1948年、岩手県盛岡市に生まれる。71年、大学を中退し日活撮影所に契約助監督として入所。その後フリーとなり、長谷川和彦、寺山修司らの助監督をつとめる。『翔んだカップル』(80)で監督デビュー。
長回しを多用した大胆なカメラワーク、また俳優に対する厳しい演技指導など、「相米節」とも言われる独特のスタイルで、数々の話題作を監督したが、『風花』(01)を撮った後、同年9月9日肺がんにより53歳の若さで急逝した。
・翔んだカップル(1980)
・セーラー服と機関銃(1981)
・ションベン・ライダー(1983)
・魚影の群れ(1983)
・台風クラブ(1985)
・ラブホテル(1985)
・雪の断章 情熱(1985)
・光る女(1987)
・東京上空いらっしゃいませ(1990)
・お引越し(1993)
・夏の庭 The Friends(1994)
・あ、春(1998)
・風花(2001)
※すべて監督作
今週の早稲田松竹は相米慎二監督特集!
「台風クラブ」と「お引越し」の二本立て。
皆さん、一緒にひと夏の経験しませんか?
『台風クラブ』は少年少女たちが過ごした中学最後の夏の4日間のお話。
冒頭からプールで踊り騒ぎ、鼻に入るだけの鉛筆を詰め、
好きな子に(やりすぎな)ちょっかいを出し、部室でレズる。
極めつけは台風の中、裸でダンス。
はたから見たらトンデモナク馬鹿げている。
だけど彼らは抑えようのない気持ちをどうにか発散したくてうずうずしていた。
台風とともに渦を巻いてたくさんの狂気を巻き込んでいく。
思春期の子供たちが抱くどうしようもない鬱憤は、言葉では説明しきれない。
それが衝撃的な映像で綴られる。
自分の過去を振り返ったって存在しえない姿に、なぜか共感し、圧倒される。
飾ったり背伸びするわけでもなくありのままの姿が輝いて見える。
『お引越し』はレンコ小学6年生のひと夏の成長物語。
突然両親が別居するなんて言うから困っちゃう。
刺々しい三角テーブルで家を出てゆく父に沢山話しかけるレンコ。
離婚を切り出し活き活きしている母に必死に反抗するレンコ。
全部全部、一生懸命なレンコの姿に胸がきゅっとなる。
両親が離婚してしまうとき、子どもが受けるダメージは大人が想定するよりはるかに大きい。
なのに、一生懸命理解しようとする。だって嫌われたくないんだもの。
このくらいのお年頃には、自分のせいで、自分がいなければ・・・。なんて不安が頭をよぎるのだ。
でも、レンコはこの夏、立ち上がった。
辛く、苦しい想いをしながら、現実と幻想の狭間で自分自身と向き合ったのだ。
その姿はみんなの心に響いた。だから、みんな、一歩ずつ前に進んだ。
子どもたちは自分の気持ちに正直に生きている。
間違いなく私たちにもそんな時代があった。
あの頃の素直な自分を思い出してちょっぴりおセンチな気分に浸るのもいいかもしれません。
お引越し
(1993年 日本 124分 ビスタ/MONO)
2012年8月18日から8月24日まで上映
■監督 相米慎二
■原作 ひこ・田中
■脚本 奥寺佐渡子/小此木聡
■撮影 栗田豊通
■編集 奥原好幸
■音楽 三枝成章
■出演 中井貴一/桜田淳子/田畑智子/須藤真理子/田中太郎/茂山逸平/青木秋美/森秀人/千原しのぶ/笑福亭鶴瓶
■1993年カンヌ国際映画祭「ある視点」部門招待上映/第3回東京スポーツ映画大賞作品賞/キネマ旬報新人女優賞(田畑智子)/報知映画賞新人賞(田畑智子)/第17回日本アカデミー賞優秀編集賞
「ある時突然な、こことあたしの部屋の押し入れがつながってしまうんや。超常現象や」 父ケンイチの引越し先のアパートで、カラの衣装箪笥の中に入って、レンコはそう叫んだ。小学校6年生のレンコの両親が、ある日突然別居した。母親ナズナは、過去の生活を振り払って、レンコと共に新生活を始めようとする。用意した離婚届には、ナズナのサインだけが書かれている。今日から<漆場ナズナ>ではなく、<星野ナズナ>だと、レンコに宣言するナズナ。何かが音と立てて、変わろうとしている。
