【2020/11/28(土)~12/4(金)】『アルプススタンドのはしの方』『37セカンズ』

もっさ

恥ずかしさを感じていたり、負い目を感じていたりすると、人ってちょっと隅っこに行きたがるような気がします。役に立っていないんじゃないか、周りからお荷物と思われていやしないか常に不安で。自分の意見も言えないし、目立っちゃいけない(だって悪目立ちするし…)って、なんやかんやと理由(言い訳)を並べて殻に閉じこもってしまいます。きっと、誰にでもそんな経験あるんじゃないでしょうか。今週上映する作品は、主人公たちが殻を破り成長してゆく姿を描きます。

『37セカンズ』の主人公ユマは23歳。生まれた時に37秒息をしていなかったことで身体に障害を抱え、過保護な母に見守られながら車いす生活を送っています。才能を活かして漫画を描いているけれど、表に出るのはアイドルみたいに可愛い親友。ユマはゴーストライターなのです。漫画は大ヒットでファンもたくさんいるのに、ユマは蚊帳の外。モヤモヤな毎日から抜け出そうと、独り立ちを試みますが、そこにはたくさんの壁が立ちはだかります。

ユマを演じた佳山明さんは物語と同じく脳性麻痺を患っています。HIKARI監督はオーディションで彼女に出会ったことで、元々の設定からストーリーを練り直したそうです。福祉の国家試験を受けた直後にオーディションに来たという佳山さんは、本作で演技初挑戦。この難役に体当たりで挑む姿は、主人公ユマそのもの。生まれた時に患った障害からは、どうしたって逃れられません。観ているこちらのほうが、諦めたくなってしまう状況です。だけど、当の本人たちはそれをきちんと受け止めているのです。いくつもの壁を突破して、一枚も二枚も殻を破って羽ばたく姿は現実の彼女と重なり、更に大きな感動を呼ぶのです。

いっぽう、『アルプススタンドのはしの方』の舞台は夏の甲子園の一回戦。タイトル通り甲子園球場の観客席(アルプススタンド)のはしの方で、冴えない4人の高校生たちがぼんやり観戦しています。時たま熱血教師が喝を入れに来るけれど、なかなかその気になれません。何かにつけて「しょうがないよ」と諦めモードでモヤっとした空気が漂う中、試合は急展開を迎えます。そして「カキンっ」とヒットの音が鳴り響き、次第に4人の心も熱くなっていきます。

原作は2017年に高校演劇の全国大会で最優秀賞を受賞した作品です。それが昨年には商業舞台化して浅草九劇で上演され好評を博し、更にこの映画化へと発展しました。原作を書いたのは現役教員の籔博晶先生です。自身の母校が甲子園に出場すると聞き、一人寂しく観戦した時に感じたエピソードが原点なのだとか。そんな“はしの方”で生まれた作品が、あれよあれよという間に沢山の人に愛され、こんなに大きくなったということ自体、まるで映画のような話ですよね。作品ごと殻を破って成長しているところに、またグッときてしまいます。

世の中全体が「しょうがない」ムードな今。ついつい何事もその一言で済ましがちですが、殻を破って立ち上がる彼女たちを見ていたら、「本当に全力を出し切っただろうか?」と自問してしまいます。清々しいラストは「私も頑張ろう!」ときっと背中を押してくれる、そんな二本立てです。

37セカンズ
37 Seconds

HIKARI監督作品/2019年/日本/115分/DCP/PG12/シネスコ

■監督・脚本 HIKARI
■プロデューサー 山口晋/HIKARI
■撮影 江崎朋生/スティーブン・ブラハット
■編集 トーマス・A・クルーガー
■音楽 アスカ・マツミヤ
■挿入歌 CHAI「N.E.O」

