【2020/9/12(土)~9/25(金)★2週間】『ジョジョ・ラビット』『スウィング・キッズ』

ミ・ナミ

「戦争をしてはいけない」。長い歴史の中で幾度となく聞いた言葉です。ただ、翻って考えるなら、人々の心の中から憎しみの火種が消えず、地球上に今なお争いがあるがゆえになお言われ続けているのではないでしょうか。本当なら、戦争はよくないことだなんていう至極当然な言葉を口に出さなくてもいい世の中が、もっとも目指されるはずなのでしょう。

ならば、むしろこう叫んでみたいと思います。「私たちには、戦争よりも好きでたまらない何かがある!」。

今週の早稲田松竹は、『ジョジョ・ラビット』と『スウィング・キッズ』の二本立てです。2作品はともに笑いや高揚感があふれていて、争い事などまるで起きていないかのような空気すら漂わせます。それは、あったことを無かったこととしてふたをしてしまう時代的省察のなさというよりも、凄惨なあの時代を生きた誰かが心から恋焦がれ、得たかったものがまぎれもなくあったのだという強い思いを表現することが、監督たちなりの怒りや反戦の祈りなのではないでしょうか。さまざまな戦争や紛争で世界地図が塗りつぶされた20世紀を経た今だから、こうした一風変わった“反戦映画”が必要なのかもしれません。

スウィング・キッズ
Swing Kids

カン・ヒョンチョル監督作品/2018年/韓国/133分/DCP/PG12/シネスコ

■監督・脚本 カン・ヒョンチョル
■撮影 キム・ジヨン
■編集 ナム・ナヨン
■音楽 キム・ジュンソク

■出演 D.O./ジャレッド・グライムズ/パク・ヘス/オ・ジョンセ/キム・ミノ

©2018 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & ANNAPURNA FILMS. All Rights Reserved.

【2020年9月12日より9月25日まで上映】

最も苦しい時代、最も不釣り合いな人たちが出会い、最も胸がときめくダンスで生き抜こうとしたーー。

1951年。朝鮮戦争当時、最大規模の巨済(コジェ)捕虜収容所。新しく赴任した所長は収容所の対外的なイメージメイキングのために、戦争捕虜たちによるダンスチーム結成プロジェクトを計画する。紆余曲折の末、一堂に会した彼らの名前はスウィング・キッズ!それぞれ異なる事情を抱えてダンスを踊ることになり、デビュー公演が目前に迫っていた。国籍、言葉、イデオロギー、ダンスの実力、全てがちぐはぐな寄せ集めダンスチームは前途多難でしかないが…。

『サニー 永遠の仲間たち』 カン・ヒョンチョル監督待望の新作!

カン・ヒョンチョル監督といえば、本国のみならず日本の観客をも感涙の渦に巻き込んだ『サニー 永遠の仲間たち』 (2012)が記憶されています。軍事独裁政権と民主化デモに目配りしつつ、その暗澹をヤンキー少女たちの恋愛や友情、往年のヒットナンバーといった要素でかわし、ポップさを全面に出したスタイルでした。

朝鮮戦争下にアメリカ軍が所有する朝鮮人捕虜収容所で寄せ集めに結成されたタップダンスチームの熱い絆を描く『スウィング・キッズ』でも、そんな監督のポリシーはつらぬかれています。加えて、主役の北朝鮮兵士ギスを演じたスーパー「ヨンギドゥル」(注:韓国で演技の上手いアイドルを総称する造語)D.O.(EXO)をはじめとした役者陣が、その説得力抜群の足さばきで映画を躍動させています。(ミ・ナミ)

ジョジョ・ラビット
Jojo Rabbit

タイカ・ワイティティ監督作品/2019年/アメリカ/109分/DCP/ビスタ

■監督・脚本 タイカ・ワイティティ
■原作 クリスティン・ルーネンズ「CAGING SKIES」
■撮影 ミハイ・マライメア・Jr
■編集 トム・イーグルズ
■音楽 マイケル・ジアッチーノ

■出演 ローマン・グリフィン・デイヴィス/トーマシン・マッケンジー/タイカ・ワイティティ/サム・ロックウェル/スカーレット・ヨハンソン/レベル・ウィルソン/スティーブン・マーチャント/アルフィー・アレン/アーチー・イェーツ

■2019年アカデミー賞脚色賞受賞・作品賞・助演女優賞ほか3部門ノミネート/トロント国際映画祭観客賞(最高賞)受賞/ゴールデン・グローブ賞作品賞・男優賞ノミネート ほか多数受賞・ノミネート

©2019 Twentieth Century Fox Film Corporation and TSG Entertainment Finance LLC

【2020年9月12日より9月25日まで上映】

愛は最強。

物語の舞台は、第二次世界大戦下のドイツ。10歳の少年ジョジョは、空想上の友達であるアドルフ・ヒトラーの助けを借りて、青少年集団ヒトラーユーゲントの立派な兵士になろうと奮闘していた。しかし、心優しいジョジョは、訓練でウサギを殺すことができず、教官から〈ジョジョ・ラビット〉という不名誉なあだ名をつけられる。そんな中、母親と二人で暮らす家の隠し部屋に、ユダヤ人少女エルサが匿われていることに気づくジョジョ。やがて彼は皮肉屋のアドルフの目を気にしながらも、強く勇敢なエルサに惹かれていく──。

一級のエンターテイナー、タイカ・ワイティティ監督が贈る珠玉のヒューマン・ドラマ!

舞台は第一次世界大戦末期のドイツであり、ナチス親衛隊に抜擢されることを夢見る愛国少年ジョジョが主役ではありますが、オープニングシーンでヒトラーに熱狂する民衆の姿にビートルズの楽曲を当てる作り手の剛胆さからうかがえるように、一筋縄ではいかない映画です。

自由を愛するジョジョの母ロージーの唇が青みがかったピンクであったり、ジョジョのシャツの襟がグリーンであるなど、これまで灰色ばかりが多い印象だったナチス占領下のヨーロッパを描く映画では見られなかった鮮やかな色使いがパッと目に飛び込むことも特徴的です。ジョジョの空想の理解者にして道化役のアドルフをタイカ・ワイティティ監督自らオーバーに演じているところも、皮肉がたっぷり効いています。(ミ・ナミ)