【2025/1/4(土)~1/10(金)上映】

もっさ

年末年始のプログラム「戦禍の中で生まれた映画たち」に引き続き、邦画の名作をお届けする2025年1月の第一週は、小津安二郎監督の『東京物語』と『麥秋』、モーニングショーでは『晩春』――通称「紀子三部作」を上映いたします。この三作品は原節子が “紀子”という名の女性を演じ、紀子を取り巻く家族の姿が描かれています。物語につながりはなく、それぞれの“紀子”も全くの別人です。

紀子作品の第一作『晩春』では妻を早く亡くした父と二人暮らしの、なかなか結婚に踏み切れない娘。第二作『麥秋』では大家族の一員で両親や兄夫婦から「早くお嫁に」と心配される妹。第三作『東京物語』では、5人兄妹の戦死した次男の嫁で義父母から「まだ若いんだから別な人の嫁に」と気を揉まれる義娘。少しずつ「家族」との距離感を変えながらも、毎度のことながら周囲の人にその行く末を心配されまくるわけですが、どの紀子も仕事は持っているし、気立ての良い自立した女性です。2025年の今を生きる私たちからすれば、「大きなお世話だわよ」と、ぷいっとできるけれど、紀子はいつも笑顔で謙虚にそして真摯に相手の心配を受け止めます。戦後間もない当時は、誰もが家族の、そして身近な友人たちのことを常に案じて過ごしていたのが伝わってきます。人を想う気持ちの、なんと尊く有難いことか。それでも、言いたいことははっきりと(しかも極上の笑顔で)言う紀子の強さにも感服。言われる側も笑って受け流し、互いに笑って終わる会話のやりとりがとても心地よくて、こんな風に私も心に余裕を持っていたいなぁ~と思いました。

さて、この三作品は共通の出演者が多く、その関係性が作品ごとに違っているのも見どころの一つです。『晩春』では優しくおおらかな父親を演じていた笠智衆が、『麥秋』では厳格な長男で紀子にとっての兄、『東京物語』では5人兄妹の父、紀子にとっての義父を演じています。また、原節子と同じく『晩春』から小津作品に参加したという杉村春子の存在も忘れられません。父や娘、兄と妹、嫁と義父という二人の間に、別な角度から変化をもたらします。そのコミカルな演技には思わず吹き出してしまう面白さがあります。笠智衆との掛け合いや表情だけで訴えかける演技、湿っぽい場面でのカラッとした切り替え…どれもお見事過ぎるので、勝手に“春子三選”としてもおすすめです。

小津監督の描く家族を観ていると、つい自分の家族にも思いを馳せてしまいます。それは、一見温かく見える「家族」という存在が、時には自分にとって棘になっていたり、または自分自身が家族にとってのそれだということに気づかされるからです。早くに故郷を離れ、人生の半分以上を東京で過ごしてきた私にとって、『東京物語』は「こうはなるまい」という戒め的な作品でもあります。ついなんでも許容できるのが「家族」と、その愛に甘えてしまいがちですが、一人ひとりの人生を尊重したいですし、されたいなとも思うのです。やはり、子どもはいつまでもわがままですね。スクリーンの中のさみし気な表情の父や母に自分の両親を重ねながら、たまには実家に顔を出して、親孝行しなくては…と思う今日この頃です。

【モーニングショー】晩春 4Kデジタル修復版
【Morning Show】Late Spring ★with English subtitles

小津安二郎監督作品/1949年/日本/108分/DCP/スタンダード/英語字幕付き

■監督 小津安二郎
■原作 廣津和郎
■脚本 野田高梧/小津安二郎
■撮影 厚田雄春
■美術 濱田辰雄
■音楽 伊藤宣二

■出演 笠智衆/原節子/月丘夢路/杉村春子/青木放屁/宇佐美淳/三宅邦子/三島雅夫/坪内美子/桂木洋子

■キネマ旬報ベストテン1位/毎日映画コンクール
日本映画大賞・監督賞・脚本賞・女優演技賞/キネマ旬報賞作品賞

★当館では2K上映となります。

©1949/2015松竹株式会社

【2025/1/4(土)~1/10(金)上映】

原節子の記念すべき、小津作品出演第一作! 父と娘の愛の絆を映し出す名編

妻を亡くして久しい大学教授の周吉は、27歳になっても未だに嫁に行こうとしない娘の紀子のことが心配でならない。周吉の妹まさが縁談を持ち込んでも、なかなか首を縦に振らない紀子。一方でまさは茶会で知り合った未亡人の秋子を周吉の再婚相手に薦めるが、常々男が後妻をもらうことに嫌悪感を抱いていた紀子の心は、そのことで揺れ始めていく。それを察知した周吉は、彼女と再婚すると紀子に告げた……。

