僕が相米慎二を初めて観たのは、遺作『風花』だった。

巨匠・今村昌平が描く泥の匂いがするような人間臭さは、時に喜劇的ですらある。それはあまりに救いようがなく、それ故に観ている我々は理解の発散として、笑うしかない状況に陥ってしまう、そんな力に満ち溢れている。それに比べて、相米慎二はまだ救いようのある人間を描く。しかし、もっと厳密に言えば、救いようがあるかないかの際どいライン上に立つ人間がスクリーン上に映し出される。だから、今村昌平の描く人間には同情心が湧くものの、相米慎二の描く人間にはそれがない。なんだか情けない、しっかりしろよ、と言いたくなる人間像が現代的でリアルなのだ。自然と観ている我々は共感を覚えてしまう。今村昌平のリアリズムには同情心を覚え、相米慎二の現代的リアリズムには共感を覚える。そして共通するのは2人が描く人間はとてつもなく愛おしい。

もちろん、高い評価を受けている相米慎二監督だが、個人的にはもっともっと高い評価をされてしかるべきだと思う。巨匠なんて冠をつけられるのをきっと毛嫌いしそうなお方だが、今年で没後7年…中途半端でもお構いなし!きっと没後10年目には何かしらの特集がどこぞの映画館であるやもしれない…ですが早稲田松竹では、いいもんはいい!文句のある奴ぁ〜機関銃でぶっ放せ!の勢いで相米慎二の二本立てをお送りいたします!

特に今回お送りする二本は、共に主人公が中学生、高校生というオトナになる手前の際どいお年頃。つまり前述した相米慎二独特の現代的リアリズム、救いようがあるかないかの際どいライン上を自由自在に行き来できる絶好の対象、という訳で、もう相米節全開!!!かつ、相米慎二を知らない方でも存分に楽しめる映画となっております。


・翔んだカップル(1980)
・セーラー服と機関銃(1981)
・セーラー服と機関銃 完璧版(1981)
・翔んだカップル オリジナル版(1982)
・魚影の群れ(1983)
・ションベン・ライダー(1983)
・雪の断章 情熱(1985)
・台風クラブ(1985)
・ラブホテル(1985)
・光る女(1987)
・東京上空いらっしゃいませ(1990)
・お引越し(1993)
・夏の庭 The Friends(1994)
・あ、春(1998)
・ポッキー坂恋物語 かわいいひと(1998)*総監督
・風花 kaza-hana(2000)


セーラー服と機関銃
(1981年 日本 111分)

2008年9月6日から9月12日まで上映 ■監督 相米慎二
■原作 赤川次郎
■脚本 田中陽造
■出演 薬師丸ひろ子/渡瀬恒彦/風祭ゆき/大門正明/林家しん平/柳沢慎吾/岡竜也/光石研/榎本明/寺田農

【ストーリー】
パパが死んで、高校生の星泉(薬師丸ひろ子)は、ひとりぼっちになってしまった。親類縁者ひとりもなし、ママが死んでからは、泉がパパの娘であり、妻であり、母親のかわりであったから、正真正銘のひとりになってしまったわけ。

同級生の三銃士、智生(柳澤慎吾)、哲夫(岡竜也)、周平(光石研)が、泉の身のまわりを、あれこれと心配するけれど、泉はマンションの一人住いを続けることを決心していた。しかし、ちょっと気になるのは、火葬場に列席していた、見なれぬ長身の男。マンションに戻ると、いやに、なれなれしい女まで泉の帰りを待ちかまえていた。あろうことか、その女マユミ(風祭ゆき)は、パパの手紙を持参していた。その手紙には、

「商社員として、海外旅行することが多いから、危険も多い。万一の場合には、マンションで泉と一緒に暮らしてほしい」

というパパから、マユミへのメッセージが書かれてあった。ということは、彼女は、パパの…アイジン!?

pic翌日、泉の通学している高校の校門に、黒背広の男たちがズラリと並んだ。おびえる教師や生徒たちを尻目に、堂々と下校しようとする泉は、いきなり男たちのひとりに声をかけられた。「星、泉さんですね。お迎えに参りました!」

ポンコツ車に乗せられて、連れて行かれたのは、繁華街の裏通り、老朽ビルの3階、目高組という、つぶれかけたヤクザの組の事務所だった。声をかけたのが、代貸の佐久間真(渡瀬恒彦)。火葬場にいた長身の男だ。

彼の説明によると、先代の組長の遺言で、目高組の血をひいたものに跡目を相続させるはずだった。泉のパパは、組長の甥だったのが、不慮の交通事故死。甥がダメなら、その子供に跡目を継いでもらわなければ、組は解散の破目になる。何といっても、組員は、佐久間をはじめとして、明(酒井敏也)、ヒコ(林家しん平)、政(大門正明)の計4人という有様。泉はこの成り行きから、目高組の組長を襲名するはめになってしまった。


ションベン・ライダー
(1983年 日本 118分)

2008年9月6日から9月12日まで上映 ■監督 相米慎二
■原案 レナード・シュレイダー
■脚本 西岡琢也/チエコ・シュレイダー
■出演 河合美智子/永瀬正敏/坂上忍/鈴木吉和/藤竜也/原日出子/寺田農/伊武雅刀/倍賞美津子

【ストーリー】
ジョジョ(河合美智子)、辞書(坂上忍)、ブルース(永瀬正敏)の三人は退屈な学園生活を、それなりに送っている中学生。三人には共通の敵がいた。何かにつけて、ちょっかいをかけてくる鬱とうしい奴、デブナガ(鈴木吉和)だ。いつまでもコケにされてはいられない。今度こそはグーの音も出ない程、叩きのめしてやらなくては。だが、そのデブナガが三人の目の前で誘拐されてしまった。仕返しを諦めるかって?冗談じゃない。三人は自分達でデブナガを連れ戻し、決着をつけてやる事に決めた。

警察は横浜のヤクザ・極龍会に捜査の手を伸ばしている。どうやらデブナガのオヤジ(前田武彦)が覚醒剤に手を出していたらしい。横浜に行った三人は、駅前派出所で田中巡査(伊武雅刀)と知り合った。そして、巡査の誤解から極龍会の厳兵(藤竜也)というヤクザを紹介される。この覚醒剤中毒の中年ヤクザ、ちょっと乱暴だが話が通じないタイプではない。それにこの男、親分の命を受けてデブナガを誘拐した二人組、山(桑名将大)と政(木之元亮)の後を追う事になっているのだ。熱海へ、三人は厳兵の後を追った…


日本映画界に多大なる功績を残し、多くの映画監督、役者達に影響を与えた相米慎二監督。
アイドルで売り出し中の河合美智子をブスと呼び、
薬師丸ひろ子にも容赦ない演技指導をした事でも知られる鬼のような演出家。
彼の映画には独特の緊張感が溢れている。
そんな中で打ち鳴らされる機関銃は、テレビではない!
映画館でこそ味わえる

カ イ カ ン

です!

お得意のワンカット、ワンシーンの長回しも見もの。
最近の映画の触れ込みで多い、ラスト○○分の衝撃を見逃すな!というのではなく、
全てのシーンを見逃さず観て欲しい。そう願ってやまない愛おしい映画二本です。

骨太で明快、屈折して爽快、あぁもう快感。。。

(アセイ)


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