WAR IS CRAZY! 伝説の戦争カルト映画たち

ルー

南北戦争を題材にした『國民の創生』(1915)から現在知られている映画のフォーマットが始まったことを思えば、映画史はそのまま戦争の表象の歴史と重なるといえます。とはいえ、映画で戦争を描くことは実はとても難しい問題を抱えていると思います。映画は基本的には興行である以上、多かれ少なかれ「面白さ」を追求せざるを得ないからです。

純粋に「戦争」を「面白く」描いてしまえばプロパガンダ(戦意高揚)映画が出来上がってしまいます。たとえテーマ的には反戦を掲げた作品でも、表現方法を誤れば(いたずらに戦場をスリリングな場所として描いたりしてしまえば)アンビバレンツなメッセージを発してしまう危険と隣り合わせだと思うのです。少なくとも誠実な映画作家であれば、戦争を描くことの危険性と方法論の重要性を認識しているはずです。

今回上映する三作品はどれも反戦映画といえますが、その表現の仕方は三者三様であり、それぞれユニークで力強いからこそ時代を超えて支持されています。映画作家たちのアプローチの違いにぜひ注目してください。

戦争のはらわた デジタル・リマスター版
Cross of Iron

開映時間 ※上映は終了しました
サム・ペキンパー監督作品/1977年/イギリス・西ドイツ/133分/DCP ビスタ

■監督 サム・ペキンパー
■原作 ウィリー・ハインリッヒ
■脚本 ジュリアス・J・エプスタイン/ハーバート・アスモディ
■撮影 ジョン・コキロン
■音楽 アーネスト・ゴールド

■出演 ジェームズ・コバーン/マクシミリアン・シェル/デヴィッド・ワーナー/センタ・バーガー/ジェームズ・メイソン

©2011 – LCJ Editions et Productions. ALL RIGHTS RESERVED.

【2019年3月2日から3月8日まで上映】

帰る場所はどこにもない——。

1943年ロシア戦線。ソ連軍との戦闘が激化する中、ドイツ軍は撤退を余儀なくされていた。そのドイツ軍の小隊長、シュナイター伍長は肩書きだけの無能な将校をひどく嫌っていた。新指揮官のシュトランスキー大尉も例外ではなかった。彼の望みはドイツ軍最高の勲章<鉄十字章=Iron Cross>を手にいれることだった。私欲だけの無能なシュトランスキーを軽蔑するシュナイター、彼等の関係は険悪なものになっていった。そして部隊が総攻撃を仕掛ける中、シュトランスキーは勲章を手に入れるためにシュナイターの部隊を策略にかけるのだった——。

“血まみれサム“の異名を持つペキンパーの傑作にして、戦争映画の金字塔!

本作はアメリカ人監督サム・ペキンパーの作品ですが、特にハリウッドでは(いくら殺しても構わないといわんばかりに)悪役にされることの多いドイツ兵たちを主人公にした異色の作品です。緻密な時代考証に基づいた戦車や銃描写のリアリティは今なおマニアの間で語り口になっていますが、より重要なのは悲惨な戦場のリアリズムが徹底的に描かれていることだと思います。

そこにはペキンパーの代表作『ワイルドバンチ』などにあった郷愁や男のロマンといったドラマは影を潜め、ほとんど即物的に死が描かれます(監督の十八番であるスローモーションや細かいカッティングもまた戦場の混沌を強烈に印象づけます)。さらに言えば、敗戦間際に大義を失ったまま泥沼の戦争を続けざるをえないドイツ兵たちの姿には、本作が発表された数年前にベトナム戦争で建国以来初めての敗戦を経験したアメリカ軍が皮肉に重ね合わされていると思います。

その意味で本作は『地獄の黙示録』や『プラトーン』などより早く、まだタブーだったベトナム戦争の悪夢を(間接的にであれ)再現しようとしたエポックメイキングな作品であり、暴力を通して人間を描き続けた巨匠ペキンパーの集大成的な傑作なのです。(by ルー)

まぼろしの市街戦 4Kデジタル修復版
King of Hearts

開映時間 ※上映は終了しました
フィリップ・ド・ブロカ監督作品/1967年/フランス/102分/DCP シネスコ

■監督・製作・脚本 フィリップ・ド・ブロカ
■製作 ミシェル・ド・ブロカ
■原案 モーリス・ベッシー
■脚本 ダニエル・ブーランジェ
■撮影 ピエール・ロム
■音楽 ジョルジュ・ドルリュー

■出演 アラン・ベイツ/ピエール・ブラッスール/フランソワーズ・クリストフ/ジャン=クロード・ブリアリ/ジュリアン・ギオマール/ジュヌヴィエーブ・ビジョルド/ミシュリーヌ・プレール/アドルフォ・チェリ

© 1966 – Indivision Philippe de Broca

【2019年3月2日から3月8日まで上映】

フランス映画の秀麗なタッチが美しい感動に昇華する!

