早稲田松竹クラシックスvol.158/結婚にまつわるいくつかの風景 + 特別レイトショー『マリッジ・ストーリー』

ルー

同性婚や夫婦別姓を巡る議論など、現在結婚という制度の形が世界的に変わり始めています。もちろん、誰しもが婚姻制度に必ずとらわれるものではありませんが、それでもこの世界で全く意識せずに生きることは難しいものですし、だからこそずっと議論の対象になっているのだと思います。

今回特集する作品それぞれで描かれる「結婚」「家族」の形は、私たち誰の人生でもそうであるように、観る人によってハッピーエンドにもアンハッピーエンドにも受け取れる、一筋縄ではいかない深みを湛えています。だからこそ今までも、そしてこれからも私たちの人生に寄り添ってくれる作品であり続けるのです。

※各作品のレビューもスタッフ・ルーが書きました↓↓

卒業 4Kデジタル修復版
The Graduate

開映時間 ※上映は終了しました
マイク・ニコルズ監督作品/1967年/アメリカ/107分/DCP/シネスコ

■監督 マイク・ニコルズ
■原作 チャールズ・ウェッブ
■脚本 バック・ヘンリー/カルダー・ウィリンガム
■撮影 ロバート・サーティース
■音楽 ポール・サイモン/デイヴ・グルーシン

■出演 ダスティン・ホフマン/アン・バンクロフト/キャサリン・ロス/マーレイ・ハミルトン/ウィリアム・ダニエルズ/エリザベス・ウィルソン

■1967年アカデミー賞監督賞受賞、作品賞ほか6部門ノミネート/ゴールデン・グローブ賞(コメディ/ミュージカル)作品賞・女優賞(コメディ/ミュージカル)・監督賞・有望若手男優賞・有望若手女優賞受賞 ほか多数受賞・ノミネート

©1967 STUDIOCANAL. All Rights reserved.

サイモン&ガーファンクルの曲と結婚式のラストシーンが記憶に残る青春映画の金字塔

大学を優秀な成績で卒業したベンジャミンは、将来有望ながら悶々としていた。そんな虚無感から、父の共同経営者の妻、ロビンソン夫人に誘われるまま逢瀬を重ねる。一方、彼を心配した両親に勧められ、婦人の娘エレインと嫌々デートをすることになるが、純粋な彼女を本気で好きになってしまう――。

アメリカンニューシネマというムーブメントの嚆矢であり代表作とされる『卒業』ですが、実は同時代の映画と比べるとかなり例外的な作品です。同じくニューシネマに先駆をつけた『俺たちに明日はない』を筆頭に、ニューシネマのカップルたちは既存の体制にNOを突きつけるアンチヒーローゆえに、結婚という社会的制度にとらわれない関係を選ぶのがほとんどでした。だからこそ彼らの体現する自由は社会に受け入れられず、多くの場合破滅的なバッドエンドを迎えていました。一方、『卒業』は明確に主人公のベンとエレインが自ら望む形で結婚を目指す物語であり、その地に足がついた展開は下手をすると保守的にすら見えてしまいかねません。

しかし大人のつくったレールから外れて(卒業して)本当に自分たちふたりの足だけで現実を踏みしめて何十年間も歩きつづけることは、破滅的で無軌道な人生を送って燃え尽きるよりも実ははるかに困難で勇気がいることではないでしょうか。見事な演技を見せるダスティン・ホフマンやウイットに富んだ演出を披露した監督マイク・ニコルズ、あまりに美しいハーモニーを奏でるサイモン&ガーファンクルなどの才能が奇跡のよう結集した『卒業』は、抜群に面白い名作であるにとどまらず、他のアメリカンニューシネマより地に足がついているからこそ、私たちにより切実でヘビーな問いを突きつけてくる作品でもあると思うのです(美しいメロディのせいで聞きのがしてしまいがちですが、サイモン&ガーファンクルの歌う詩的な歌詞に込められたシリアスなメッセージも忘れてはいけません)。名高いクライマックスの後のベンとエレインのまなざしをぜひ見逃さないで下さい。(ルー)

