★製作から長い年月が経っているため、『あ、春』は本編上映中お見苦しい箇所、お聞き苦しい箇所がございます。 また、『翔んだカップル オリジナル版』はややプリントが退色しております。 ご了承のうえ、ご鑑賞いただきますようお願いいたします。
監督■相米慎二
1948年岩手県生まれ。高校時代から8ミリ映画を撮り始める。'72年助監督として日活に入社、曽根中生などについた後、'75年フリーに。長谷川和彦、寺山修司などの助監督を務める。'80年に『翔んだカップル』で監督デビュー。翌年、薬師丸ひろ子主演の『セーラー服と機関銃』でその年の邦画第1位を記録する大ヒットとなる。
'82年ディレクターズ・カンパニーの結成に参加。その後も『ションベン・ライダー』『台風クラブ』など着実に傑作を世に送り出し、キネ旬の'80年代監督ベスト1に選ばれる。1シーン1カットの長回しによって肉体の躍動をありのままに掬い取る技法はあまりにも有名。
'00年『風花』ではまるで別な作家であるかのような静かな落ち着きを持ち、円熟期を迎えたかにも見えたが、翌年、次回作「壬生義士伝」の準備中に肺ガンのため死去。53歳の若さだった。
・翔んだカップル('80)
・セーラー服と機関銃('81)
・翔んだカップル オリジナル版('82)
・ションベン・ライダー('83)
・魚影の群れ('83)
・ラブホテル('85)
・台風クラブ('85)
・雪の断章 情熱('85)
・光る女('87)
・東京上空いらっしゃいませ('90)
・お引越し('93)
・夏の庭 The Friends('94)
・あ、春('98)
・風花 kaza-hana('00)
※すべて監督作
いわゆる「巨匠」と呼ばれる監督が世界中には何人かいるけれど、その中でも相米慎二監督ほど変わった作品を残したひとはなかなかいない。
長回し撮影から生まれるダイナミックな映画的興奮。奇抜な音づかいや美術センスで大胆に映画の虚構性を強調するかと思えば、その物語世界を動き回る登場人物たちのリアルな感情に向ける眼差しは繊細でとても優しく、観る者の心にダイレクトに突き刺さる。時としてアヴァンギャルドといっていいくらいぶっきらぼうになるのに、人の血の通うあたたかみのある、不思議に愛おしい映画たち。80年代から90年代にかけて、こんな個性的な相米作品の多くが、一般のアイドル映画として全国公開されていた。その事実だけでも、何だかワクワクしてしまう。
相米慎二は私たちのモーゼだったのだ。
相米に導かれて、私たちは映画を撮るようになったのかもしれない。
もしくは、相米の映画を見ながら、
将来何になりたいのか、何をしたいのか、考えていたように思う。
(今岡信治[いまおかしんじ] 「映画芸術 NO.401 総力特集相米慎二」より )
80年代から90年代にかけて、相米映画は多くの若者を驚かせ、熱狂させ、映画への情熱を駆り立てた。彼らにとって相米の映画を観ることは特別な体験だった。それは、2014年現在に彼の作品をスクリーンで観る私たちにとっても、少しも変わらないものだ。おそらく、二十年後、三十年後の人々にとっても。相米映画は、いつの時代にもかけがえのないものであり続けるだろう。
あ、春
(1998年 日本 100分 ビスタ/MONO)
2014年3月8日から3月10日まで上映
■監督 相米慎二
■原作 村上政彦「ナイスボール」(集英社文庫刊)
■脚本 中島丈博
■撮影 長沼六男
■編集 奥原好幸
■音楽 大友良英
■出演 佐藤浩市/斉藤由貴/余貴美子/原知佐子/河合美智子/富司純子/三浦友和/笑福亭鶴瓶/村田雄浩/寺田農/塚本晋也/木下ほうか/岡田慶太/三林京子/藤村志保/山ア努
