そしてアーティストたちの旅は続く

ジャック

ひとつのことに情熱を保ち続けるのはとても難しいことです。年齢を重ねていくことで忘れ去ってしまうもの、新しい出会いや人生における様々な転機によって、少しずつ当初の思いが薄れ、流れ去ってしまいます。『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス』が描く老齢のベテランミュージシャンがいつまでも音楽に情熱を注ぎ続けられるのは、単純な趣味や嗜好といったものではなく、その人が生きてきた歴史と生活に深くかかわっているからではないでしょうか。前作の『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』の背景を丁寧に紐解いていくことで、音楽と人生がともに重なり合う様子を描いていきます。リズミカルな音楽に体を動かしながらも感情が揺さぶられるのは、そこに彼らの人生が垣間見えるからでしょう。

同じように『顔たち、ところどころ』では写真という表現方法で街の人々の人生を切り取ります。壁のレンガ模様やひび割れ、でこぼこな質感を残したまま建物に貼りつけられた大きな写真には、顔そのものだけでなく、その人たちの暮らしまで写りこんでいるようです。アニエス・ヴァルダとJRが被写体に選ぶ人たちは『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス』のように音楽を演奏することはできませんが、その顔にはやはりそれぞれの歴史が刻み込まれています。まるで声なき者にスポットライトを当てるかのように、アニエス・ヴァルダとJRはいつもの風景を大胆に芸術表現へと変身させてしまうのです。

人々の生き様を映すこの二つの映画に、私たち自身の人生についても思いを巡らせてしまいます。何気ない平凡な毎日であっても、生きているということ自体が実はドラマチックなことなのかも、と少しばかり思えてくるのは不思議なことです。必ずしも良いことだけではない私たちの人生に、近すぎずかつ遠すぎない絶妙な距離感で、ポンと背中を押してくれるような素敵なドキュメンタリー映画です。

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス
Buena Vista Social Club: Adios

開映時間 ※上映は終了しました
ルーシー・ウォーカー監督作品/2017年/イギリス/110分/DCP/ビスタ

■監督 ルーシー・ウォーカー
■製作総指揮 ガブリエル・ハモンド/ダニエル・ハモンド/ルーシー・ウォーカー/ジェイソン・ラスト/ヴィム・ベンダース/ビル・ロード/トム・コルボーン/アンドリュー・ベイカー/ラッセル・スミス
■撮影 エンリケ・シャディアック/ルーカス・ガス/ニック・ヒギンズ

■出演 オマーラ・ポルトゥオンド/マヌエル・”エル・グアヒーロ”・ミラバール/バルバリート・トーレス/ エリアデス・オチョア/イブライム・フェレール

© 2017 Broad Green Pictures LLC

【2019年2月16日から2月22日まで上映】

“アディオス”世界ツアーの幕が上がる。―伝説は永遠に終わらない。

1997年、1枚のアルバムが、世界の音楽シーンに驚きと至福のセンセーションを巻き起こした。当時なんと90代のギタリストを筆頭に、かつて第一線で活躍していたキューバのベテラン歌手や音楽家たちを復活させた、「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」だ。アルバムタイトルは、実在した会員制の音楽クラブの名前で、そのまま彼らのバンド名にもなった。アメリカの偉大なるギタリストと称えられる、ライ・クーダーがプロデュースしたこのアルバムは、権威あるグラミー賞を受賞し、ワールド・ミュージックのジャンルとしては異例となる400万枚を売り上げた。

さらに、名匠ヴィム・ヴェンダースが彼らの音楽と人柄に惚れ込んで監督したドキュメンタリー映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』が、全世界で破格のヒットを飛ばす。日本でも2000年に公開され、ミニシアターの枠を超える大ヒットを成し遂げた。その熱狂は、音楽・映画にとどまらず、社会現象へと広がっていった。

あれから18年、グループによるステージでの活動に終止符を打つと決めた現メンバーが、“アディオス”世界ツアーを決行、ヴェンダース製作総指揮で最後の勇姿を収めた音楽ドキュメンタリーが完成した。監督は、『ヴィック・ムニーズ ごみアートの奇跡』のルーシー・ウォーカー。その突出した才能が今最も注目されているドキュメンタリー作家だ。

前作でカットされた秘蔵映像も交えながら、カメラはこれまでの旅路や、その死にも迫る。音楽の女神に愛された彼らの、人生のすべてが込められ、一層深みを増した歌声と演奏を全身で受け止めるすべての観客は、このまま映画が終わらぬことを祈るだろう─。

顔たち、ところどころ
Faces Places

開映時間 ※上映は終了しました
アニエス・ヴァルダ&JR監督作品/2017年/フランス/89分/DCP/ビスタ

■監督・脚本・出演 アニエス・ヴァルダ/JR
■製作総指揮 ロザリー・ヴァルダ
■音楽 マチュー・シェディッド

■第70回カンヌ国際映画祭ルイユ・ドール(最優秀ドキュメンタリー賞)受賞/第42回トロント国際映画祭観客賞受賞/第90回アカデミー賞ドキュメンタリー部門ノミネート/第43回セザール賞最優秀ドキュメンタリー賞ノミネート

© Agnès Varda – JR – Ciné-Tamaris – Social Animals 2016.