第一次大戦末期、敗走中のドイツ軍は占拠したフランスの小さな街に大型時限爆弾を仕掛けて撤退。イギリス軍の通信兵は爆弾解除を命じられ街に潜入するも、住民が逃げ去った跡には精神科病院から解放された患者とサーカスの動物たちが解放の喜びに浸り、ユートピアが繰り広げられていた。通信兵は爆弾発見を諦め、最後の数時間を彼らと共に過ごそうと死を決意するが…。

卓越したユーモアたっぷりに戦争の狂気を活写する、カルト映画の傑作!

愚かな戦争にユーモアで対抗する『まぼろしの市街戦』は、主にアメリカでは公開当時進行中だったベトナム戦争へのカウンターとして若者たちの熱狂的な支持を得ました(おそらく同時期にカルト化した『我輩はカモである』や小説「キャッチ22」と同じ文脈で支持されたのだと思います)。

今でも世界中に多くのファンを持つ本作ですが、この映画のノンシャランなユーモアの根底にあるのは、ある種の諦念だと思います。どんなに精神病患者たちの作り上げた閉鎖的な楽園が美しく平和的でも、一歩外を出た現実では世界中で戦争や紛争が起こっており、それは私たちが努力してもちょっとやそっとでは止めることが出来ません。その現実が痛いほどよくわかっているからこそ、主人公が最後にする決断には、笑いと共にとほのかな哀しみを覚えるのだと思います。

カラフルな美しい色使いやのちに世界的な大女優になるジュヌビエーヴ・ビジョルドの可憐な姿も忘れ難い、フィリップ・ド・ブロカ監督による優しくもメランコリックなおとなのためのおとぎ話です。(by ルー)

【特別レイトショー】追想 デジタル・リマスター版
【Late Show】The Old Gun

開映時間 ※上映は終了しました
ロベール・アンリコ監督作品/1975年/フランス/101分/DCP ビスタ

■監督・原作・脚本 ロベール・アンリコ
■脚本 パスカル・ジャルダン/クロード・ベイヨ
■撮影 エティエンヌ・ベッケル
■編集 エバ・ゾラ
■音楽 フランソワ・ド・ルーベ

■出演 フィリップ・ノワレ/ロミー・シュナイダー/ジャン・ブイーズ/マドレーヌ・オーズレー/ヨアヒム・ハンセン/カトリーヌ・デラポルテ

★レイトショー上映はどなた様も一律1000円でご鑑賞いただけます。
★チケットは、連日9:50より受付にて販売いたします(当日券のみ)。
★ご入場は、チケットに記載された整理番号順となります。

©2011 – LCJ Editions et Productions. ALL RIGHTS RESERVED.

【2019年3月2日から3月8日まで上映】

燃えつくされた記憶に、あなただけが見えた——。

1944年第二次世界大戦下、ドイツ占領下のフランスの小都市モントーバンで愛する妻と一人娘と共に幸せに暮らしていた外科医のジュリアンは、ドイツ兵の最後の足掻きが続く中、妻と娘を疎開させる。後日、疎開先を訪ねた彼はドイツ兵たちに無残に殺された妻子を発見。家族と過ごした幸せな日々を追想しながら、たった一人でナチスへの復讐を実行していく…。

凄まじい暴力描写とロマンチックな追想場面のなかで繰り広げられる、男の孤独な復讐劇。

原題を「古い銃」という本作は甘い邦題からは想像もできない、恐ろしい映画です。妻子を殺された男のナチスへの復讐劇、という図式はある意味勧善懲悪的とも言えます。しかしドイツ兵たちを冷静沈着に殺していくフィリップ・ノワレの姿は、復讐という本来の目的を超えて暴力にとりつかれているように見えるため、決して爽快なカタルシスを観客に与えてはくれません(殺されていくドイツ兵たちの感じる恐怖がリアルに描かれるのも、陰惨さの度合いを高めます)。

タランティーノが『イングロリアス・バスターズ』でオマージュを捧げたクライマックスは、一度見たら忘れられないトラウマ級の名シーンです(一見ほのぼのしているように見えるラストシーンも重い余韻を残します)。図式的な反戦メッセージに終始せず観客の倫理観をたえず揺さぶりつづける本作は、一般的には『冒険者たち』で知られるロベール・アンリコ監督の最高傑作であり、その衝撃は今なお色あせていません。(by ルー)