top

今週上映する作品は『君が生きた証』『はじまりのうた』
それぞれの主人公は、ある出来事がきっかけで、歌を通して自分と向き合ってゆきます。

『君が生きた証』の主人公・サムは、息子の死がきっかけで自暴自棄に陥ります。
2年後、その息子が遺した歌をぽろんと、ギターで弾き始めました。
それまで目をそむけていた息子の死という事実に、少しだけ手を触れるかのように。
彼の歌は、引っ込み思案のロック青年・クエンティンの心を動かしました。
「もっと多くの人に聴かせるべきだ。一緒にやりましょう!」とサムに熱い想いをぶつけます。

本作は名優ウィリアム・H・メイシーの初監督作品。
自身も音楽好きで、ギターやキーボードをたしなみ、撮影現場でもウクレレを手放さなかったのだとか。
吹き替え無しのライブシーンが話題になっており、その素晴らしい演奏も見所なのですが、
サムの息子の心情が見え隠れする歌詞にもご注目ください。
物語が進み、息子の死の真相が明らかになったとき、振り返りたくなるものばかりです。

一方、『はじまりのうた』の主人公・グレタは、恋人に裏切られ、失意のどん底でした。
友人に無理矢理ステージに上げられたグレタは、悲しいんだか、悔しいんだか、
「都会で独りぼっちのあなたへ」と、うつろな目つきで淡々と歌いはじめます。
そんな彼女の歌に、落ちこぼれの音楽プロデューサー・ダンは、ひとり心を弾ませていました。
そして「一緒にアルバムを作ろう!」と酔っぱらいながらもグレタを必死に説得します。

メガホンを取ったのは、かつてはアイルランドのロックバンド、
ザ・フレイムスのメンバーだったというジョン・カーニー監督。
それだけに、音楽に対するこだわりは強いはず。
ニューヨークの街中でレコーディングするという発想がまず素敵!
開放的な空間での演奏は、見ているだけでもワクワクします。
そのニューヨークの風景もさることながら、グレタ演じるキーラ・ナイトレイ初披露の歌声にもご注目!
とても可愛く心地よい歌声に、思わず聴き入ってしまいます。

ひとりぼっちの歌声にたった1本のギターから、2本に増え、ベースやドラムが入って、キーボードにコーラスなどなど・・・
アレンジが加わることで全く別な顔を見せていく、まるで歌も人間と同じように変化していく様を魅力的に描きだします。

そして、歌も物語も最高に盛り上がったところで、サムとグレタは現実と向き合いはじめます。
やっと息子の死を受け入れたサム。恋人のことを、死ぬほど愛していたグレタ。
ぽつりぽつりと紡ぐ言葉は、また優しい音に乗り、誰かの心の元へと届くのです。
その歌は、あなたにとっても人生を見つめ直すきっかけになるかもしれません。

さぁ、彼らの新たな人生のはじまりのメロディー。
どうぞ、聴いてください。

(もっさ)

君が生きた証
RUDDERLESS
(2014年 アメリカ 105分 DCP ビスタ) pic 2015年8月22日から8月28日まで上映
■監督・製作総指揮・脚本 ウィリアム・H・メイシー
■製作総指揮 ジェフ・ジョンソン/パトリシア・コックス/ネイサン・ケリー/アーロン・L・ギルバート/ジョン・レイモンズ/アリ・ジャザイェリ/ジェイコブ・ペチェニック
■脚本 ケイシー・トゥウェンター/ジェフ・ロビンソン
■撮影 エリック・リン
■編集 ジョン・アクセルラッド
■音楽 ソリッドステート/イーフ・バーズレイ

■出演 ビリー・クラダップ/アントン・イェルチン/フェリシティ・ハフマン/セレーナ・ゴメス/ローレンス・フィッシュバーン

■サンダンス映画祭プレミア部門出品/クロージング作品

俺は息子のことを
どれだけ知っていただろうか――

picやり手の広告宣伝マンのサムは、大学で起きた銃乱射事件で息子のジョシュを亡くしてしまう。2年後、会社を辞めて荒んだボート暮らしを送るサムを、別れた妻が訪ねてきた。「あの子の音楽好きはあなた譲りだから」と渡されたのは、生前にジョシュが書き溜めていた自作曲の歌詞とデモCDだった。

