【2023/3/18(土)~3/24(金)】『セールスマン』『グレイ・ガーデンズ』// 特別モーニング&レイトショー『インディアナ州モンロヴィア』

すみちゃん

ダイレクトシネマと呼ばれる手法で作られた『セールスマン』と『グレイ・ガーデンズ』。1960年代にアメリカ、カナダを中心に勃興したダイレクトシネマの背景には、映像と音声がシンクロする同時録音がスタジオ以外でも可能になった技術革新があった。監督であるメイズルス兄弟の兄、アルバートがカメラを持ち、弟のデヴィッドが録音機材を持つ。この身軽な体制で被写体に対して直接的に、そう、ダイレクトに何か動きをお願いすることなくただありのままを撮影することによって、意図していない人間の感情の波や時代の空気が映し出される。生活を営むことの生々しさと滑稽さ、そしてわたしが生きているこの世界での出来事であるという現実感をもって観ることができる。

『セールスマン』ではアナグマ、ギッパー、ウサギ、ブルといった通称名を持つセールスマン達が豪華な聖書を売りに家を訪問していく。信仰深い人々は美しい絵画や写真がふんだんに盛り込まれている聖書に魅了されながらも、生活は苦しく、購入できない家庭もある。この物質的な欲望と、宗教とビジネスが組み合わさる面白さ、言葉巧みに訪問販売をする彼らのキャラクターとお客のリアルなやり取りに目が離せない! わたしも観ていると豪華な聖書が欲しくなってしまった(でもお金がないね!)。彼らの何冊売れたかという会話や会議の様子だけではなく、「俺が金持ちだったら…」と歌うアナグマの軽やかな歌声とは裏腹に、上手くいかないセールス状況をみせる、シャーロット・ズワーリン(メイズルス兄弟とともに監督編集を行っている)の巧みさが光っている。膨大な撮影素材の中でセールスマンの哀愁を拾い上げて繋いでいるところも、この映画の見どころだ。

『グレイ・ガーデンズ』ではケネディ大統領の妻ジャクリーヌの叔母といとこであるビッグ&リトル・イディの親子が時間の経過を感じさせるボロボロになったお家で、アライグマや猫と、まるで自然と共に生きているように生活している。彼女たちの会話は常に過去にさかのぼり、リトル・イディが映画でも話している通り、このお家では“過去と今を区別するのが大変”である。メイズルス兄弟は、気ままに歌い、日光浴をする2人のイディの魅力をそのまま撮影し、同じ時間、同じ場所で過ごしているはずの2人の出来ごとのとらえ方の違いを見せている。

実際にどのような生活をしているのか知り得ない個人的な視点を、ダイレクトシネマの手法によってわたしたちは知ることになる。まるでわたしもセールスマンの仲間かイディたちの友だちにでもなったかのような錯覚に陥り、マルチバースではないけれど、この社会にある様々な人生のレイヤーを感じさせてくれるから、彼らの作品を観ることがやめられない。もっともっとあらゆる世界のまなざしを知りたいというわたしの欲望に直結していく。

モーニング&レイトショーで上映する『インディアナ州モンロヴィア』は、まさにダイレクトシネマの流れを現在でも牽引するフレデリック・ワイズマン監督の作品。こちらもメイズルス兄弟の作品同様アメリカが舞台ではあるが、まったく別の視座を提示してくれるだろう。

【モーニング&レイトショー】インディアナ州モンロヴィア
【Morning & Late Show】Monrovia, Indiana

フレデリック・ワイズマン監督作品/2018年/アメリカ/143分/Blu-ray/ビスタ

■監督 フレデリック・ワイズマン

■2019年山形国際ドキュメンタリー映画祭審査員特別賞受賞

提供:山形国際ドキュメンタリー映画祭

★本作品はモーニングショー&レイトショー上映です。
☟入場料金
大人:1300円/各種割引あり
★チケットは、朝の開場時刻より受付にて販売いたします(当日券のみ)。

【2023/3/18(土)~3/24(金)上映】

2016年のアメリカ大統領選の結果を受けて、フレデリック・ワイズマンはインディアナ州の農業の町モンロヴィアを題材に選んだ。牧歌的な農場の風景からはじまって、フリーメーソンのロッジからライオンズクラブ、高校、教会、銃砲店などを細やかに観察しながら、ワイズマンは昔ながらの価値観、生活様式を護り続ける“善きアメリカ人”の姿を浮かび上がらせる。町で起きた出来事、会合、催事を軽やかにスケッチすることで、町という社会の全体像が見えてくる。アメリカを左右するほどの影響力を持つ人々の実像がここにはある。

