【2024/4/13(土)~4/19(金)】『月』『福田村事件』 // 特別モーニング&レイトショー『絞死刑』

ぽっけ

今週の早稲田松竹の上映作品は『福田村事件』『月』そして『絞死刑』です。人の命について強く問いかけるこの映画たちを見ていると、問いの強さがそのまま私たちの社会や一人一人の持つ昏(くら)さを表しているのだと思い知らされます。

まさしく呆れてしまうほどに、信じられないほどに人は人を殺してきました。戦争、虐殺、殺人、死刑。命の尊さについて説けば説くほど、馬鹿らしくなってしまうくらいに。あまりにも無残に、簡単に。時間が隔てられれば隔てられるほど、場所が遠ければ遠いほど、自分には関係のないことだと思いやすく、意識せずに生活できる距離に、それらの問題は置いたまま忘れ去られてきました。

映画は起きてしまった悲劇の後に「間に合わない」ものとしてフィクションを交えて作られるしかない宿命を背負っています。『絞死刑』で記憶を失ったR(死刑囚)の犯行の自覚を呼び戻すために、死刑立会人たち総出でRが犯した犯罪の記録を演じる場面。死刑を執行するため、殺すために記憶を呼び戻そうとする死神たちの空虚さ。それはスクリーンを見つめている私たちを虚構と現実という死刑台の中空に宙づりしたまま、思考を止めることを決して許しません。

『月』で「さとくん」は「心がなければ人ではない」と断言して、話すことも聞くこともできない人たちに「心はありますか?」と問いかけます。その愚かな問いに多くの観客は言葉を失うことでしょう。しかしその失語に対抗するように「心の中の声にできない声」を書こうとする小説家の姿があります。『福田村事件』の民衆の扇動役を担ってしまった新聞に、今こそ本当に起きている事実を書こうと事件を追いかける記者の姿。その姿は、私たちの記憶を呼び覚まそうと並々ならぬ思いと労力でいまスクリーンに映画を運んできたスタッフやキャストたちの姿を思わせるでしょう。

映画が用意した強烈な問いかけを浴びながら、私たちはこの昏さの中で取返しのつかない出来事を前に嘆かわしくも沈黙し座り続けるほかないのでしょうか。一人で受け止めるのではなく、見たあとに誰かと話したくなるこの作品たちを「映画が問いかける”人が残酷さを許すとき”」と題して上映します。


The Moon

石井裕也監督作品/2023年/日本/144分/DCP/PG12/シネスコ

■監督・脚本 石井裕也
■企画・エグゼクティブプロデューサー 河村光庸
■原作 辺見庸『月』(角川文庫刊)
■撮影 鎌苅洋一
■編集 早野亮
■音楽 岩代太郎
 
■出演 宮沢りえ/磯村勇斗/二階堂ふみ/オダギリジョー/長井恵里/大塚ヒロタ/笠原秀幸/板谷由夏/モロ師岡/鶴見辰吾/原日出子/高畑淳子

■2023年日本アカデミー賞 助演男優賞ノミネート/ブルーリボン賞監督賞受賞/第97回キネマ旬報ベストテン助演女優賞・助演男優賞/第48回報知映画賞作品賞邦画部門・助演男優賞・助演女優賞受賞/第78回毎日映画コンクール監督賞・撮影賞受賞/第36回日刊スポーツ映画大賞作品賞・監督賞・助演女優賞・助演男優賞受賞/第45回ヨコハマ映画賞作品賞・助演男優賞受賞/第28回釜山国際映画祭コンペティション部門正式出品

©2023『月』製作委員会

【2024/4/13(土)~4/19(金)上映】

そして、その日はついにやってくる――

深い森の奥にある重度障害者施設。ここで新しく働くことになった堂島洋子は“書けなくなった”元・有名作家だ。彼女を「師匠」と呼ぶ夫の昌平と、ふたりで慎ましい暮らしを営んでいる。洋子は他の職員による入所者への心ない扱いや暴力を目の当たりにするが、それを訴えても聞き入れてはもらえない。そんな世の理不尽に誰よりも憤っているのは、さとくんだった。彼の中で増幅する正義感や使命感が、やがて怒りを伴う形で徐々に頭をもたげていく――。

世に問うべき大問題作が放たれる

実際の障害者殺傷事件を題材に、2017年に発表された辺見庸の小説「月」。本作は、『新聞記者』、『空白』を手掛けてきたスターサンズの故・河村光庸プロデューサーが最も挑戦したかった原作だった。それを映画化するということは、この社会において、禁忌タブーとされる領域の奥深くへと大胆に踏み込むことだった…。

オファーを受けた石井監督は、「撮らなければならない映画だと覚悟を決めた」という。その信念のもと、原作を独自に再構成し、渾身の力と生々しい血肉の通った破格の表現としてスクリーンに叩きつける。そして宮沢りえ、オダギリジョー、磯村勇斗、二階堂ふみといった第一級の俳優陣たちもまた、ただならぬ覚悟で参加した。本作は日本を代表する精鋭映画人たちによる、最も尖鋭的な総力をあげた戦いだといっても過言ではない。

もはや社会派だとか、ヒューマンドラマだとか、有り体の言葉では片づけられない。なぜならこの作品が描いている本質は、社会が、そして個人が問題に対して“見て見ぬふり”をしてきた現実をつまびらかにしているからだ。本作が世に放たれるーそれはすなわち、「映画」という刃が自分たちに向くということだ。覚悟しなければならない。そう、もう逃げられないことはわかっているからー。

