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今週の早稲田松竹は、常に賛否両論、過激な作風でセンセーションを巻き起こす北欧の鬼才、ラース・フォン・トリアー監督の過去作から4作品を厳選して上映いたします。
腐敗した20世紀末のヨーロッパを舞台にしたフィルムノワール『エレメント・オブ・クライム』では、ナトリウム・ライティング撮影によってセピア調に彩られた世界を作り出し、第二次世界大戦後のドイツを舞台にした『ヨーロッパ』では、パートカラーとモノクロの大胆な合成映像、スクリーンプロセスなど古典的な技法を多用。彼が敬愛するタルコフスキー監督をはじめ、巨匠たちが築き上げてきた美学を引用しつつ、トリアー監督の実験的な試みによって新たに提示される映像美に酔いしれます。その変態的なまでに徹底された映像美の迷宮へ吸い込まれたら最後、映画の世界に取り残されてしまうやもしれませんのでご注意を。
1995年に彼がトマス・ヴィンターベア監督らと共に立ち上げた映画運動ドグマ95の掟に従い製作された『イディオッツ』。全編手持ちカメラで撮影、オールロケ、ライティングの禁止など様々な条件のもとで撮影されたその映像はドキュメンタリー映画の様相を呈し、知的障がい者を演じる団体イディオッツが本当に存在するのでは? と思ってしまうほどリアリティに溢れています。そうした人工的な加工を排除する撮影法とは対称的に、『ドッグヴィル』は体育館のような広い空間に簡易的なセットを組んだ舞台劇のような作品です。本来あるべきドアや壁、窓などが取り去らわれ、役者はパントマイムのように、そこにあるものを想像しながら演技しなくてはなりません。その想像で補うストレスは観客側にも与えられるのですが、これから起こることをプロローグとして提示したり、登場人物の心情をナレーションで説明したりといった優しさが垣間見れるのがトリアー監督の憎めないところでもあります。
近年の作品では過激な性描写や暴力表現などで注目を集め、時に“鬱映画”というレッテルを貼られてしまうトリアー監督ですが、こうして創作の軌跡をたどってみると、映画を撮るという「遊び」を大真面目に楽しんでいることに気付きます。そして、その遊び相手として振り回さる心地よさを覚えてしまった私はトリアー監督の催眠術から抜け出せなくなった一人なのかもしれません…。
ドッグヴィル【4Kデジタル修復版】
Dogville
■監督・脚本 ラース・フォン・トリアー
■製作 ヴィベク・ウィンドレフ
■撮影 アンソニー・ドッド・マントル
■出演 ニコール・キッドマン/ポール・ベタニー/クロエ・セヴィニー/ローレン・バコール/ステラン・スカルスガルド/ジェームズ・カーン/パトリシア・クラークソン/ジェレミー・デイヴィス/ベン・ギャザラ/ウド・キア/ジャン=マルク・バール/フィリップ・ベイカー・ホール/ジョン・ハート
■第56回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品
★当館では2K上映となります。
©Copyright 2003
【2024/2/10(土)~2/16(金)上映】
床に白線を引いただけのセットで全編撮影された、緊張感あふれる未だかつてない映像体験
大恐慌時代の廃れた鉱山町ドッグヴィル。偉大な作家となることを夢見ていたトムは、ギャングに追われたグレースを奉仕と引き換えにかくまうことを町の人々に提案する。しかし、住人の態度は次第に身勝手なエゴへと変貌してゆき…。
イディオッツ【4Kデジタル修復版】
Idiots
■監督・脚本 ラース・フォン・トリアー
■製作 ヴィベク・ウィンドレフ
■撮影 ラース・フォン・トリアー/クリストファー・ニュホルム/イェスパー・ヤーギル/カスパー・ホルム
■音楽 キム・クリステンセン
■出演 ボディル・ヨルゲンセン/イェンス・アルビヌシュ/アンヌ・ルイーセ・ハシング/トレルス・リュビュー/ニコライ・リー・コス
■第51回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品
★当館では2K上映となります。
©Lars von Trier
【2024/2/10(土)~2/16(金)上映】
“ドグマ95”のルールに沿って制作され、デンマーク映画界への国際的な関心を高めた問題作
自ら知的障がい者のふりをして、人々の偽善を暴こうとする活動グループ、“イディオッツ”。彼らに偶然出会ったカレンは、それが演技だと分かり最初は怒りを露わにするが、次第に彼らに惹かれ、行動を共にするようになる。
ヨーロッパ【4Kデジタル修復版】
Europa
■監督 ラース・フォン・トリアー
■脚本 ラース・フォン・トリアー/ニルス・ヴァセル
■製作 ボー・クリステンセン
■撮影 エドヴァルド・クウォシンスキ/ヘニング・ベンツェン/ジャン=ポール・ムリス
■音楽 ヨアキム・ホルベック
■出演 ジャン=マルク・バール/バルバラ・スコヴァ/ウド・キア/エルンスト・フーゴ・イエルゴー/エディ・コンスタンティーヌ/マックス・フォン・シドー
■第44回カンヌ国際映画祭審査員賞、芸術貢献賞ほか受賞
★当館では2K上映となります。
©Liberator S.A.R.L, UGC- Gérard Mital & Telefilm Essen.
【2024/2/10(土)~2/16(金)上映】
迷宮のような映像美が混迷する敗戦後のドイツへと誘う、戦争の傷跡を厳しい視線で描いた異色作
1945年、第二次世界大戦敗戦直後のドイツ。ドイツ系アメリカ人のレオ・ケスラーは叔父に紹介されて鉄道会社ゼントローバに就職する。ケスラーは中立的な立場からドイツの復興を手伝おうとしていたが…
エレメント・オブ・クライム【4Kデジタル修復版】
The Element of Crime
■監督・脚本 ラース・フォン・トリアー
■製作 ペア・ホルスト
■撮影 トム・エリング
■音楽 ボー・ホルテン
■出演 マイケル・エルフィック/メ・メ・レイ/エズモンド・ナイト
■第37回カンヌ国際映画祭フランス映画高等技術委員会グランプリ受賞
★当館では2K上映となります。
©1984 Liberator S.A.R.L.
【2024/2/10(土)~2/16(金)上映】
腐敗と倦怠に包まれた世紀末のヨーロッパを舞台に、殺人鬼と同一化していく男を描く伝説のデビュー作
フィッシャー刑事の捜査哲学は、犯罪者の視点に立って事件を捉え、解決に導くというものだった。しかし、あまりにも犯罪者の心理を分析する能力に優れていたため、犯罪の渦中に引きずり込まれてしまい…。