【2023/4/1(土)~4/7(金)】『なまいきシャルロット』『勾留』『ある秘密』『伴奏者』 // 特別レイトショー『TOKYO EYES』

ミ・ナミ

今週の早稲田松竹は、クロード・ミレール監督特集です。『なまいきシャルロット』『勾留』『伴奏者』『ある秘密』の4作品を、日替わりで上映しております。

不勉強にも初めて彼について調べてみたところ、映画に対し強烈な情熱を燃やしていたものの、ゴダールやトリュフォーといったヌーヴェル・ヴァーグ、ブレッソンといった綺羅星の如き映画作家に遅れての足取りだったようです。また、当時主流でもあった映画撮影の自由なスタイルからはやや逆行するような、抜かりのないシナリオや確たる演出など折り目正しい創作手法だったとも伝えられています。不遇では無いにしろ、恵まれたとは言い難いこうした彼の映画人生と作品とを引き比べてみたとき、社会や歴史といった大きく抗い難い流れと、そこになすすべのない存在への眼差しが垣間見える理由がよく理解できます。

ユダヤ人家族に起きた深刻な悲劇について、戦争を経験していない息子の立場から回想する『ある秘密』。ナチス占領下のパリという過酷な社会を背景に、嫉妬と羨望がない交ぜになったピアニストの感情と、恋人たちの密かなむつみ合いを描く『伴奏者』。ある背伸びした子供だけが持ちえる細やかな感情で世界を眺める『なまいきシャルロット』。凄惨な少女殺害事件以上に、登場人物たちの対話こそがサスペンスフルで人間存在の恐怖がにじみ出る会話劇『勾留』。

時にジャンル的でもあり、アート的でもあり得る豊かな作風ですが、通底して感じるのは大きな存在と小さな存在――社会と人間、天才と凡人、大人と子供――を置きながら、そしていつも辺縁と傍流の側に立つ作家なのではないでしょうか。それは彼自身、“ヌーヴェル・ヴァーグの正統な後継者”と呼ばれながらも先人ほどは華やかではない作家活動であったからではないかと、私は思います。そんなクロード・ミレールだけにある、優しさとも冷静さともつかない何か独特な温度を持つ眼差しが、多くのシネフィルを夢中にさせる所以なのではないでしょうか。

勾留
The Inquisitor

クロード・ミレール監督作品/1981年/フランス/84分/DCP/ヨーロピアンビスタ

■監督・脚本 クロード・ミレール
■脚本 ジャン・エルマン
■台詞 ミシェル・オーディアール
■撮影 ブルーノ・ニュイッテン

■出演 リノ・ヴァンチュラ、ミシェル・セロー、ロミー・シュナイダー、ギイ・マルシャン

■1982年セザール賞主演男優・編集・助演男優・脚本賞、1981年モントリオール世界映画祭最優秀脚本賞 受賞

©1981 – TF1 FILMS PRODUCTIONS – TF1 DROITS AUDIOVISUELS

【2023/4/1(土)~4/7(金)上映】

大晦日の夜、幼女連続レイプ殺人の容疑をかけられた公証人。決定的な証拠が見つからない中、彼が犯人だと信じて疑わない刑事は尋問を続けるが、物語は思わぬ方向へ展開していき…。

リノ・ヴァンチュラ、ミシェル・セロー、ロミー・シュナイダーら、名優たちが織りなす緊迫感あふれるサスペンス。セローはセザール賞主演男優賞を受賞。2000年に『アンダー・サスピション』としてリメイク。

なまいきシャルロット
L'effrontée

クロード・ミレール監督作品/1985年/フランス/92分/DCP/ヨーロピアンビスタ

■監督・脚本 クロード・ミレール
■脚本 リュック・ベロー/ベルナール・ストラ/アニー・ミレール
■撮影 ドミニク・シャピュイ

■出演 シャルロット・ゲンズブール/ジャン=クロード・ブリアリ/ベルナデット・ラフォン

■1986年セザール賞助演女優賞・新人女優賞、1985年ルイ・デリック賞 受賞

© TF1 FILMS PRODUCTION ‒ MONTHYON FILMS ‒ FRANCE 2 CINEMA

【2023/4/1(土)~4/7(金)上映】

「この町を出て自由になりたい。」反抗期真っ只中の少女は、町にやってきた同じ歳の天才ピアニストと出会い、外の世界を夢見る。

カーソン・マッカラーズの小説「結婚式のメンバー」を元に、多感で繊細な少女のひと夏を描いた思春期映画の傑作。本作でデビューしたシャルロット・ゲンズブールは、史上最年少の14歳でセザール賞新人女優賞を受賞。思春期特有のコンプレックスや苛立ちを抱える少女を、瑞々しく好演した。

