1970年に発表されたベルトルッチ監督『暗殺のオペラ』とスコリモフスキ監督『早春』は、それまで一部熱狂的なファンを生んでいた若き映画作家が、より一般的な物語映画の枠の中でその感性を爆発させた歴史的作品だという点も共通しています。不幸にも日本では長い間観る機会がレアな状況が続いてきましたが(特に『早春』は初公開時以来今年までリバイバルもソフト化もされておらず、TV放映版をダビングしたテープやディスクがごく最近までシネフィルの間を回っていました…)、どちらも現在まで世界中に影響を与え続ける映画作家二人を語るにはマストな重要作です。
暗殺のオペラ デジタル・リマスター版
Strategia del ragno
(1970年 イタリア 99分 スタンダード)
2018年10月27日から11月2日まで上映
■監督 ベルナルド・ベルトルッチ
■製作 ジョヴァン
ニ・ベルトルッチ
■原作 ホルヘ・ルイス・ボルヘス <伝奇集>より「裏切り者と英雄のテーマ」による(岩波文庫)
■脚本 ベルナルド・ベルトルッチ/マリル・パロリーニ/エドゥアルド・デ・グレゴリオ
■撮影 ヴィットリオ・ストラーロ/フランコ・ディ・ジャコモ
■音楽 ヴェルディ/シェーンベルク
■出演 ジュリオ・ブロージ/アリダ・ヴァリ/ティノ・スコッティ/ピッポ・カンパニーニ/フランコ・ジョバンネリ
■1971年ヴェネチア国際映画祭 ルイス・ブニュエル賞受賞
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北イタリアのとある小さな町に降りたった男の父は、かつてこの町でレジスタンスの闘士として活躍しファシストの手によって殺されていた。父の愛人から犯人を突きとめて欲しいと頼まれた男は、父の死の真相を探る為にやってきた。当時の関係者からヴェルディのオペラ“リゴレット”やシェイクスピアの“マクベス”からの引用を散りばめながら、父の姿が語られる。次第に彼は驚くべき事実に直面する…。
ボルヘスの原作を〈父と子〉というベルトルッチ的な物語へと大胆に脚色した野心作。本作で初めて起用された撮影監督ヴィットリオ・ストラーロの手がける流麗でシンメトリーな構図を多用した映像美と、現在と過去が混然一体となった語り口は、観る者を快く惑わせるような陶酔の映像世界を紡いでいきます。
冒頭の衝撃的な絵画の使い方は『ラスト・タンゴ・イン・パリ』へ、そしてファシズムというテーマは後の傑作『暗殺の森』へと引き継がれるなど、ベルトルッチのフィルモグラフィ上でも要となる作品であり、若々しい遊び心と後の華々しい名作群を予感させる骨太なストーリーテリングが魅力的です。
早春 デジタル・リマスター版
Deep End
(1970年 イギリス/西ドイツ 92分 ビスタ)
2018年10月27日から11月2日まで上映
■監督 イエジー・スコリモフスキ
■脚本 イエジー・スコリモフスキ/イエジー・グルザ/ボレスワス・スリク
■撮影 チャーリー・スタインバーガー
■音楽 キャット・スティーヴンス/CAN
■出演 ジェーン・アッシャー/ジョン・モルダー=ブラウン/ダイアナ・ドース/カール・マイケル・フォーグラー/クリストファー・サンフォード/エリカ・ベール
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ロンドンの公衆浴場に就職した15歳のマイクは、そこで働く年上の女性スーザンに恋心を抱く。だが婚約者がいながら別の年上男性ともつきあう彼女の奔放な性生活を知るうち、マイクの彼女ヘの執着は徐々にエスカレートしていく…。
近作『イレブン・ミニッツ』でも破天荒な世界を見せてくれたスコリモフスキ。彼の作品は物語の意味を超えて躍動するアクションや色彩、音への過剰な(時として謎な)こだわりと原初的な喜びに溢れています。一見無邪気な作風にも思えますが、それは現実とぶつかってしまう人々の感情を繊細に写し取る眼差しと表裏一体だからこそ、スコリモフスキにしか生み出せない切実な美しさを生むのだと思います。『早春』はそんなスコリモフスキの詩情が最も鮮烈な一本です。
溢れ出る想いに突き動かされるマイクの「痛い」と「おもしろい」が共存した一挙一動は鮮烈な色彩設計や音響と絡み合い、スクリーンからは凄まじい陶酔感と切迫感が溢れ出ます。トラウマ級の衝撃的なラストシーンの残酷な美しさは永遠です。
(by ルー)