みなさんの思い出箱には、どんな風景があって、どんな出来事があって、どんな人たちがいますか?
どれもこれも手放せないものばかりで、大切にしまっているんだろうな…。
今週の早稲田松竹は、
とても素直で、優しい主人公・悟(『みなさん、さようなら』)と、世之介(『横道世之介』)の
思い出がいっぱい詰まった二本立てをお届けいたします。
『みなさん、さようなら』で描かれる世界は団地。
「僕は一生、団地の中だけで生きて行く!」
中学にも通わず、喧嘩も、恋も、仕事も全部、団地の中。
悟が気にしているのは、いつも団地のことばかりです。
時代の流れによって、沢山いた友人がどんどん減っていくなかで、
団地という、とても狭い世界の中で生きる彼の姿は、孤独にうつるかもしれません。
けれど、そばにはいつも温かい愛があって、
どんなに少なくても、彼を受け入れ、理解してくれる人たちがいました。
団地で過ごした日々は、確実に彼を強く、大きく成長させたのです。
『横道世之介』で振り返るのは、世之介の青春時代。
なんとも普通な毎日を過ごす、普通な男・世之介は、なぜか人を惹きつける力がありました。
自分の汗のにおいを気にしたり、KYだったり、へたくそなサンバだったり、
頼み事にあっさり「いいよ」と言えるお人よしぶりには、思わずぷぷぷっと笑ってしまいます。
そんな世之介の周りに集まったのは、個性的な人ばかり。
どんなに楽しい日々を過ごしていても、時が経ち、大人になった彼らにとって、
世之介は特別な存在ではなかったかもしれません。
けれど、一緒に過ごした日々は、いつも笑顔であふれていて、ちょっぴり特別な思い出になりました。
知らぬうちに、あの頃の世之介が太陽のような存在になっていたのです。
いつの日も、思い出はキラキラ輝いているもの。
今生きている時間は、自分では、何が特別かだなんて分かりません。
振り返った時に、初めて見えるものなのかもしれません。
どんなに狭い世界でも、どんなに普通な出来事も、あの人もこの人も、
きっと、かけがえのない思い出となって、
今を生きる私を、これからの人生を支えていくのだと思います。
映画をみて心がぽかぽかしてきたら、
久しぶりにあなたの思い出箱を開けてみませんか?
みなさん、さようなら
(2012年 日本 120分 ビスタ)
2013年7月20日から7月26日まで上映
■監督・脚本 中村義洋
■原作 久保寺健彦「みなさん、さようなら」(幻冬舎文庫刊)
■脚本 林民夫
■撮影 小林元
■音楽 安川午朗
■主題歌 エレファントカシマシ「sweet memory」
■出演 濱田岳/倉科カナ/永山絢斗/波瑠/安藤玉恵/田中圭/ベンガル/大塚寧々
「ぼくは一生、団地の中だけで生きていく!」
1981年、小学校を卒業した12歳の悟は、周囲を仰天させる一大決心をした。繁華な団地には肉屋、魚屋、理髪店、衣料品店など何でもそろってる。外出は団地の敷地内だけで充分。初恋も、親友も、就職も、結婚も、何だって団地の中だけで出来る。だけどいつしか団地で暮らす友人たちは、ひとり、またひとりと悟の前から去っていく。本当はみんな知っている。なぜ悟が団地から出ないのか。果たして悟が団地から出なくなった本当の理由とは? 彼が団地の外に一歩踏み出す日は来るのだろうか――?
『アヒルと鴨のコインロッカー』『チーム・バチスタの栄光』などをヒットに導き、その人間ドラマを描く力に定評がある中村義洋監督が長年温め続けてきた本作。第1回パピルス新人賞を受賞した久保寺健彦の同名小説を映画化した。主人公・悟の12歳から30歳までをノーメイクで挑んだのは、中村監督とはこれで5度目のタッグとなる実力派・濱田岳。唯一無二の存在感で難しい役どころを見事に演じ切った。
悟と共に団地で成長していく同級生たちを演じたのは、倉科カナ、永山絢斗、波瑠という期待の若手俳優陣。そこに田中圭、ベンガル、大塚寧々などのベテラン勢が揃い、シュールな設定の中に温かみと笑い、そして思いがけない感動のラストをもたらしてくれる。
横道世之介
(2013年 日本 160分 ビスタ)
2013年7月20日から7月26日まで上映
■監督・脚本 沖田修一
■原作 吉田修一「横道世之介」(毎日新聞社刊)
■脚本 前田司郎
■撮影 近藤龍人
■音楽 高田漣
■主題歌 ASIAN KUNG-FU GENERATION「今を生きて」
■出演 高良健吾/吉高由里子/池松壮亮/伊藤歩/綾野剛/朝倉あき/黒川芽以/柄本佑/佐津川愛美/大水洋介/田中こなつ/江口のりこ/堀内敬子/井浦新/國村隼/きたろう/余貴美子
1987年。長崎の港町で生まれた横道世之介は、大学進学のために上京したばかりの18歳。嫌味のない図々しさ、頼み事を断れない人の良さ、底が浅いのか深いのか測りかねる言動が人を惹きつける。描かれるのはそんな世之介と、ガールフレンドの与謝野祥子をはじめ、彼に関わる人々の青春時代とその後。そして世之介に起こったある出来事から呼び覚まされた、その愛しい日々と優しい記憶の数々――。
2010年本屋大賞3位、第23回柴田錬三郎賞を受賞した吉田修一の同名小説を映画化したのは、『南極料理人』、『キツツキと雨』の沖田修一。不器用ながらも真っ直ぐに生きる世之介と周りの人たちを、優しさとユーモアに富んだ演出で包み込む。映画が幕を閉じた後も、観客全員とって世之介は、思い出すたびにニヤニヤと微笑んでしまう大切で愛しい存在になっている――そんな温もりに満ちた青春映画の傑作が誕生した。
主人公・世之介を高良健吾、ガールフレンドで社長令嬢の祥子に吉高由里子が扮し、『蛇にピアス』以来5年ぶりのタッグが実現。その他、世之介を囲む人々に池松壮亮、伊藤歩、綾野剛ら若手実力派から、井浦新、國村準、きたろう、余貴美子のベテラン俳優陣まで多彩なキャストが集結した。