【2022/10/22(土)~10/28(金)】『さがす』『夜を走る』// モーニングショー『教誨師』// レイトショー『岬の兄妹』 

ぽっけ

今週の早稲田松竹は佐向大監督の『夜を走る』と片山慎三監督の『さがす』を中心に、それぞれの監督の過去作品『教誨師』と『岬の兄妹』をモーニングショーとレイトショーで上映します。

郊外のスクラップ工場で退屈ながらも平穏な毎日を過ごしていた秋本。同僚の谷口に「休日に何をしてる」と聞かれても「何も…」と答える彼は、上司に怒鳴りつけられながらも我慢しながらこの生活を維持していた。しかし、ある日工場を訪れた女性との飲み会の後から秋本は今まで通りには暮らすことができなくなってしまう。

西成のスーパーマーケットで万引きをして娘の楓を呼び出された原田智は、お詫びに娘に買い取ってもらったカップラーメンを啜りながら、懸賞金300万円の指名手配犯を電車で目撃したと話す。それから数日の間に失踪してしまった父を、もしかすると事件に巻き込まれたのではないかと楓はさがしはじめる。

何か事件が起きたり、誰かが巻き込まれたりしたときに、まるでそれまでの平穏な生活が一変してしまったように見える。しかしこの2作品が不思議なのは、私たちがそういったニュースで知るような、いわゆる犯罪者や被害者に見つけることができるはずの決定的な「異常性」の印を見出すことができないことだ。「暮らすことができなくなる」「父をさがしはじめる」と前述したが、私たちがこの映画を見ながら直面するのは、それ以前から「暮らすことができない」「さがしていた」彼らをとりまく日常そのものだ。

失踪した父を探す楓は物語の冒頭から夜の西成の町を必死で走り回って父のもとへと向かう。彼女にとって失踪前と失踪後の境目は極めて曖昧だ。もしかしたら(これまでのように)平気な顔をして現れるかもしれない父をさがしながら、楓はむしろ母が亡くなってしまってからずっと何かを隠し続ける父の後ろ姿を見ていたのではないか。

秋本がこれまでのようにいられなくなったのは、果たして異常な事態が起こったからだろうか。むしろそれが起きてからも秋本の遠慮がちに何かに耐えようとする姿勢はなかなか変わることがない。むしろ明らかになったのは、「これまで通り」とは、彼がどんな状況に置かれても理不尽さや違和感に付き合い続けてきたことだった。

普段の生活からはみ出して、嘘で塗り固められた日常と、異常なことがまかり通っている出鱈目で綻びだらけの社会を目にする彼らは、この異常性と日常性の耐え難い平行線を結びあわせることができるだろうか。顛末であると同時に何かの発端であるような、事件であることと同時に訴えでもあるような、不穏な予感が立ち込めて息が詰まるような現代日本社会に落とされた爆弾のような2作品。ぜひお見逃しなく。

夜を走る
Yoru wo hashiru

佐向大監督作品/2021年/日本/125分/DCP/シネスコ

■監督・脚本 佐向大
■エグゼクティブプロデューサー 大岩良江/李三鬼/高野裕二/松本光司/佐向大
■撮影 渡邉寿岳
■編集 脇本一美
■音楽 のびたけお

■出演 足立智充/玉置玲央/菜葉菜/高橋努/玉井らん/坂巻有紗/山本ロザ/川瀬陽太/宇野祥平/松重豊

©『夜を走る』製作委員会
©Yuki Hori

【2022年10月22日から10月28日まで上映】

<罪>を背負ったふたりの男が、夜のロードサイドを彷徨する──。果たして彼らに、<夜明け>はやってくるのだろうか。

郊外のスクラップ工場で働くふたりの男。ひとりは40 歳を過ぎて独身、不器用な性格が災いして嫌味な上司から目の敵にされている秋本。ひとりは妻子との暮らしに飽き足らず、気ままに楽しみながら要領よく世の中を渡ってきた谷口。退屈な、それでいて平穏な毎日を過ごしてきたふたり。しかし、ある夜の出来事をきっかけに、彼らの運命は大きく揺らぎ始める…。

