1928年3月1日、フランスのルーアンに生まれる。49年にパリに出て、シネマテークに通った。50年にエリック・ロメール、ジャン=リュック・ゴダールらとともにシネクラブ・デュ・カルティエ・ラタンから機関誌「ラ・ガゼット・デュ・シネマ」を創刊。52年には「カイエ・デュ・シネマ」に映画批評を書くようになり、ロメールの後を継ぎ63〜65年にかけて同誌の編集長を務めた。
監督としては、49年から短編を数本撮ったあと、60年に『パリはわれらのもの』で長編デビュー。二作目の『修道女』は宗教団体からのクレームにより上映禁止処分、TV用に作られた71年の『アウト・ワン』は12時間半という長尺から放映を拒否されるなど、傑作を作りながらも不遇であったが、80年代に入ってからは批評、興行ともに成功を収め、91年『美しき諍い女』はカンヌ映画祭グランプリに輝いた。
2000年代に入っても、『恋ごころ』('01)はカンヌ、『ランジェ公爵夫人』('07)はベルリン、『ジェーン・バーキンのサーカス・ストーリー』('09)はヴェネツィアに出品されるなど、第一線で活動した。2016年1月29日、87歳で死去。
リヴェットはヌーヴェルヴァーグ内でも映画狂として知られ、ゴダール、トリュフォーより数歳年上でロメールを長兄とすれば次兄にあたり、実際にこの映画運動を導いていた。リヴェットなしではヌーヴェルヴァーグは語れない存在である。
・隈取り遊び('49)〈未・短編〉
・カドリーユ('50)〈未・短編〉
・気晴らし('52)〈未・短編〉
・王手飛車取り('56)〈未〉
・パリはわれらのもの('60)〈未〉
・修道女('66)
・映画の師、ジャン・ルノワール('66)〈未〉
・狂気の愛('69)〈未〉
・アウト・ワン('71)〈未〉
・アウト・ワン・スペクトル('72)〈未〉
・セリーヌとジュリーは舟でゆく('74)
・デュエル('76)〈未〉
・ノロワ('76)〈未〉
・メリー・ゴー・ラウンド('81)〈未〉
・北の橋('81)
・地に堕ちた愛('84)
・嵐が丘('85)
・彼女たちの舞台('88)
・美しき諍い女('91)
・美しき諍い女/ディヴェルティメント('92)
・ジャンヌ/薔薇の十字架('94)
・ジャンヌ/愛と自由の天使('94)
・ジャンヌ・ダルク/I 戦闘 II 牢獄('94)
・パリでかくれんぼ('95)
・キング・オブ・フィルム/巨匠たちの60秒 ('95)〈未・オムニバス〉
・シークレット・ディフェンス('95)〈未〉
・恋ごころ('01)
・Mの物語('03)
・ランジェ公爵夫人('07)
・ジェーン・バーキンのサーカス・ストーリー('09)〈未〉
今年(2016年)1月に亡くなったジャック・リヴェット監督は、『狂気の愛』『アウト・ワン』(上映時間なんと12時間40分!)『セリーヌとジュリーは舟でゆく』といった規格外のとんでもない作品を撮り続けた怪物的な映画作家です。
とはいえ、「陰謀」や「演劇」といった、終生こだわり続けたモチーフはあったとしても、リヴェットの映画の個性は一見するとつかみどころがありません。ですが、曖昧で謎めいた時間の流れからめくるめくような映画体験を立ち上がらせるところに、リヴェットの魔術があります。監督のヴィジョンを観客に押し付けることに彼は興味を示しません。どの作品でも俳優(特に女優たち)との強い共犯関係を結び、彼らの個性を大胆に取り込んでいくことで、誰にも真似できない独自の宇宙を創りだしてしまうのです。
