「死は誰にでも訪れる。その先にはなにもない」

ラッキーは現実主義者だ。まやかしを信じない。 現実主義を辞書で調べると「状況をありのまま受け入れる姿勢や行動と、ありのままの状況に対処する心構え」とある。彼は誰かが決めたルールよりも、現実を直視しようとつとめてきた。人々はことあるごとにこれはこうあるべきだ、こうじゃなきゃいけないと騒ぎ立てる。ラッキーは言う。「現実は物だ。ただ一つしかない。ただし、自分が見ている現実と他の人の現実は違うのだ」と。

戦争は我々に分かりやすい構図を突きつける。目の前で敵が銃口を向けて立っていたら、あなたはどうする?自分の目の前にある自分の死と相手の死。一つのようでいて、まったく違う現実が口をあけている。イラクが大量破壊兵器を。ベトナムに共産主義が。テロが。ロケットが。どこに現実はあるのだろうか。すでに多くのものを失った者たちは知っている。そこには「なにもない」ことを。

かつて自分たちが派兵されたベトナム戦争の傷を抱えながら生きてきた「30年後の同窓会」の3人の男たちの前にある現実は、30年前と何も変わっていない。それは戦友の死であり、友人の息子の死だ。そこにはなにもない。しかし彼らは道連れ旅を続けていく。なにもないままにしておくにはあまりにも過酷な現実に向かって。「さらば冬のかもめ」だけでなく、60年代、70年代のアメリカをニューシネマともに反戦を生きた時間の30余年もの堆積が、いまベトナム戦争とイラク戦争の関連性を暴露しながら、その空虚さに苦しむ彼らの姿を我々の前に晒すのだ。

人生の時間の流れのなかで、背負い、運んできた物語は彼らの前で急に消え去りはしない。その先に何もないことを知りながら、彼らは生きることを演じているようにさえみえる。俳優たちはむしろそのことを知り抜いているのではないか。「自分のままで映画のなかに存在すること。それが自分にできることだ」とハリー・ディーン・スタントンが語るとき。そこには同時に様々な物語が、像が、彼の上を通過しながら彼を作り上げていることがわかる。『パリ、テキサス』のトラヴィスの歩みをラッキーの姿に重ね合わせずに見ることは不可能だ。そこに堆積していく時間たちは、いつしか荒野に立つサボテンのように大きく聳え立つ。ただそれだけ。ただそれだけで、わたしたちは彼らのことをたくさん知ることができるのだ。

(ぽっけ)

30年後の同窓会
Last Flag Flying
(2017年 アメリカ 125分 DCP ビスタ) pic 2018年9月8日から9月14日まで上映
■監督 リチャード・リンクレイター
■原作 ダリル・ポニックサン
■製作 ジンジャー・スレッジ/リチャード・リンクレイター/ジョン・スロス
■脚本 リチャード・リンクレイター/ダリル・ポニックサン
■撮影 シェーン・ケリー
■音楽 グレアム・レイノルズ

■出演 スティーヴ・カレル/ブライアン・クランストン/ローレンス・フィッシュバーン/J・クイントン・ジョンソン/ユール・バスケス/シシリー・タイソン

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息子の遺体を故郷に連れ帰る旅に誘ったのは、
30年間音信不通だった友。
再会の旅は3人の心から剥ぎ取っていく。
悲しみと罪悪感。そして寂しさも。

pic 男一人、酒浸りになりながらバーを営むサルと、破天荒だった過去を捨て今は牧師となったミューラーの元に、30年間音信不通だった旧友のドクが突然現れる。ドクは、1年前に妻に先立たれたこと、そして2日前に遠い地で息子が戦死したことを2人に打ち明け、亡くなった息子を故郷に連れ帰る旅への同行を依頼する。

バージニア州ノーフォークから出発した彼らの旅は、時にテロリストに間違われるなどのトラブルに見舞われながら、故郷のポーツマスへと向かう――。

リチャード・リンクレイター監督最新作は
名優たちで贈る「50才のスタンド・バイ・ミー」

pic『6才のボクが、大人になるまで。』で世界中の賞レースを席巻したリチャード・リンクレイター監督が描く「50才のスタンド・バイ・ミー」。原作は『さらば冬のかもめ』(73)の原作者としてしられるダリル・ポニックサンの2005年の小説だ。原作に心を動かされたリンクレイターは、それから12年掛けて映画化を実現させた。

pic 30年前に起きた“ある事件”をきっかけに、大きく人生が変わってしまった男たち。語り合い、笑い合って悩みを打ち明ける再会の旅路で、3人の人生が再び動き出す。スティーヴ・カレル(『フォックスキャッチャー』)、ブライアン・クランストン(『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』)、ローレンス・フィッシュバーン(『マトリックス』シリーズ)という名優たちが集結し、乾いた心に優しい涙が沁み渡る珠玉のロードムービーが誕生した。

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ラッキー
Lucky
(2017年 アメリカ 88分 DCP PG12 シネスコ)
pic 2018年9月8日から9月14日まで上映 ■監督 ジョン・キャロル・リンチ
■脚本 ローガン・スパークス/ドラゴ・スモーニャ
■撮影 ティム・サーステッド
■編集 スロボダン・ガジック

■出演 ハリー・ディーン・スタントン/デヴィッド・リンチ/ロン・リビングストン/エド・ベグリー・Jr./トム・スケリット/ベス・グラント/バリー・シャバカ・ヘンリー/ジェームズ・ダーレン/イヴォンヌ・ハフ・リー

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孤独と一人は、同じじゃない。
90歳の気難しい現実主義者が
人生の終盤で悟る、「死とはなにか」

pic神など信じずに生きてきた90歳のラッキーは、今日もひとりで住むアパートで目を覚まし、コーヒーを飲みタバコをふかす。いつものバーでブラッディ・マリアを飲み、馴染み客たちと過ごす。そんな毎日の中でふと、人生の終わりが近づいていることを思い知らされた彼は、「死」について考え始める――。

「人生の終わり」にファンファーレは鳴り響かない――
名優ハリー・ディーン・スタントン、最後の主演作。

pic 現実主義で一匹狼、すこし偏屈なラッキーを演じるのは、2017年9月に亡くなったハリー・ディーン・スタントン。名バイプレイヤーとして知られるジョン・キャロル・リンチが、全ての者に訪れる人生の終わりについて、スタントンの人生になぞらえて描いたラブレターともいえる初監督作品である。

また、ラッキーの友人役として、映画監督のデヴィッド・リンチが出演。実際、長きにわたる友人である彼らを当て書きした脚本は哲学的で示唆に富んでおり、彼らの“素”を思わせるやりとりを見ることができる。

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