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今週の二つの作品を立て続けに観たら、いったいどのような気分になるのだろう。
『凶悪』がベストセラー・ノンフィクションの映画化として、淡々とそして不気味に進み続ける一方で、
どこを切っても熱いエネルギーにあふれ、笑ってしまうほどやりすぎな『地獄でなぜ悪い』
極端にスタンスの違うこれらの作品の振れ幅に引っ張られて、めまいが起こりそうだ。
まるで急に地球の裏側に連れていかれてしまうような、
途方の無さすら感じてしまうのではないか。

『凶悪』はあるジャーナリストに届いた死刑囚からの手紙で始まる。
冷静な目線でその内容の調査を始めていくうちに次第に明らかになる悲惨な出来事に、
ジャーナリストは上司の忠告や自身の家族の問題を棚に上げてのめり込んでいく。
張りつめた空気がどこまでも続き、いったいどのように収拾をつけるのか。
スクリーンの向こう側から押し寄せるむせぶような息苦しさが、次第に観客に伝染していく。

一方、『地獄でなぜ悪い』はヤクザ同士の抗争、
ヤクザの娘と彼女に訳も分からず連れてこられた通りすがりの男、
そして自主映画集団の三つ巴から織りなす、ハチャメチャなアクション映画だ。
フィクションであることを逆手にとった過剰な演出とテンションが、
得体のしれない爽快感と感動を引き起こす。

『凶悪』の、どこまでも追い詰めていくような冷徹な執着心と、
リアリティを感じてしまうほどに冷たい視線で見つめる暴力。
『地獄でなぜ悪い』の、純粋さを具体化するような熱い執着心と、
とことん現実から離れ、ありえない事態を引き起こす暴力。
クライマックスから終盤までの展開も、
深くこちらに訴えかけ尾を引くような余韻を残す『凶悪』に対して、
『地獄〜』は突き放すように跡形もなく爆発してしまう。
凶悪と地獄というタイトルから、なんだか近いものを感じてしまうかもしれないが、
この二つの作品は、全くといってしまえるほど別物だ。

しかしこの全く違う二つの映画はともに、
劇場を出た後でさえ消えることのないほどの強烈なインパクトを私たちに与える。
方向性は違いながらも、
それぞれの持ち味を突き詰めた今週の二本は、やはり“問題作”に違いない。

(ジャック)


地獄でなぜ悪い
(2013年 日本 129分 dcp PG12 シネスコ) pic 2014年2月8日から2月14日まで上映
■監督・脚本・音楽 園子温
■アクション監督 カラサワイサオ
■撮影 山本英夫
■美術 稲垣尚夫
■編集 伊藤潤一
■音楽 井内啓二
■主題歌 星野源「地獄でなぜ悪い」

■出演 國村隼/堤真一/長谷川博己/星野源/二階堂ふみ/友近/坂口拓/板尾創路/神楽坂恵/成海璃子/でんでん/岩井志麻子/水道橋博士/ミッキー・カーチス/江波杏子/石丸謙二郎/渡辺哲

■第70回ベネチア国際映画祭オリゾンティ部門正式出品

一度きりの人生だ!
愛する女と映画のために、
斬って、斬って、撮りまくれ!

pic武藤組組長・武藤は、獄中の妻の夢をかなえるために、娘・ミツコを主役にした映画を製作していた。だが、ミツコは男と撮影現場から逃亡してしまう。妻の出所まで数日しかないため、武藤は手下のヤクザたちを使って自主映画の製作を決意。なんとかミツコの身柄を確保すると、彼女は連れの男・公次が映画監督だという。だが、実は公次はミツコに連れてこられた通りすがりの男。ヤクザたちから映画について質問攻めにあい、発狂寸前になってしまう。

picそんな時、少年時代から自主映画を作り続けていた映画監督志望の男・平田と、彼が率いる自主映画集団「ファック・ボンバーズ」と奇跡的に出会う! 平田は夢の映画が遂に実現すると狂喜。こうして、ミツコに思いを寄せる敵対するヤクザ組織の組長・池上をも巻きこみ、ヤクザとの混成チームによる映画作りが始まった――!

