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David Cronenberg

監督■デヴィッド・クローネンバーグ

1943年、カナダ・トロント生まれ。事件記者の父親、ピアニストの母親のもとで育つ。トロント大学在学中に文学の創作に取り組む一方、友人からの影響で映画に興味を抱き、2本の16o短編『Transfer』(66)、『From the Drain』(67)を監督。

続いて35mm映画『ステレオ/均衡の遺失』(69)、『クライム・オブ・ザ・フューチャー/未来犯罪の確立』(70)を手がけたのち、謎の寄生生物が引き起こす惨劇を描いた『デビッド・クローネンバーグのシーバーズ』(75・未)で商業映画デビューを果たした。

その後も異色作を連打し、サイキック・スリラー『スキャナーズ』(81)、禁断のビデオテープが人間にもたらす影響を描いた『ヴィデオドローム』(82)、スティーヴン・キング原作のサスペンス映画『デッドゾーン』(83)で熱狂的なファンを獲得。

『ザ・フライ』(86)では古典SF「蝿男の恐怖」のリメイクに挑み、J・G・バラード原作の倒錯的な愛の物語『クラッシュ』(96)ではカンヌ国際映画祭審査員特別賞、仮想現実ゲームを題材にした陰謀劇『イグジステンズ』(96)ではベルリン国際映画祭芸術貢献賞を受賞した。

ヴィゴ・モーテンセンを主演に迎えた『ヒストリー・オブ・バイオレンス』(05)と『イースタン・プロミス』(07)の2作品では、人間と暴力の関係を考察して新境地を開拓。息子のブランドン・クローネンバーグも2012年『アンチヴァイラル』で長編映画デビューを果たしている。

filmography

・ステレオ/均衡の遺失(1969)
・クライム・オブ・ザ・フューチャー/未来犯罪の確立(1970)
・デビッド・クローネンバーグのシーバース(1975)<未>
・DAVID CRONENBERG SHORTS デヴィッド・クローネンバーグ 初期傑作選(1975)<TV>
・ラビッド(1977)
・クローネンバーグの ファイヤーボール(1978)<未>   
・ザ・ブルード/怒りのメタファー(1979)  
・スキャナーズ (1981)  
・ヴィデオドローム(1982)
・デッドゾーン(1983)
・ザ・フライ(1986)
・13日の金曜日(1987〜1990)<TV>
・戦慄の絆(1988)
・裸のランチ(1991)
・エム・バタフライ(1993)
・クラッシュ(1996)
・イグジステンズ(1999)
・short6(1999〜2001)  
・スパイダー/少年は蜘蛛にキスをする(2002)
・ヒストリー・オブ・バイオレンス(2005)
・イースタン・プロミス(2007)       
・それぞれのシネマ 〜カンヌ国際映画祭60回記念製作映画〜(2007)
・危険なメソッド(2011)
・コズモポリス(2012)

*監督作品のみ


デヴィッド・クローネンバーグ監督作品には不気味さがある。

その不気味さは湿り気のある寄生虫や脈打つ金属、
爆発する頭のような直接的なものから、
『ヒステリー・オブ・バイオレンス』
『イースタン・プロミス』といった作品で感じる間接的な不気味さへと移っていく。
それはまるで現実の素材が、
あたかも非現実的なものの輪郭をなぞるように、
目に映らず次第に積もっていくようだ。

『コズモポリス』で登場する自動車の奇形のような白いリムジンも、
ヒステリー症状で女性の体が歪む『危険なメソッド』にも、
過去の作品で感じたような不気味さが確かにある。
しかしそのある一瞬を除いて、
この2つの作品からはそれ以上のものを感じるのは難しい。

淡々と繰り広げられる会話と手紙のやり取りが、
狭い空間で話される専門的で難しい言葉が、
その不気味なものを上から覆ってしまっている。

『危険なメソッド』で行われる談話療法で
心的トラウマがヴィジョンとしてではなく会話として現れるように、
または『コズモポリス』に登場する若い投資家が
リムジンの会話の裏側で緩やかに破滅していくように、
決定的なものがより見えにくくなっている。

閉じられた空間にガスが充満していくかのような妙な危機が、
言葉の隙間からにじみ出て、
気付かないうちに身体に影響を与えてしまう。

そういった初期のクローネンバーグ監督のような凄みは、
『イースタン・プロミス』におけるアクションの凄みを通して、
最新作『コズモポリス』では会話の凄みへと変貌しているように感じる。
発せられては消えてゆく言葉の数々が、何度もこちらを困惑させつつも、
目を離すことができない。
シャープでシンプルな映像の向こう側に、
なんだかクローネンバーグ監督の活き活きとした姿が見て取れるような気がしてならない。

(ジャック)

危険なメソッド
A DANGEROUS METHOD
pic(2011年 イギリス/ドイツ/カナダ/スイス 99分 DCP PG12  ビスタ)
2013年8月31日から9月6日まで上映
■監督 デヴィッド・クローネンバーグ
■原作 ジョン・カー
■原作戯曲・脚本 クリストファー・ハンプトン
■撮影 ピーター・サシツキー
■編集 ロナルド・サンダース
■音楽 ハワード・ショア