今回上映するのは、甘美なリヴェット的迷宮に観る者を誘う『彼女たちの舞台』、リヴェットが敬愛する溝口健二に勝るとも劣らない悲壮な傑作『修道女』、そして画家とモデルとの優美かつ過酷な闘争を描いた90年代を代表する傑作『美しき諍い女』の3作品です。それぞれが、ロランス・コート、アンナ・カリーナ、エマニュエル・ベア−ルという3人の美しい女優のスター映画としても十分愉しめる作品であり、リヴェット作品をマニア向けの難解なイメージで敬遠している人たちにこそ観てほしい作品です。
他のヌーヴェルヴァーグ作家よりも遥かに遅れて世界的評価が追いついた彼の作品は、同時代よりむしろ私たち後世の観客に向けて作られたものに私には思えます。今回の特集が、このマジカルな映画作家とより多くの人たちとの(再)遭遇のきっかけになってくれることを、心から願っています。
彼女たちの舞台
La bande des quatre
(1988年 フランス/スイス 160分 ビスタ/MONO)
2016年8月6日-8月8日上映
■監督・脚本 ジャック・リヴェット
■脚本 パスカル・ボニツェール/クリスティーヌ・ローラン
■撮影 カロリーヌ・シャンプティエ
■編集 カトリーヌ・クズマン
■出演 ビュル・オジエ/ブノワ・レジャン/ ロランス・コート/フェイリア・ドゥリバ/ベルナデット・ジロー/イネス・デ・メディロス/ナタリー・リシャール
■1989年ベルリン国際映画祭国際評論家連盟賞・功労賞受賞
★3日間上映です。
女流演出家、コンスタンス・デュマの演劇学校に通う4人の若い女性、アンナ、クロード、ジョイス、ルシアはパリ郊外の屋敷で一緒に暮らしている。ある日のこと、アンナは展覧会の帰りに2人の男に襲われ、見知らぬ男に救われる。その男は、以前彼女たちと屋敷で暮らしていた同級生のセシルが恋人のことで危険な目に遭いかかっていると告げる。
不審に思ったアンナが尋ねてみると、ジョイスもその男から同じ事を聞いたと言う。一方学校ではマリヴォーの「二重の不実」の稽古が続いているが、どうもセシルは何かを隠しているらしく様子がおかしい。また、例の男が相変わらず屋敷のまわりをうろつきまわり、彼女たち一人一人を誘惑し始める。深まる謎の中でしだいに4人は疑心暗鬼に陥ってゆき…。
『彼女たちの舞台』はいくつもの物語の要素が組み合わせた、ゲームのような味わいに満ちた映画である。閉鎖的な演劇の世界を扱ったドキュメンタリー的な映画であると同時に、謎めいた犯罪をめぐるミステリー映画でもあり、また、いかにもフランス的な恋の駆け引きを主題にした心理ドラマでもある。さらには同じキャリアをめざす若い女性たちの友情とその破綻を巧みに描き出してもいる。こうした重層する複雑な物語を、リヴェットは、夢のように美しいイメージで染め上げ、人間関係の深い真実を浮かび上がらせていく。
ヌーヴェル・ヴァーグの精神を鮮やかに体現した作家でありながら、日本では紹介が遅れ、『彼女たちの舞台』が初めて正式公開されたジャック・リヴェットの作品となった。
修道女
Suzanne Simonin, la religieuse de Denis Diderot
(1966年 フランス 141分 ビスタ)
2016年8月6日-8月8日上映
■監督・脚本 ジャック・リヴェット
■原作 ドニ・ディドロ「修道女」
■製作 ジョルジュ・ド・ボールガール
■脚本 ジャン・グリュオー
■撮影 アラン・ルヴァン
■編集 ドニーズ・ド・カサビアンカ
■音楽 ジャン=クロード・エロワ
■出演 アンナ・カリーナ/リゼロッテ・プルファー/ミシュリーヌ・プレール/フランシーヌ・ベルジェ/フランシスコ・ラバル
