今週の早稲田松竹は90年代後半から00年代前半にかけて、20、30代の女性に絶大な人気を博した漫画家・魚喃キリコの作品が原作の特集です。『南瓜とマヨネーズ』、『ストロベリーショートケイクス』、『blue』の三本を上映いたします。
私はこの三作品それぞれが公開された時期に、主人公たちと同じ年齢で時を過ごしてきました。学生時代、二十代前半、そしていま二十代後半に抱えた言葉にできない思いを、物語にかたちにしてもらい、それでもなお魅力的に描かれている彼女たちの姿に自分を肯定してもらっていました。
現代女性の気持ちを同性の視点で描いた原作ですが、すべて男性の監督によって映画化されています。その映像は、共通して女性たちの感情の機微を驚くほど繊細に優しくとらえていて、原作とはまた違うリアルさに心を揺さぶられるのです。
恋人との生活、仕事と私生活のバランス、憧れの友人との出会いと将来。私たちの日常にもありそうな存在のささいな変化が、物語の中で未来を変えてしまうきっかけになっています。
たとえばいつもの誰かと過ごす時間や、通いなれた場所、朝起きて夜眠るだけの特別じゃない日。なにか少しでも欠けてしまえば、“ありふれた平凡”と呼んでしまった今日と同じ明日はこないのに、繰り返しているうちにそれが脆いものだと忘れてしまうのです。
今回上映する三作品は、どれもそんな日常を丁寧に切り取っています。だからこそ、“平凡”を生きる多くの人を、これからも救っていくのだろうなと思うのです。
ストロベリーショートケイクス
(2006年 日本 127分 ビスタ/SR)
2018年2月24日から2月26日まで上映
■監督 矢崎仁司
■原作 魚喃キリコ「strawberry shortcakes」(祥伝社刊)
■脚本 狗飼恭子
■撮影 石井勲
■音楽 虹釜太郎/miroque
■出演 池脇千鶴/中越典子/中村優子/岩瀬塔子/加瀬亮/安藤政信
■パンフレット販売なし
★3日間上映★フランス語字幕つきでの上映となります。
スペシャルな人のスペシャルになれるような、恋の訪れを待つフリーターの里子。一途に一人の男を想い続け、老後は一人でマンションに住み、惚けたら自殺すると決めているデリヘル嬢の秋代。独立して働く塔子に憧れつつも自分は男に愛される女性を演じているOLちひろ。プライドが高く、強く生きようとするがために過食と嘔吐をくり返す、過食症のイラストレーター塔子。性格も職業も異なる4人の女性が、それぞれの幸せを求め、傷つき泣きながらも人生にきちんと向かい合っていく――。
『三月のライオン』で禁断の愛を描いた矢崎仁司監督が魚喃キリコの傑作コミック『strawberry shortcakes』を映画化。恋愛小説の旗手、狗飼恭子が脚本を手掛ける本作品はせつなさ、やさしさが胸に突き刺さる物語だ。
里子には『ジョゼと虎と魚たち』『そこのみにて光輝く』の池脇千鶴。恋に恋するかわいらしい部分やどこかさっぱりとした骨太な里子像を演じきっている。OLのちひろには中越典子が確かな演技力で、ともすると女性の敵にもなりがちなキャラクターを、未知の温かさを感じさせる魅力的な存在に昇華させている。秋代には『血と骨』での壮絶な演技を披露した中村優子。脇を固める男性陣は、安藤政信と加瀬亮。4人の女性たちをとりまく恋愛模様をリアルに演じている。
blue
(2001年 日本 116分 MONO/ビスタ)
2018年2月27日から3月2日まで上映
■監督 安藤尋
■原作 魚喃キリコ「blue」(マガジンハウス刊)
■脚本 本調有香
■撮影 鈴木一博
■編集 冨田伸子
■音楽 大友良英
■出演 市川実日子/小西真奈美/今宿麻美/仲村綾乃/高岡蒼佑/村上淳/河原崎建三
■第24回モスクワ国際映画最優秀女優賞受賞
©魚喃キリコ/blue PRODUCTION PARTNERSHIP2001
★4日間上映高3になって進路という言葉を聞かされても、やりたいことなんてそんなに簡単に決められない。たくさんのクラスメートが同じ制服を着て黒板に向かう。だけどカヤ子には遠藤だけが特別に見えた。どこか大人っぽいけど派手なわけでもなく、物静かにうつむいている、ただそれだけ。でもカヤ子の視線はいつも遠藤のところで止まってしまう。彼女の好きな曲、読んでいる本、彼女が思っていること、もっといろんなことが知りたかった。わたしなんて全然幼いし追いつけないと分かってるけど、できることならわたし、遠藤になりたい――。
日常に流されてしまうようなふとした瞬間をすくい上げ、その繊細で鋭い感性に多くの読者が魅了され続けている魚喃キリコによる同名原作コミック「blue」。安藤尋監督は10代の不安な気持ちを知りながらも、やがては自分の足で立ってもらいたいという厳しさと優しさを込めて映画化した。
クラスメートに恋心に似た憧れを抱く桐島カヤ子を演じる市川実日子の柔らかさ、桐島が目で追う同級生・遠藤雅美を演じる小西真奈美の透明感、それぞれの想いや過去を知る遠藤の親友・中野を演じる今宿麻美の意外な表情。映画、音楽、ファッション、さまざまなジャンルで活躍する出演者が織りなす青色の瞬間。制服姿の少女たちの、奔放で傷つきやすく無垢だからこそ切ない感情がまじりあう。
南瓜とマヨネーズ
(2017年 日本 93分 シネスコ)
2018年2月24日から3月2日まで上映
■監督・脚本 冨永昌敬
■原作 魚喃キリコ「南瓜とマヨネーズ」(祥伝社フィールコミックス)
■撮影 月永雄太
■編集 田巻源太
■音楽 やくしまるえつこ
■出演 臼田あさ美/太賀/浅香航大/若葉竜也/大友律/清水くるみ/岡田サリオ/光石研/オダギリジョー
©魚喃キリコ/祥伝社・2017『南瓜とマヨネーズ』製作委員会
★7日間上映
ツチダは同棲中の恋人・せいいちのミュージシャンになる夢を叶えるため、内緒でキャバクラで働き、生活を支えていた。一方、曲が書けずスランプに陥ったせいいちは、毎日仕事もせずにダラダラと過ごす日々。しかし、ツチダがキャバクラの客・安原と愛人関係になり、生活費を稼いでいることを知ったせいいちは、心を入れ替え働き始める。ツチダが今でも忘れられない昔の恋人・ハギオと偶然の再会を果たしたのはそんな矢先だった。過去の思い出にしがみつくように、ハギオにのめり込んでいくツチダだったが…。
日常の普遍的な尊さと女性の繊細な心情をリアルに描いた、魚喃キリコの代表作「南瓜とマヨネーズ」。脆くこわれやすい日常が、あたりまえに続いていくことの大切さを説くこの恋愛漫画の金字塔を、『乱暴と待機』、『ローリング』で知られる鬼才・冨永昌敬監督が実写映画化。
ツチダを演じるのは、5年ぶりの主演となる女優・臼田あさ美。ツチダの現在の恋人せいいち役には太賀、自由奔放で女好きな昔の恋人・ハギオ役をダギリジョーが演じ、原作の持つ世界観を忠実に再現した。その出来栄えには、原作者の魚喃キリコも「みごとにのまれた、感謝!」と最大級の賛辞を送る。ときに甘く切ない恋のほろ苦さ、人には言えない葛藤を描いた、心に突き刺さる等身大の恋愛映画が誕生した。