福田村事件
September 1923

森達也監督作品/2023年/日本/137分/DCP/PG12/シネスコ

■監督 森達也
■企画 荒井晴彦
■脚本 佐伯俊道/井上淳一/荒井晴彦
■撮影 桑原正
■編集 洲崎千恵子
■音楽 鈴木慶一
 
■出演 井浦新/田中麗奈/永山瑛太/東出昌大/コムアイ/木竜麻生/松浦祐也/向里祐香/杉田雷麟/ カトウシンスケ/ピエール瀧/ 水道橋博士/豊原功補/柄本明

■日本アカデミー賞作品賞・監督賞・脚本賞ノミネート/第28回釜山国際映画祭ニューカレンツ賞受賞/第41回 ゴールデングロス賞受賞/第66回 ブルーリボン賞 作品賞ノミネート

©「福田村事件」プロジェクト2023

【2024/4/13(土)~4/19(金)上映】

関東大震災から100年。いま見たことを、伝えたい。

大正デモクラシーの喧騒の裏で、マスコミは、政府の失政を隠すようにこぞって「…いずれは社会主義者か鮮人か、はたまた不逞の輩の仕業か」と世論を煽り、市民の不安と恐怖は徐々に高まっていた。そんな中、朝鮮で日本軍による虐殺事件を目撃した澤田智一は、妻の静子を連れ、智一が教師をしていた日本統治下の京城を離れ、故郷の福田村に帰ってきた。

9月1日、空前絶後の揺れが関東地方を襲った。木々は倒れ、家は倒壊し、そして大火災が発生して無辜なる多くの人々が命を失った。そんな中でいつしか流言飛語が飛び交い、瞬く間に関東近縁の町や村に伝わっていった。福田村にも避難民から「朝鮮人が集団で襲ってくる」「朝鮮人が略奪や放火をした」との情報がもたらされ、疑心暗鬼に陥り、人々は恐怖に浮足立つ。そして9月6日、偶然と不安、恐怖が折り重なり、後に歴史に葬られることとなる大事件が起きる―。

これに目を瞑ることは、許されない。実話に基づいたかつてない日本映画。

1923年9月1日11時58分、関東大地震が発生した。そのわずか5日後の9月6日のこと。千葉県東葛飾郡福田村に住む自警団を含む100人以上の村人たちにより、利根川沿いで香川から訪れた薬売りの行商団15人の内、幼児や妊婦を含む9人が殺された。行商団は、讃岐弁で話していたことで朝鮮人と疑われ殺害されたのだ。逮捕されたのは自警団員8人。逮捕者は実刑になったものの、大正天皇の死去に関連する恩赦ですぐに釈放された…。これが100年の間、歴史の闇に葬られていた『福田村事件』だ。行き交う情報に惑わされ生存への不安や恐怖に煽られたとき、集団心理は加速し、群衆は暴走する。これは単なる過去の事件では終われない、今を生きる私たちの物語。

監督はドキュメンタリー映画『A』『i-新聞記者ドキュメント』などで知られる森達也。本作が初の長編劇映画作品となる。企画と脚本を荒井晴彦が担当。主人公・澤田を演じるのは井浦新。その妻役には田中麗奈が扮する。共演は永山瑛太、東出昌大、コムアイ、木竜麻生、豊原功補、柄本明など名だたる俳優陣が顔を揃える。製作費を募るクラウドファンディングでは瞬く間に3500万円以上の金額を集め、関東大震災から100年目となる2023年9月1日に公開されるやたちまち大きな話題を呼び、ミニシアター規模の興行ながら上映から2か月強で上映館は200館超、興行収入2億5千万円を超える記録的ヒットとなった。

【モーニング&レイトショー】絞死刑
【Morning & Late Show】Death by Hanging

大島渚監督作品/1968年/日本/119分/35mm/ビスタ

■監督 大島渚
■製作 中島正幸/山口貞治/大島渚
■脚本 大島渚/田村孟/ 佐々木守/深尾道典
■撮影 吉岡康弘
■美術 戸田重昌 
■音楽 林光
■監修 向江璋悦
 
■出演 佐藤慶/渡辺文雄/石堂淑朗/足立正生/戸浦六宏/小松方正/松田正男/尹隆道/小山明子

©大島渚プロダクション

【2024/4/13(土)~4/19(金)上映】

死刑制度、民族問題、戦争責任等の矛盾を、大胆な発想と黒いユーモアで摘出した、大島渚の代表作。

死刑囚の在日朝鮮人青年Rの絞死刑が執行されるが、Rは死ななかった。ロープにぶら下がったまま、Rは心神喪失状態に陥ってしまう。この状態での刑の再執行は法的に許されないため、Rの記憶を取り戻そうと、死刑執行人たちはRの彼の犯罪や家庭環境を芝居で再現して見せる。そのやりとりから、死刑制度の原理的な問題から在日朝鮮人差別の問題、さらには貧困を背景とした犯罪心理がみえてくる。

58年に起きた小松川女子高校生殺人事件を題材に、死刑制度や在日韓国人問題などを追及した社会派ドラマ。ATGと独立プロの提携による「一千万円映画」の第1作。カンヌ国際映画祭に正式出品され、海外での大島ブームにも火を点けた。