映画館って、とても不思議な空間です。
見ず知らずの多様な人たちが集まっては、同じ時間を共有する。
携帯電話の電源は切らなきゃならないし、トイレに立っても一時停止はできない。
少しばかりのマナーと不自由さがある空間。
けれど、映画館という空間だからこそ観たい映画がある。
ひとりじゃなく、みんなで一緒に観たい映画がある。
今週はそんな二本立て
「アーティスト」「ニュー・シネマ・パラダイス」を上映します。
映画を観た記憶を振り返るとき、
観に行った劇場も一緒に思い出されたりしますよね。
あの作品は、あそこの映画館のあの席で観て、
一緒に観ていたお客さんには、あんな人がいたなぁ、なんて。
たとえ同じ作品であっても、
劇場が違えば、全く別の映画体験になったりするものです。
今週上映する「ニュー・シネマ・パラダイス」も
きっと何度も観たという方がいることでしょう。
けれど、併映する「アーティスト」と観ることで見つかる発見、
歳を重ねたからこそ湧き上がってくる新しい感情、
早稲田松竹という映画館で観る体験。
そのどれもが新鮮なものばかりです。
様々なところから集まってきた他人同士でも、
上映が始まって暗くなってしまえば、
場内のどこからともなく笑い声がして、
かと思えば隣からは涙をすする音が聞こえてくる。
あぁ〜、なんとも言えない映画館ならではの一体感。
早稲田松竹が、きっとそんな素敵な空間となる一週間を
楽しみにしております。
★それでは、スクリーンで逢いましょう★
(おまる)
ニュー・シネマ・パラダイス
Nuovo Cinema Paradiso
(1989年 イタリア・フランス 123分 ビスタ/MONO)
2012年9月1日から9月7日まで上映
■監督・脚本 ジュゼッペ・トルナトーレ
■製作 フランコ・クリスタルディ
■撮影 ブラスコ・ジュラート
■音楽 エンニオ・モリコーネ/アンドレア・モリコーネ(愛のテーマ)
■出演 フィリップ・ノワレ/ジャック・ペラン/サルヴァトーレ・カシオ/マルコ・レオナルディ/アニェーゼ・ナーノ/プペラ・マッジオ
■カンヌ国際映画祭審査員特別賞受賞/アカデミー賞最優秀外国映画賞受賞/英アカデミー賞最優秀主演男優賞・最優秀助演男優賞・最優秀外国語映画賞・最優秀作曲賞・最優秀脚本賞受賞受賞/ゴールデングローブ賞最優秀外国語映画賞受賞/ヨーロッパ映画賞最優秀男優賞・審査員賞受賞 ほか多数
1980年代のローマ。成功した中年の映画監督サルヴァトーレは、故郷のシチリアにいる母親から、アルフレードが死んだという伝言を受ける。アルフレードという懐かしい名前を聞いただけで、サルヴァトーレの脳裏にはシチリアのジャンカルド村での少年時代の記憶が、まざまざとよみがえった…白くて埃っぽい広場、教会、少年のサルヴァトーレを魅了した映画館パラダイス座。そしてパラダイス座の映写技師、アルフレード――。
戦後間もないジャンカルド村の唯一の娯楽はパラダイス座だった。トトと呼ばれていた少年サルヴァトーレも、母親の目を盗んで映画館に通いつめていた 。彼の心を魅了したのは、フィルムの宝庫である映写室と、それを操る映写技師のアルフレード。頑固者のアルフレードは映写室の聖域からトトを追い出そうとするが、やがてふたりの間には不思議な友情が芽生えていく…。
1989年のカンヌ国際映画祭審査員特別賞に輝き、イタリア映画としては15年ぶりにアカデミー賞最優秀外国語映画賞を受賞した『ニュー・シネマ・パラダイス』。日本でも単館で公開されるや、40週という異例のロングランを記録し、空前の大ヒットとなった。
