今週は、大切な家族と仕事を持つ女性が主人公の物語。
『アリスのままで』と『サンドラの週末』を上映致します。
アリスは高名な言語学者として、大学で教鞭をとっている。
夫は愛情にあふれ、結婚している長女と医学生の長男には何の不安もない。
ただ、女優を目指す一番下の次女だけが心配の種だった。
ある日、物忘れが多いアリスは診察を受けた。
後日、医師から宣告されたのは若年性アルツハイマーだった。
今の医学では記憶を失うことは止められず、家族と共に病と闘うことになる。
アリスの病が進行していくことで、充実していた生活は一変する。
日課だったキャンパスでのランニング中、立ち尽くし迷ってしまう事。
娘が大好きな母の味、パン・プディングのレシピをこっそり調べる事。
アイスクリーム屋で、大好きだったトッピングを夫が優しく教えてくれる事。
そういった事が「私はあと、どれだけアリスでいられるのだろう」と考えさせるようになる。
そして、自分がアリスのままでいるために未来の自分へメッセージを残す決心をする。
サンドラは飲食店で働く夫、小さな子供二人と共に暮らし、ソーラーパネル工場で働く。
しかし、体調不良から仕事を休職していた。
ある金曜日、サンドラは突然の解雇を言い渡される。
それを覆す方法は、16人の同僚のうち過半数がボーナスを諦めること。
夫と共に同僚たちを直接説得してまわる長い週末が始まる。
サンドラは同僚へ「ボーナスを諦めて欲しい」と頼む事に苦しさを感じる。
「泣いちゃダメ」と自分に言い聞かせ、胸に詰まる気持ちを抑えるように水を飲む。
それでも、疲れ果ててベッドに横になるけれど、すぐに起き上がるサンドラ。
移動中の車中で夫が止めたカーステレオのボリュームを上げていく!
サンドラ自身が、生きる自信を取り戻すために必死でサンドラを支えていくのだ。
二人が直面する厳しい運命。
その運命により、今までの日常は揺らぎ、平静が保てなくなる。
けれど二人は周りの人間に支えられながら、
これまで生きてきた道と、これから生きてゆく道を繋ごうとする。
サンドラは直接同僚に想いを伝える事で、アリスは生きている証を誰かに託す事で。
それは生きている瞬間を懸命に生きるという事。
今週の早稲田松竹は“ひとりの人間の強さ”と“人の絆の温かみ”を感じる二本立てです。
サンドラの週末
DEUX JOURS, UNE NUIT
(2014年 ベルギー/フランス/イタリア 95分 ビスタ)
2015年12月5日から12月11日まで上映
■監督・製作・脚本 ジャン=ピエール・ダルデンヌ/リュック・ダルデンヌ
■製作 ドニ・フロイド
■撮影 アラン・マルコアン
■編集 マリ=エレーヌ・ドゾ
■美術 イゴール・ガブリエル
■衣装 マイラ・ラムダン=レヴィ
■出演 マリオン・コティヤール/ファブリツィオ・ロンジォーネ/クリゼット・コルニル/オリヴィエ・グルメ/カトリーヌ・サレ
■第87回アカデミー賞主演女優賞ノミネート/カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品/ヨーロッパ映画賞最優秀女優賞/シドニー映画祭グランプリ/ニューヨーク映画批評家協会賞主演女優賞 ほか多数受賞・ノミネート
体調不良から休職をしていたが、ようやく復職できることになった矢先の金曜日に、上司から解雇を言い渡されたサンドラ。解雇を免れる方法は、16人の同僚のうち過半数が自らのボーナスを諦めること。ボーナスをとるか、サンドラをとるか。月曜日の投票に向け、家族に支えられながら週末の二日間、同僚たちを説得に回るサンドラだったが…。
カンヌ国際映画祭で史上初の5作品連続で、2度のパルムドール大賞を含む主要賞6賞の受賞を誇るダルデンヌ兄弟。そんな彼らが主演にマリオン・コティヤールを迎え描き出したのは、自分の存在価値を何度も疑いながらも、自身を見つけ出す等身大のひとりの女性の物語。マリオン・コティヤールはサンドラの弱さと強さ、繊細さ、心の機微を渾身の演技で魅せ、数多くの主演女優賞を受賞、アカデミー賞主演女優賞にノミネートされた。
研ぎ澄まされた演出で常に新しい世界を提示するダルデンヌ兄弟と、華やかさを封印し確かな演技力を遺憾なく発揮したマリオン・コティヤール。この最強の組み合わせから“人の強さを信じる”感動の物語。エンディングを含め映画音楽を一切排し、観客は主人公が知りえる情報のみを共有し、サンドラと一体となって試練を乗り越えようとする。本作で描かれる人と人の絆、人間の強さ。すべてが心を揺さぶるこの物語に誰もが感嘆するだろう。
アリスのままで
STILL ALICE
(2014年 アメリカ 101分 ビスタ)
2015年12月5日から12月11日まで上映
■監督・脚色 リチャード・グラッツァー/ウォッシュ・ウェストモアランド
■原作 リサ・ジェノヴァ「アリスのままで」(キノブックス刊)
■撮影 デニス・ルノワール
■編集 ニコラ・ショードゥルジュ
■音楽 イラン・エシュケリ
■出演 ジュリアン・ムーア/アレック・ボールドウィン/クリステン・スチュワート/ケイト・ボスワース/ハンター・パリッシュ
■第87回アカデミー賞主演女優受賞/ゴールデン・グローブ賞女優賞受賞/英国アカデミー賞主演女優賞受賞/インディペンデント・スピリット賞主演女優賞受賞/放送映画批評家協会賞主演女優賞受賞 ほか多数受賞・ノミネート
ニューヨーク、コロンビア大学で教鞭をとる言語学者のアリスは50歳。ある日の講義中に、突然言葉が思い出せなくなり、ジョギング中に自宅の帰り道すら分からなくなる。彼女の病名は若年性アルツハイマー病。家族の介護もむなしく、日々、記憶や知識が抜け落ちていく中、ある日アリスは、パソコンにかつての自分からのビデオメッセージを発見する。自分が自分であり続けるために、かつてのアリスが自身に託したメッセージとは…?
ニューヨーク・タイムズ紙のベストセラーランキングに40週間にもわたってランクインし、世界各国で25の言語に翻訳されたリサ・ジェノヴァの同名小説を、リチャード・グラッツァー、ウォッシュ・ウェストモアランド監督が映画化。自身もALS(筋萎縮性側策硬化症)と闘病中のグラッツァーが、誰のせいでもない苦しみと、その中にもなお喜びを見出そうとするアリスの心境に細やかに分け入った。
本作でアリスを演じたジュリアン・ムーアは日々記憶を失くしながらも最後まで懸命に闘おうとする姿を、真正面から怯むことなく演じきり、アカデミー賞主演女優賞を受賞したほか、世界各国の映画賞で多数の主演女優賞を獲得した。アリスの夫には『ブルージャスミン』のアレック・ボールドウィン。長女に『ブルークラッシュ』のケイト・ボスワース、次女に『オン・ザ・ロード』のクリステン・スチュワート。
自分の名前すら思い出せなくなっても、彼女が生きた証は決して消えはしない。瞬間、瞬間を精いっぱい生きることの尊さを伝えてくれる深い感動の物語が誕生した。