すみちゃん
目頭が熱くなった。胸が熱くなった。映画の可能性ってまだまだあるんだ!
『ジガルタンダ』『ジガルタンダ・ダブルX』はどちらもコリウッドと呼ばれる、インド映画の中でもタミル語で作られた南インド映画だ。両作品の監督であるカールティク・スッバラージ監督はタミル語映画界の若き鬼才とも呼ばれ、コロナ禍でも活動を停止することなく精力的に作品を作り続けていた。映画への想いの深さは、彼の制作への意欲的な姿勢と同じく、映画の内容からもビシバシと伝わる! どちらもタイトルが似ているので続編のように感じられるけれど、登場人物も設定も違っているので、別の作品として楽しめるようになっている。監督が「そのスピリットにおける続編」と公言しているように、どちらにも共通した信念を強く感じるからこそ、わたしはとても心を動かされた!
暴力や殺人などの恐怖によって周りの人々を黙らせているギャングと、なぜかギャング映画を撮ることになった人がどちらの作品にも共通して登場している。ギャングたちが登場する一つ一つのシーンが、インド映画ならではのスローモーションやド派手な音楽の演出により盛り上がるようになっていて、映画におけるギャングというキャラクターへの愛とリスペクトを感じる。そして映画を撮る側は、ギャングのやっていることはただただ悪いことなので、そのまま描いては映画にならない。なので、どうしたら面白くなるのか? と工夫をしていくことで、わたしたち観客を何度も驚かせるような展開に持っていき、1本の映画を観たのに、3本ぐらい観たような気持ちになるのだ。
また、ギャングの世界だけではなくて、映画を作るうえでの指導や演出にある暴力性、カメラを向けることで生まれる力関係など、映画を製作する上でも同じく恐怖が生まれうることも映画の中で描かれている。どの世界にも通じるものがあり、他人ごとにしない姿勢が2つの作品に共通するところだろう。特に『ジガルタンダ・ダブルX』ではギャングと撮影者だけではなく、警察や政治家などの力関係も関わっていき、この世界にはびこっている権力構造にまで踏み込んでいく。カールティク監督はあくまでも映画製作者としてこの世界にまなざしを向け、今自分がいるところからできることに全力で表現者として戦っていると感じた。彼は暴力によって脅かされている社会に対して、決して暴力ではない形で抗おうとしている。そこに胸を打たれたのだ!
時々思う。映画を観て何になるんだろう?
この映画を観終わった後には、そんな気持ちが吹っ飛ぶぐらい、全力で映像の力を信じている人の熱い魂に心を揺さぶられる。しかもギャング映画として多くの人に楽しんでもらおうというエンターテイメントにもなっていて、様々な人たちにこの社会にはびこる権力構造に対して向き合ってもらおうとしているその姿勢に、な、涙が…! この映画を語ろうとするだけで、わたしの胸は熱くなるし、色んな人に観てもらいたくってうずうずする! ぜひ、この熱い思いを劇場で感じてもらいたい。
ジガルタンダ
Jigarthanda
■監督 カールティク・スッバラージ
■音楽 サントーシュ・ナーラーヤナン
■出演 シッダールト/ボビー・シンハー/カルナーカラン/ナーサル
©Group Company
【2025/4/12(土)~4/18(金)】上映
タミル語ニューウェーブ映画の鬼才・スッバラージによる伝説の「ギャングスター・ミュージカル」!
映画監督を目指すカールティクは、映画監督コンテスト番組に出場する。セミ・ファイナルで選外になりかけたが、審査員を務めたプロデューサーから長編映画の製作を持ちかけられる。提示された条件は、壮絶なギャングの抗争をテーマにした映画をつくることだった。カールティクは命の危険も顧みず、南インドのマドゥライで悪名を轟かせる凶悪なギャングのボス、セードゥに関してリサーチを始める。
タミル語映画界の若き鬼才、カールティク・スッバラージ監督の出世作である本作は、秀逸な音楽にのせた「ギャングスター・ミュージカル」。緊張感が漂う前半からは予測できないエンディングに度肝を抜かれる。残虐かつユーモラスなギャングを演じたボビー・シンハーは、インド国家映画賞をはじめとする主な映画賞の助演賞を総ざらいした。原題は「心を冷やす」という意味を持つ、マドゥライ名物のアイスクリーム・シェイクの名前。
ジガルタンダ・ダブルX
Jigarthanda DoubleX
■監督・脚本 カールティク・スッバラージ
■撮影 ティル
■編集 シャフィーク・ムハンマド・アリ
■音楽 サントーシュ・ナーラーヤナン
■出演 ラーガヴァー・ローレンス/S・J・スーリヤー/ニミシャ・サジャヤン/ナヴィーン・チャンドラ/サティヤン
©Stone Bench Films
©Five Star Creations
©Invenio Origin
【2025/4/12(土)~4/18(金)】上映
お前が芸術(シネマ)を選ぶのではない 芸術(シネマ)がお前を選ぶのだ、マイボーイ
