2026.07.30

スタッフコラム「馬場・オブ・ザ・デッド」by牛

恐怖映画コラムを書いていると、他のスタッフから「牛さん、この映画観た?」と何やら怖そうな作品を勧められることが多々あります。ありがたい反面、私は誰よりもビビりである自覚があるので、いつも半ほほ笑みの表情で「教えてくれてありがとう♪」とお返事をしています。

恐怖映画といっても、幽霊だったり殺人鬼だったり、いろいろな恐怖の形がありますが、私は中でも「血」が苦手です。現実世界でも、毎年健康診断の採血はとても憂鬱であります。私が、ビビリなのに恐怖映画を観続けているのは、たくさん見ていれば、いつか恐怖の気持ちがなくなるのではないか。という願い(?)があるからです。そんな中で、スタッフSさんからおすすすめされた『人体の構造について』(2022)という作品をご紹介します。

こちらの作品は、パリの病院を舞台にしたドキュメンタリー。医師や医療従事者たちの日常を通して、普段見ることができない人体の中身に焦点を当てた作品です。ドキュメンタリーなので、出てくる人体はもちろん本物。ナレーションや説明的なものは一切ないまま、脳や内臓、眼球などなど…身近な存在であるはずの私たちの人体の中身がカメラを通して鮮烈に映し出されます。

腸の内部の無数のひだひだ、スライスされる眼球の表面、摘出された黒く肥大化した皮膚の一部だったもの…。見たことがない医療現場のリアルに、サーっと自分の体から血の気が引いていくのがわかりました。極めつけに、むき出しになった背骨をノミと金槌で削っていく、まるで日曜大工のような手術の映像には「どんなホラー映画よりも怖いんですけど」と半泣き状態でした。

この作品で映し出される映像も凄まじいのですが、生死と隣り合わせの現場で交わせられる医療従事者たちの会話もまたすごいのです。私たちが普段しているような談笑をしながら、手元では大量出血中の体内を縫合していたり、はたまた手際よくご遺体の処理をする看護師のうしろでノリノリのレゲエミュージックが流れていたり…。非日常だと思っていた世界が、日常の延長線上だったという事実に私はとても驚いたのです。

人の命に係わるお仕事の緊張感は、いち映画館スタッフの私には計り知れません。いつも憂鬱であった健康診断も、できれば避けて通りたいと思っていた医療の現場のことも、思わぬところで知ることが出来ました。(Sさん、ありがとう)。そして、医療の現場で働く全ての皆さんに大きな敬意を感じたのでした。

(牛)