【2022/8/6(土)~8/12(金)】『TITANE/チタン』『ポゼッサー』// 特別モーニングショー『ニトラム/NITRAM』

ジャック

今週は“ボディ・ホラーの継承者たち”と題してジュリア・デュクルノー監督作『TITANE/チタン』とブランドン・クローネンバーグ監督作『ポゼッサー』を上映します。

ボディ・ホラーと言えば、やはりデヴィッド・クローネンバーグ監督の作品のことを思い浮かべてしまいます。去年上映した『ザ・フライ』『クラッシュ』のように、彼の作品における肉体の変化は、事故のような偶然の出来事を介して、自らが恐怖する存在へと変容していく過程が描かれているように思います。しかし『TITANE/チタン』と『ポゼッサー』における肉体の変化は、何かに遭遇するというのではなく、すでに変化せざるを得ない環境に自らがいるというところから映画がスタートしています。

『TITANE/チタン』では交通事故により頭蓋骨にチタンプレートが埋め込まれたとはいえ、危険な衝動に駆られる主人公の動機は不明なままです。『ポゼッサー』では特殊なデバイスで他人の人格を乗っ取り、殺人を行っている女性工作員が、なぜこの仕事についているのかはやはりわかりません。どちらの作品も女性を主人公として、明らかなフィクションを描いているにもかかわらず、彼女らの肉体の変化には具体的で現実的なものを感じます。人間から怪物という抽象的な変化ではない、より人間的でより身近な変化がそこにはあるのではないでしょうか。

だからこそ、「自分が自分ではない、別の何かになってしまう」という肉体の変化を、他人を観察するような冷静な視線でなく、熱量を込めてとらえているように思います。それは今私たちが直面する問題に果敢にアプローチしているからではないでしょうか。『TITANE/チタン』と『ポゼッサー』という新たなボディ・ホラー。ぜひご覧頂ければと思います。

【特別モーニングショー】ニトラム/NITRAM
【Morning show】Nitram

ジャスティン・カーゼル監督作品/2021年/オーストラリア /112分/DCP/ビスタ

■監督 ジャスティン・カーゼル
■脚本 ショーン・グラント
■撮影 ジャーメイン・マクミッキング
■編集 ニック・フェントン
■音楽 ジェド・カーゼル

■出演 ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ/ジュディ・デイヴィス/ エッシー・デイヴィス/アンソニー・ラパリア

■2021年カンヌ国際映画祭主演男優賞受賞/2021年オーストラリア・アカデミー賞最多8部門受賞

★モーニングショーはどなた様も一律1000円でご鑑賞いただけます。
★チケットは連日、朝の開場時刻より受付にて販売いたします(当日券のみ)。
 

© 2021 Good Thing Productions Company Pty Ltd, Filmfest Limited

【2022年8月6日から8月12日まで上映】

僕は、僕以外になりたかった。

1990年代半ばのオーストラリア、タスマニア島。観光しか主な産業のない閉鎖的なコミュニティで、母と父と暮らす青年。小さなころから周囲になじめず孤立し、同級生からは名前を逆さ読みした「NITRAM(ニトラム)」という蔑称で呼ばれ、バカにされてきた。何ひとつうまくいかず、思い通りにならない人生を送る彼は、サーフボードを買うために始めた芝刈りの訪問営業の仕事で、ヘレンという女性と出会い、恋に落ちる。しかし、ヘレンとの関係は悲劇的な結末を迎えてしまう。そのことをきっかけに、彼の孤独感や怒りは増大し、精神は大きく狂っていく。

破格の映像美学と特異な緊張感で事件の<リアル>に切迫する、実録サスペンスの傑作。

1996年4月28日。タスマニア島、ポート・アーサーで無差別銃乱射事件が発生。死者35人、負傷者15人。当時28歳の単独犯の動機が不明瞭であることも拍車をかけ、新時代のテロリズムの恐怖に全世界が騒然となった。

国内では未だ議論の絶えないこの事件を「現代オーストラリア最高の映画作家」と称される俊英ジャスティン・カーゼルが初映画化。事件の〈真実〉に迫るため、映画は犯人の複雑なパーソナリティだけでなく、彼を取り巻く社会を多角的・重層的アングルからひとつずつ剥き出しにする。出来事に至るプロセスを緻密かつ繊細極まりない叙述で積み重ねてゆく、その真に倫理的な試みが高く評価され、豪アカデミー賞では主要8部門で最多受賞を果たした。

主人公を演じたのは、今ハリウッドで最も熱い視線を浴びる実力派スター、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ。内面に巣食う孤独と劣等感、屈折した男性性を痛々しいまでのナイーブな演技で表現。カンヌ国際映画祭では7分間のスタンディングオベーションの賛嘆で迎え入れられ、見事主演男優賞を受賞した。