伴奏者
The Accompanist

クロード・ミレール監督作品/1992年/フランス/110分/DCP/ビスタ

■監督・脚本 クロード・ミレール
■脚本 リュック・ベロー
■撮影 イヴ・アレグロ

■出演 ロマーヌ・ボーランジェ/リシャール・ボーランジェ/エレナ・サフォノヴァ/サミュエル・ラバルト/ベルナール・ヴェルレー

■1993年イスタンブール国際映画祭国際批評家連盟(FIPRESCI)賞・審査員特別賞/1993年ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞受賞

©1992 STUDIO CANAL – France 3 Cinéma

【2023/4/1(土)~4/7(金)上映】

第二次大戦時、ドイツ占領下のパリで世界的オペラ歌手の伴奏者となった貧しい20歳のピアニスト。彼女はオペラ歌手への羨望と嫉妬を胸に秘めながらも仕事に励むが、時代は彼女たちに人生の選択を迫り…。

大人になる寸前の女性の複雑な心の揺らぎを、大きな時代のうねりの中に描いた愛憎劇。原作はニーナ・ベルベローワの同名小説。

ある秘密
A Secret

クロード・ミレール監督作品/2007年/フランス/107分/DCP/ビスタ

■監督・脚本 クロード・ミレール
■脚本 ナタリー・カルテル
■撮影 ジェラール・ド・バティスタ

■出演 セシル・ドゥ・フランス/リュディヴィーヌ・サニエ/マチュー・アマルリック

■2008年セザール賞助演女優賞/2007年モントリオール世界映画祭最優秀作品賞/2008年ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞受賞

©UGC YM – FRANCE 3 CINEMA – INTEGRAL FILM

【2023/4/1(土)~4/7(金)上映】

あるユダヤ人家族。父親の愛情を感じられない病弱な少年は、両親が何か隠し事をしていると疑っている。第二次大戦を生き抜いた両親の秘密が、過去と現在を往来して紐解かれていく。

フィリップ・グランベールの自伝的小説が原作の、ミレール晩年期の最高傑作と評される重厚な人間ドラマ。セシル・ドゥ・フランス、リュディヴィーヌ・サニエ、マチュー・アマルリックら当時の若手実力派が顔を揃えた。

【レイトショー】 TOKYO EYES
【Late Show】TOKYO EYES

開映時間 【4/1(土)・3(月)・5(水)・7(金)】20:20 (~終映22:00) 
ジャン=ピエール・リモザン監督作品/1998年/日本・フランス/98分/35mm/ヨーロピアンビスタ/SR

■監督 ジャン=ピエール・リモザン
■脚本 ジャン=ピエール・リモザン/サンチャゴ・アミゴレーナ ほか
■日本語台詞 坂元裕二
■撮影 ジャン=マルク・ファーブル
■編集 ダニエル・アヌダン
■音楽 グザヴィエ・ジャモー

■98年カンヌ国際映画祭ある視点部門正式招待作品

■出演 吉川ひなの/武田真治/杉本哲太/水島かおり/大杉漣/ビートたけし

【2023/4/1(土)~4/7(金)上映】

仮想都市・TOKYOを浮遊する危険な視線。

TOKYOの渋谷、あるいは下北沢。焦点の合っていない分厚い眼鏡をかけているので“藪睨み”とあだ名された男の連続発砲事件が、人々の不安をかきたてる。理由なき犯罪ゆえの恐ろしさが次第に増幅するなかで、犯人であるKと、それを偶然知ってしまった少女Hinanoとの奇妙な出会い。全ての事象が眼に入り過ぎてしまうKの苦悩を、やがてHinanoは溶かしていくのだった…。

J=P・リモザンによる吉川ひなの。あるいは武田真治。1998年、衝撃のカンヌ映画祭デビュー!

映像詩人の異名をとる『天使の接吻』のジャン=ピエール・リモザンが、“視線についての寓話”というテーマでTOKYOを見事に撮り上げた長編第4作。主演に武田真治と吉川ひなのを迎え、98年の渋谷や下北沢を舞台に、謎の発砲事件を続ける青年と彼にひかれる少女のつかの間の関係を鮮烈なタッチで綴る。ヤクザ役でビートたけしが特別出演。ユーロスペースが製作に入り、日本とフランスの合作映画の先駆けとなった。