1970年代前半のマドラス(現在のチェンナイ)。警察官採用試験に受かったキルバイは、血を見ると気を失うこともある小心者。着任を間近に控えたある日、不可解な殺人事件に巻き込まれ、自身が牢に繋がれることになる。彼は、政界に強いコネクションを持つ悪徳警視ラトナに脅されて、無罪放免・復職と引き換えにマドゥライ地方のギャングの親分シーザーを暗殺することを命じられる。ラトナは、西ガーツ山脈のコンバイの森に派遣された特別警察の指揮官で、冷酷非道な男。その兄のジェヤコディは、タミル語映画界のトップスターにして、次期州首相の候補と噂されている。一方シーザーは、「ジガルタンダ極悪連合」という組織のトップで、地元出身の野心的な有力政治家カールメガムの手足となって象牙の違法取引から殺人まで、あらゆる非合法活動を行っている。
シーザーに近づくために、キルバイはサタジット・レイ門下の映像作家と身分を偽り、シーザーを主演にした映画の監督の公募に名乗りを上げる。クリント・イーストウッドの西部劇が大好きなシーザーは、キルバイを抜擢しレイ先生と呼ぶようになる。そこから2人の運命は思いもよらない方向に転がり始め、西ガーツ山脈を舞台にした森と巨象のウエスタンの幕が上がる。
クリント・イーストウッドとサタジット・レイが出会う南インドで、森と巨象のウエスタンの幕が上がる――
伝説の“ギャングスター・ミュージカル”『ジガルタンダ』(2014)から9年、タミル語ニューウェーブ映画の鬼才カールティク・スッバラージ監督が再び世に送り出したシリーズ2作目『ジガルタンダ・ダブルX』。両作の間のストーリー上の繋がりは薄く、監督自身が「そのスピリットにおける続編」と呼ぶ本作は、ギャング対映画監督という構図は踏襲しながら、シニカルで捻った笑いが印象的だった前作に対し、ギャング抗争と西部劇、映画界内幕とネイチャードラマとが一体となった中に、差別と搾取への激烈な抗議を含んだ社会派作品に仕立て上げられた。
主演は、超売れっ子のダンス振付師から始まり自ら監督する作品中で主演をこなすまでになったラーガヴァー・ローレンス。そして、ヒット作連発の監督から性格俳優に転身したS・J・スーリヤー。このクセの強いコンビに、『グレート・インディアン・キッチン』で鮮烈な印象を残したニミシャ・サジャヤンが絡む。タミル語映画界トップの音楽監督サントーシュ・ナーラーヤナンによるレトロ・ファンクのグルーヴに身をゆだね、1970年代の熱い南インドを旅しよう。
【モーニング&レイトショー】カッティ 刃物と水道管
【Morning & Late Show】Kaththi
■監督・脚本 A・R・ムルガダース
■撮影 ジョージ・C・ウィリアムズ
■編集 A・シュリーカル・プラサード
■音楽 アニルド
■出演 ヴィジャイ/サマンタ/ニール・ニティン・ムケーシュ/サティーシュ/トータ・ラエ・チャウドゥリ
© Lyca Productions
【2025/4/12(土)~4/18(金)】上映
この男には見えている――より良き世界への青写真(ブループリント)が
コルカタの刑務所から脱獄したタミル人の詐欺師・泥棒の“カッティ(刃物)”ことカディル。この男には、建物や都市の平面図(劇中でブループリントと称される)からその立体的な構造を透視できる特殊能力がある。脱獄にもこの特技を使ったのだ。彼はひとまずチェンナイに逃げて、そこからバンコクへの高跳びをはかるが、空港で出会った女性アンキタに一目惚れして出国を止めてしまう。
その夜、街路を歩いていた彼の目の前で突然銃撃事件が起きる。カディルが撃たれた男のもとに駆け寄ると、その負傷者は彼と瓜二つの見た目だった。カディルは悪知恵を働かせ、そのジーヴァという男を自分の身代わりにして追っ手に捕まえさせる。自由になったカディルだが、ジーヴァが取り組んでいた地方の農民が直面する問題を知ると、その心に変化が起き、ジーヴァの活動を引き継ぎ、農民たちの先頭に立って多国籍企業のトップと対決する。
『サルカール 1票の革命』の名匠A・R・ムルガダースとヴィジャイのコラボレーション第二弾
2019年にインド映画の特集上映「インディアンムービーウィーク」で初上映された政治スリラー『サルカール 1票の革命』(2018)は、政治腐敗に切り込み、主人公の行動を通じて選挙の在るべき姿を伝える作品として、観客の間で話題となった。この作品を撮ったのは、社会的メッセージを娯楽作に落とし込むことの巧みさで定評のあるA・R・ムルガダース監督で、南インド・タミル語映画界でラジニカーントと興収トップを奪い合う人気俳優ヴィジャイが主役を務めた。同作の前に2人が組んだのが、この『カッティ 刃物と水道管』だ。ヴィジャイのキレのあるアクションやダンス、ヒロインとの恋も盛り込み、多国籍企業による環境破壊問題と農民の窮状、それを報じない報道機関の責任を世に問う。厳しい批評家たちからも絶賛を浴び、インドで権威のある「フィルムフェア・サウス」賞を始めとした様々な映画賞で作品賞を勝ち取った、歌と踊りのアトラクションも満点の社会派エンターテインメントの傑作が、ついに日本公開となった。