★3日間上映です。
韮崎紘は30半ばの働きざかりである。彼には父親がいない。母親に死んだと聞かされて成長した。一流の大学を出て証券会社に入社、良家の美しい娘と結婚し、妻の実家にかわいい息子とともに暮らしている。そんな、順調な人生を進んでいるように見えた紘の前に、ある日、一見浮浪者のような見知らぬ男が現れた。彼は紘に「俺はお前の父親だ」と告げた…。
12作目の監督作である本作で、相米は見事なホームドラマを撮ってしまった。登場人物たちへの優しい眼差しは変わらないながら、トレードマークだった長回しが前に出ることはなく、ドラマの中でより効果的に発揮されるよう、周到に行き届いた演出がなされている。いわゆるわかりやすい「相米らしさ」を期待すると少し困惑するかもしれないけれど、ここでの円熟した演出こそ相米の新たな挑戦だったのだ。その高度な達成に、今までの相米作品とは別種の驚きを覚えさせられる。
家長の紘役の佐藤浩市、突然現れる謎の父親をユーモラスに演じた山崎努をはじめ、斉藤由貴や藤村志保、富司純子といった女優陣たちの織りなすアンサンブルが素晴らしい。ほのぼのとした笑いとペーソスに満ちたドラマに、人間の死と再生という90年代の相米作品に顕著になるテーマが自然に溶け込んだ、まぎれもない傑作!
魚影の群れ
(1983年 日本 135分 ビスタ/MONO)
2014年3月8日から3月10日まで上映
■監督 相米慎二
■原作 吉村昭「魚影の群れ」(新潮文庫刊)
■脚本 田中陽造
■撮影 長沼六男
■編集 山地早智子
■音楽 三枝成章
■出演 緒形拳/夏目雅子/佐藤浩市/下川辰平/矢崎滋/寺田農/木之元亮/レオナルド熊/石倉三郎/三遊亭円楽/十朱幸代
★3日間上映です。
小浜房次郎は、娘トキ子が結婚したいという、町で喫茶店を営む俊一に会った。彼は養子に来て漁師になっても良いと言う。マグロ漁に命賭けで取り組んできた房次郎は、無性に腹だたしく感じた。店をたたみ大間に引越してきた俊一は、毎朝海に来てマグロ漁を教えて欲しいと頼む。家出した妻のように娘が自分を捨てるのではないかと恐れた房次郎は、しぶしぶ俊一が船に乗り込むのを許した。連日船酔いと戦っていた俊一がようやくそれに打ち勝ったある日、遂にマグロの群れにぶつかったのだが…。
『翔んだカップル』『セーラー服と機関銃』『ションベンライダー』と、思春期のコドモが主役の破天荒な傑作を連打していた相米にとって、初となる大人が主役の映画である。長年日活ロマンポルノの助監督をつづけていた相米にとって、人間の業にとらわれる男女の濃密なドラマは、決して避けられないチャレンジだった(そして、この次に撮るのはロマンポルノの名作『ラブホテル』)。
幾度も映像化の試みがされるも(三船敏郎も映画化を企図していたという)、スケールの壮大さゆえに頓挫していた吉村昭の小説が原作。下北半島最北端の津軽・大間を舞台に、マグロと死闘を繰り広げる漁師たちの姿を相米印の長回しでスリリングに活写。それとともに、生死を賭けてまでマグロ釣りに魅せられてしまう男たちと、それを見守る女たちの痛切なドラマも見事に描き切る。素晴らしいリアリティで漁師を演じた緒方拳、佐藤浩市をはじめ、佐藤の妻に扮した夏目雅子や、うらぶれた家出妻・十朱幸代の熱演も光る。また緒方拳の友人で、負傷して引退した元漁師を演じるのは、「笑点」の司会でおなじみだった五代目三遊亭円楽。とても味のある存在感を出している。
夏の庭 The Friends
(1994年 日本 113分
ビスタ/MONO)
2014年3月11日から3月14日まで上映