作品評価の高さとともに興行的成功も収めた小津の戦後3作目。やもめの父を気遣って結婚をためらう娘とそれを見守る善意の人々の物語は、その後の小津の作風を決定づけ、復活した脚本家野田とのコンビは遺作の『秋刀魚の味』まで続く。そして、原節子の記念すべき小津作品出演第一作で、以後、彼女は笠智衆や杉村春子などと併せて小津映画の顔となっていく。

麥秋 4Kデジタル修復版
Early Summer ★with English subtitles

小津安二郎監督作品/1951年/日本/124分/DCP/スタンダード/英語字幕付き

■監督 小津安二郎
■脚本 野田高梧/小津安二郎
■撮影 厚田雄春
■美術 濱田辰雄
■音楽 伊藤宣二

■出演 原節子/笠智衆/淡島千景/三宅邦子/菅井一郎/東山千榮子/佐野周二/杉村春子/二本柳寛/井川邦子/高橋豐子

■キネマ旬報ベストテン1位/毎日映画コンクール大賞・女優演技賞/ブルーリボン監督賞・撮影賞・主演女優賞・助演女優賞・助演男優賞

★当館では2K上映となります。

©1951/2016松竹株式会社

【2025/1/4(土)~1/10(金)上映】

エゴに向き合う人間の孤独と崩れていく大家族への愛おしい思い、そして新たに生まれる家族への希望が見事に織り重なった珠玉の名作。

間宮家全員の目下の気がかりは、28歳を迎えた末娘の紀子のことだった。会社務めで独身生活を謳歌する紀子に結婚の意思はあるのだろうか。また、結婚というものをどう考えているのか。そんな時、紀子の会社の上司からの縁談話が持ち上がる。家族の間で様々な意見が上がるなか、紀子は知人で妻に先立たれた子持ちの男性との結婚を宣言する。

28歳を迎えた娘の結婚話をめぐる家族らの心情を、多彩な人間関係と細部豊かなエピソードで綴った一篇。卓抜なカット割りとシーンつなぎによって、エゴに向き合う人間の孤独と崩れていく大家族への愛おしい思い、新たに生まれる家族への希望が見事に織り重なった。原節子が「紀子(のりこ)」を演じた“紀子三部作”【『晩春』(1949)、『麥秋』(1951)、『東京物語』(1953)】のひとつ。

東京物語 4Kデジタル修復版
Tokyo Story ★with English subtitles

小津安二郎監督作品/1953年 /日本/135分/DCP/スタンダード/英語字幕付き

■監督 小津安二郎
■脚本 野田高梧/小津安二郎
■撮影 厚田雄春
■美術 濱田辰雄
■音楽 齋藤高順

■出演 笠智衆/東山千榮子/原節子/杉村春子/山村聰/三宅邦子/香川京子/東野英治郎/中村伸郎/大坂志郎/十朱久雄

■キネマ旬報ベストテン2位/2012年英国映画協会『Sight&Sound』誌“史上最高の映画ベストテン”第1位

★当館では2K上映となります。

©1953/2017松竹株式会社

【2025/1/4(土)~1/10(金)上映】

本当の家族とは何か…。子供たちを訪ねた老夫婦を軸に戦後日本における家族の崩壊を描いた代表作。

尾道に住む老夫婦、周吉ととみが東京で暮らす子供達を訪れるために上京する。子供達は久しぶりの再会で2人を歓迎するが、それぞれ家庭の都合もあり、構ってばかりはいられない。結局、戦死した次男の嫁、紀子が2人の世話をすることになる。老夫婦は子供達がすっかり変わってしまったことに気づくのであった。

年老いた親が成長した子供たちを訪ねて親子の情愛を確認しあうという題材が、小津の手にかかるとどうなるかを示す傑作。何気ない言動が教える各人の生活、思いがけない心情の吐露と発見、そして何事もなかったような人生の悲哀と深淵が見事に描かれている。

ローポジション、カメラの固定、人物の正面からの撮影など、「小津調」とも形容される独自の技法を用いながら、親子関係を淡々と描いた本作は、戦後すぐの作品でありながら、今日の家族問題に通じるテーマも多く含んだ“普遍的な家族の物語”であり、不朽の名作として世界中で愛され続けている。