【2024/10/5(土)~10/11(金)】『美しき仕事』+『ポーラX』 // 特別レイトショー『汚れた血』

パズー

クレール・ドゥニとレオス・カラックス。孤高の、唯一無二の、世界中の観客を魅了し続けてきた二人の映画作家。

ドゥニの映画もカラックスの映画も言葉はいらないと感じさせる映画だ。イメージの力を信じている映画。ダンス、暴力、バイクの運転。闇と光のコントラスト。音楽と映像のシンクロで生み出されるエモーション。人と人が出会うことで突き動かされる衝動。たとえ破滅に向かっていたとしても、誰もその運命に抗うことはできない。

決して作風が似ているわけではないけれど、二人の映画からは、そういった純粋で激しく、シンプルな美しさを受け取る。映画館の暗闇のなかで、目が、脳が、心が、喜ぶのを感じる。

ともに40年近く映画を撮り続けている二人は親しい友人同士でもあり、それが同じ俳優を起用することにも繋がっている。ドニ・ラヴァン(『美しき仕事』、アレックス3部作ほか)、カテリーナ・ゴルベワ(『ポーラX』、『パリ、18区、夜。』)、ジュリエット・ビノシュ(『汚れた血』『ハイ・ライフ』)らは、ドゥニがカラックスに、あるいはカラックスがドゥニに紹介した俳優たちだ。台詞やロジックよりも、動きやまなざしなど直接的・身体的なものを撮ろうとする彼らの映画では、俳優は何より重要な存在であるだろう。

今回上映する『美しき仕事』と『ポーラX』は、どちらもハーマン・メルヴィルの小説をもとにしている。捕鯨船の乗組員だった経験から生まれた『白鯨』などが有名なメルヴィル。アメリカ文学を代表する作家でありながら、難解、曖昧といわれ、時に読者を困惑させるような、容易な解釈を与えないメルヴィルの作風は、ドゥニとカラックスの映画作りと共鳴している。また、『美しき仕事』と『ポーラX』はどちらの作品も1999年に製作された。もちろんお互いの映画のことを知ってはいただろうけれど不思議な繋がりを感じてしまう。20世紀が終わる年、彼らは何を思いながらそれぞれの物語を完成させたのだろう。それから四半世紀が経つ今、続けて観てみることでまた新しい魅力を発見してみたい。

ポーラX
Pola X

レオス・カラックス監督作品/1999年/フランス・ドイツ・スイス・日本 /134分/35mm/ヨーロピアンビスタ/SRD

■監督・脚本 レオス・カラックス
■原作 ハーマン・メルヴィル「ピエール」
■脚本 レオス・カラックス/ジャン=ポル・ファルゴー/ローラン・セドフスキー
■撮影 エリック・ゴーティエ
■音楽 スコット・ウォーカー

■出演 ギョーム・ドパルデュー/カトリーヌ・ドヌーヴ/カテリーナ・ゴルベワ/デルフィーヌ・シュイヨー

■1999年カンヌ国際映画祭パルム・ドールノミネート

【2024/10/5(土)~10/11(金)上映】

ぼくらは深く、深く、もっと深く降りてゆかねばならない。

新進小説家のピエール・ヴァロンブルーズと美しい母マリーは森に囲まれたノルマンディの瀟洒な城館で恋人同士のように暮らしている。夏の朝、ピエールは亡き父のオートバイで婚約者のリュシーの家へと疾走する。二人は光そのものだった。

ある日、ヴァロンブルーズ家のもう一人の末裔で従兄のティボーがシカゴから帰ってきた。そんなピエールとティボーの再会を盗み見する長い黒髪のジプシーの女・イザベル。ピエールが振り向くと、女は闇へと逃げ惑う。その影を追いかけるピエール。

ピエールの変化を感じとったマリーは、リュシーとの結婚の日取りを早々に決めるのだが、再びイザベルは暗闇の中でピエールの前に姿を現す。「君は誰なんだ?」彼女は「私はあなたの姉…」と答える。ピエールは家を出る決心をする。

「狂気の書」と評されたハーマン・メルヴィルの原作を映画化した衝撃作

『ポンヌフの恋人』から8年、レオス・カラックスが1999年に発表した『ポーラX』。初の原作もの、しかも発表当時“狂気の書”とまで評された「白鯨」の作者ハーマン・メルヴィルの問題作「ピエール」を映画化した。姉と弟かもしれぬ男と女が愛の生贄さながらに魂の暗闇を下降し、運命の奔流に溺れていく壮絶過激な純愛物語だ。

闇の中の官能的なベッドシーン、“血の河”に溺れる夢など、今までになく強烈な闇のインパクトによって、破滅へと向かう男の魂を描き、カラックスは新境地を開拓。イザベル役のカテリーナ・ゴルベワはカラックスのパートナーであったが、2011年に急逝、2012年の監督作『ホーリー・モーターズ』は彼女に捧げられている。

