【2022/1/8(土)~1/14(金)】『プロミシング・ヤング・ウーマン』『17歳の瞳に映る世界』

もっさ

「女なんだから、わきまえろ」

そういう意図で投げかけられる言葉に、世の中が敏感になってきた昨今。今でこそ「ちょっと待て!」と異を唱えることに抵抗はありませんが、それまで私は「女だから」と言われるたびに、嫌悪感と違和感を抱きながら、そういうものだと“わきまえて”しまっていました。思い返せば、幼い頃から事あるごとに「女の子なんだから」と優しく前置きされながら正されていたものは全て、大嫌いなジェンダー・バイアスだったのです。それに気づいてからというもの、私は他の女性がこのことについてどう思っているのか知りたくなり、女性を――特に女性監督や女性作家が描く作品を目にしては、ある種の答え合わせのような作業をするのが癖になってきました。

今週お届けする二本立ては、そんな私が楽しみに、そして心して観た女性監督作品『プロミシング・ヤング・ウーマン』と『17歳の瞳に映る世界』です。

『プロミシング・ヤング・ウーマン』はタイトルの通り“前途有望な若い女性”(プロミシング・ヤング・ウーマン)だった主人公キャシーが、過去の悲しい事件の発端となった人物たちに次々と復讐していくというお話。復讐劇ではあるけれど、暴力的でもセクシー路線でもない、一風変わった復讐エンタテインメントです。キャシーのお仕置きは男に限らず「女なんだから~」に染まった“わきまえる女”たちも標的になります。彼女の見事な復讐っぷりにスカっとしつつ、私もそのうちの一人だったかもしれないと、グサリと胸に刺さります。

一方『17歳の瞳に映る世界』は、予期せぬ妊娠をしてしまった17歳のオータムが主人公。親にも内緒で中絶手術を受けるため、親友と共に奮闘する物語です。少女2人のロードムービーと聞くとキラキラした青春ドラマを想像するかもしれませんが、多くを語らないオータムのように、映画は静かに淡々と進みます。物語を大きく動かすのは旅を共にする親友・スカイラー。「どうしてこうなったの?」なんて一言も聞くことなくオータムを支え、女を武器に闘う姿はまるで救世主。彼女たちを見守る気持ちで観ていたはずなのに、「17歳の時こんな行動できただろうか…いや、今だって無理かも…」と、私はすっかり肩を落としてしまいました。

『プロミシング~』のエメラルド・フェネル監督はインタビューで「学生だった10年前は当たり前だったけど、今考えるとひどいことが許容されていた。性別関係なく自分の周りの人を見ても思い当たることが出てくる。それらを集団として許容してきた経緯を紐解いてみたかった」と語っています。

どちらも作風は全然違うけれど、誰が悪いとか白黒つけるのではなく、なぜこんな社会になったのか、映画を通して「あなたも心当たりない?」とそっと問いかけてくるのです。そして、男でも女でもない、“私が”これからどんな選択をして生きていこうか、そんなことを考えさせてくれる作品です。

プロミシング・ヤング・ウーマン
Promising Young Woman

エメラルド・フェネル監督作品/2020年/アメリカ/113分/PG12/DCP/シネスコ

■監督・脚本 エメラルド・フェネル
■製作 マーゴット・ロビー/エメラルド・フェネル
■編集 フレデリック・トラヴァル
■撮影 ベンジャミン・クラカン
■美術 マイケル・T・ペリー
■衣装 ナンシー・スタイナー
■音楽 アンソニー・ウィリス

■出演 キャリー・マリガン/ボー・バーナム/アリソン・ブリー/クランシー・ブラウン/ジェニファー・クーリッジ/ラバーン・コックス/コニー・ブリットン

■第93回アカデミー賞脚本賞受賞、主要4部門ノミネート/ゴールデングローブ賞主要4部門ノミネート ほか多数受賞・ノミネート

© 2020 Focus Features
© Universal Pictures

【2022年1月8日から1月14日まで上映】

私も彼女も“前途有望”なはずだった

30歳を目前にしたキャシーは、ある事件によって医大を中退し、今やカフェの店員として平凡な毎日を送っている。その一方、夜ごとバーで泥酔したフリをして、お持ち帰りオトコたちに裁きを下していた。ある日、大学時代のクラスメートで現在は小児科医となったライアンがカフェを訪れる。この偶然の再会こそが、キャシーに恋ごころを目覚めさせ、同時に地獄のような悪夢へと連れ戻すことになる…。

旬でワイルド! 甘いキャンディに包まれた猛毒が全身を駆け巡る、復讐エンターテインメント!