曲を聞いたサムは、ジョシュが遺したギターでその曲を爪弾くようになり、場末のライブバーの飛び入りステージに参加する。唯一サムの演奏に魅了されたロック青年のクエンティンは「あの曲はもっと多くの人に聴かせるべきだ」と力説する。その情熱に押し切られ、サムは親子ほど年の違うクエンティンとバンドを組むことになるのだが…。

息子が遺した奇跡の音楽――。
運命に導かれるように父親はギターを手にした。

pic本作で監督デビューを飾ったのは『ファーゴ』や『マグノリア』での味のある存在感で知られる名優ウィリアム・H・メイシー。長年撮影現場で生きてきた経験と、演技からもにじみ出るペーソスとユーモアを活かし、良質な“人間ドラマ”と“音楽”をみごとに融合させてみせた。

pic主演は『ビッグ・フィッシュ』のビリー・クラダップ。クエンティン役には自らのバンドも持つアントン・イェルチン。彼らは共に吹き替えなしで歌とギターを担当している。音楽を奏でる喜びに包まれる演奏シーンの数々には魅了されずにはいられない。サムたちの心の旅の果てに訪れるラスト。すべての人に語りかけるようなクラダップの歌声に、誰もが静かな涙を禁じ得ないだろう。

このページのトップへ
line

はじまりのうた
BEGIN AGAIN
(2013年 アメリカ 104分 DCP ビスタ) pic 2015年8月22日から8月28日まで上映
■監督・脚本 ジョン・カーニー
■製作 アンソニー・ブレグマン/トビン・アームブラスト/ジャド・アパトー
■撮影 ヤーロン・オーバック
■編集 アンドリュー・マーカス
■音楽 グレッグ・アレクサンダー

■出演 キーラ・ナイトレイ/マーク・ラファロ/ヘイリー・スタインフェルド/アダム・レヴィーン/ジェームズ・コーデン/ヤシーン・ベイ(モス・デフ)/シーロー・グリーン/キャサリン・キーナー

■2014年アカデミー賞歌曲賞ノミネート/放送映画批評家協会賞歌曲賞ノミネート

ニューヨークの空の下。
歌と出会って、明日が見えた。

picグレタとミュージシャンのデイヴは、二人で作った曲が映画主題歌に抜擢されてメジャーデビューが決定。初めてニューヨークへとやって来た。今までとは違う、セレブのような生活。しかし、スターとして忙しくなるデイヴとすれ違いの日々が続くなか、遂に彼の浮気が発覚する。

デイブに裏切られライブハウスで歌う失意のグレタ。そこで偶然居合わせた落ちこぼれの音楽プロデューサー・ダンが彼女の歌を絶賛し始め、一緒にアルバムを作ろうと持ちかける。歌を忘れようとしているグレタをなんとか説得し、デビューの話へと発展するが、ダンが思いついた録音スタジオは、なんとニューヨークの街角だった――?!

凹んだ心は、いつか凸らむ。
音楽がつなぐ予想外の出会いと、最高の「はじまり」の物語。

pic監督はアカデミー賞受賞『ONCE ダブリンの街角で』で世界的に注目を集めたジョン・カーニー。今回はダブリンからニューヨークへと舞台を移し、悩める人々が音楽を通じて運命を切り開く姿を温かなまなざしで描き出した。全米公開時は当初5館の限定公開だった本作。その後、口コミパワーで1300館以上にまで拡大し、異例の大ヒットとなった。

pic主演のグレタ役には『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズ、『危険なメソッド』のキーラ・ナイトレイ。本作では初めてギターを弾きながらキュートな歌声を披露し、新しい魅力を開花させている。ダン役には『キッズ・オールライト』、『アベンジャーズ』のマーク・ラファロ。グレタの恋人役には、アメリカの人気ロックバンド・マルーン 5のボーカリスト、アダム・レヴィーン。本作で映画デビューを果たした彼は、ノーギャラで出演したことでも話題となった。

このページのトップへ