TITANE/チタン
Titane

ジュリア・デュクルノー監督作品/2021年/フランス・ベルギー/108分/DCP/シネスコ/R15+

■監督・脚本 ジュリア・デュクルノー 
■製作 ジャン=クリストフ・レイモン
■撮影 ルーベン・インペンス
■編集 ジャン=クリストフ・ブージィ 
■音楽 ジム・ウィリアムズ

■出演 ヴァンサン・ランドン/アガト・ルセル/ギャランス・マリリエ/ライ・サラメ

■2021年カンヌ国際映画祭パルムドール受賞/2021年LA批評家協会賞助演男優賞受賞 ほか多数受賞・ノミネート

© KAZAK PRODUCTIONS – FRAKAS PRODUCTIONS – ARTE FRANCE CINEMA – VOO 2020

【2022年8月6日から8月12日まで上映】

壊して、生まれる。

幼い頃、交通事故により頭蓋骨にチタンプレートが埋め込まれたアレクシア。彼女はそれ以来<車>に対し異常な執着心を抱き、危険な衝動に駆られるようになる。自らの犯した罪により行き場を失った彼女はある日、消防士のヴァンサンと出会う。10年前に息子が行方不明となり、今は孤独に生きる彼に引き取られ、ふたりは奇妙な共同生活を始める。だが、彼女は自らの体にある重大な秘密を抱えていた──

カンヌ史上最も奇天烈にして、<最高賞>パルムドール受賞!

2018年『万引き家族』、2019年『パラサイト 半地下の家族』、2020年【開催中止】――そして再開した2021年、カンヌ国際映画祭が頂点に選んだのは、突然変異の如く現れた、まさに【怪物】。その衝撃にカンヌをどよめきで揺るがせた圧倒的怪作が遂に日本でもその全貌を明かす!監督は、鮮烈なるデビュー作『RAW ~少女のめざめ~』で、世界にその名を知らしめたジュリア・デュクルノー。長編2作目にしてカンヌの最高賞を奪取するという偉業を成し遂げた。

更にはその勢いはとどまることを知らず世界各国94ノミネート22受賞と映画祭・映画賞を席巻。本作を観たエドガー・ライト監督は「完全に独創的。脳がブッ飛んだ」と語り、更にポール・トーマス・アンダーソン監督も「警告する、心して見よ。身を任せて観た先に素晴らしい映画体験が待っていた」と混乱、驚愕を超えて大絶賛評を送った。

ポゼッサー
Possessor

ブランドン・クローネンバーグ監督作品/2020年/イギリス・カナダ/103分/DCP/ビスタ/R18+

■監督・脚本 ブランドン・クローネンバーグ
■撮影 カリム・ハッセン
■編集 マシュー・ハナム
■音楽 ジム・ウィリアムズ

■出演 アンドレア・ライズボロー/クリストファー・アボット/ジェニファー・ジェイソン・リー/ロシフ・サザーランド/タペンス・ミドルトン/ショーン・ビーン

■2020年シッチェス・カタロニア国際映画祭最優秀作品賞・最優秀監督賞受賞

©2019,RHOMBUS POSSESSOR INC,/ROOK FILMS POSSESSOR LTD. All Rights Reserved.

【2022年8月6日から8月12日まで上映】

殺意は潜伏し、時を待って噴出する

殺人を請け負う企業に勤務するベテラン暗殺者のタシャは上司の指令のもと、特殊なデバイスを使って標的に近しい人間の意識に入り込む。そして徐々に人格を乗っ取りターゲットを仕留めたあとは、ホストを自殺に追い込んで“離脱”する。この遠隔殺人システムはすべては速やかに完遂されていたが、あるミッションを機にタシャのなかの何かが狂い始める…。

恐るべきクローネンバーグ家の遺伝子が現代を嗤う、異常すぎる才能が花開くブランドン・クローネンバーグ最新作。

鬼才デヴィッド・クローネンバーグの遺伝子を受け継いだ息子ブランドン・クローネンバーグが、長編監督デビュー作『アンチヴァイラル』に続き、その狂気をより一層洗練させて放つ8年ぶりの第二作。第三者の「脳」にトランスフォーム、所有者<ポゼッサー>として「人格」を乗っ取った上で殺人を行う完全無欠の遠隔殺人システムを舞台に、女工作員と人格を乗っ取られた男との生死を賭けた攻防を冷徹で研ぎ澄まされた映像美で描き切る。

「刺殺シーンで刺す回数を1回でも減らしたら、作品が台無しになっていたと思う」と監督自身が語る本作は、イタリアン・ホラーの巨匠ダリオ・アルジェント『オペラ座/血の喝采』の技術面を参考にしたというだけあって、鮮血の描写はなんとも美しい。独自の世界観を具現化するにあたり、フィジカルな特殊効果にこだわり抜き、おさめられた映像はすべて実際に行われたもの。CGは一切使われていない。スタイリッシュとグロテスクが共存する美しきハーモニーが織りなすその映像表現は、唯一無二の領域に達した。