■出演 キーラ・ナイトレイ/ヴィゴ・モーテンセン/マイケル・ファスベンダー/サラ・ガドン/ヴァンサン・カッセル

■2011年ゴールデン・グローブ助演男優賞ノミネート

許されぬ愛。測れない心。

pic1904年。チューリッヒのブルクヘルツリ病院に勤める29歳の精神科医ユングは、精神分析学の大家フロイトが提唱する斬新なメソッド“談話療法”を、新たな患者ザビーナに実践する。まもなくユングはザビーナの幼少期の記憶をたどり、彼女が抱える性的トラウマの原因を突き止めることに成功する。しかし、ふたりはしだいに医師と患者の一線を越え、お互いに愛情を抱き始める。サビーナをめぐるユングの内なる葛藤はフロイトとの友情にも亀裂を生じさせていく…。

ユングとフロイト。
二人の心理学者の偉大な功績の背景には、
美しい女性患者との禁断の関係が隠されていた…

pic鬼才デヴィッド・クローネンバーグが、名脚本家クリストファー・ハンプトンによる舞台劇を映画化。禁断のトライアングルで結ばれたユング、フロイト、ザビーナが織りなす愛と友情、野心と挫折、欲望と嫉妬の凝縮されたドラマをスリリングに映し出す。一貫して人間の“変容”というテーマを追求してきたクローネンバーグならではの視点がうかがえ、底知れない深みを感じさせる一作となった。

pic『SHAME -シェイム-』『ジェーン・エア』『プロメテウス』など話題作が相次ぐマイケル・ファスベンダーが駆け出し時代のユングに扮し、このうえなく繊細な感情表現を披露。実在の女性ザビーナを演じるのは、『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズのキーラ・ナイトレイ。鋭い感性&知性の持ち主にして、マゾヒスティックな性癖を隠し持つという異色のヒロインを、凄まじい絶叫シーンや過激なセックス・シーンも辞さない渾身の熱演で体現した。またフロイト役のヴィゴ・モーテンセンにとって、本作は『ヒストリー・オブ・バイオレンス』『イースタン・プロミス』に続く3本目のクローネンバーグ作品となる。いつもながらの徹底的な役作りでカリスマ性あふれる心理学者になりきり、重厚な存在感を発揮している。



コズモポリス
COSMOPOLIS
pic(2012年 フランス/カナダ 110分 DCP R15+ ビスタ)
2013年8月31日から9月6日まで上映
■監督・脚色 デヴィッド・クローネンバーグ
■原作 ドン・デリーロ『コズモポリス』(新潮社刊)
■撮影 ピーター・サシツキー
■編集 ロナルド・サンダース
■音楽 ハワード・ショア

■出演 ロバート・パティンソン/ジュリエット・ビノシュ/サラ・ガドン/マチュー・アマルリック/ジェイ・バルシェル/ケヴィン・デュランド/ケイナーン/エミリー・ハンプシャー/サマンサ・モートン/ポール・ジアマッティ

■2012年カンヌ国際映画祭パルムドールノミネート

巨万の富と女にまみれた若き投資家の
栄光と破滅の24時間
男は、自らを待つ死を知らなかった――

pic28歳にして大富豪のエリック・パッカー。N.Y.の街を走る白いリムジンの中で、巨万の富を動かし続けている。天国と地獄が紙一重の世界で金の動きに一喜一憂し、大損の危機に面しながらもセックスの快楽に溺れる。背後から、暗殺者が迫っていることも気づかず、彼の一日は狂い始めていく…。

デヴィッド・クローネンバーグ監督最新作
資本主義時代の終焉を
黙示録的に描く極上サスペンス

pic1980年代に放った『スキャナーズ』『ヴィデオドローム』などの異色作でカナダを代表する鬼才となり、21世紀に入ってからも数々の問題作を世に送り出しているデヴィッド・クローネンバーグが、まさしく“想像を絶する”としか言いようのない衝撃的な映画を完成させた。それが現代アメリカ文学の巨星ドン・デリーロの同名小説を映画化した『コズモポリス』である。『トワイライト』シリーズのロバート・パティンソンが今までの役柄とはまったく違う、ヴァイオレンスと狂気に満ちた男を熱演したことは大きな話題となり、2012年カンヌ国際映画祭ではコンペティション部門に正式出品され絶賛を浴びた。

全編の大半がマンハッタンの雑踏をゆくリムジン内で進行する本作は、かつて誰も見たことのないオリジナリティに貫かれ、なおかつクローネンバーグ的な映画濃度100%の異彩を放っている。ハイテク仕様のリムジンの内部は、人間的な生きる実感や身体性を喪失した主人公エリックを象徴するヴァーチャル空間であり、まるで近未来SFと見紛うほどのシュールな非現実感が充満。さらに姿なき暗殺者をめぐるエピソードが異様なサスペンスを醸し出す本作は、たった2マイルを移動する一日の出来事を通して、若き大富豪の人生崩壊をこのうえなくスリリング&ドラマティックに映し出す。原作者も絶賛する唐突なラスト・シーンの果てに待ち受けているのは“死”か、それとも真新しい“生”なのか。観る者の知的好奇心をかき立て、危うくも甘美な幻想&妄想へと誘うクローネンバーグ・ワールドの真骨頂がそこにある。



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