2021年、第93回アカデミー賞において、初めて監督賞候補に複数の女性がノミネートされ、大きな話題を呼んだ。そのうちの一人エメラルド・フェネルの長編デビュー作である本作『プロミシング・ヤング・ウーマン』は、見事脚本賞を受賞。大胆不敵な物語に共鳴したマーゴット・ロビーが製作に名乗りを上げ、誰にも譲りたくなかったという主人公役をキャリー・マリガンが快諾。ウーマンパワーが実を結び、ハリウッドの歴史をも揺るがす、記念すべき作品が誕生した。

タイトルの通り、 “前途有望な若い女性”(プロミシング・ヤング・ウーマン) だったキャシーに起きた悲しい事件をきっかけに、スリリングな復讐劇とスウィートなラブストーリーとが並行して描かれる本作は、多くの観客の共感を獲得しつつ、激しい論争を巻き起こしている。その理由は、女VS男という対立構造の中でどちらかを断罪して終わるのではなく、社会に蔓延るジェンダーバイアスを浮き彫りにしているから。彼女の落とし前の矛先は“ナイスガイ”だけに留まらず、“同調圧力オンナ&女だからとわきまえる女”へも向けられ、痛烈に批判する。

好きか嫌いかを超えたその先に、私たちが何を見出すのか、まずは本作を目撃してほしい。明るい未来が約束された、これからを創り出す、すべてのひとたちに。

17歳の瞳に映る世界
Never Rarely Sometimes Always

エリザ・ヒットマン監督作品/2020年/アメリカ/101分/PG12/DCP/ビスタ

■監督・脚本 エリザ・ヒットマン
■製作 アデル・ロマンスキー /サラ・マーフィ
■撮影 エレーヌ・ルヴァール
■衣装 オルガ・ミル
■音楽 ジュリア・ホルター

■出演 シドニー・フラニガン/タリア・ライダー/セオドア・ペレリン/ライアン・エッゴールド/シャロン・バン・エッテン

■第70回 ベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員大賞)/サンダンス映画祭2020ネオリアリズム賞 ほか多数受賞・ノミネート

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【2022年1月8日から1月14日まで上映】

自分で選ぶ未来のために

ペンシルベニア州に住むオータムは、愛想がなく、友達も少ない17歳の高校生。ある日、オータムは予期せず妊娠していたことを知る。ペンシルベニア州では未成年者は両親の同意がなければ中絶手術を受けることができない。同じスーパーでアルバイトをしている、いとこであり唯一の親友スカイラーは、オータムの異変に気づき、ふたりで事態を解決するため、ニューヨークへ向かう…。

ベルリン、サンダンスをはじめ、世界が絶賛! 17歳の少女たちが向き合う世界を鮮やかに活写した物語。

少女ふたりの数日間を描いたロードムービーというミニマムな作りながら、どの国にも通じる、思春期の感情と、普遍的な問題をあぶり出し、ベルリン国際映画祭銀熊賞、サンダンス映画祭2020ネオリアリズム賞を獲得するなど世界中の映画賞を席巻した『17歳の瞳に映る世界』。女性であることで感じつづける痛み、女性であることを利用して生きていく機知、弱音を吐かない強がり、ただ寄り添うやさしさ、多くを語らずとも感じられる繋がり…旅の中で、少女たちが常に向き合っている世界が浮き彫りになってゆく。

主人公オータムを演じるのは、新星シドニー・フラニガン。デビュー作であり、歌声も披露した本作の演技が喝采を浴び、全米の映画賞でブレイクスルー賞、女優賞を総なめにしている。スカイラー演じるタリア・ライダーもスティーブン・スピルバーグ監督作品『ウエスト・サイド・ストーリー』の出演が決定している注目株だ。監督は本作が日本で劇場初公開となるエリザ・ヒットマン。長編デビュー作『愛のように感じた』、サンダンス映画祭監督賞を受賞した2作目の『ブルックリンの片隅で』に続く3作目となる。