構想9年。『教誨師』の佐向大が破格のヴィジョンで描く絶望と再生、その先の物語。

使いものにならなくなった部品はいとも簡単に交換され、何事もなかったようにぐるぐる廻り続ける社会。悪が悪を生み、嘘に嘘が塗り重なり、弱いものたちがさらに弱いものを叩く。この無情の世界をどう生きていったらいいのだろうか─そんな答えなき問いに真正面から立ち向かい、偏在する矛盾と対立を丸ごと呑み込みながら、それでも尚、救済の可能性、解放への道標を、規格外のスケールで探し求める映画が誕生した。

速度と興奮に満ちたサスペンス、一寸先は予想もつかぬ怒涛の展開、そのあいまに漲る切々たるリリシズムと無骨なユーモア─目眩にも似た驚きを与えながら、観る者を異次元の地平へと連れ去る恐るべき怪物的映画、それが『夜を走る』である。

監督は、大杉漣最後の主演作『教誨師』で高く評価された佐向大。構想9年、本来なら大杉初のプロデュース作となるはずだった作品を、練りに練られたオリジナル脚本で完全映画化。実力派俳優たちが集結し、渾身の演技を魅せる。

さがす
Missing

片山慎三監督作品/2022年/日本/123分/DCP/PG12/シネスコ

■監督・脚本 片山慎三
■共同脚本 小寺和久/高田亮
■プロデューサー 井手陽子/山野晃/原田耕治
■撮影 池田直矢
■編集 片岡葉寿紀
■音楽 高位妃楊子

■出演 佐藤二朗/伊東蒼/清水尋也/森田望智/石井正太朗/松岡依都美/成嶋瞳子/品川徹

©2022『さがす』製作委員会

【2022年10月22日から10月28日まで上映】

父はなぜ、消えたのか?

大阪の下町で平穏に暮らす原田智と中学生の娘・楓。「お父ちゃんな、指名手配中の連続殺人犯見たんや。捕まえたら300万もらえるで」。いつもの冗談だと思い、相手にしない楓。しかし、その翌朝、智は煙のように姿を消す。ひとり残された楓は孤独と不安を押し殺し、父をさがし始めるが、警察でも「大人の失踪は結末が決まっている」と相手にもされない。それでも必死に手掛かりを求めていくと、日雇い現場に父の名前があることを知る。「お父ちゃん!」だが、その声に振り向いたのはまったく知らない若い男だった。

失意に打ちひしがれる中、無造作に貼られた「連続殺人犯」の指名手配チラシを見る楓。そこには日雇い現場で振り向いた若い男の顔写真があった――。

見つけたくないものまで見えてくる。異才・片山慎三があなたに問う唯一無二の衝撃作。

『岬の兄妹』から3年、片山慎三の長篇2作目にして、商業デビュー作が完成した。大阪に住む片山監督の父親が、指名手配犯を見かけたという実体験から生まれた本作。前作に続くオリジナル脚本で、見る者の価値観を覆し、すべての予想を裏切るストーリーを生み出した。監督が自問自答を繰り返して作り上げた物語は、観客自身の心の奥底にひそむ苦悩や矛盾をあぶり出していく。

主演を務めるのは佐藤二朗。映画・テレビドラマ・演劇・バラエティ番組、さらには映画監督に至るまで、幅広い活躍を続ける彼が、監督からの熱望を受けオファーに応えた。消えた父をさがす娘・楓役には次世代を担う女優・伊東蒼、指名手配中の連続殺人犯・山内には清水尋也が抜擢された。

【特別モーニングショー】教誨師
【Morning show】The Chaplain

佐向大監督作品/2018年/日本/114分/DCP/ビスタ

■監督・脚本 佐向大
■エグゼクティブプロデューサー 大杉漣/狩野洋平/押田興将
■プロデューサー 松田ひろ子
■撮影 山田達也
■編集 脇本一美

■出演 大杉漣/玉置玲央/烏丸せつこ/五頭岳夫/小川登/古舘寛治/光石研 

■2018年日本映画プロフェッショナル大賞主演男優賞・ベスト10第5位

©「教誨師」members

★本作品はモーニングショー上映です。どなた様も一律1000円でご鑑賞いただけます。
★チケットは連日、開場時より受付にて販売いたします(当日券のみ)。

【2022年10月22日から10月24日まで上映】

なぜ、生きるのか──。“死”の側からとらえた強烈な“生”の物語

牧師の佐伯は、半年前に着任したばかりの教誨師。彼が面会するのは年齢、境遇、性格の異なる6 人の死刑囚。皆、我々と変わらない人間でありながら、どこかで道を誤ったり、ちょっとしたボタンの掛け違いによって取り返しのつかない過ちを犯した人々。他の受刑者と顔を合わせることなく、家族にも縁を切られ、独房で孤独な生活を送る彼らにとって、教誨師はよき理解者であり格好の話し相手。真剣に思いを吐露する者もいれば、くだらない話に終始したり、自らの罪を全く顧みない者もいる。