人々はパラダイス座に集まっては、笑い、泣き、冒険に胸を躍らせ、恋に身を焦がす。一癖もふた癖もある映画館の常連たち、トトの成長と旅立ち、そしてアルフレードとの親子にも似た関係。監督ジュゼッペ・トルナトーレは当時33歳とは思えない見事な手腕で、映画館をとりまく人生模様と映画への愛をユーモラスかつノスタルジックに描いてみせた。そして、それを支えたのが巨匠エンニオ・モリコーネの素晴らしい音楽。有名な旋律にのせて訪れる怒涛のラストシーンは、映画ファンなら決して忘れられない感動の一瞬になるだろう。
「映画の神秘、その魅力、人を笑わせ、泣かせ、夢見させる、その力。トルナトーレは、この美しい映画の中で、これらすべての感情を与えてくれる。」――――フランチェスコ・ロージ(「予告された殺人の記録」監督)
アーティスト
THE ARTIST
(2011年 フランス 101分 ビスタ/SRD)
2012年9月1日から9月7日まで上映
■監督・脚本・編集 ミシェル・アザナヴィシウス
■製作 トマ・ラングマン
■撮影 ギョーム・シフマン
■衣装 マーク・ブリッジス
■音楽 ルドヴィック・ブールス
■出演 ジャン・デュジャルダン/ベレニス・ベジョ/ジョン・グッドマン/ジェームズ・クロムウェル/ペネロープ・アン・ミラー/ミッシー・パイル
■アカデミー賞作品賞・監督賞・主演男優賞・衣装デザイン賞・作曲賞受賞/カンヌ国際映画祭主演男優賞受賞/ゴールデン・グローブ賞作品賞・主演男優賞・作曲賞受賞/英アカデミー賞主要7部門受賞/セザール賞主要6部門受賞 ほか多数
1927年のハリウッド黄金期。映画界屈指のサイレント映画スター、ジョージ・ヴァレンタインは駆け出しの新人女優ペピー・ミラーに出会う。ペピーを見初めたジョージは、楽屋を訪れた彼女に「女優になるなら目立つ特徴がないと」と、唇の上にほくろを描いた。強く惹かれあう二人――しかし、折りしも映画産業はサイレントからトーキーへの移行期。サイレントこそ芸術、自分は芸術家だと過去の栄光に固執するジョージが没落していく一方で、ペピーは持ち前のチャーミングさでスターの座を駆け上がって行く…。
「今どき、白黒のサイレント映画?!」まったくのノーマークだった作品が、2011年カンヌ国際映画祭で急遽コンペ部門に格上げされ、あれよあれよという間に主演男優賞を受賞。カンヌを<幸福な大騒ぎ>に巻き込み、ついにはアカデミー賞で作品賞を始めとする最多5部門を受賞した奇跡の一本、それが『アーティスト』だ。落ちぶれた映画スター・ジョージと駆け出しの女優ペピーの物語が描くのは人生の困難、愛の力強さ、そして未来への希望――。セリフではなく表情や仕草で語られる様々な想いは、私たちの胸に真っ直ぐ突き刺さり、とめどなく湧き出る感動が、気が付けば涙となって溢れだす。
構想10年、白黒のサイレント映画を撮りたいと願い続け、ついに実現させたのはミシェル・アザナヴィシウス監督。敬愛するフリッツ・ラング、ジョン・フォード、そしてビリー・ワイルダーなど往年の巨匠たちにオマージュを捧げ、映画ファンにとって宝探しのような喜びに満ちた作品を作り上げた。主演はアザナヴィシウス監督作品常連のジャン・デュジャルジャン。哀愁漂う演技でアカデミー賞はじめ数々の男優賞に輝いた。また、忘れてはならないのが犬の名演。ジョージの愛犬役をつとめた“アギー”は、カンヌ国際映画祭で見事“パルム・ドッグ”賞を受賞した。