2026.06.04

スタッフコラム「踊りとえいがと」 byクララ

『鉄の服』

先日退勤するとき、出口に空き缶が置いてありました。なぜ置いて行ってしまうのだろうという気持ちと、それどころじゃないくらい疲れ果てていた人がいたのかもなぁと思い、置いてあった空き缶を拾った私は、通っていた美術予備校にいた子のことを思い出しました。彼女は、新宿で捨てられた空き缶を拾い集め、切り開いて編み込み、ボブスレーのソリの形状をした服を作っていました。そしてスケボーのように台車へ腹ばいになって、元々空き缶が落ちていた新宿で滑っていました。空き缶が転がっているだけでは何の違和感もない新宿の風景なのに、転がっていた空き缶がボブスレーとして通過していくことで異彩を放つ。また、そのことによって周囲の人から声を掛けられ止められそうになる状況にも、対等に話し合い立ち向かっていく姿は、とてもかっこよく印象に残っています。

ボブスレーの出てくる映画があるか調べたところ『クール・ランニング』が出てきました。『クール・ランニング』は、誰もボブスレーをしたことがないジャマイカで、オリンピックを目標にしていた陸上選手とその友人とで冬季オリンピックを目指すコメディ映画です。バラバラな4人が徐々に息が合っていく過程や、劇中流れるレゲエのリズムと穏やかな雰囲気がとても心地よいです。結果として4人は、ソリの故障でレースには負けてしまうのですが、お下がりでボロボロのソリで試合に臨む姿勢や、壊れたソリを4人で運んでゴールラインを迎える姿には感動させられました。ジャマイカで中継を見る家族や友人、ずっと馬鹿にしてきたほかの国の選手がそれまでになかった雰囲気で彼らを包み込み、迎える熱いクライマックス。氷の上も陸の上も“ジャマイカ”パワーで駆け抜けていくとても爽快な映画で、家で見ていた私はエンドロールの劇伴と共に体をくねらせ、寝ていた妹が起きるほどひとり興奮の余韻で踊っていました。

『クール・ランニング』も空き缶で作ったソリで新宿を滑る彼女も、他人にどう見られるかではなく、ほんとに大切と思えることと正面から向き合うことで観客や鑑賞者へ伝わるものを生みだすのだと改めて考えさせられました。

(クララ)