【2019/9/14(土)~9/20(金)】『ドント・ウォーリー』『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』

ルー

元来ひねくれ者の私は、映画宣伝などでよく使われる「やさしさ」に類する言葉(「登場人物たちをやさしいまなざしで描く」といった文言)を、特に十代の頃はうさん臭いと感じていました。世界は常に悲惨にまみれているのに、やさしさなんて何の足しになるんだよ、と。

しかし社会経験を積むことでその考えは徐々に改まっていきました。本当の「やさしさ」は世界の残酷さを無視した「ぬるさ」ではないことに気づいたのです。シニカルでいてユーモラスな傑作を残した小説家ヴォネガットは、「愛」という多義的で抽象的なものよりもよりシンプルな、「親切」の重要さを説いた言葉を残しています。親切とは他者へのやさしさを具体的に示す行為です。世界も人生も不条理な苦渋に満ちており、心折れて自ら命を絶ってしまう人も少なくありません。生きるためには誰もが多かれ少なかれ他者とのつながりが必要であり、そのための第一歩こそが他者にやさしく接するよう努めることなのです。きれいごとに聞こえるかもしれませんが、それは他者のためだけではなく、自らの孤独や苦痛を和らげるために必要なことでもあります。やさしさの重要性は世の汚濁と絶望を身に知りながら、それでもこの世界に留まり、闘おうとする人間こそが持てる実感ではないでしょうか。

そのような視点をもったとき、『エレファント』『ラストデイズ』などのペシミックな作品も作れば今回上映する『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』や『ドント・ウォーリー』のようなヒューマンドラマも発表する、ガス・ヴァン・サントのやや錯綜的なフィルモグラフィが根底では地続きであることに気づかされます。

コロンバイン銃乱射事件を題材にした『エレファント』が象徴的なように、この世界にはどうしたって止められない悲劇があります。ガス・ヴァン・サントはその事実と真摯に向き合い時に絶望しているからこそ、観客とつながりを持って何とかこの世界に踏みとどまるために作品を作り続けているのではないでしょうか。そんな彼の嘘偽りのない心情がキャラクターたちひとりひとりに投影されているからこそ、不器用に悩みながらもやさしく(あるいはやさしくあろうとしながら)関係を築く人々のドラマがリアリティをもって私たちの胸を打つのだと思います。例えヒューマニズムあふれる作品であっても、ガス・ヴァン・サントの世界観は表層に見えるほど楽天的ではないのです。絶望に打ちひしがれそうな自分のために、ひいては私たちのために、ガス・ヴァン・サントは映画を撮り続けているのです。

グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち
Good Will Hunting

ガス・ヴァン・サント監督作品/1997年/アメリカ/126分/DCP/ビスタ

■監督 ガス・ヴァン・サント
■脚本 マット・デイモン/ベン・アフレック
■撮影 ジャン=イヴ・エスコフィエ
■編集 ピエトロ・スカリア
■音楽 ダニー・エルフマン

■出演 ロビン・ウィリアムズ/マット・デイモン/ベン・アフレック/ ステラン・スカルスガルド/ミニー・ドライヴァー/ケイシー・アフレック/ コール・ハウザー

■1997年アカデミー賞助演男優賞・脚本賞受賞、作品賞・主演男優賞ほか6部門ノミネート/ゴールデン・グローブ賞脚本賞受賞ほか3部門ノミネート/1998年ベルリン国際映画祭銀熊賞受賞 ほか多数受賞・ノミネート

©Images courtesy of Park Circus/Miramax

【2019年9月14日から9月20日まで上映】

あなたに会えて、ほんとうによかった。

全米中から気鋭の才能が集まるMIT(マサシュ―セッツ工科大学)を震撼させるある日の出来事。フィールズ賞受賞の教授ランボーが掲示した数学の証明問題が、一夜にして完璧に解かれていたのだ。しかも、生徒ではない何者かによって…。

ボストンのダウンタウンに暮らす青年ウィル・ハンティング。天涯孤独な孤児で、暴行傷害で裁判係争中の身の大学清掃係。彼こそが、その問題の回答者だった。彼は、幾度と変わる里親の中で、愛を知ることなく育ち、最後の最後で人間を信じることができないでいた。彼の才能を高く評価するランボーは、彼をセラピストへと通わせる。その中の一人が、最愛の妻を癌で亡くしたショーン。彼は、ウィルを唯一理解し、やがては、その孤独の扉を開いていく——。

あなたを刺激し、心の目を開かせ、新しい世界を発見させてくれる人物——あなたには、そんな「心の友」と呼べる人がいるだろうか?