【2019年2月16日から2月22日まで上映】

旅に出ましょう。あなたを、忘れないように。

映画監督アニエス・ヴァルダ(作中で87歳)と、写真家でアーティストのJR(作中で33歳)は、ある日一緒に映画を作ることにした。

JRのスタジオ付きトラックで人々の顔を撮ることにした二人は、さっそくフランスの村々をめぐり始めた。炭鉱労働者の村に一人で住む女性、ヤギの角を切らずに飼育することを信条とする養牧者、港湾労働者の妻たち、廃墟の村でピクニック、アンリ・カルティエ・ブレッソンのお墓、ギイ・ブルタンとの思い出の海岸、JRの100歳の祖母に会いに行き、J.L.ゴダールが映画『はなればなれに』で作ったルーブル美術館の最短見学記録を塗り替える。

アニエスのだんだん見えづらくなる目、サングラスを決して取ろうとしないJR。時に歌い、険悪になり、笑いながら、でこぼこな二人旅は続く。「JRは願いを叶えてくれた。人と出会い顔を撮ることだ。これなら皆を忘れない」とアニエスはつぶやく…。

「ヌーヴェルヴァーグの祖母」とも呼ばれる女性映画監督の先駆であり、2015年にはカンヌ国際映画祭で史上6人目となるパルム・ドール名誉賞、2017年には60年以上にも渡る映画作りの功労が認められアカデミー名誉賞を受賞したアニエス・ヴァルダ。そして、大都市から紛争地帯、様々な場所で、そこに住む人々の大きなポートレートを貼り出す参加型アートプロジェクトで知られるフランス人アーティストJR。

『顔たち、ところどころ』は、そんな二人がフランスの田舎街を旅しながら、人々と接し作品を一緒に作り残していく、ロードムービー・スタイルのハートウォーミングなドキュメンタリー。第70回カンヌ国際映画祭にて最優秀ドキュメンタリー賞ルイユ・ドール(金の眼賞)、同年のトロント国際映画祭では最高賞にあたるピープルズ・チョイス・アワード(観客賞)のドキュメンタリー部門を受賞。また、第90回米国アカデミー賞、 第43回セザール賞 にもノミネートされるなど、世界の映画祭を席巻した。

【特別レイトショー】マジック・ランタン・サイクル
【Late Show】Magick Lantern Cycle

開映時間 ※上映は終了しました
ケネス・アンガー監督作品/1947-1980年/アメリカ/Aプログラム:88分/Bプログラム:80分/DVD/スタンダード

■監督・脚本 ケネス・アンガー

■上映作品 
【2/16-2/18★Aプログラム】(88分)
『花火』『プース・モーメント』『ラビッツ・ムーン(1950年バージョン)』『人造の水』『快楽殿の創造』

【2019年2月16日から2月18日まで上映】

【2/19-2/22★Bプログラム】(80分)
『スコピオ・ライジング』『K.K.K. Kustom Kar Kommandos』『我が悪魔の兄弟の呪文』『ラビッツ・ムーン(1979年バージョン)』『ルシファー・ライジング』

【2019年2月16日から2月18日まで上映】

★2つのプログラムを上映、週の途中で上映作品が変わります。

★レイトショー上映はどなた様も一律1000円でご鑑賞いただけます。
★チケットは、連日10:20より受付にて販売いたします(当日券のみ)。
★ご入場は、チケットに記載された整理番号順となります。

© Kenneth Anger

伝説の映像作家、ケネス・アンガー 呪術的イメージの集大成

アンダーグラウンド映画の系譜において伝説的存在をほしいままにする映像作家ケネス・アンガー。デレク・ジャーマン、ジャン・コクトー、ミック・ジャガー、デヴィッド・リンチ、デニス・ホッパー、ガス・ヴァン・サント、マーティン・スコセッシ、アンジェラ・ミッソーニ…時代を越え、ジャンルを越え、名だたるクリエイターにアンガーの呪術的イメージは今なお多大なる影響を与え続けている。

彼の集大成である『マジック・ランタン・サイクル』には、神や道化師、無骨なバイカーたちといった様々な登場人物からなる映像作品が収められている。

登場人物は異なれど、どれも彼が若き時代を過ごした無声映画全盛のハリウッド映画への憧憬と、現実の世界への疑い、居心地の悪さのようなものを重ねあわせ、夢の中の物語のようにロマンティックに仕上げている。一見攻撃的で反逆的なイメージの強い彼の映像だが、これらの作品からは、あくまで個人的な体験・自らの皮膚感覚を元にして制作されているのだろうというのが手に取るように伝わってくる。だからこそ、異端と呼ばれながらも、アンガーの表現は今なお強いインパクトを与え、インディペンデント映画を変革した人物として、強い磁場を持って私たちを惹きつけて止まないのである。