クリント・イーストウッドとスティーヴン・スピルバーグ。1971年に『恐怖のメロディ』と『激突』で共に長編デビューを果たしてから、瞬く間にアメリカを代表する作家、この半世紀の間世界をリードする巨匠となった二人。
イーストウッドが監督を務めた『硫黄島からの手紙』や『父親たちの星条旗』、『ヒア・アフター』などでは、スピルバーグがプロデューサーとして制作を支えたほか、『マディソン郡の橋』や『アメリカン・スナイパー』は、スピルバーグが監督をするはずだった企画をイーストウッドが監督することになったという因縁が深い関係でもある。
今回上映する『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』と『15時17分、パリ行き』はどちらも実際に起きた出来事だ。
長く続くベトナム戦争、疲弊する国民の戦争反対の声の中、戦況を分析した政府報告書「ペンタゴン・ペーパーズ」をニューヨーク・タイムズが告発する。その存在をアメリカ政府は30年間、4代もの大統領が隠ぺいし続けていたのだ。そして、タイムズ紙が国家保安上の危機として起訴されている最中に、続いて紙面に文書を掲載したのが今回描かれるワシントン・ポストだ。
スピルバーグ監督が『レディ・プレイヤー1』の製作を一時中断して取りかかったという『ペンタゴン・ペーパーズ』は、トランプ政権下のジャーナリズムの在り方を憂慮して、急遽制作を決定。『リンカーン』などでは不可能だったが、多くの関係者にインタビューをしながら作られたという。
2015年8月21日、乗客554名を乗せたアムステルダム発パリ行きの高速鉄道タリスの中で起きたイスラム過激派による銃乱射事件。1人がその場で重傷を負うも、居合わせた乗客が犯行を食い止めた。
イーストウッド監督は、一躍ヒーローとして表彰されることになったスペンサー・ストーン、アレク・スカラトス、アンソニー・サドラーを本人役で起用し映画化した。さらに彼らだけでなく、他の乗客までもできるかぎり本人たちで、実際の車輌、実際の場所で再現するように撮られたという。
なぜ実際に起きた事件を扱い、実際の人々を起用するのか。リスクを冒しながらも、巨匠たちはアメリカのヒーローたちを描こうとする。ひとりで全てをなぎ倒すような“超人的”なヒーローなんて存在しない現代に、運命と対峙しながら、いまここでなにかを選択しようとする人たちの姿だ。
自分たちはそんな選択ができるだろうか? いや、彼らは“自分で選択した”というほど、強くたくましい顔をしているわけではない。不安気で悩み、それでも何かをふりきるように、衝き動かされるように踏み出す。その姿に今も心を掴まれたままだ。
15時17分、パリ行き
The 15:17 to Paris
(2018年 アメリカ 94分 シネスコ)
2018年8月11日から8月17日まで上映
■監督 クリント・イーストウッド
■原作共著 スペンサー・ストーン/アレク・スカラトス/アンソニー・サドラー/ジェフリー・E・スターン
■製作 クリント・イーストウッド/ティム・ムーア/クリスティーナ・リベラ/ジェシカ・マイヤー
■脚本 ドロシー・ブリスカル
■撮影 トム・スターン
■編集 ブルー・マーレイ
■音楽 クリスチャン・ジェイコブ
■出演 スペンサー・ストーン/アレク・スカラトス/アンソニー・サドラー/ジュディ・グリア/ジェナ・フィッシャー/トーマス・レノン/P・J・バーン/トニー・ヘイル
©2018 Warner Bros. Entertainment Inc., Village Roadshow Films (BVI) Limited, RatPac-Dune Entertainment LLC
2015年8月21日、アムステルダム発パリ行きの高速列車タリスが発車した。 フランス国境内へ入ったのち、突如イスラム過激派の男が自動小銃を発砲。 乗務員は乗務員室に逃げ込み、554名の乗客全員が恐怖に怯える中、幼馴染の3人の若者が犯人に立ち上がった――。
2015年に起きたパリ行きの特急列車内で起きた無差別テロ襲撃事件。極限の恐怖と緊張感の中、武装した犯人に立ち向かったのは、ヨーロッパを旅行中だった3人の心優しき若者たちだった。なぜ、ごく普通の男たちは死の危険に直面しながら、命を捨てる覚悟で立ち向かえたのか?
