【2020/2/8(土)~2/14(金)】特別モーニングショー『ニーチェの馬』/特別興行『サタンタンゴ』/『フルスタリョフ、車を!』+『動くな、死ね、甦れ!』

ルー

レンタルビデオショップが興隆した80年代以降より顕著になった傾向なのだと思いますが、映画は便宜上「コメディ」「ホラー」「アクション」「人間ドラマ」などのジャンル分けがなされます。多かれ少なかれ、私たちはそういった作品の雰囲気を感じ取り、「笑える」とか「泣ける」とか「考えさせられる」といった効用を求めて観る映画を選ぶのだと思います。

しかしながら、例えばタル・ベーラ作品の暴風に荒れ狂う驚異的なカットの連なりや、全ての人間が狂気に侵されているかのように狂騒的なアレクセイ・ゲルマン映画の登場人物たち。あるいはカネフスキー作品でむき出しになった無慈悲な環境とそこに生きる少年少女たちの息吹を目の当たりにしたとき、私たちは一体どんなジャンル分けが出来るでしょうか。その戦慄的な美しさと獰猛なパワーを前に、誰もが作者の意図を読み取ることすら放棄し、ただただ圧倒されるばかりなはずです。

上記の監督たちは通常の意味での映画監督というより、この地球に潜在する超自然的な領域を顕然させるシャーマンじみた存在に思えます。私たちは彼らの叫びとささやきに導かれるままに、どんなジャンルでもなく同時に全てのジャンルを飲み込んでいるような、途方もなく豊かで果てしなく広大な世界に足を踏み入れるのです。

【特別モーニングショー】ニーチェの馬
【Morning Show】The Turin Horse

タル・ベーラ監督作品/2011年/ハンガリー・フランス・スイス・ドイツ/154分/35mm/ヨーロピアンビスタ/SR

■監督・脚本 タル・ベーラ
■共同監督・脚本・編集 フラニツキー・アーグネシュ
■撮影 フレッド・ケレメン
■音楽 ヴィーグ・ミハーイ

■出演 ボーク・エリカ/デルジ・ヤーノシュ

■2011年ベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員グランプリ)・国際批評家連盟受賞/米アカデミー賞外国語映画部門ハンガリー代表

【2020年2月8日から2月14日まで上映】

“人間の尊厳"を追求する深遠な黙示録が、いま幕を開ける―

1889年トリノ。ニーチェは鞭打たれ疲弊した馬車馬を見つけると、駆け寄り卒倒した。そのまま精神は崩壊し、二度と正気に戻ることはなかった…。

どこかの田舎、石造りの家と命をつなぐ古井戸がある。そして、疲れ果てた馬と、飼い主の農夫と、その娘がいる。暴風が吹き荒れる6日間の物語。

哲学者ニーチェの逸話を基に、鬼才タル・ベーラが綴る壮絶な生と死の寓話。

『ニーチェの馬』を観た者は圧倒され言葉を失うだろう。トリノの広場で泣きながら馬の首をかき抱き、そのまま発狂したとされるニーチェの逸話にインスパイアされて生まれた本作。ベルリン国際映画祭にて、銀熊賞と国際批評家連盟賞を受賞するも、タル・ベーラ監督は“これが最後の作品”と公言した。ジム・ジャームッシュ、ガス・ヴァン・サント、ブラッド・ピットら世界の映画人が熱狂し、名だたる映画祭でゆるぎない地位を築いてきたハンガリーの鬼才の最終章が、幕をあける。

徹底的に排除された台詞、極限まで削ぎ落とされた演出、そこには生と死に向き合う静謐な世界が広がる。ダイナミックな長回しと、フィルムが持つ物質としての美しさに陶酔し、芸術の神髄に触れる至上の2時間34分。完璧な技巧と独自の美学で構築された唯一無二のタル・ベーラ哲学を貫き通し、“映画の極点”(The Observer)とまで言わしめた最高傑作。あなたは映画の歴史の目撃者になる。

【特別興行・一本立て】サタンタンゴ 4Kデジタル・レストア版
【Special screening】Sátántangó

タル・ベーラ監督作品/1994年/ハンガリー・ドイツ・スイス/438分(途中休憩2回あり)/DCP/ヨーロピアンビスタ

■監督・脚本 タル・ベーラ
■原作・脚本 クラスナホルカイ・ラースロー
■撮影 メドヴィジ・ガーボル
■編集・共同監督 フラニツキー・アーグネシュ
■音楽 ヴィーグ・ミハーイ

■出演 ヴィーグ・ミハーイ/ホルヴァート・プチ/デルジ・ヤーノシュ/セーケイ・B・ミクローシュ/ボーク・エリカ/ペーター・ベルリング

■1994年ベルリン国際映画祭フォーラム部門カリガリ賞受賞

【2020年2月8日から2月14日まで上映】

救世主がやって来る。悪魔のささやきが聞こえる。

ハンガリー、ある田舎町。シュミットはクラーネルと組んで村人達の貯金を持ち逃げする計画を女房に話して聞かせる。盗み聞きしていたフタキは自分も話に乗ることを思いついた。その時、家のドアを叩く音がして、やって来た女は信じがたいことを言う。「1年半前に死んだはずのイリミアーシュが帰って来た」、と。

イリミアーシュが帰って来ると聞いた村人たちは、酒場で喧々諤々の議論を始めるが、いつの間にか酒宴になって、夜は更けていく。翌日、イリミアーシュが村に帰って来る。彼は村にとって救世主なのか? それとも?