■出演 佳山明/神野三鈴/大東駿介/渡辺真起子/熊篠慶彦/萩原みのり/宇野祥平/芋生悠/渋川清彦/奥野瑛太/石橋静河/尾美としのり/板谷由夏

■第69回ベルリン国際映画祭パノラマ観客賞・国際アートシネマ連盟(CICAE)賞受賞 ほか多数受賞、ノミネート

© 37 Seconds filmpartners

【2020年11月28日から12月4日まで上映】

私の「時間」が刻みはじめる。

生まれた時に、たった37秒息をしていなかったことで、身体に障害を抱えてしまった貴田ユマ。23歳になったユマは親友の漫画家のゴーストライターとして、ひっそりと社会に存在している。そんな彼女と共に暮らす過保護な母は、ユマの世話をすることが唯一の生きがい。

毎日が息苦しく感じ始めたある日。独り立ちをしたいと思う一心で、自作の漫画を出版社に持ち込むが、女性編集長に「人生経験がない作家に、いい作品は描けない」と一蹴されてしまう。その瞬間、ユマの中で秘めていた何かが動き始める――

ワールドワイドなスタッフィングと新たなヒロイン、実力派俳優たちがリアリティとファンタジーの間を埋めていく。日本映画界に大きな刺激を与える傑作!

2016年、世界のインディーズ作家の登竜門である「サンダンス映画祭」とNHKが主宰する脚本ワークショップで選ばれ、映画化へ動き出した本作。メガホンを取ったのは、18歳でアメリカに単身留学しいくつかの短編を撮ってきた新鋭の監督・HIKARI。長編デビューとなる本作で、2019年のベルリン映画祭で日本映画史上初となるパノラマ観客賞と国際アートシネマ連盟(CICAE)賞の2冠に輝いた。

ヒロインを演じたのは、出産時に脳性麻痺を患った佳山明。当初は女優の起用を検討したが、健常者が障害者の役を演じることに強い疑問を抱いた監督の意向により、オーディションによって100人の候補から選ばれた。演技初挑戦の佳山は、神野三鈴、大東駿介、渡辺真起子らのサポートもあり、文字通りの体当たり演技を見せた。

人生に向かって奮闘するヒロインの姿は、あらゆる障害、国境、世代を超え、誰もが共感するエンターテイメントである映画の真髄を気づかせてくれる。

アルプススタンドのはしの方
On the Edge of Their Seats

城定秀夫監督作品/2020年/日本/75分/DCP/ビスタ

■監督・編集 城定秀夫
■原作 籔博晶・兵庫県立東播磨高校演劇部
■脚本 奥村徹也
■撮影 村橋佳伸
■主題歌 the peggies「青すぎる空」
■演奏協力 シエロウインドシンフォニー

■出演 小野莉奈/平井亜門/西本まりん/中村守里/黒木ひかり/平井珠生/山川琉華/目次立樹 ほか

©2020「アルプススタンドのはしの方」製作委員会

【2020年11月28日から12月4日まで上映】

「しょうがない。」から始まる、演劇部、元野球部、帰宅部の空振りな青春。

高校野球・夏の甲子園一回戦。夢の舞台でスポットライトを浴びている選手たちを観客席の端っこで見つめる冴えない4人。夢破れた演劇部員・安田と田宮、遅れてやってきた元野球部・藤野、帰宅部の成績優秀女子・宮下。

安田と田宮はお互い妙に気を使っており、宮下はテストで吹奏楽部部長・久住に学年一位を明け渡してしまったばかりだ。藤野は野球に未練があるのかふてくされながらもグラウンドの戦況を見守る。「しょうがない」と最初から諦めていた4人だったが、それぞれの想いが交差し、先の読めない試合展開と共にいつしか熱を帯びていき…。

そこは、輝けない私たちのちょっとだけ輝かしい特等席。全国高等学校演劇大会で最優秀賞の戯曲を映画化! 

本作の原作は兵庫県東播磨高校演劇部が上演し、第63回全国高等学校演劇大会で最優秀賞に輝いた名作戯曲。2019年に浅草九劇で上演され好評を博し、同年度内に上演された演劇から選出される“浅草ニューフェイス賞”を受賞を経て、奇跡の映画化! 監督はピンク映画、Vシネマの名作を100本以上手がける業界注目の名匠・城定秀夫。青春時代を謳歌し損ねた大人たちのための青春映画の傑作が誕生した。