■監督 相米慎二
■原作 湯本香樹実「夏の庭 The Friends」(福武書店刊/新潮文庫刊)
■脚本 田中陽造
■撮影 篠田昇
■編集 奥原好幸
■音楽 セルジオ・アサド
■出演 三國連太郎/坂田直樹/王泰貴/牧野憲一/戸田菜穂/根本りつ子/笑福亭鶴瓶/寺田農/柄本明/矢崎滋/淡島千景
★4日間上映です。
ノッポの木山、メガネの河辺、デブの山下は、小学6年生の3人組。一緒のサッカーチームに通う仲間だ。その夏、彼らは一人暮らしのおじいさんの見張りを始めた。死ぬところを見るために。しかし、おじいさんは見られることを意識して、逆に元気になっていき、少年たちもおじいさんとの交流が楽しくてならなくなる。死ぬことを見に行ったはずの彼らは、おじいさんのかけがえのない人生と出会うことになる。そして…。
前作『お引越し』につづいて関西でオールロケをした作品。ベストセラーになった湯本香樹実の原作は、以前に相米演出のオペラの脚本を担当した作者に、相米自身が勧めて執筆されたものだという。老人との交流を通して「戦争」を、そして「死」を見つめ、経験していく少年たちの姿を描いた珠玉の作品だ。相米は、初期の『ションベンライダー』を思わせる破天荒な子どもたちの動き(歩道橋の欄干の上でのアクション!)や長大なカメラワークといった痛快な相米印の場面も用意しながら、驚くほど澄んだ語り口で映画を紡いでいく。ファンタジックでありながら、厳粛なものも突き付けるラストシーンは、何度見ても胸を震わせられる。
少年たちと競演するおじいさんには三國廉太郎、その妻役に淡島千景、少年たちの憧れの先生役を戸田菜穂が好演した。さらに、寺田農、柄本明、矢崎滋、笑福亭鶴瓶ら個性的な俳優陣が脇を固めている。
翔んだカップル オリジナル版
(1982年 日本 122分
ビスタ/MONO)
2014年3月11日から3月14日まで上映
■監督 相米慎二
■原作 柳沢きみお「翔んだカップル」(講談社「少年マガジン」連載)
■脚本 丸山昇一
■撮影 水野尾信正
■編集 井上治
■音楽 小林泉美
■出演 鶴見辰吾/薬師丸ひろ子/尾美としのり/石原真理子/円広志/真田広之/原田美枝子
★4日間上映です。
弁護士になる夢を抱いて九州から上京してきた田代勇介は、北条学園高校の新入生。彼は海外へ行っている叔父の留守宅に住むことに。一人で住むには家が広すぎるため、男に限るという条件で、不動産屋に間借人を頼んでおいた。しかし、やって来たのはクラスメートの山葉圭だった。あろうことか高一の男女が一つ屋根の下に…。
相米慎二の記念すべき監督一作目。柳沢きみおのベストセラー漫画の映画化。相米は主役に原作と同じ16歳の薬師丸ひろ子、鶴見辰吾を起用し、のちのトレードマークになる長回し撮影も活用しながら、彼らの溌剌とした魅力を引き出した。まるで一緒になって楽しんで撮ったような、自由な空気が画面から伝わってくる作品である(長谷川和彦監督は公開当時の相米との対談で、「お前は精神年齢が低いんじゃないか?」と冗談めかしていっている)。とはいえ、日活ロマンポルノの助監督を長年務めていた相米の志向性ゆえ、本作は荒唐無稽なラブコメに終わらず、思春期のティーンエイジャーのもどかしい痛みをリアルに描きだすことに成功している。終盤の「モグラ叩き」の場面や、やや重い余韻を残す幕切れなどが忘れがたい。
主役カップルの薬師丸ひろ子、鶴見辰吾のほか、同じく16歳だったこれがデビュー作の石原真理子と尾美としのり(当時14歳。この映画が薬師丸ひろ子との初共演作。「あまちゃん」ファンも必見!)も瑞々しい演技を見せている。
(ルー)