史上最も“命がけの映画”に、
映画の神は、微笑むか、見捨てるか。
痛快無比のウルトラ・アクション活劇、ここに誕生!

pic今や日本のみならず、世界中から熱い視線が注がれる映画監督・園子温。昨年は東日本大震災と原発事故に直面した日本の状況を、いち早くフィクションで再構築した『ヒミズ』『希望の国』を相次いで発表し、幅広い観客から支持を得た。そんな園子温監督待望の新作は、奇想天外なストーリーと愉快爽快なキャラクターが縦横無尽に駆け巡る、自身初の超娯楽作品! キャストには主演の國村隼を筆頭に、もう二度とないだろう個性派集団が実現。実力派から若手まで、ドスと銃弾で血まみれになりながら“命がけの映画作り”を繰り広げる。

約20年前、映画への野心を胸に執筆した幻のオリジナル脚本に改めて自ら加筆することで、当時の映画に対する情熱を甦らせてスクリーンに炸裂させた園監督。アクション映画・ヤクザ映画・コメディ映画・青春映画・恋愛映画等々、あらゆるジャンルが交錯する渾身の一作を生み出した。


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凶悪
(2013年 日本 128分 dcp R15+ ビスタ) pic 2014年2月8日から2月14日まで上映
■監督・脚本 白石和彌
■脚本 高橋泉
■原作 新潮45編集部編「凶悪―ある死刑囚の告白―」(新潮文庫刊)
■撮影 今井孝博
■編集 加藤ひとみ
■音楽 安川午朗

■出演 山田孝之/ピエール瀧/リリー・フランキー/池脇千鶴/白川和子/吉村実子/小林且弥/斉藤悠/米村亮太朗/松岡依都美/ジジ・ぶぅ/村岡希美

知るべき闇は
真実の先にある

pic「自分は死刑判決を受けた事件の他に、誰にも話していない3つの殺人に関わっています。そのすべての首謀者は、自分が“先生”と呼んでいた男です。そいつが娑婆でのうのうと生きているのが許せない。この話を記事にしてもらい、先生を追い詰めたい。」

スクープ雑誌「明潮24」の記者として働く藤井修一は、東京拘置所に収監中の死刑囚須藤純次から届いた手紙を渡され、面会に行った先でそう告白される。

pic半信半疑のまま調査を始める藤井だったが、須藤の話と合致する人物や土地が次々と見つかり、次第に彼の証言に信憑性がある事に気付き始める。死刑囚の告発は真実か虚構か? 先生とは何者なのか? 藤井はまるで取り憑かれたように取材に没頭していくのだが…。

人間はどこまで凶悪になれるのか。
張り詰めた緊張感が支配する、
“比類なき極限のドラマ”が幕を開ける。

pic死刑囚の告発をもとに、ジャーナリストが闇に埋もれた殺人事件を暴き、犯人逮捕へと導いた顛末を綴った 新潮45編集部編「凶悪 -ある死刑囚の告発-」。この驚愕のベストセラー・ノンフィクションが個性溢れるキャストを迎え映画化。事件の真相を暴きだそうとする主人公のジャーナリスト・藤井に山田孝之、復讐心をたぎらせ獄中から未解決事件を告発する死刑囚・須藤にピエール瀧が扮した。そして、告発された殺人事件の首謀者と目される“先生”役をリリー・フランキーが演じ、悪の権化ともいうべき絶対的凶悪を怪演している。

監督は故・若松孝二に師事した気鋭の白石和彌が務め、現代社会が抱える闇に深く切り込んでいく。殺人事件の真相とともに、白か黒かで括れない人間の本質にも迫る重量級の人間ドラマ『凶悪』。観る者の心を衝き破る極限のドラマが今、始まる。



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