去る2012年11月3日、『桐島、部活やめるってよ』『サニー 永遠の仲間たち』の上映に併せ、トークショーが開催されました。ゲストは、『桐島、部活やめるってよ』の吉田大八監督、佐藤貴博プロデューサー。そして、「サニーを愛し桐島に骨抜きにされた中年ボンクラ映画おやじ軍団」、通称「おっサニー」より、花くまゆうさくさん、松谷創一郎さん、中井圭さんにお越しいただきました。有難いことに、当日は朝から満席! 場内を埋め尽くすお客様の中……ん? 花くまさん? なんと、ゲストの花くまさんがお友達を引き連れて、普通にお客様の中に紛れていました(笑) しっかり2本ともご鑑賞いただいて、いざ、全員集合! すると、控室だというのに速攻全員のトークが炸裂! まだ本番じゃないよ〜! と、ちょっとびっくりするスタッフ(笑)
そして迎えたトークショー本番、場内はお立見のお客様までぎっしり。溢れる熱気の中、ゲストの皆さまにはたっぷりとお話していただきました。それも、早稲田松竹トークショー史上、恐らく最長の全50分!! 当日お越しいただいたお客様の忘備録として、また残念ながらお越しいただけなかった方のためにも、トークの全貌をここで一挙公開いたします。なにせ50分なのでボリュームたっぷりですが、笑いあり、本気あり、妄想あり、現実ありのバラエティ豊かな内容になっています。是非、お楽しみください。
(編集・構成 ザジ)
★一部、ストーリーの内容に触れている箇所があります。- 監督
- そうですね、『桐島』が公開になった後に『サニー』を観に行って、ああなるほど、と思いました。サニーは女子校の話で桐島は共学、僕は男子校出身なんですけど、わかるところもあり、新鮮で面白いところもあり。
- 佐藤P
- 僕は『サニー』が公開されてすぐ、映画関係者の間でも話題になっていたので観に行きました。面白いなと思いましたね。それに、今日も来ていただいた「おっサニー」(※1)のメンバーと知り合えたのは、サニー様のおかげというか(笑) 「おっサニー」は『サニー』を語るために結成されたチームなんですけど、今年「おっサニー」が語るべき映画は『サニー』だったのに、『桐島』が現れて、こっちも語りたいと思っていただいた。そこから今日もあるようなものなので、サニー様には感謝しております(笑)
(※1)おっサニー: サニーを愛し桐島に骨抜きにされた中年ボンクラ映画おやじ軍団の通称。
- 花くま
- 一年に一本くらい、誰かと話したくなっちゃう映画が現れるんですけど、今年はそれが『サニー』だったんです。そしたらその後すぐ『桐島』も現れてね、二本分うるさくなっちゃいましたね。
- 松谷
- そうですね。人に伝えたいとか、人と会話を共有したいとか、そういうタイプの映画だったというのは間違いないと思いますね。ただ、作品を観た後の印象というのはかなり違うと思います。『桐島』は読み方が人によって違うと思うんですけど、『サニー』は皆さん同じように感動されてる、という印象があります。
- 中井
- 個人的に思うのは、この両作品は「画」が主導している映画だな、と。つまり、物語を説明的に言うのではなく、画が主導していくという。それは映画においてすごく大事だと思っています。『サニー』の演出もそうですし、『桐島』に関しては「目線の映画」と僕は言っています。目線を追うとストーリーが追える、目線によってその人の心情が追えるんですよね。きちんと画で伝えようとしてる、すごく映画らしい映画だなって思いましたね。
- 花くま
- 今日もねえ、友達9人と(早稲田松竹に)観にきましたよ。
- 松谷
- さっき目がウルウルしてましたもんね(笑)
- 花くま
- 『サニー』は今日9回目なんですけど…。
- 中井
- どんだけウルウルしてるんですか(笑)
- 花くま
- 『桐島』は5回目で…。
- 佐藤P
- ありがとうございます(笑)
- 花くま
- さすがにね、ウルウルはしないと思ってたんですけど、『サニー』は映画の魔法がかかっちゃうんですよね。『桐島』もね、さすがに5回目ともなるとぐっとこないだろうなって思ってたんですよ。最初は、なんで桐島が部活辞めたくらいでみんなそんなに右往左往してるんだって思うんですけど、やっぱり屋上のシーンでぐっときちゃいますよね…もうほんとに…。
- 佐藤P
- さっき中井さんが「目線の映画だ」と言ってくれましたけど、やっぱり台詞で語らずに表現するっていうのも吉田ワールドだと思うんです。そんな吉田監督から観た『サニー』って?