一方の佐伯は彼らに寄り添いながらも、自分の言葉が本当に届いているのか、そして死刑囚たちが心安らかに死ねるよう導くのは正しいことなのか苦悩する。その葛藤を通して佐伯もまた、はじめて忘れたい過去と対峙し、やがて自らの人生と向き合うことになる…。

大杉漣、最初のプロデュース作にして最後の主演作

世界各国で次々と廃止が決まる中、いまだ存続する我が国の死刑制度。この極めて特異なシステムの下で、ひたすら対話を繰り返す死刑囚とひとりの男。全編にわたり、ほぼ教誨室という限られた空間での会話劇ながら息つく暇もなく、時にユーモアを交えて展開される魂のぶつかり合い。次第に明らかとなるそれぞれの人生。そして浮き彫りとなる人間の本質。生きるとは何か。罪とは何か。底の知れない淵を覗き見てしまったような、骨太な人間ドラマが誕生した。

主演の佐伯役に、1980 年以来出演作は400 本を超え、日本映画界を代表する顔となった大杉漣。その長いフィルモグラフィーの中でも際立ってユニークな内容、さらには膨大なセリフ量故、「役者にケンカを売ってるのかと思った」と自ら評したオリジナル脚本をまさに全身全霊を捧げて体現、圧巻の存在感を見せる。本作は大杉にとって最後の主演作であり、また唯一のプロデュース作となった。監督、脚本は死刑に立ち会う刑務官を描いた『休暇』(07)や『アブラクサスの祭』(10)の脚本、『ランニング・オン・エンプティ』(09)の監督を務めた佐向大。

【特別レイトショー】岬の兄妹
【Late show】Siblings of the Cape

片山慎三監督作品/2018年/日本/89分/DCP/R15+/シネスコ

■監督・製作・プロデューサー・編集・脚本 片山慎三
■撮影 池田直矢/春木康輔
■音楽 高位妃楊子

■出演 松浦祐也/和田光沙/北山雅康/中村祐太郎/岩谷健司/時任亜弓/ナガセケイ/松澤匠/芹澤興人/風祭ゆき

©SHINZO KATAYAMA

★本作品はレイトショー上映です。どなた様も一律1000円でご覧になれます。
★チケットは、朝の開場時刻より受付にて販売いたします(当日券のみ)。

【2022年10月25日から10月28日まで上映】

障碍をもつ兄妹が犯罪に手を染めるとき、二つの人生が動きだす――

港町、仕事を干され生活に困った兄は、自閉症の妹が町の男に体を許し金銭を受け取っていたことを知る。罪の意識を持ちつつも、お互いの生活のため妹の売春の斡旋をし始める兄だったが、今まで理解のしようもなかった妹の本当の喜びや悲しみに触れ、戸惑う日々を送るのだった。そんな時、妹の心と体にも変化が起き始めていた…。

ポン・ジュノ監督の元で研鑚を積んだ片山慎三監督、衝撃の長編デビュー作!

監督はポン・ジュノ監督作や山下敦弘監督作に助監督として携わった片山慎三。長編デビューとなった本作では脚本と編集も自身で行い、一年間、季節ごとの撮影を繰り返し完成まで二年以上かけた、まさに心血を注いだ妥協なき骨太な作品を生み出した。兄を演じるのは、今や映画やドラマにひっぱりだこの名バイプレーヤー、松浦祐也。妹を演じるのは和田光沙。体当たりの演技で高崎映画賞の最優秀新進女優賞を受賞した。

ふたりぼっちになった障碍を持つ兄妹が、犯罪に手を染めたことから人生が動きだす。地方都市の暗部に切り込み、家族の本質を問う、心震わす衝撃作が誕生した。