【2019/8/17(土)~8/23(金)】『モアナ 南海の歓喜 サウンド版』『ルイジアナ物語』『極北のナヌーク』『アラン』 // 特別レイトショー『リュミエール!』

ルー

ノア・バームバック監督『ヤング・アダルト・ニューヨーク』のベン・スティラー演じるドキュメンタリー映画作家は、ドキュメンタリーの中で客観的に事実をとらえることの困難という問題にぶち当たって悩んでいましたが、これを観たとき相当に滑稽に思えたのを覚えています。ドキュメンタリーの始祖フラハティの映画だって(あえて悪い言い方をしますが)やらせバリバリなのに!と。

フラハティはまだ世界旅行自体が困難だった時代に果敢に現地に赴き、被写体の共同体と長期間生活を共にしながら撮影をしました。それだけでなく、撮影されたフィルムをその都度上映して現地の人々に見せ、映像に魅せられた彼らが自分をより魅力的に見せるために能動的に「演じる」姿をも作品に取り込みました。特に『アラン』はキャストを厳選し、ひとつの架空の一家を作り上げて撮影されたものです。それでも本作がまぎれもなく「ドキュメンタリー」と呼ばれるのは、その土地の過酷な風土やそこで困難に立ち向かいながら暮らす人々の表情が生き生きと写されており、そこに宿る作り物ではない真実の輝きが私たちの心を打つからです。

フラハティは単にカメラの前で自然に起こった事実を記録するだけではとらえられない、その土地で生きる人々の真実の姿を写し取ろうとしたのであり、そのための演出的介入も辞しませんでした(その意味では、『アラン』と一応劇映画に分類される『ルイジアナ物語』との差異は実はかなり曖昧なものです)。その成果が圧倒的な魅力を湛えていることは誰もが認めるものですが、その撮影スタイルは当時から少なからず議論の対象になってきたのも事実です。「主観」と「客観」、「演出」と「記録」を巡る問題は今なおドキュメンタリー映画を考えるときに外せません。フラハティはドキュメンタリーの始祖でありながら、映画の根源的な問題をも提示した、未だ色あせない刺激的な現代映画作家でもあるのです。

ルイジアナ物語
Louisiana Story

ロバート・フラハティ監督作品/1948年/アメリカ/78分/ブルーレイ(DVD画質)/スタンダード

■監督 ロバート・フラハティ
■脚本 ロバート・フラハティ/フランセス・フラハティ
■撮影 リチャード・リーコック
■音楽 ヴァージル・トムソン

■出演 ジョゼフ・ブドロー /ライオネル・ルブラン /E・ビアンヴニュ /フランク・ハーディ

■1948年ヴェネチア国際映画祭国際賞受賞/アカデミー賞原案賞ノミネート/1994年アメリカ国立フィルム登録簿新規登録作品

【2019年8月17日から8月23日まで上映】

ドキュメンタリー映画の巨匠フラハティが描く少年の冒険譚

ルイジアナの広大な湿地に両親と住む少年アレクサンダー。自然と野生動物に囲まれた彼の生活は、ある日、父親が油田掘削の許可書にサインしたことで大きく変わる。ほどなく始まった掘削作業に彼は魅了されていき、作業員との和やかな交流が生まれる。しかし突如トラブルにより掘削は中止の危機に陥ってしまう…。

もともとは石油会社のPR映画だったが、世界映画史に残る傑作となったロバート・フラハティ監督による物語映画。

ルイジアナの広大な湿地に住む少年が油田掘削に魅せられていく様子を描く。随所で川から顔をだす獰猛なワニ、少年と友達のようなアライグマ、そして闇夜にそびえたつ油田やぐらなどがリアルでありながら、どこかファンタジックに見える。迫力満点の油田掘削やワニと少年の戦いも見どころのひとつ。

本作はアカデミー賞原案賞にもノミネートされ、音楽を担当したヴァージル・トムソンは本作でピューリッツァー賞を受賞。1994年にはアメリカ国立フィルム登録簿にも選ばれている。キャストは全くの無名で、主人公の少年は、ルイジアナでオーディションをして見つけてきた。また撮影はのちに著名なドキュメンタリー監督になるリチャード・リーコックが担当している。

モアナ 南海の歓喜 サウンド版
Moana with sound

ロバート・フラハティ監督作品/1926年・1980年・2014年/アメリカ/98分/DCP/スタンダード/サウンド版

■監督 ロバート・フラハティ
■共同監督 フランシス・フラハティ/モニカ・フラハティ
■撮影 ロバート・フラハティ/デビッド・フラハティ
■録音 モニカ・フラハティ/リチャード・リーコック

■1962年カンヌ国際映画祭国際批評家連盟賞受賞

© 1980 Monica Flaherty-Sami van Ingen. Moana
© ℗1926 Famous Players-Laski Corp. Renewed 1953 Paramount Pictures Corp.
Licensed by Kino Lorber, Inc., New York, through Tuttle-Mori Agency, Inc., Tokyo

【2019年8月17日から8月23日まで上映】

ドキュメンタリーという言葉はこの映画からはじまった! 100年前の南の島、ある家族の物語

南太平洋サモア諸島で暮らすルペンガー家には、モアナという息子がいた。一家は、常食とするタロイモ採りに出かけ、イノシシの通る道に罠を仕掛ける。珊瑚礁の岸に寄せる波間に、丸木船に乗って採集に出かける。モアナと婚約者ファアンガセは、結婚式の準備のために踊り、モアナは、成人式の刺青をしてもらい、いよいよ村人の歌声とともに挙式の準備が整った。

