【2019/8/3(土)~8/9(金)】『ラスト・ワルツ』『ディア・ハンター 4Kデジタル修復版』

20世紀の映画史を眺めると、ディケイド(~年代という10年間隔)の変わり目より少し前の年にターニングポイントがあることが多いことに気づかされます。その代表例は50年代末にフランスで起こったヌーヴェルヴァーグ運動です。その若々しく現実に向き合う感性はアメリカ映画界にも波及し、60年代後半にはアメリカンニューシネマという新しいムーヴメントを生み出しました。

そして更に10年後、70年代後半の最大の転換点は間違いなく77年の『未知との遭遇』『スターウォーズ』の大ヒットです。SFXを駆使した絢爛で壮大な映像体験は全世界を熱狂させ、現在に至るその後のハリウッド映画の在り方を決定づけました。しかし、新しいものが始まればそれと交代に終わりを迎えるものもあります。その翌年1978年公開の『ディア・ハンター』『ラスト・ワルツ』は一つの時代精神の終焉を映し出した象徴的な作品です。

ディア・ハンター 4Kデジタル修復版
The Deer Hunter

マイケル・チミノ監督作品/1978年/アメリカ/184分/DCP/PG12/シネスコ

■監督・製作・原案 マイケル・チミノ
■脚本・原案 デリック・ウォッシュバーン
■製作 バリー・スパイキングス/マイケル・ディーリー/ジョン・ペバロール
■原案 ルイス・ガーフィンクル/クイン・K・レデカー
■撮影 ヴィルモス・ジグモンド
■音楽 スタンリー・マイヤーズ

■出演 ロバート・デ・ニーロ/クリストファー・ウォーケン/ジョン・サヴェージ/ジョン・カザール/メリル・ストリープ

■1979年アカデミー賞作品賞・助演男優賞・監督賞ほか2部門受賞4部門ノミネート/ゴールデン・グローブ賞監督賞受賞/全米批評家協会賞助演女優賞受賞 ほか多数受賞・ノミネート

©1978 STUDIOCANAL FILMS LTD. All Rights Reserved.

【2019年8月3日から8月9日まで上映】

戦争がもたらす狂気と心の傷。男たちの生死を賭けた友情。

60年代末、ペンシルバニア州の製鋼所で働くマイケル、ニック、スティーブン、スタンらは、休日には近くの山々で鹿狩りを楽しむ大の親友グループだった。そんな彼らにベトナム行の令状が届く。スティーブンの結婚式と合同で町をあげての盛大な歓送会が開かれる。式後、彼らは故郷の山へ最後の狩りに出かけた。

2年後、マイケルら3人は捕虜として戦場で遭遇する。“ロシアン・ルーレット”という敵の残酷な拷問をかわしてジャングルを脱走する3人。だが、力尽きた彼らはばらばらになってしまう。さらに1年後、サイゴンの軍人病院を退院したニックが別人のように戦火の町をさまよっていた…。

ロバート・デ・ニーロ主演の感動大作が製作から40年を経て鮮やかに蘇る!

『ディア・ハンター』はベトナムの戦場を初めて描いたアメリカ映画として知られています。それまでも『ソルジャー・ボーイ』や『タクシードライバー』などベトナム帰還兵を描いた作品は作られていましたが、本作によってアメリカは最大のトラウマになったこの陰惨な負け戦に直接向き合うようになったのです。それはたしかに新しいフェイズの始まりを告げるものでしたが、まだ敗北を知らなかった時代のイノセントが失われる過程を描くことで時代に区切りをつける、喪の儀式というニュアンスも濃厚に感じ取れます。