クレイマー、クレイマー
Kramer vs. Kramer

開映時間 ※上映は終了しました
ロバート・ベントン 監督作品/1979年/アメリカ/105分/35㎜/ビスタ

■監督・脚本 ロバート・ベントン
■原作 エイベリー・コーマン
■撮影 ネストール・アルメンドロス
■編集 ジェリー・グリーンバーグ

■出演 ダスティン・ホフマン/メリル・ストリープ/ジャスティン・ヘンリー/ジェーン・アレクザンダー/ジョベス・ウィリアムズ

■1979年アカデミー賞作品賞・主演男優賞・助演女優賞・監督賞・脚色賞受賞、助演男優賞ほか3部門ノミネート/ゴールデン・グローブ賞作品賞(ドラマ)・男優賞(ドラマ)・助演女優賞・脚本賞受賞ほか多数受賞・ノミネート

©1979 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

パパもママもこれほどボクを愛しているのに・・・

結婚から8年目。仕事重視で家庭を顧みない会社員テッドに愛想を尽かし、妻のジョアンナは家出をしてしまう。突然の出来事にテッドは動揺しながらも、7つになる息子ビリーのために食事をつくり、学校への送り迎えもこなすことに。最初はぎくしゃくしていた父と子であったが、次第に理解しあっていくのであった。ところがそんなある日、ビリーがジャングルジムから転落して怪我を負ってしまう。さらにテッドは失業。追い討ちをかけるようにジョアンナがビリーの養育権を主張してきて――。

愛とは、結婚とは、親子とは――アカデミー賞を独占受賞した家族映画の傑作

『クレイマー、クレイマー』は原題「クレイマー vsクレイマー」が示す通り、親権を巡って夫と妻が戦わざるをえなくなる物語です。彼らの姿に夫役のダスティン・ホフマンが主演した12年前の『卒業』のカップルを重ね合わせることは難しいことではありません。親の世代に反発し、理想の結婚を目指して意気揚々と「卒業」したはずなのに、気づけば夫は会社に、妻は家事にかかりっきりという凡庸な家庭像に収まってしまっていた二人(『卒業』に「僕は普通になりたくない」というベン(ホフマン)の台詞があったことが思い出されます)。彼らにとって子どもは彼らの愛の結晶であると同時に、理想を夢見ていた時代の象徴なのだと思います(それは彼らにとっては60年代後半の自由を謳歌する若者文化が最高潮に達していた時代です)。子どもを完璧に失うことは、かつて自分たちが持っていた理想が完璧に無駄だったことを認めるのと同じだという想いがあるのだと思います。

しかし、離婚を通して形骸化していた結婚生活を直視するということは、親の強い反発を乗り越えてふたりで歩みだした時の強い愛情と理想に改めて濃密に向き合うということでもあると思います。それは、少なくとも彼らがかつて背を向けた、社会の規範に縛られ形だけとりつくろった(『卒業』の台詞を借りれば「プラスチック」な)家庭を続けていくより遥かに有意義なことではないでしょうか。本作はたしかに厳しいテーマを持っていますが、必死にあがいて解決を見つけ出そうとするカップルの過去も現在も肯定しようとする、ポジティヴなユーモアに全編が彩られています。『クレイマー、クレイマー』は『俺たちに明日はない』の脚本を手掛け、ニューシネマ世代の先頭に立っていたロバート・ベントン監督が、辛い現実の中で闘うニューシネマ世代に向けた応援歌であり、その真摯さが伝わるからこそ世代を超えた名作になったのです。(ルー)

小さな恋のメロディ
Melody

開映時間 ※上映は終了しました
ワリス・フセイン監督作品/1971年/アメリカ/106分/DCP/PG12/ビスタ

■監督 ワリス・フセイン
■脚本 アラン・パーカー
■撮影 ピーター・サシツキー
■音楽 ビー・ジーズ/クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤング

■出演 マーク・レスター/トレイシー・ハイド/ジャック・ワイルド/シーラ・スティーフェル

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ビー・ジーズの曲とともに日本で一大ブームを巻き起こした、少年少女のラブストーリー

ロンドンのパブリックスクールに通う、引っ込み思案のダニエルとやんちゃなトム。2人は大の仲良しで、毎日一緒に遊んでいた。ある日の放課後、女子生徒のバレエの練習を覗き見したダニエルは、メロディという名の美少女に心奪われる。その日から、ダニエルはメロディのことで頭がいっぱいになり―。

