私にとって17歳は、自分が何者だかわからない時期だった。それ故に大きな夢も描けた。しかし、ふとした時に自分は大勢の中の1人で、特別な存在ではないという事に気付き失望もした。真剣に貧困や世界経済の事に悩んだと思えば、くだらない事で授業を受けない時もあった。未来は果てしなく老いは遠く、同じ様な毎日を繰り返す。時間は無限のように感じられていた。そんな年齢だった。
『17歳』の主人公、イザベルはとても美しい。しかし瑞々しい風貌だけが美しいのではない。その愚かさ、妖艶さ、純粋さが行き交う17歳が生きる時間が美しいのだ。四季で変化していくイザベルを観ながら、段々と、過ぎ去った自分の17歳の姿を見つめていることに気が付いた。失ってしまう瞬間を閉じ込めた絵画のような作品。『17歳』という邦題がこの映画には本当にぴったりだと思う。
一方『鑑定士と顔のない依頼人』は真逆の揺れ動く初老の男の話だ。この物語は観る側の力を試される映画だと思う。物語の中に出てくる芸術品、人、言葉。それらは真偽、表裏で繋がっているように思う。例えば鑑定する絵画の「本物」と「贋作」。それを瞬時に見分ける能力を持つ主人公ヴァ―ジルには表の顔は「一流のオークショニア」、そして裏の顔は「名画コレクター」という相反するふたつの顔がある。
物語のカギとなる歴史的美術品の欠片。それはフランスの発明家、ジャック・ド・ヴォーカンソンの「オートマタ(機械人形)」の部品だということがわかる。ジャック・ド・ヴォーカンソンは近代オートマタを語る上で欠かすことの出来ない存在で、まるで生きているかのような作品を作ることで有名なのだが、彼の作品はフランス革命の際に破壊され現存するものは残っていない。ヴァ―ジルは卒論のテーマにしたくらい彼を敬愛していて、その部品が依頼人の家の中に落ちていたのだ。信用できない顔の見えない依頼人。だがある日依頼人は若く美しい娘であることが判明する。家を訪れるたびヴァージルは彼女に惹かれてゆき、そして部品も集まっていく。生身の女性との関係が表、偽物の人間であるオートマタの部品が集まり、形が見えてくるのが裏のように思えてならなかった。人間嫌いのヴァージルの心が依頼人に開き切ったとき、完成したオートマタは何を語るのか。
オークション会場の雰囲気、素晴らしい美術品の数々、エンニオ・モリコーネの美しいバロック音楽、イタリアの街並み。それを楽しむだけでも十分価値のある映画だと思う。だがこの物語には観た人の数だけの、真実と虚偽があると私は思っている。
少女であれ、初老であれ人間は幾つになっても人との関わり合いの中でのみ、自分を見つめ成長していく。その姿は時に美しく時に滑稽だ。成長の過程で失っていくものと引き換えに得られるものは何なのか。それを自分なりに考え、紐解いていける映画なのではないかと思う。今週は、あなたの感性が試される、そんな二本立てです。
17歳
JEUNE & JOLIE
(2013年 フランス 94分 ビスタ) 2014年6月21日から6月27日まで上映
■監督・脚本 フランソワ・オゾン
■製作 エリック&ニコラス・アルトメイヤー
■撮影 パスカル・マルティ
■衣装 パスカリーヌ・シャヴァンヌ
■音楽 フィリップ・ロンビ
■出演 マリーヌ・ヴァクト/ジェラルディン・ペラス/フレデリック・ピエロ/ファンタン・ラヴァ/ヨハン・レイゼン/シャーロット・ランプリング
■第66回カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品/第39回セザール賞助演女優賞・有望若手女優賞ノミネート
夏のバカンス先で初体験を終え、17歳の誕生日を迎えたパリの名門高校生イザベル。バカンスを終えてパリに戻った彼女は、SNSを通じて知り合った不特定多数の男たちと密会を重ねるようになる。
そんなある日、馴染の初老の男が行為の最中に急死。思わずその場から逃げ去ったイザベルだったが、まもなく警察によって彼女の秘密が家族に明かされた。快楽のためでも、ましてや金のためでもないと語り、あとは口を閉ざすイザベル。いったい彼女に何が起きたのか――?