■1966年カンヌ国際映画祭パルム・ドールノミネート
★3日間上映です。
貧乏貴族の娘シュザンヌは、家庭の事情から修道院に預けられ、修道女になるよう強制される。尊敬していた院長が亡くなり、新任の院長が来たことから悲劇は拡大する。新院長は狭量で独善的な女性で、規律を破ったシュザンヌを拷問し監禁する。裁判所に訴え出るシュザンヌの行動はうまくいかず、修道院を移ることになった。今度の修道院は明るく、自由な雰囲気に溢れていた。しかし、実はここでは退廃した恋愛関係が渦巻いており…。
教会の偽善化のなかであえぐ一人の女性の苦悩を描いた、ジャック・リヴェットの長篇第二作目。前衛的な映画監督に見られがちなリヴェットの古典性への指向を示し、そして一人のヒロインを中心にした一代記であるという点でも特異な作品である。溝口健二の『西鶴一代女』から影響を受けた面も見られる。原作はフランスの哲学者、ドニ・ディドロが1766年に発表した小説「修道女」。
本作は、最初は製作資金が集められず、まず舞台劇として上演された。その後ジャン=リュック・ゴダールのプロデューサー、ジョルジュ・ド・ボールガールが資金を出し、舞台版の戯曲を再構成して映画化。ゴダール映画のミューズ、アンナ・カリーナがシュザンヌを演じる。
1965年に映画は完成されたが、カトリックに冒涜的だとして反対運動が起こり、一時は上映禁止となり、翌年のカンヌ映画祭で初めて上映されて賛否両論の論争を巻き起こした。
美しき諍い女
La belle noiseuse
(1991年 フランス 229分 SD)
2016年8月9日-8月12日上映
■監督・脚本 ジャック・リヴェット
■原作 オノレ・ド・バルザック「知られざる傑作」(岩波文庫刊)
■脚本 パスカル・ボニツェール/クリスティーヌ・ローラン
■撮影 ウィリアム・ルプシャンスキー
■編集 ニコル・ルプシャンスキー
■絵画制作・手の出演 ベルナール・デュフール
■音楽 イゴール・ストラヴィンスキー
■出演 ミシェル・ピッコリ/ジェーン・バーキン/エマニュエル・ベアール/マリアンヌ・ドニクール/ダヴィッド・バースタイン/ジル・アルボナ
■1991年カンヌ国際映画祭グランプリ受賞
★4日間上映です。
★1本立て上映のため、ラスト1本割引はございません。
★途中休憩あり
画商ポルビュスの計らいで大画家フレンフォーフェルの邸宅に招待された新進画家ニコラとその恋人マリアンヌ。フレンフォーフェルは10年ほど前、妻のリズをモデルに描いた自らの最も野心的な未完の傑作「美しき諍い女」を中断して以来、絵を描いていなかったが、マリアンヌをモデルにその最高傑作を完成させる意欲を奮い起こした。
最初はモデルになることを嫌がったマリアンヌは、ニコラの薦めもあって5日間で完成させることを条件にしぶしぶ了承する。だがフレンフォーフェルの要求は彼女の考える以上に苛酷なもので、肉体を過度に酷使する様々なポーズを要求され、さらには彼女の内面の感情そのものをさらけ出すことを求められる…。
バルザックの短編「知られざる傑作」を自由に脚色した、約4時間に及ぶ大作。未完の絵画を巡って、画家と妻、モデルとその恋人、収集家たちの心情をじっくりと浮き彫りにし、“表現することと人生”を問いかける。そこには、愛憎、若さと老いといった普遍的なモチーフが紡がれている。フレンフォーフェルを演じるのは名優ミシェル・ピッコリ。その妻にはジェーン・バーキン。モデルをマリアンヌ役にはエマニュエル・ベアールが一糸まとわぬ姿で体当たりの演技を披露している。1991年カンヌ映画祭グランプリ受賞作品。