グレイ・ガーデンズ
Grey Gardens

アルバート・メイズルス | デヴィッド・メイズルス | エレン・ホド | マフィー・メイヤー監督作品/1975年/アメリカ/95分/DCP/スタンダード

■監督 アルバート・メイズルス/デヴィッド・メイズルス/エレン・ホド/マフィー・メイヤー
■製作 アルバート・メイズルス/デヴィッド・メイズルス
 
■出演 イーディス・ユーイング・ブーヴィエ・ビール/イーディス・ブーヴィエ・ビール

【2023/3/18(土)~3/24(金)上映】

世界的クリエイターたちに影響を与え続けているアメリカ・ドキュメンタリー映画史上の最重要作!

ケネディ大統領の妻ジャクリーヌの叔母といとこであるビッグ&リトル・イディの親子は、ボロボロの屋敷で二人暮らし。ともにシンガーやモデルとしてショービジネスの世界を目指した過去をもつ二人は、喧嘩をしたり、ラジオから流れてくる曲に合わせて歌ったり、ベランダで日光浴をしたり、猫に餌をやったりして暮らしている。とくに娘のリトル・イディは、監督のメイズルス兄弟にダンスを披露したり、二人を誘惑してみたり、とにかく活発に話して動きまわる。そしてなによりも、頭にスカーフを巻いたりスカートを上下逆さまに着たりするなど、著名デザイナーなどにも影響を与えることになる奇抜で個性的なファッションが魅力的。『グレイ・ガーデンズ』では、母と娘の一筋縄ではいかない異様な関係が鮮烈に描き出されている。

マーク・ジェイコブスやアイザック・ミズラヒなどの名だたるファッションデザイナーや、Rookieブログや『Rookie Yearbook』などで知られるタヴィ・ゲヴィンソンがお気に入りの一本として挙げている、カルト的人気を誇る伝説的傑作。2009年には、ジェシカ・ラング&ドリュー・バリモア主演でテレビ映画化もされ、さらにミュージカルにもなった、まさに型破りなドキュメンタリー映画!

セールスマン
Salesman

アルバート・メイズルス | デヴィッド・メイズルス | シャーロット・ズワーリン監督作品/1969年/アメリカ/91分/DCP/スタンダード

■監督 アルバート・メイズルス/デヴィッド・メイズルス/シャーロット・ズワーリン
■撮影 アルバート・メイズルス
■編集 デヴィッド・メイズルス/シャーロット・ズワーリン

© MAYSLES FILMS, INC

【2023/3/18(土)~3/24(金)上映】

ミッドセンチュリーの倦怠感を鮮烈に映した、アメリカン・ドキュメンタリーの金字塔!

1960年代終わりのアメリカ。ポール・ブレナン(通称アナグマ)とその仲間たちは、金色に輝く豪華版「聖書」(現在の物価にして約350ドル)を売るミッドアメリカン・バイブル・カンパニーのセールスマンだ。神と会社のため、今日も聖書を売り歩く。教会から紹介された悩める大衆をターゲットに訪問販売の旅へと繰り出す。孤独な未亡人、移民、生活が逼迫している家庭など、彼らは、さまざまな客に「売り込み」をする。ジョークを交えた おしゃベり、おだてたり強くでたりの駆け引き。安モーテル、煙いダイナー、郊外のリビング...。雪深いボストンから湿度の高いフロリダまで旅をする4人のセールスマンの姿を追い、アメリカの夢と幻滅を鮮烈に描きだす。

ドキュメンタリー映画の潮流“ダイレクトシネマ”を牽引した兄弟アルバート&デヴィッド・メイズルスは、『グレイ・ガーデンズ』『ローリング・ストーンズ・イン・ギミー・シェルター』など数多くの名作を残し、映画史にその名を刻んだ。アルバートは撮影監督としてオムニバス映画『パリところどころ』のジャン=リュック・ゴダール監督篇に参加。ゴダールは彼を「アメリカ最高のカメラマン」と評した。そんなメイズルス兄弟の代表作である本作は、独自の観察スタイルでノンフィクションの世界に革命を起こした。アメリカの価値観に深く根ざした消費主義について映画史上最も深く洞察した画期的なドキュメンタリーが、製作から半世紀以上の時を経てついに日本公開となった。