【2024/7/6(土)~7/12(金)上映】

すみちゃん

チャップリンと言えば、ちょび髭と山高帽にステッキ、だぼだぼのズボンを履いてガニ股歩き。格好のちぐはぐさと同時に、強めのアイラインに真っ白なお肌のお化粧と、なんとなく、見た目が怖くて、わたしはこれまでチャップリン映画をなかなか観てきませんでした。ですが、現実世界には見た目が優しくても恐ろしい人間がいることを人生で知るようになってから、フィクションでこの世界に対する違和感を表現することの必要性を感じるようになりました。悲惨な現実を変えることはできないかもしれないけれど、視点を変えれば新たな発見がある。チャップリンはまさしく、その違和感を体現し、笑いに変えているのです。「人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇だ。」というあまりにも有名なチャップリンの言葉が、今のわたしに強く響いてきます。

『キッド』では、母親がわが子を置き去りにするという何とも物悲しいシーンから始まるのですが、その子供を見つけたチャップリンが、知らない人のベビーカーに勝手に入れようとするなど、現実では悲惨すぎますが、それでもそんなおかしなことを繰り返している様子を見ていると、事のあり得なさに笑えてきます。『モダン・タイムス』での自動飲食マシンでは、ただ食べるだけのためにマシンを作り、行き過ぎた自動化を皮肉めいて描いているのですが、故障してしまった時のマシンの動きにわたしはお腹を抱えて笑ってしまいました!こんなもの発明してどうするんだ!

一方、喜劇だけではありません。『巴里の女性』では、駆け落ちしようとしたができなかったマリーとジャンがパリで再び出会い、悲劇が起きます。誰と共に生きていくべきなのかをマリーは懸命に考え、物語の最後には、家族や恋人など、名前のある関係性だけではない人生の多様な在り方が表現されています。そして『殺人狂時代』では、一人殺せば犯罪、百万人殺せば英雄とされるこのおかしな世界に対して、人を殺すということはどういうことなのか?映画を通して観客に問うています。チャップリン演じるヴェルドゥは、お金を得るために多くの女性を騙して殺害していきます。忙しなくあちこち動き回っている様子の何て滑稽なことか!ヴェルドゥはお金を得るため、生活のために時間や労力をかけています。ですが、その先にあるのが人の命を奪うことであるというのは、戦争や虐殺に加担している企業で働く労働者や、兵器の開発にかかわる技術者と同じではないでしょうか?滑稽に見えるヴェルドゥの行動は、わたしたちの現実世界と決して遠くないのです。

社会への問題に対して真剣に向き合ったチャップリンの作品は色褪せず、人間があまりにも愚かであることを証明しているようです。今でも大量虐殺はこの世界で起きています。貧困や労働問題だって、ずっと抱えたままです。何も変わらない人間のままではいてはいけないはず。喜劇の先にわたしたちが導ける現実があるのではないか、作品を観た後にできることは何だろうか?人類として、みなさんと一緒に考えていきたいです。

【モーニングショー】キッド
【Morning Show】The Kid

チャールズ・チャップリン監督作品/1921年/アメリカ/53分/DCP/スタンダード

■監督・脚本・プロデューサー・編集・作曲 チャールズ・チャップリン
■撮影 ローランド・トサロー
■美術 チャールズ・D・ホール

■出演  チャールズ・チャップリン/エドナ・パーヴァイアンス/ジャッキー・クーガン/トム・ウィルソン/ヘンリー・バーグマン/チャールズ・リーズナー/リリタ・マクマレイ

©Roy Export SAS

【2024/7/6(土)~7/12(金)まで上映】

ほほえみと、一粒の涙…… 親子の情愛を描く、 ヒューマン・コメディの傑作!