驚異的な長回しで描かれる、美しき映像黙示録。

『ニーチェの馬』(2011)を最後に、56歳という若さで映画監督からの引退を表明したタル・ベーラ監督。彼が4年の歳月をかけて完成させた伝説の傑作『サタンタンゴ』(1994)が、製作から25年を経て、4Kデジタル・レストア版で蘇る。

2015年に世界的権威のある英文学賞ブッカー国際賞を受賞したクラスナホルカイ・ラースローの同名小説が原作。タンゴのステップ<6歩前に、6歩後へ>に呼応した12章で構成されている。前半の6章は複数の視点で一日の出来事が描かれ、後半の6章はイリミアーシュが戻ってきてからを描いている。

準備に9年、2年におよぶ撮影、完成まで4年かけた『サタンタンゴ』は7時間18分という長さながら、全編約150カットという驚異的な長回しの映像で構成されている。 デビュー以来一貫して人間を、そして世界を凝視し見つめ続けてきたタル・ベーラ。本作でも秩序に縛られ、自由を求め、幻想を抱き、未来を信じ、世界に幻滅し、それでも歩き続ける人間の根源的な姿を詩的かつ鮮烈に描いている。

フルスタリョフ、車を!
Khrustalyov, My Car!

アレクセイ・ゲルマン監督作品/1998年/フランス・ロシア/142分/35㎜/スタンダード/SR

■監督 アレクセイ・ゲルマン
■脚本 アレクセイ・ゲルマン/スヴェトラーナ・カルマリータ
■撮影 ウラジーミル・イリネ
■編集 イリーナ・ゴロホフスカヤ
■音楽 アンドレイ・ペトロフ

■出演 ユーリー・アレクセーヴィチ・ツリロ/N・ルスラノヴァ/M・デメンティエフ/Y・ヤルヴェット

■1998年カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品

【2020年2月8日から2月14日まで上映】

鬼才アレクセイ・ゲルマンがみなぎるパワーで描くロシア近代史の暗闇

主人公はモスクワの病院の脳外科医にして赤軍の将軍、ユーリー・クレンスキー。大富豪の長でもある彼は、病院と、家庭と、愛人のところを行き来する日々を送っている。決してアルコールを手放すことはない。

時は1935年、反ユダヤ主義の色濃い時代、将軍はスターリンの指示のもとKGB(秘密警察)が企てたユダヤ人医師を迫害する計画に巻き込まれてしまうことになる。気配を察して彼は逃げようとするが、すぐに捕らえられ、強制収容所で拷問を受ける。ところが突然解放されて、スターリンの側近ベリヤに、ある要人を診ろと言われる・・・。

タイトルの「フルスタリョフ、車を!」というのは、ソビエトの独裁者スターリンが息を引き取る直前、側近を通して命じたという言葉。映画は、そのスターリンの死の1953年に始まり、約10年後で終わる。

実に多くの人物が登場し、交わされる台詞も膨大な量で、それらには一見、脈絡がない。説明を廃して、ひたすら画面に映し出される「出来事」だけが描かれ、次々と転換していく。そのスピードは常人にはついてゆくのがやっとで、マーティン・スコセッ シ監督が「何が何だかわからないが、すごいパワーだ」と評したというほど。

「知性でロシアを理解することはできない。メジャーで測ることもできない」とゲルマン監督は語っている。

動くな、死ね、甦れ!
Freeze Die Come to Life

ヴィターリー・カネフスキー監督作品/1989年/ソビエト/105分/DCP/スタンダード

■監督・脚本 ヴィターリー・カネフスキー
■撮影 ウラジミール・ブリャリャコフ
■編集 ガリーナ・コルニローワ
■音楽 セルゲイ・パネヴィッチ

■出演 ディナーラ・ドルカーロワ/パーヴェル・ナザーロフ/エレーナ・ポポワ

■1990年カンヌ国際映画祭カメラ・ドール

【2020年2月8日から2月14日まで上映】

ヴィターリー・カネフスキー監督が自身の少年時代の記憶を映画化した衝撃作!

第二次大戦直後、雪に覆われたソビエトの極東にある炭鉱町スーチャン。収容所地帯と化したこの町では、窃盗や暴力が横行していた。そんな殺伐とした空気に満ちた町に生きる12歳の少年ワレルカ。純粋無垢だが不良ぶっている彼は、たびたび騒動を引き起こし、唯一の家族である母親への反発と相まって、悪戯をエスカレートさせていく。

そんなワレルカの前に、守護天使のように現れては、危機を救ってくれる幼なじみの少女ガリーヤ。 二人に芽生えた淡い想いは次第に呼応していくが、学校を退学になったワレルカが町から逃亡することで、彼らの運命はとんでもない方向へ転じていく…。

1990年、カンヌ国際映画祭はひとつの作品によって驚きに包まれた。その作品は、54歳の新人監督ヴィターリー・カネフスキーが発表した『動くな、死ね、甦れ!』。ストリートチルドレン出身で、8年間無実の罪で投獄されていた経歴を持つ彼は、それまで全くの無名であったが、この一本で世界中から賞賛される存在となる。

物語の舞台となる旧ソ連の炭鉱町・スーチャンは、カネフスキーが少年時代を過ごした町。彼は、ストリートチルドレンのパーヴェル・ナザーロフを主演に抜擢し、どこまでも純粋で鋭敏な自身の少年時代の記憶を、鮮烈にスクリーンに甦らせた。また主人公を見守り危機から救う少女役に、現在も女優として活躍しているディナーラ・ドルカーロワを起用。純粋無垢な悪童と守護天使のような少女が織りなす“映画の奇跡”は、多くの人々の心を揺さぶり、伝説的傑作として語り継がれている。