すみちゃん
月にだって、地底王国にだって、惑星プリュク、ソラリスにだって。場所だけにとどまらず、過去や未来、時間さえも飛び越えて、SF映画はわたしたちを未知なる旅へと連れて行ってくれる!
旅には新しい出会いがいっぱいだ。ほら吹き男爵バロンの奇想天外な冒険映画『バロン』では、バロンと個性豊かな仲間たちが不思議なキャラクターに出会っていく。月の王様は首から上が自由に飛び回っているし、巨大魚は人間を丸呑みしてしまう! 何から何まで唐突なことばかりなのに、大がかりな美術に大胆な特殊撮影もあって(製作費はなんと75億円!)その世界観に圧倒される。そしてこれまた違った魅力でいっぱいの、へんてこカルト映画代表『不思議惑星キン・ザ・ザ』では、惑星プリュクに住む異星人が、ボロボロな洋服を着て、ボロボロな釣鐘型の宇宙船に乗っている。挨拶はとてもシンプル。「クー」だけで会話が成立してしまうのだ。宇宙のイメージってもっとピカピカで高度な言語を使っているんじゃないの? なんて思ってしまうかもしれないけれど、そんなことを忘れてしまうほど、どちらの映画の世界も愛らしく、人間の想像力によって生まれた、この映画だけに存在する、ここでしか会えない人たちに出会えた喜びをかみしめてしまう。
一方で、出会いがあり、別れがあるのが旅というもの。『ジュ・テーム、ジュ・テーム』『ラ・ジュテ』は、タイムトラベルすることによって、失ったものの大切さに気が付いていく作品だ。ある装置によって彼らは過去に戻っていくのだけれど、その場に長くとどまることはできず、断片的で、わたしたちはまるで彼らの昔の曖昧な記憶を見せられているような気分になる。もう一度会いたいと想う人がタイムトラベルによって現れても、今ではもう会うことができないという事実は変わらず、現実と向き合わなければならない。無意識にある過去への執着が、SFという手法によって露わになっていく。『惑星ソラリス』ではより顕著かもしれない。心理学者のクリスは、自殺をしてしまった妻ハリーと、惑星ソラリスの宇宙船で再会する。再会するといっても、それは本人ではなく、惑星内にある "海"が理性を持っており、"海"は人間の潜在意識を探り出してそれを実体化してしまう力があり、妻のハリーは実体化されたモノなのであった。
人間の願望が実体化するなんてことが起きたら、現代社会のシステムはきっと壊れてしまうだろう。作りたいものを作り出すことだけが全てではないということ。帰り道に見かける立派な木、偶然知り合ったお友達や突然の解雇など、自分ではコントロールすることのできないことや存在があるからこそ人生は味わい深くなるし、うまくいかないことから学ぶのが人間の持つ可能性なのだと、気づかせてくれるのがSF映画なのかもしれない。
今や宇宙旅行の実現やAIの進化などによって、SF映画で観たような世界が身近なものになりつつある。テクノロジーの発展はとどまることを知らず、効率化が進むことでどんどん便利になっていく。もしかしたら映画を観ることなんて、非効率だって思われる時代も来るかもしれない! 価値観だってどんどん変化していくし、置いて行かれそうだなと思うこともたくさんあるけれど、この社会の変化を体感していること自体が、とてもSFっぽいと感じる。だからこそ、改めてわたしたちが想像してきた未来像(それをもしかしたらレトロなSFと言えるのかも)と、SF的な現実を重ね合わせてみることで、新たな発見が得られるかもしれない。そんな未知なる旅を、劇場で味わってはみませんか?