11歳の男の子と女の子が結婚を宣言する『小さな恋のメロディ』は、主演のマーク・レスターとトレイシー・ハイドのかわいさも相まって、爽やかな恋愛映画の金字塔として語り継がれる作品です(特にトレイシー・ハイドの日本での人気は凄まじく、実質的にこれ一本しか出演作がないのに映画雑誌の読者人気女優投票では何年にも渡ってトップを保持。大スター扱いで日本に招待されるなど、本人ですら当惑を隠しきれないほど圧倒的な支持を受けていました)。しかし本作を「かわいらしい」と感じてしまうことは、逆に言えば彼らの結婚と結婚生活があらかじめ失敗することを前提に見ていることを意味しないでしょうか。50年以上連れ添った夫婦の墓を見て結婚を決意する彼らにとって、結婚とは「ずっと一緒にいたい」という宣言でしかないのですが、映画の中の大人たちはそれを全力で阻止しようとします。大人たちの姿はとても滑稽に見えるのですが、それはメロディたちの純粋な計画が遅かれ早かれ成り立たなくなることを私たちすれた大人は既に知ってしまっており、彼岸のおとぎ話として安心して観てしまっているからだと思うのです。

『小さな恋のメロディ』はある意味観る者の大人度を測るリトマス試験紙なのです。ティーンエージャーにとって本作は運命の人と結ばれて学校や家庭から自由になりたいという願望をかなえてくれる等身大の青春映画ですが、青春を過ぎ去ってしまった大人にとってはかわいらしいファンタジーとして楽しむにとどまってしまうのです。

私を含む20代以上の大人が後者の見方をしてしまうのは仕方ないことかもしれません。でもどちらの映画体験の方がより濃く、切実で感動的なのかは言うまでもありません。鑑賞の際はぜひティーンエージャーだった頃の気持ちに出来るだけ無心に立ち返るようにしてください。きっとメロディたちのことがもっと愛おしく思えるはずです。(ルー)

【特別レイトショー】マリッジ・ストーリー
【Late Show】Marriage Story

開映時間 ※上映は終了しました
ノア・バームバック 監督作品/2019年/アメリカ/136分/DCP/ビスタ

■監督・脚本 ノア・バームバック
■撮影 ロビー・ライアン
■編集 ジェニファー・レイム
■音楽 ランディ・ニューマン

■出演 スカーレット・ヨハンソン/アダム・ドライバー/ローラ・ダーン/アラン・アルダ/レイ・リオッタ

■第77回ゴールデン・グローブ賞(ドラマ)作品賞・主演男優賞・主演女優賞・助演女優賞・脚本賞・作曲賞

本年度ゴールデングローブ賞最多ノミネート! ノア・バームバック監督が自身の体験をもとに描いた夫婦の物語。

女優のニコールと夫で舞台演出家・劇作家のチャーリーは結婚生活がうまくいかなくなり、円満な協議離婚を望む。しかし、それまで溜め込んでいた積年の怒りがあらわになり、弁護士をたてて争うことになってしまう―。

ノア・バームバックの最新作『マリッジ・ストーリー』は、バームバック自身の離婚経験を基にしたヒューマンドラマです。『クレイマー、クレイマー』と共通する主題を扱っていますが、舞台監督と女優のカップルを主人公に据えた本作は、平凡な家庭の亀裂を扱った『クレイマー、クレイマー』と若干趣を異にします。彼らは公私共に濃いパートナーシップで結ばれていたため、その危機がアーティストである自身の価値すら揺るがせるものになってしまうのです。だからこそ、二人は互いの才能を尊重しあいながら、最良の落としどころを見つけるために、やや滑稽にも思える四苦八苦な努力を重ねていくのです。それは相手を想い合い一度は結婚し夫婦を続けていたからこそ、最後までやり通せる努力なのだと思います。

結婚を通したからこそ築ける新しい関係性をとことんやさしく見つめた本作は、だからこそ離婚の物語にも関わらず「結婚物語」が相応しいのであり、普遍的なテーマを扱いながら新鮮な切り口を提示するバームバックの知性とセンスが光ります。バームバックの期待に応えた、スカーレット・ヨハンセンとアダム・ドライバーの渾身の演技も本当に素晴らしい。新時代に相応しい、新たなる名作の誕生です。(ルー)