美しき仕事 4Kレストア版
Beau Travail

クレール・ドゥニ監督作品/1999年/フランス/93分/DCP/PG12/ヨーロピアンビスタ

■監督 クレール・ドゥニ
■脚本 クレール・ドゥニ/ジャン=ポール・ファルジョー
■撮影 アニエス・ゴダール
■振付 ベルナルド・モンテ

■出演 ドニ・ラヴァン/ミシェル・シュボール/グレゴワール・コラン/リシャール・クルセ

©LA SEPT ARTE – TANAIS COM – SM FILMS – 1998

【2024/10/5(土)~10/11(金)上映】

目が眩むようなあの夏、切なくも美しい物語。

仏・マルセイユの自宅で回想録を執筆しているガルー。かつて外国人部隊所属の上級曹長だった彼は、アフリカのジブチに駐留していた。暑く乾いた土地で過ごすなか、いつしかガルーは上官であるフォレスティエに憧れともつかぬ思いを抱いていく。そこへ新兵のサンタンが部隊へやってくる。サンタンはその社交的な性格でたちまち人気者となり、ガルーは彼に対して嫉妬と羨望の入り混じった感情を募らせ、やがて彼を破滅させたいと願うように。ある時、部隊内のトラブルの原因を作ったサンタンに、遠方から一人で歩いて帰隊するように命じたガルーだったが、サンタンが途中で行方不明となる。ガルーはその責任を負わされ、本国へ送還されたうえで軍法会議にかけられてしまう…。

“史上最高の映画”2022年度7位! 孤高の映画作家、クレール・ドゥニのいまこそ再評価される名作!

2022年度発表されたsight & sound誌「史上最高の映画」に堂々の7位にランクインした映画史に残る傑作。ハーマン・メルヴィル(「白鯨」)の小説「ビリー・バッド」を下敷きに、孤高の映画作家クレール・ドゥニが、フランス映画界が誇る生きる伝説ドニ・ラヴァンを主演に迎え、目が眩むほどに青いアフリカの海岸を背景に、外人部隊とそれを率いる指揮官の訓練の日々を描く。現在ではインターネットミームになりつつある、ラヴァンのエネルギッシュな身体性が印象的なラストシーンも必見。日本では劇場未公開のため長らく映画ファンが待ち望んでいた幻の名作が、遂に4Kレストア版にて公開。

【レイトショー】汚れた血
【Late Show】Bad Blood

レオス・カラックス監督作品/1986年/フランス/119分/35mm/ヨーロピアンビスタ/MONO

■監督・脚本 レオス・カラックス
■製作 アラン・ダーン/フィリップ・ディアス
■撮影 ジャン=イヴ・エスコフィエ
■音楽(挿入曲など) ベンジャミン・ブリテン/プロコフィエフ/チャーリー・チャップリン/セルジュ・レジアニ/シャルル・アズナヴール/デヴィッド・ボウイ

■出演 ドニ・ラヴァン/ジュリエット・ビノシュ/ミシェル・ピッコリ/ジュリー・デルピー

■1986年ルイ・デリュック賞/第37回ベルリン国際映画祭アルフレッド・バウアー賞受賞

【2024/10/5(土)~10/11(金)上映】

愛は伝染する。少年は金庫を、少女は掟を破った。

あと数年で21世紀を迎えようとしているパリ。彗星が接近しているため、夜でもおそろしく暑い。そして人々は愛の無いセックスによって感染する新しい病気「STBO」の蔓延に恐れおののいていた。

天涯孤独となった少年アレックスは、どこか別の場所で新しい人生を送りたいと思っている。ガールフレンドのリーズと過ごす愛のひとときも彼には無意味で、ただここから抜け出せればよかった。中年の男マルクと美少女アンナに誘われてアレックスは脱出のための金欲しさに、犯罪に手を貸す。マルクは亡き父親の友人でアンナはマルクの情婦。いつしか、アレックスはアンナを愛するようになるのだが…。

夜が走り、愛が呻く。映画史に残る名シーンが忘れがたい、「アレックス三部作」の2作目。

衝撃は予告なしでやって来た。21世紀の足音が聞こえるパリ。ふとしたことから知り合った男と女と男の、永遠に結ばれないトライアングルを、26歳の天才監督がとんでもなく素晴らしい映画に仕上げたのだ。かつて無かった斬新な画面作りと、スピーディーでかつリリカルなストーリー展開。レオス・カラックス監督長編二作目となる『汚れた血』は「興奮させ、しびれさせる最も感覚的な映画」と絶賛された。

主人公アレックスを演じるのはもちろん“カラックスの分身”ドニ・ラヴァン。『ボーイ・ミーツ・ガール』の少年が、よりセンシティブで不可解な若者に成長し、彼以外には考えられないキャラクターでテーマに深みを与えている。アレックスの才能を犯罪に利用する初老の男マルクに名優ミシェル・ピッコリ。そして、マルクの情婦でありアレックスの憧れの女に扮するのがジュリエット・ビノシュ。彼女の少女のような喋り方、前髪を息で吹き上げるポーズ、そしてラストの疾走シーンは、色褪せることのない魅力に溢れている。