惑星ソラリス デジタルリマスター版
Solaris
■監督・脚本 アンドレイ・タルコフスキー
■原作 スタニスワフ・レム『ソラリスの陽のもとに』(早川書房刊)
■脚本 フリードリヒ・ガレンシュテイン
■撮影 ワジーム・ユーソフ
■音楽 エドゥアルド・アルテミエフ
■出演 ナタリア・ボンダルチュク/ドナタス・バニオニス/ユーリー・ヤルヴェト/ウラジスラフ・ドヴォルジェツキ
■1972年カンヌ国際映画祭審査員特別賞・国際エヴァンジェリー映画センター賞
【2025/7/5(土)~7/11(金)上映】
未知の惑星ソラリス。その謎を解明するため、ステーションに送られた一人の心理学者が見たものとは——。
海と雲に覆われ、生物の生存が確認されていない惑星ソラリス。だが、ソラリスの海は理性を持つと科学者たちは考え、何度も海と接触しようと試みたが失敗。宇宙ステーションは混乱に陥り、地上との交信が途切れてしまう。その調査のために派遣された心理学者クリスの目前に現れたのは、友人の死体に自殺した妻。さらに、残された二人の科学者は何かに怯えている…。
1977年の全世界的SFブームに先駆けて放つ堂々3時間の超巨篇! タルコフスキーが描く、地上と記憶へのノスタルジー。
1972年カンヌ国際映画祭審査員特別賞他世界SF映画史上に金字塔を打ち立てた作品。極限状態にある人間の心に焦点を当て、哲学的命題を観客に投げかけてよこす。ちなみに未来都市の風景として映し出されるのは、東京都港区赤坂見附の立体交差。一人で見ては語りたくなり、誰かと一緒に見ては考える、そんな深い思索を呼び覚ます映画である。
ラ・ジュテ
The Pier
■監督・脚本 クリス・マルケル
■撮影 ジャン・チアボー
■音楽 トレヴァー・ダンカン
■出演 エレーヌ・シャトラン/ジャック・ルドー/ダフォ・アニシ
■1963年トリエステSF国際映画祭グランプリ受賞/1963年ジャン・ヴィゴ賞(短編部門)受賞
©1962 ARGOS FILM
★『ジュ・テーム、ジュ・テーム』と同時上映
【2025/7/5(土)~7/11(金)上映】
男は子どもの頃に戻りたいと願った。それは女が待っているかもしれない世界——
第三次世界大戦後、放射能に汚染されたパリの地下で戦争を生きのびた勝者側の科学者たちは、“過去”と“未来”に人類の救済を求めるために、捕虜を使って時間旅行を試みる。彼らはそこで、ある記憶に取りつかれた男を選び出す。
彼は少年時代、オルリー空港の送迎台で見た断片的なイメージ――凍った太陽と叫ぶ女――が心に焼き付いている。実験台での注射により過去に送り込まれた男は、送迎台で見た女と再会し夢見心地の時間を過ごす。続いて、未来へと送り込まれた男は、世界を救うためのエネルギーを持ち帰る。そして、彼は自分の記憶の驚くべき真実を知ることになる…。
全編、写真を繋ぎ合わせることで構成された、映画史に残る重要な作品。
写真、映画、ビデオ、コンピューター……あらゆるメディアを駆使して20世紀後半~21世紀初頭を「記憶」しようとした作家クリス・マルケルが珍しく創作したサイエンス・フィクションは、全編を静止した白黒写真とナレーションで構成した前衛的な短編映画。直接的な翻案であるテリー・ギリアム監督の『12モンキーズ』をはじめ、その後の数多くの<タイム・トラベル>ものに影響を与えた、映画史の中でも特異な地位に屹立する傑作。
ジュ・テーム、ジュ・テーム
I Love You, I Love You
■監督 アラン・レネ
■脚本 ジャック・ステルンベール/アラン・レネ
■撮影 ジャン・ボフティ
■編集 アルベール・ジュルジャンソン/コレット・ルルー
■音楽 クシシュトフ・ペンデレツキ
■出演 クロード・リッシュ/オルガ・ジョルジュ=ピコ/アヌーク・フェルジャック
© CINE MAG BODARD
★『ラ・ジュテ』と同時上映
【2025/7/5(土)~7/11(金)上映】
時のかけらをたどって、ぼくは何度でもきみに会いに行く。
「時間」を研究するクレスペル研究所で、タイムトラベル実験への参加を依頼された主人公のクロード。一年前へ旅だった彼の目の前に広がるのは夏の真っ青な海、そこにいるのは、かつて破滅的なまでに愛し合った恋人カトリーヌだった。しかしマシンの故障により過去に閉じ込められてしまったクロードは、ばらばらに散らばった思い出を追体験していくのだが──。
フランスの巨匠アラン・レネがおくる〈記憶〉をめぐるタイムトラベル・ラブストーリー
わたしたち誰もが持つ、もっとも小さな秘密の芸術ともいうべき「記憶」と、人類にとって欠かせない「時間」という概念、そして世界が始まって以来の永遠のミステリーである「愛」をテーマにしたタイムトラベル・ラブストーリー『ジュテーム、ジュテーム』。ミシェル・ゴンドリーの『エターナル・サンシャイン』をはじめ、多くの作品に影響を与えた幻のSF映画が日本劇場初公開。監督は『二十四時間の情事』『去年マリエンバートで』などで知られ、クリストファー・ノーラン、チャーリー・カウフマン、スティーヴン・ソダーバーグ、アルフォンソ・キュアロンほか現代ハリウッドの名匠たちも敬愛する巨匠、<映画界きっての時間旅行者(タイムトラベラー)>アラン・レネ。まるで呼び戻されるように、何度も、何度もある地点へと舞い戻り、かつての恋人と出会いなおす主人公。パズルのように散らばった「記憶」をわたり歩いた先に、彼がみた景色とは──?
バロン
The Adventures of Baron Munchausen
■監督 テリー・ギリアム
■製作 トーマス・シューリー
■脚本 テリー・ギリアム/チャールズ・マッキーワン
■撮影 ジョゼッペ・ロトゥンノ
■音楽 マイケル・ケイメン
■出演 ジョン・ネビル/サラ・ポーリー/エリック・アイドル/ユマ・サーマン/オリバー・リード
© 1989 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.