ひょんなことで捨て子を拾ったチャーリー。貧しいなかでも赤ん坊を懸命に育て、5年の歳月が過ぎた。一方、キッドを捨てた母は、今や成功した歌手となり、かつての過ちを悔いて慈善に励んでいた。そんなある日、キッドを孤児院へと連れていくために、冷酷な役人が訪れる――

「ほほえみと、おそらくは一粒の涙の映画」という冒頭字幕の通り、爆笑の後にほろりとさせられる初期の代表作。チャップリンと愛くるしい名子役ジャッキー・クーガンの名コンビで、血のつながりを超えた親子の絆をユーモアと愛情たっぷりに描き上げた。極貧のなか、何度も孤児院に入れられたチャップリンの幼少時代の経験が反映された本作は、史上初めて世界中で大ヒットした映画となり、文字通り全世界を笑いと涙に包んだ。

巴里の女性
A Woman of Paris

チャールズ・チャップリン監督作品/1923年/アメリカ/81分/DCP/スタンダード

■プロデューサー・監督・脚本・編集・作曲 チャールズ・チャップリン
■撮影 ローランド・トサロー
■美術 アーサー・スティボルト

■出演  エドナ・パーヴァイアンス/エイドルフ・マンジュー/カール・ミラー/リディア・ノット/チャールズ・フレンチ/クラレンス・ゲルダート

©Roy Export SAS

【2024/7/6(土)~7/12(金)まで上映】

すれ違う男女、揺れ動く心の〈運命のドラマ〉チャップリンが監督に徹して、映像表現の美を極めた名品

フランスの片田舎にいたマリーは、恋人のジャンとパリに駆け落ちする約束をした。しかし、駆け落ちの夜、父親が急逝したジャンは駅に行けず、何も知らないマリーは失意のなか一人汽車に乗る。1年後、有閑紳士ピエールの愛人となって贅沢な暮らしをしているマリーは、ある晩、パリに出てきていたジャンと偶然再会する――

喜劇王チャップリンが初めて手がけたシリアス・ドラマにして、長年のヒロインだったエドナ・パーヴァイアンスに捧げた〈運命のドラマ〉。監督に徹したチャップリンは映画作家としての天才を遺憾なく発揮し、サイレント映画の〈光と影〉の表現だけで、すれ違う男女の心の機微を描き切った。後の監督たちに多大な影響を与えた、映像の美を極めた名品。

街の灯
City Lights

チャールズ・チャップリン監督作品/1931年/アメリカ/86分/DCP/スタンダード

■プロデューサー・監督・脚本・作曲・編集 チャールズ・チャップリン
■撮影 ローランド・トサロー/ゴードン・ポロック
■美術 チャールズ・D・ホール
■編曲 アーサー・ジョンストン
■指揮 アルフレッド・ニューマン

■出演 チャールズ・チャップリン/ヴァージニア・チェリル/フローレンス・リー/ハリー・マイアーズ/アラン・ガルシア/ハンク・マン

©Roy Export SAS

【2024/7/6(土)~7/12(金)まで上映】

盲目の花売り娘への、 残酷なまでに美しい愛 チャップリンの最高傑作!

盲目の花売り娘に恋をした放浪者チャーリーは、彼女を助けるために懸命に慟く。やがて、チャーリーから貰ったお金で手術をして目が見えるようになった娘は、ある日ぼろぼろの放浪者に出会う――

チャップリンは、本作の製作に3年もの月日をかけ、笑いと涙、そして冷徹な社会批評を残酷なまでに美しい愛の物語に盛り込んだ。爆笑のボクシング・シーンなど名シーンの連続に、チャップリン自身が作曲した美しい音楽。そして、映画史上もっとも感動的と言われる、あのラストシーン。もはや、どんな言葉も必要ない。チャップリンのすべてがここにある。

モダン・タイムス
Modern Times

チャールズ・チャップリン監督作品/1936年/アメリカ/87分/DCP/スタンダード

■プロデューサー・監督・脚本・作曲・編集 チャールズ・チャップリン
■撮影 ローランド・トサロー/アイラ・モーガン
■美術 チャールズ・D・ホール/ラッセル・スペンサー
■音楽監督 アルフレッド・ニューマン
■編曲 エドワード・パウエル/デイヴィッド・ラクシン

■出演 チャールズ・チャップリン/ポーレット・ゴダード/ヘンリー・バーグマン/アラン・ガルシア/スタンリー・J・サンフォード/ハンク・マン/エドワード・ル・セイント

©Roy Export SAS

【2024/7/6(土)~7/12(金)まで上映】

自由と希望を求めて放浪する チャーリーと少女 機械文明を痛烈に風刺した、 チャップリンの代表作!