「あたしは父さんと母さんがケンカしても我慢したよ。なのに、なんで父さんたちは我慢できひんの?」 ケンイチの勤め先のビルのすぐ前から、レンコはケンイチに電話をかけてそう訴える。一瞬、絶句するケンイチ。レンコの質問にケンイチは、その答えは夏休みの宿題にすると約束した。
離婚を前提に別居に入った両親を持つ11歳の少女、漆場レンコを主人公に、その揺れ動く気持ちの葛藤、両親に対する愛情と反抗、クラスメイトやまわりの人々との交流を通じて、遂には深い覚醒とも呼べる成長をとげるまでを、稀に見る映像の深度と完成度の高さで描いた本作、『お引越し』。
主人公の漆場レンコ役を務めたのは、今や誰もが知る人気女優へと大成した田畑智子。応募総数8253名の中から、オーディションによって選ばれた当時12歳の新人だった。現場でしごかれ、最初は泣いてばかりだったという田畑智子は、見事2つの映画賞で新人賞を受賞した。
「現場では、和気あいあいとした雰囲気もあっただろうけど、俺は(智子とは)関係ないからね。(中略)あの子がひと夏ね、面白いか、きついか知らないけど、なんか一生懸命やればいいわけだから。楽しく終わってくれればいいだけでね。楽しいってのは、何も楽しいことばかりじゃない。苦しいことも当然含めてね」――相米慎二(『お引越し』公開当時のパンフレットより抜粋)
台風クラブ
(1985年 日本 115分 ビスタ/MONO)
2012年8月18日から8月24日まで上映
■監督 相米慎二
■製作・企画 宮坂進
■脚本 加藤裕司
■撮影 伊藤昭裕
■編集 冨田功
■音楽 三枝成章
■出演 三上祐一/紅林茂/松永敏行/工藤夕貴/大西結花/会沢朋子/天童龍子/渕崎ゆり子/寺田農/佐藤允/三浦友和/鶴見辰吾
■東京国際映画祭大賞・都知事賞(ヤングシネマ'85部門)
東京近郊の市立中学校。二学期が始まって間もないむし暑い夜。突然、プールの照明が一斉について、ロックンロールが鳴り出した。喚声をあげてなだれこんできたのは水着姿の泰子、由美、みどり、理恵、それに美智子。ロックのリズムで準備体操を始めるが、ふと水の中の人影に気づく。それが山田明だとわかると、少女たちは一斉にからかいだした。明は水の中でパンツを脱がされ、水からあがれないでいるうちに溺れてしまう。慌てた少女たちはクラスメイトの恭一と健に助けを求める。
次の日。恭一はいつものように理恵と一緒に登校する。昨夜のこともあってごきげんななめの恭一だが、アッケラカンの理恵はあやまってすぐ笑い出す。バスを待つ二人に小さな突風が通り過ぎて理恵は、台風が近づいていると言っていた今朝のTVのニュースを思い出していた。
中学3年生。精神的にも肉体的にも最も振幅が激しいこの年頃に、時として生まれる狂気がある。本作は、少年少女たちが接近する台風と共に感情を昂ぶらせ、それが狂気へと変化し、やがて騒乱状態へと陥る姿をみずみずしく描いた青春映画の傑作である。この作品で体当たりの演技を見せた工藤夕貴が注目されるきっかけとなった作品であり、それまで優等生的な役柄が多かった三浦友和がそれまでのイメージを180度転換させるような演技をしたことでも注目された。
「言葉にして説明してしまうと虚しくなるから嫌なんだけど。特別なことは描いていない。いつも人と人との関わりを見つめているつもりなんだ。あの年頃の男が好きな女の子をいじめるってことってあるじゃない、嫌いな子にあんなことしない。(中略)そういうありふれたことをありふれているからつまらないと思うか、どうかじゃない。評価は人が決めること、俺は撮りたいように撮ってるだけだ」――相米慎二(『台風クラブ』公開当時のパンフレットより抜粋)