ドキュメンタリーの始祖フラハティがカメラに収めた南の島の暮らし。“ドキュメンタリー”という言葉は、1926年の本作公開時に、新聞の映画評で使われたことが起源とされている。無声だった作品に1980年、娘のモニカ・フラハティ監督が現地の人々による本物の音や会話、民謡を録音し付け加えた。さらに2014年に施された最新のデジタル技術により瑞々しく蘇った。

大自然のなかにあった、踊りと音楽にあふれた人々の暮らし――『モアナ 南海の歓喜』は圧倒的な映像で生きることの美しさと人間が持っている本来の輝きを見せてくれる。

アラン
Man of Aran

ロバート・フラハティ監督作品/1934年/イギリス/77分/DVD/スタンダード

■監督・撮影 ロバート・フラハティ
■脚本 ジョン・ゴールドマン
■音楽 ジョン・グリーンウッド

■出演 コルマン・キング/マギー・ディレーン/マイケル・ディレーン

■1934年ヴェネチア国際映画祭最優秀外国映画賞受賞

【2019年8月17日から8月23日まで上映】

岩を噛む波、荒れ狂う海、大自然のパワーと闘う人々。真実の魅惑、長編ドキュメンタリーの至宝。

アイルランド西岸の荒涼たる孤島アランは、岩だらけで木も土もない。ここに生きる人々は過酷な環境に不屈の精神力で立ち向かい、生命のある限り闘いつづける。

ロバート・フラハティ監督による芸術的ドキュメンタリー映画の最高峰。キャスティングで選ばれ、配役された3人家族を主人公に据えつつ、彼らと生活を共にし、ラッシュ上映を一緒に見てディスカッションを重ねながら撮影された。リアリズムとポエジーを湛えた本作は、単なる記録でも劇映画でもない、いままでなかったまったく新しい映画の誕生を世界に力強く告げたのだ。厳しい環境の中で必死に生きながら、時に歓びを噛みしめ、カメラの前で生々しい表情を見せる彼らの美しい存在感は、製作から80年以上たった現在でも色あせることなく私たちの心を打つ。

極北のナヌーク
Nanook of the North

ロバート・フラハティ監督作品/1922年/アメリカ/78分/ブルーレイ/スタンダード/サイレント

■監督・製作・撮影 ロバート・フラハティ

■1989年アメリカ国立フィルム登録簿新規登録作品

© 2013 by Film Preservation Associates, Inc.

【2019年8月17日から8月23日まで上映】

イヌイット一家、大自然の中でのたくましい暮らし――1922年、記録映画の原点

カナダ北部の極地。雪と氷の大平原を背景に、カヌーでの移動、セイウチやアザラシ漁、毛皮を売る姿、住居を氷や雪で作る様子など極地のイヌイット族一家の暮らしと、生きるために苛酷な自然と闘っていく様を迫真せまる映像で描く。

フラハティ監督のデビュー作。ナヌークとその一家の生活に一年四か月もの長期間密着。その哀歓を時に厳しく、時にユーモラスにフィルムに刻みこんだ。多大な資金的困難に直面しながらも執念で完成された本作は、映画は映画スターが主演するものという当時の常識を打ち壊し、批評家の大絶賛と共に世界中で大ヒットを記録。フラハティの名を一躍有名にしたのみならず、記録映画の面白さを初めて世界に知らしめたという意味でも映画史上の記念碑的作品。 今回はデジタルリマスター・音楽付きサイレント版にて上映。

【特別レイトショー】リュミエール!
【Late Show】Lumière!

ティエリー・フレモー監督作品/2016年/フランス/90分/DCP/ビスタ/日本語字幕版

■監督・製作・脚本・編集・ナレーション  ティエリー・フレモー
■製作 ベルトラン・タヴェルニエ
■音楽 カミーユ・サン=サーンス

© 2017 – Sorties d’usine productions – Institut Lumière, Lyon

【2019年8月17日から8月23日まで上映】

4Kデジタルで蘇る<映画のはじまり>。 リュミエール兄弟が世界で初めて上映した映画の撮影秘話、そして今も変わらない生き生きとした人々の姿、人間賛歌にあふれる映画の原点がここに!

1895年12月28日パリ。フランスのルイ&オーギュスト・リュミエール兄弟が発明した“シネマトグラフ”で撮影された映画、工場から出てくる人々を撮影した有名な『工場の出口』が世界で初めて有料上映された。全長17m、幅35mmのフィルム、1本約50秒、現在の映画の原点ともなる演出、移動撮影、トリック撮影、リメイクなど多くの撮影技術を駆使した作品は、その当時の世界中の人々を驚かせ興奮させた。そして、そこに描かれているのは、あの頃から現代に至るまで変わりのない人々の生きる姿…。

本作は、1895年から1905年の10年間にリュミエール兄弟により製作された1422本の中から、カンヌ国際映画祭総代表、リヨンのリュミエール研究所のディレクターを務めるティエリー・フレモー氏が選んだ108本から構成され、リュミエール兄弟にオマージュを捧げた珠玉の90分である。映像は4Kデジタルで修復され、フレモー氏が自ら解説ナレーションを担当。映画を愛してやまない全ての人に贈る奇跡の映像の数々が、きっとあなたを124年前の世界の旅へと誘うだろう。