本作では、なんと主演は“当事者本人”という極めて大胆なスタイルが採用された。実際の事件に立ち向かった勇敢な3人がそれぞれ自分自身を演じている。さらに乗客として居合わせた人たちが出演し、実際に事件が起こった場所で撮影に挑んだ究極のリアリティーを徹底追求した前代未聞のトライアル。我々はこの映画で“事件”そのものに立ち会うことになる。
まだ誰も踏み入れたことのない新しい映画の可能性。87歳を迎えても尚、新たな挑戦を続けるトップランナーは、いつ、どこでテロに直面してもおかしくない今、我々誰もができること、必要なことを提示する。
「この映画はごく普通の人々に捧げた物語である。」
――クリント・イーストウッド
ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書
The Post
(2017年 アメリカ 116分 ビスタ)
2018年8月11日から8月17日まで上映
■監督 スティーヴン・スピルバーグ
■製作 エイミー・パスカル/スティーヴン・スピルバーグ/クリスティ・マコスコ・クリーガー
■脚本 リズ・ハンナ/ジョシュ・シンガー
■撮影 ヤヌス・カミンスキー
■プロダクション・デザイン リック・カーター
■編集 マイケル・カーン/サラ・ブロシャー
■衣装 アン・ロス
■音楽 ジョン・ウィリアムズ
■出演 メリル・ストリープ/トム・ハンクス/サラ・ポールソン/ボブ・オデンカーク/トレイシー・レッツ/ブラッドリー・ウィットフォード/ブルース・グリーンウッド/マシュー・リス/アリソン・ブリー
■第90回アカデミー賞作品賞・主演女優賞ノミネート/第75回ゴールデン・グローブ賞主要6部門ノミネート
©Twentieth Century Fox Film Corporation and Storyteller Distribution Co., LLC.
1971年、ベトナム戦争が泥沼化し、アメリカ国内には反戦の気運が高まっていた。国防総省はベトナム戦争について客観的に調査・分析する文書を作成していたが、戦争の長期化により、それは7000枚に及ぶ膨大な量に膨れあがっていた。
ある日、その文書が流出し、ニューヨーク・タイムズが内容の一部をスクープした。ライバル紙に先を越され、ワシントン・ポストのトップであるキャサリン・グラハムと編集主幹ベン・ブラッドリーは、残りの文書を独自に入手し、全貌を公表しようと奔走する。しかし、それは同時に政府を敵に回すということ。報道の自由、信念を懸けた"決断"の時は近づいていた…。
話題作が尽きないスピルバーグ監督が、「今、撮るべき作品」として撮影中だった『レディ・プレーヤー1』を差し置いてメガホンを取った渾身作! ベトナム戦争末期、民主主義国家として報道の自由を掲げる憲法を守るために団結した新聞社の人々の戦いを描く。
ハリウッドを代表する名優メリル・ストリープとトム・ハンクスが初共演し、真実によって自由になる未来を守るため、苦悩しながらも奮闘する2人のジャーナリストを熱演。製作陣にもスピルバーグ作品常連の一流スタッフが揃った。
キャリアを通して歴史的変遷の瞬間を描いてきたスピルバーグが、自身が映画製作者として地位を確立したのと同時代である1970年代に初めてカメラを向け、危機的状況におけるニュース報道の現場、女性の社会進出、民営化の到来、そして何もよりも人の絆と勇気についての渾身の物語を完成させた。
「わかるかい? 今、この時代にも同じことが起きているって。」
――スティーヴン・スピルバーグ