【2025/7/5(土)~7/11(金)上映】
永遠の愛と希望を世界に! バロンは4人の仲間を求めて危険で不思議な冒険の旅に出た。月へ、地底へ、そして大海へ…。
時は18世紀のドイツの町。毎日のようにくり返されるトルコ軍の攻撃のために、人々は飢えと貧困で疲れ切っていた。海にはトルコ軍の船団が停泊し、海岸からは無数の兵士が押し寄せてくる。人々は悲惨な現実から逃避できず、夢や空想を忘れていた。いや、たったひとり、10才の少女サリーだけは違っていた。超能力を持つ4人の部下を従える伝説の英雄、バロンがいつの日か現れて町を救ってくれるものと信じていた。
戦闘は激しさをました。そして、廃墟と化した町に、ある日忽然と現れたひとりの男。彼は自分が伝説の主人公バロンであると声高に叫び始めた。だが、町の人々は誰も信じなかった。彼らにとって大事なことは、ひとりの英雄ではなく、自分たちの生命だったからだ。だが、サリーは違った。彼を追って、懸命に説得を始めた。「私たちの町を救ってください。4人の部下を探してトルコ軍をやっつけてください。」渋るバロンもサリーの熱意に負け、仲間を探すことに決めた。さぁ、目もくらむ冒険とファンタジーの世界をめざし、気球に乗って出発だ!
壮大なストーリーと映像美で描く、ほら吹き男爵の奇想天外な冒険物語!
実在した世界一のほらふき男爵、バロン・フォン・ミュンヒハウゼンをモデルに、月、地底、海への奇想天外な夢の旅を映像化したユーモアたっぷりの冒険物語。映像の天才児、テリー・ギリアムが創造した圧倒的なイマジネーションの世界。本作の最大の見どころは目を見張るビジュアルである。
ギリアムがとった手法は“とにかくイメージの産物を実物大に創りあげること”、つまりフィジカル・エフェクトを映像作りの最大のテーマとしたのだ。イタリア・スペインのロケ地で町を再建して実写する一方、イタリアのチネチッタスタジオの16のステージのうち6スタジオを占拠し、実物大の巨大なセットを組んで撮影。このフィジカル・エフェクトとSFXの合体が驚異の映像スペクタルを完成させた。映画のハイライトとなる戦闘シーンでは延べ8万人のエキストラ、数千頭もの馬と象が出演。この迫力は『アラビアのロレンス』『ベン・ハー』をもしのぐすさまじいモブ・シーンだといわれている。
――公開当時のチラシより一部抜粋
不思議惑星キン・ザ・ザ デジタル・リマスター版
Kin-dza-dza!
■監督 ゲオルギー・ダネリア
■脚本 レヴァス・ガブリアゼ/ゲオルギー・ダネリア
■撮影 バーヴェル・レヴェシェフ
■音楽 ギア・カンチェリ
■出演 エヴゲーニー・レオノフ/ユーリー・ヤコヴレフ/スタニスラフ・リュブジン/レヴァン・ガブリアゼ
■1987年リオデジャネイロ国際映画祭グラフィック・コンセプション特別賞受賞/1988年ニカ賞音楽賞・音響賞受賞
© Mosfilm Cinema Concern, 1986
【2025/7/5(土)~7/11(金)上映】
地球よ、おまえは遠かった
妻に頼まれて街へ買い出しに出た建築家マシコフ、そこに「あのひとがヘンなこと言ってます」と学生ゲデバンが助けを求めてきた。浮浪者のような風態の〈あのひと〉は、自分は別の惑星からきた者で、自分の星に帰りたい、とふたりに懇願する。そんな胡散臭い話は信じないマシコフは、男が持っていた“空間移動装置”のボタンをうっかり押してしまう。と、次の瞬間、ふたりは砂漠のど真ん中にワープ。そこは地球ではなくキン・ザ・ザ星雲にある惑星プリュクだった…。
ファンが愛してやまない変な映画がよみがえった!クー! ! 『2001年宇宙の旅』も唖然の超SF巨編!
本作は、思いがけず“空間移動装置"のボタンを押してしまい、キン・ザ・ザ星雲の惑星ブリュクにワープしてしまった地球人2人が“クー"としか言わない汚い異星人たちに騙されながらも地球に帰還を試みる姿を描く、史上空前の脱力SF超大作。監督は名実ともにロシアを代表するゲオルキー・ダネリア。75年作品『AFONYA』は6,220万人の観客動員を記録し、もはや意味不明な領域に達してしまったロシア映画界の巨人だ。
そして音楽は世界的作曲家のギア・カンチェリが担当、史上最も気の抜けたサントラを作りだしてしまっている。旧ソ連時代当時の社会や、資本主義世界に対する皮肉や風刺などが他に類をみない途方もなくゆるい脱力空間とともに展開され、『2001年宇宙の旅』(68年/スタンリー・キューブリック監督)、『惑星ソラリス』(72年/アンドレイ・タルコフスキー監督)、『未来世紀ブラジル』(85年/テリー・ギリアム監督)などの名だたるSF作品群と比較されるほどの人気を誇りつつ、実はこの世に類似作が見当たらないというまさにクーな作品である。