作品/1968~1979年/ロシア/計80分/DCP/スタンダード・一部シネスコ

■監督 ユーリー・ノルシュテイン
■制作 ソユーズムリトフィルム

■『アオサギとツル』1975年アヌシー国際映画祭審査員特別賞受賞/『霧の中のハリネズミ』1976年全ソ連映画祭 最優秀賞受賞、1977年テヘラン国際青少年映画祭最優秀賞・金の大メダル/『話の話』1980年ザグレブ国際映画祭最優秀賞受賞、1980年オタワ国際映画祭最優秀賞、第2回モスクワ国際青少年映画祭最優秀アニメーション賞・観客審査員賞受賞 ほか多数受賞・ノミネート

© 2016 E.S.U.E C&P SMF

【2020年1月23日から1月29日まで上映】

世界中のアニメーターから愛される作家ユーリー・ノルシュテイン。代表作『霧の中のハリネズミ』をはじめ6本を上映。

『25日・最初の日』(1968年/9分)
ロシア・アヴァンギャルドアートに着想を得た記念すべき監督デビュー作。「25日」とは、ロシア旧暦で1917年10月のロシア革命最初の日にあたる日。たなびく赤旗に浮かび上がる文字は「すべての権力をソビエトへ!」静かな広場に民衆の怒りが打ち寄せ、資本家・貴族・ブルジョア・聖職者・憲兵らの支配者階級が打ち倒される様子が描かれる。

『ケルジェネツの戦い』(1971年/10分)
ロシア聖像画(フレスコ美術・細密画)の手法を使い、カラー・ワイドサイズで制作された圧巻の第二作。ロシアの著名な作曲家リムスキー・コルサコフの同名の間奏曲「ケルジェネツの戦い」を使用し、イワン・イワノフ・ワノーと共同で監督をしている。「ケルジェネツ」は河の名前で、実際にこの河のほとりで行われた西暦988年のロシアとタタールの戦争が鮮烈な色彩で描かれる。

『キツネとウサギ』(1973年/12分)
初めて動物キャラクターが登場する作品であり、初の子ども向け作品、初の単独監督作品。ウラジーミル・ダーリの民話を原案に、とぼけたユーモアと民衆美術を取り入れたロシア版「まんが日本昔ばなし」。日本でも人気のマトリョーシカなどのロシア雑貨に見られるような、鮮やかな色彩をもち素朴ながらも高度に様式化された「ガラジェッツ絵画」のデザインを全面的に取り入れた。

『アオサギとツル』(1974年/10分)
ウラジーミル・ダーリの民話に基づく、ロマンチックな幻想と幻滅とがせめぎあう悲喜劇。「私の作品の中でとっても軽く、楽しく、心地良くできた作品」と語るようにノルシュテイン本人も出来栄えに満足している。生涯で最も相性のよかった撮影監督アレクサンドル・ジュコフスキーとの邂逅により、お互いに好きな北斎や広重の版画や水墨画に着想を得た草むらや雨を幻想的に描写。廃墟となった貴族屋敷を舞台空間として選ぶセンスなど、切り絵アニメでこれほどの内面心理が表現できるのかと観る者を驚かせる。

『霧の中のハリネズミ』(1975年/10分)
原案はセルゲイ・コズロフの児童文学だが、そこにノルシュテイン独自のアイディアを付け加えている。本作のためにノルシュテインは撮影のジュコーフスキーとともに大型の新しい撮影台を制作。そのマルチプレーンと呼ばれる多層のガラス面に切り絵を配置する手法によって創り出される、彼独自の深い映像空間がひとつの完成形をみた作品としても重要な作品。キャラクターの動き、音楽、セリフ、効果音が完璧に調和した、世界で最も愛されるノルシュテインの入門編的な代表作。

『話の話』(1979年/29分)
ノルシュテイン自身が「もっとも心情に沿った内容で、私の友達に語った、手紙に綴るような作品」と話しているとおり、自伝的な要素を多く含む作品。トルコの詩人ナジム・ヒクメットの同名の詩をもとに、ロシア子守唄に登場する狼の子を狂言回しに、自身の記憶を色濃く反映した映像叙情詩となっている。ストーリーらしきものはあるようでなく、様々な日常の断片が、時にユーモアのある、時に悪夢的なイメージとして観客に強いイメージをもたらす。世界アニメーション史上の名作と名高い最高傑作。