【2022/7/23(土)~7/29(金)】『偶然と想像』『PASSION』『不気味なものの肌に触れる』『永遠に君を愛す』

ミ・ナミ

濱口竜介作品の魅力は、“私たちに映画を発見させたこと”に尽きるのではないでしょうか。

と言っても、それはフランスのリュミエール兄弟によるそれとは全く異なった形であるように思います。ただならなさを感じさせる男女が交わす会話や、互いに触れ合わないように踊る奇妙な舞踏といった、人と人の間にある名状しがたい予感を作り上げることに成功している作品たちからは、今目に見えている瞬間や語られている出来事が映画なのではなく、そこからこぼれ落ちていくものこそが映画なのだと実感するのです。そして濱口監督は、そのこぼれ落ちていくものを丁寧にすくい上げていきます。

最新作『偶然と想像』のタイトルが明確に表しているように、私たちの日々は考えもつかないほどの思いがけなさにあふれています。その先にある余白を思うことの戸惑いもまた幸福なのだと、私は濱口監督の作品を観ると感じるのです。

今週の早稲田松竹は、そんな濱口竜介監督の『偶然と想像』『PASSION』『永遠に君を愛す』『不気味なものの肌に触れる』の4作品を上映いたします。感情の機微を映し出す抜群の手並みで日本のみならず世界における現代映画の旗手となった彼の珠玉の作品群を、ぜひお楽しみください。

PASSION
Passion

濱口竜介監督作品/2008年/日本/115分/DCP/ビスタ

■監督・脚本 濱口竜介
■撮影 湯澤祐一
■照明 佐々木靖之
■録音 草刈悠子
■編集 山本良子

■出演 河井青葉/岡本竜汰/占部房子/岡部尚/渋川清彦

©︎東京藝術大学大学院映像研究科

【2022年7月23日から7月29日まで上映】

結婚間近の果歩と智也を祝う席上、智也の過去の浮気が発覚し…。男女5人が揺れ動く一夜を描いた群像劇。渋川清彦、河井青葉、占部房子と、『偶然と想像』や濱口作品の常連になる俳優たちが結集している。第56回サン・セバスチャン国際映画祭、第9回東京フィルメックスへ出品され映画作家・濱口竜介が世界に発見されるきっかけとなった初期代表作。

永遠に君を愛す
I Love Thee for Good

濱口竜介監督作品/2009年/日本/58分/DCP/ビスタ

■監督 濱口竜介
■脚本 渡辺裕子
■撮影 青木穣
■照明 後閑健太
■録音 金地宏晃/上條慎太郎
■編集 山崎梓
■音楽 岡本英之

■出演 河井青葉/杉山彦々/岡部尚/菅野莉央/天光眞弓/小田豊

©2009 fictive

【2022年7月23日から7月29日まで上映】

結婚式当日を迎えた永子と誠一の1日を描く。永子には婚約者・誠一に言い出せない秘密があった。『PASSION』に出演した河井青葉と岡部尚が出演し、同作とは反転したような役柄を演じている。秘密と本音が明らかになっていくスリリングさを基調としつつ、突拍子もない展開に笑ってしまうような要素にも満ちた中編作品。

不気味なものの肌に触れる
Touching the Skin of Eeriness

濱口竜介監督作品/2013年/日本/54分/DCP/ビスタ

■監督 濱口竜介
■脚本 高橋知由
■撮影 佐々木靖之
■音響 黄永昌
■音楽 長嶌寛幸
■振付 砂連尾理

■出演 染谷将太/渋川清彦/石田法嗣/瀬戸夏実/村上淳/河井青葉/水越朝弓

©2013 Sunborn, fictive

【2022年7月23日から7月29日まで上映】

千尋は父を亡くして、腹違いの兄・斗吾が彼を引き取る。斗吾と彼の恋人・里美は千尋を暖かく迎えるが、千尋の孤独は消せない。千尋が夢中になるのは、同い年の直也とのダンスだ。しかし、無心に踊る彼らの街ではやがて不穏なできごとが起こりはじめる…。来るべき長編映画『FLOODS』のパイロット版でもある異色作。

偶然と想像
Wheel of Fortune and Fantasy

濱口竜介監督作品/2021年/日本/121分/DCP/PG12/ビスタ

■監督・脚本 濱口竜介
■プロデューサー 高田聡
■撮影 飯岡幸子
■助監督 高野徹/深田隆之
■整音 鈴木昭彦
■録音 城野直樹/黄永昌
■美術 布部雅人/徐賢先

■出演 古川琴音/中島歩/玄理/渋川清彦/森郁月/甲斐翔真/占部房子/河井青葉

■第71回ベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員グランプリ)/第22回東京フィルメックスオープニング作品観客賞受賞

©︎ 2021 NEOPA / Fictive

【2022年7月23日から7月29日まで上映】

偶然――それは、人生を大きく静かに揺り動かす

第一話 魔法(よりももっと不確か)
撮影帰りのタクシーの中、モデルの芽衣子は、仲の良いヘアメイクのつぐみから、彼女が最近会った気になる男性との惚気話を聞かされる。つぐみが先に下車したあと、ひとり車内に残った芽衣子が運転手に告げた行き先は──。

第二話 扉は開けたままで
作家で教授の瀬川は、出席日数の足りないゼミ生・佐々木の単位取得を認めず、佐々木の就職内定は取り消しに。逆恨みをした彼は、同級生の奈緒に色仕掛けの共謀をもちかけ、瀬川にスキャンダルを起こさせようとする。

第三話 もう一度
高校の同窓会に参加するため仙台へやってきた夏子は、仙台駅のエスカレーターであやとすれ違う。お互いを見返し、あわてて駆け寄る夏子とあや。20年ぶりの再会に興奮を隠しきれず話し込むふたりの関係性に、やがて想像し得なかった変化が訪れる。

濱口竜介、初の短編集。驚きと戸惑いの映画体験が、いま始まる――

第74回カンヌ国際映画祭で脚本賞など4冠、米アカデミー賞では国際長編映画賞を受賞した『ドライブ・マイ・カー』で、一躍世界が最も注目する監督となった濱口竜介。本作『偶然と想像』は、「偶然」をテーマに3つの物語が織りなされる初の、そして自身が「このスタイルをライフワークとしたい」と語る「短編集」。第71回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞した。

親友同士の他愛のない恋バナ、大学教授に教えを乞う生徒、20年ぶりに再会した女友達…軽快な物語の始まり、日常対話から一転、鳥肌が立つような緊張感とともに引き出される人間の本性、切り取られる人生の一瞬…小さな撮影体制でリハーサル・撮影時間を充分に確保し、俳優たちの繊細な表現を丁寧に映した。まるで劇中に流れるシューマンのピアノ曲集「子供の憧憬」のように軽やかかつ精緻で、遊び心に溢れた俳優の演技は必見だ。日本映画の新時代を感じさせる映画体験が、観るものの心を捉えるだろう。