新作を発表するたびに、全く違うジャンルの新しいテーマを打ち出し、世界を驚きと興奮で包み続けてきたフランソワ・オゾン。女性心理を巧みに描き、世界中の映画ファンを魅了してきたオゾン監督が本作で描くのは、17歳の少女に大きく変化していくセクシュアリティ。少女と女の間で揺れ動く17歳の四季を、いつものごとく洗練され、いつになく攻撃的な、刺激に満ちあふれた問題作に昇華している。
イザベルに扮するのは、モデル出身で本作が映画初主演となるマリーヌ・ヴァクト。オゾン監督に見出された彼女は、カンヌ国際映画祭で各国のマスコミから大絶賛され、フランス映画界の次世代を担う存在として、最も注目を集めている。娘の秘密を知ってうろたえ動揺する母をジュラルディン・ペラス、穏やかな義父をフレデリック・ピエロが演じている。さらに、オゾンの永遠のミューズ、シャーロット・ランプリングが重要な役どころを演じ、ミステリアスな17歳の心理に、ひとつの答えを提示している。
少女と女の狭間、放課後のベッドで彼女は何を思うのか――? 若さと美しさをキーワードに、幾層にも緻密に構成されたオゾン・ワールドがここに完成した。
鑑定士と顔のない依頼人
THE BEST OFFER
(2013年 イタリア 131分 シネスコ)
2014年6月21日から6月27日まで上映
■監督・脚本 ジュゼッペ・トルナトーレ
■撮影 ファビオ・ザマリオン
■編集 マッシモ・クアッリア
■音楽 エンニオ・モリコーネ
■出演 ジェフリー・ラッシュ/シルヴィア・ホークス/ジム・スタージェス/ドナルド・サザーランド/フィリップ・ジャクソン/ダーモット・クロウリー
■第26回ヨーロッパ映画賞音楽賞受賞・作品賞・監督賞・脚本賞ノミネート
天才的鑑定眼を持ち、世界の美術品を仕切る一流鑑定士にして、オークショニアのヴァージル・オールドマン。ある日鑑定依頼を受けた屋敷で彼を待っていたのは、数々の価値ある美術品と、秘密の部屋から決して出てこない女――。我慢できず、彼女の姿を盗み見たヴァージルは、その美しさにどうしようもなく惹かれていく。だが、直後、彼女は忽然と姿を消す――。
イタリアの名匠ジュゼッペ・トルナトーレ監督と、『ニュー・シネマ・パラダイス』以来、彼とずっとタッグを組んできた音楽のエンニオ・モリコーネ。世界中から称賛を浴び続け、確固たる地位と名誉を築いた二人が再び手を取り、最新作が完成した。彼らが選んだ次なるステージ──それは、退屈な日常から遠く離れて、豪華で知的で刺激的な、謎解きのひと時を堪能させてくれる、極上のミステリーだ。
ヴァージルを演じるのは、『シャイン』でアカデミー賞に輝き、『英国王のスピーチ』でも同賞にノミネートされたジェフリー・ラッシュ。秘密を抱えた依頼人には、ヨーロッパの映画やTVシリーズで人気を誇るシルヴィア・ホークス。その他、『クラウド・アトラス』で注目されたジム・スタージェス、『ハンガー・ゲーム』のベテラン俳優ドナルド・サザーランドなど、国際色豊かな演技派たちが、何層にも重なる謎に、真実味を与える演技を披露する。
鮮やかに騙されて楽しいのが、極上のミステリー。だが、この物語には、まだその先がある。美しくも切ない人生のミステリーが──。