天才的な頭脳を持ちながら他人に心を閉ざす青年と、最愛の妻に先立たれ失意に喘ぐ心理学者との心の交流を描いたヒューマンドラマ。当時はまだ無名だったマット・デイモンが青年ウィルを演じている。また本作の脚本は、彼が親友であるベン・アフレックと共作したもの。その完成度は高く評価され、1998年のアカデミー賞やゴールデングローブ賞において脚本賞に輝いた。また、心理学者を演じたロビン・ウィリアムズがアカデミー助演男優賞を受賞。ベルリン国際映画祭では銀熊賞も受賞している。

今となってはハリウッドに欠かせない存在となったデイモンとアフレックは、デイモンが10歳、アフレックが8歳のときからの親友同士。南ボストンのアイリッシュ・コミュニティで共に成長したふたりにとっては、「脚本に、リアルなボストンの味を盛り込むのがとても重要だった」「僕たちは、自分たちのホームタウンの真のエッセンスを、脚本に描きたいと思ったんだ」と語る。

できあがった脚本を映画会社に売り込むも、最初はなかなか映画化が進まなかった本作だったが、共演に名優ロビン・ウィリアムズ、監督に『誘う女』(95)でメジャー作家に大きく飛躍したばかりだったガス・ヴァン・サントが決まり、プロダクションは鉄壁のものになった。デイモンは「ガスがのってくれたのは、ケーキの完璧な仕上げ。ロビン・ウィリアムズの参加は、宝くじに当たったようなものだよ」と語っている。(公開当時のパンフレットより一部抜粋)

ドント・ウォーリー
Don't Worry, He Won't Get Far on Foot

ガス・ヴァン・サント監督作品/2018年/アメリカ/115分/DCP/PG12/ビスタ

■監督・脚本 ガス・ヴァン・サント 
■原作 ジョン・キャラハン
■ストーリー ジョン・キャラハン/ガス・ヴァン・サント/ジャック・ギブソン/ウィリアム・アンドリュー・イートマン
■撮影 クリストファー・ブローヴェルト
■編集 ガス・ヴァン・サント/デヴィッド・マークス
■音楽 ダニー・エルフマン

■出演 ホアキン・フェニックス/ジョナ・ヒル/ルーニー・マーラ/ ジャック・ブラック/マーク・ウィーバー/ウド・キア/ キャリー・ブラウンスタイン/ベス・ディットー/キム・ゴードン

■2018年ベルリン国際映画祭コンペティション部門正式出品

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【2019年9月14日から9月20日まで上映】

「弱いほど、強い人間になれるんだ」

アルコールに頼る日々を過ごしていたジョン・キャラハンは、自動車事故に遭い一命を取り留めるが、胸から下が麻痺し、車いす生活を余儀なくされる。絶望と苛立ちの中、ますます酒に溺れ、周囲とぶつかる自暴自棄な毎日。だが幾つかのきっかけから自分を憐れむことを止めた彼は、過去から自由になる強さを得ていく。そして、持ち前の辛辣なユーモアを発揮して不自由な手で風刺漫画を描き始める。人生を築き始めた彼のそばにはずっと、彼を好きでい続ける、かけがえのない人たちがいた…。

59歳で他界した世界で一番皮肉屋な風刺漫画家の奇跡の実話。ガス・ヴァン・サントが描き出す、やさしさと生きる希望に満ちた人生賛歌。

オレゴン州ポートランドの風刺漫画家ジョン・キャラハン。辛辣なユーモアを失わず、決して人生を降りない、車いす生活の破天荒な男。その半生に魅せられた俳優がいた。それは、2014年に他界したロビン・ウィリアムズ。映画化の相談を受けていたのは、ポートランドに縁のある監督ガス・ヴァン・サントだった。ウィリアムズ亡き後、脚本を書き、企画から20年を経た2018年、ついに映画は完成する。

キャラハン役を熱望していたロビン・ウィリアムズの心を継いだのは、『ザ・マスター』『ビューティフル・デイ』のホアキン・フェニックス。キャラハンの仕草から話し方を研究し、その内面に迫る演技をみせる。そして、『キャロル』のルーニー・マーラ、『マネ―ボール』のジョナ・ヒル、『スクール・オブ・ロック』のジャック・ブラックが、世界に背を向けていたキャラハンの人生に寄り添う人々を演じる。

たとえ人生最悪の時にあっても、人は変われる力を秘めている。やさしさと希望の力を信じさせてくれる、ひとりの男の心の旅が、美しい映像とともに心に響く。