工場での非人間的な労働のために正気を失くしてしまったチャーリー。同じ頃、父を失った少女は微罪のために逮捕される。二人は人間らしい自由を求めて、手を携えて懸命に生活を始めるが…。

1936年の時点で、機械文明の非人間性を予言した問題作にして、チャップリン映画のなかでも最高におかしい傑作コメディ。チャーリーが巨大な歯車に巻き込まれる象徴的なシーン、輝くばかりに美しいポーレット・ゴダード、チャップリンが初めて肉声を聞かせた「ティティナ」の歌、そしてチャップリン作曲の名曲「スマイル」に乗せて、二人が歩き去っていく伝説的なラストシーン。現代社会の不条理のなかでも、あくまで自由を求め希望を胸に放浪する、チャップリンの代表作!

ライムライト
Limelight

チャールズ・チャップリン監督作品/1952年/アメリカ/138分/DCP/スタンダード

■プロデューサー・監督・脚本・作曲 チャールズ・チャップリン
■撮影 カール・ストラス
■美術 ウジェーヌ・ルーリエ
■編集 ジョゼフ・エンゲル
■音楽監督 レイ・ラッシュ

■出演 チャールズ・チャップリン/クレア・ブルーム/バスター・キートン/シドニー・チャッブリン/ナイジェル・ブルース/ノーマン・ロイド/マージョリー・ベネット/ウィーラー・ドライデン

©Roy Export SAS

【2024/7/6(土)~7/12(金)まで上映】

ライムライトの魔力  若者の登場に老人は消える チャップリンの映画人生の集大成!

落ちぶれた老芸人カルヴェロは、自殺をはかったバレリーナのテリーを助ける。彼の励ましで再び舞台で踊れるようになったテリーは、二人の幸せな未来を夢見るが、カルヴェロは人生の舞台から退場しようとしていた――

チャップリンの原点であるロンドンの大衆演劇を舞台に、無償の愛を描いた名作。「人生に必要なのは、勇気と想像力……そして少しのお金」をはじめ名台詞の数々、無声映画時代のライバルのバスター・キートンとの共演で見せる至芸、そして誰もが涙する感動のラストシーンまで、まさにチャップリンの映画人生の集大成だ。のちにポップソングとしても大ヒットした「テリーのテーマ」などチャップリン作曲の映画音楽は、アカデミー賞®作曲賞を受賞した。

【レイトショー】殺人狂時代
【Late Show】Monsieur Verdoux

チャールズ・チャップリン監督作品/1947年/アメリカ/124分/DCP/スタンダード

■プロデューサー・監督・脚本・作曲 チャールズ・チャップリン
■原案 オーソン・ウェルズ
■撮影 クルト・クーラン/ローランド・トサロー
■美術 ジョン・ベックマン
■音楽監督 ルドルフ・シュレイガー

■出演  チャールズ・チャップリン/マーサ・レイ/イソベル・エルソム/マリリン・ナッシュ/ロバート・ルイス/メイディ・コレル/アリソン・ロッダン

©Roy Export SAS

【2024/7/6(土)~7/12(金)まで上映】

一人殺せば犯罪、百万人殺せば英雄…… 戦争による大量殺人を告発した 異色ブラック・コメティ

不況のために銀行をクビになったヴェルドゥは、金持ち女性を次々と誘惑して命と財産を奪う<仕事>を始める。やがて、恐るべき犯罪が露呈した時、ヴェルドゥは法廷でシニカルなメッセージを残して断頭台に向かう――

戦争による大量殺人を告発したブラック・コメディにして、放浪紳士の扮装を脱ぎ捨てて洗練された紳士を演じた異色作。当時、戦勝に涌くアメリカでは猛烈なバッシングを受け、チャップリンはその後事実上国外追放される憂き目にあう。だが、本作は、現代への警鐘とも言える痛烈な反戦メッセージもさることながら、新境地を開いたチャップリンのスタイリッシュなユーモアと洗練を極めた名演出が堪能できる傑作コメディだ。