題材と共に注目すべきは、新進気鋭監督だったマイケル・チミノが大胆に導入した特異な時間の流れ方です。冒頭50分に渡って雄大に描かれる結婚式シーンに顕著ですが、『イージー・ライダー』などのニューシネマで古典的な映画文法への反抗として選び取られていた緩やかな時間が前半には(やや誇張気味なまでに)流れているのですが、主人公たちが体験する地獄の戦争が怒涛の勢いで描かれる後半においてそれまでの時間感覚が文字通り暴力的に侵食されていくのです。本作は主題において過去に区切りをつけただけにとどまらず、70年代的な映画の時間の流れ(イノセント)がより性急な刺激を求める、来るべき80年代的な映画のリズムによって変容する様をダイナミックに体現した作品でもあったのです。(ルー)

ラスト・ワルツ
The Last Waltz

マーティン・スコセッシ監督作品/1978年/アメリカ/117分/DCP/ビスタ

■監督 マーティン・スコセッシ
■製作 ロビー・ロバートソン
■製作総指揮 ジョナサン・タプリン
■撮影 マイケル・チャップマン/ ラズロ・コヴァックス/ ヴィルモス・ジグモンド/ヒロ・ナリタ/デヴィッド・マイヤーズ/ボビー・バーン/マイケル・ワトキンス
■編集 イウ・バン・イー
■プロダクション・デザイン ボリス・レヴェン 

■出演 ザ・バンド/ボブ・ディラン/エリック・クラプトン/ニール・ヤング/ジョニ・ミッチェル/ヴァン・モリソン/ニール・ダイヤモンド/リンゴ・スター/ロン・ウッド/ドクター・ジョン/ポール・バターフィールド/ロニー・ホーキンス/マディ・ウォーターズ

©2018 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.

★本編の演奏シーンに字幕はございませんのでご了承ください。

【2019年8月3日から8月9日まで上映】

史上、最も贅沢で、豪華な、一夜限りのロックフェス!

1976年11月25日、ザ・バンドの解散ライブが開催された。伝説のライブ会場となったのはサンフランシスコのウィンターランド。ザ・バンドがバックバンドをつとめたこともあるボブ・ディランをはじめ、エリック・クラプトン、ニール・ヤング、ジョニ・ミッチェル、ヴァン・モリソン、マディ・ウォーターズ等、音楽史に大きな足跡を残した偉大なミュージシャンたちが次々と現れ、ザ・バンドと競演。二度と実現不可能な、一夜限りの贅沢で華麗なロック・フェスティバルがスクリーンに甦る。

マーティン・スコセッシ監督による伝説のライブ・ドキュメンタリー! 

『ディア・ハンター』が「過去」に区切りをつけ、新しい時代に踏み出すための喪の儀式だとしたら、『ラスト・ワルツ』は「過去」を永遠の現在にするために作られた作品です。

アメリカのルーツミュージックを新しい感覚で探求し、ひとつの時代を象徴する存在だったザ・バンド。彼らの解散ライブを描いた『ラスト・ワルツ』は単なるライブの記録映像ではなく、スコセッシ監督が企画段階からメンバーたちとディスカッションを重ね、緻密なシナリオと優れたカメラマンを総動員して作り上げた作品です。それはあたかもザ・バンドを主演に据え、クラプトンやボブ・ディランなど豪華スターたちと共演させた劇映画とも言えるものです。スコセッシは『ミーン・ストリート』で生まれ育った街の喧騒の中に流れていたロックを大量に使用していましたが、本作では新人監督として試行錯誤を重ねてきた時代、サウンドトラックのように聴いていたザ・バンドの終焉に自らの青春の総決算を重ね合わせていたのだと思います(この撮影が低予算映画『タクシードライバー』の大成功のあと、若き巨匠として大作『ニューヨーク、ニューヨーク』に取り組んでいた時期だったことも無縁ではないでしょう)。

素晴らしい演奏を披露するザ・バンドやゲストミュージシャンたちが体現していた時代の空気、そしてスコセッシの青春時代の最後の輝きが結晶した本作は、リアルタイム世代でなくとも観るたびに時を超えた熱気に包みこまれる、最高の音楽映画でありいつまでも現在形の傑作なのです。(ルー)