- 監督
- 一番最初に観た時に思ったのは、女の子たちが教室でキャーキャーやってるあの感じ。見慣れないものだったんです。僕の娘が高校生で、たまに写真見せてくれたりするんですけど、そういうノリに近くて。
- 花くま
- 『サニー』の子たちは高校生なんだけど、やってることは小学生なんですよね。服装とかも。
- 監督
- わりと中学生くらいに見せられた写真のノリっていうかね。ふざけたり。変な顔したりとか。初めて観るのに懐かしい感じでしたね。
- 花くま
- 桐島の後にみると余計子供っぽく見えますね。やっぱり共学だと大人の世界になっちゃうのかな。
- 監督
- それぞれ厳しいんだけど、厳しさの質が全然違うでしょ。そういう意味では男子校が一番楽かなって。
- 花くま
- 僕も男子校で、共学が羨ましくてしょうがなかったんです。『桐島』を観る前、高校生が悩んでる話だって聞いた時も、「まあ、みんな悩んでるけど共学行ってるじゃん」って思ってたくらい。
- 一同
- そんなに!?(笑)
- 花くま
- でも観てみたら、共学のヒリヒリした感じに「おっかない」と思いました。男子校で良かったかもしれないって。それでもやっぱり憧れますよ、この共学は。映画部の武ちゃんとか。僕も共学に入り直して、この映画部でやりなおして頑張りたいって思いました。ほんとねえ、映画部が一番輝いてる!
- 松谷
- 『サニー』の女子校はどう思われました?
- 花くま
- あれは素晴らしいです。みんな子供っぽいですよね。スジだけですよ大人なのは。スジがチュナに「お前レズビアンか」って性的なことを言った時、チュナでさえ子供みたいになっちゃった。
- 松谷
- 男子校・女子校って、異性の目がないから出しちゃうんですよね。
- 監督
- 86年の韓国の時代背景って?
- 松谷
- 86年っていうのは、87年に韓国が民主化する前年なんですよね(※2)。だから劇中の学生運動にはすごく大きな意味が込められています。大学生は学生運動をするんだけど、若い女の子たちはサブカルチャーにまみれて、ああいう風に楽しく日々をおくっていたっていう。実は女性目線で歴史を読み直すということをやっている映画なんですね。韓国映画をご覧になられる方はたくさんいると思うんですけど、どうしても政治の話とか、社会問題の話が入ってくるんです。そこを(『サニー』は)軽やかに、ひっくり返した点は新しかったと思いますね。
- 中井
- 確かに。実は『サニー』には未公開シーンがあるんですよ。その部分はわりとシリアス路線というか、社会的な描写がいくつか見られるんですね。
- 監督
- 現代編のほうに多いんですか? 未公開場面って。
- 花くま
- 過去も結構補完されてますね。食堂で事件があった後は、みんなぶん殴られて、退学になっちゃう。バラバラにされちゃうんですよ。
- 佐藤P
- 被害者なのに?
- 花くま
- あのグループがもともとワルかったから。
- 松谷
- ほんとにボコボコに殴られるんですよ、女の子たちが。先生とか親に。こう、バシンバシン!って。
- 花くま
- それでサニーは解散して、それ以来会ってないんですよ。『サニー』を観た人の中には、あれで会わなくなるのはおかしいっていう意見もあるみたいだけど、(未公開シーンを観れば)余計に会わない理由がわかる。
- 松谷
- 若い人はケータイがない時代のことを知らないので、知り合いの人でも学校で会わなければ連絡が途絶えるという、そういう環境のことを想像できないのかもしれないですね。
(※2)韓国の民主化: 1987年6月、学生による反政府デモは日増しに高まりを見せ、高校生やサラリーマンも合流し、デモ参加者は100万人に達した。1年後の1988年に迫るソウルオリンピック開催が危ぶまれる事態を危惧し、1987年6月29日、盧泰愚大統領候補が民主化宣言を発表した。
- 佐藤P
- 『桐島』でも、梨紗は桐島の家に行けばいいじゃんってよく言われるんです。でも、あの状況ではなかなか行けないんだと思うんですよね。僕が勝手に思っていることですけど、梨紗は大事な桐島から何も告げられず、自分は信用してるのに彼からは信用されてないっていう恐怖を持っているから。
- 中井
- 『桐島』の、高校の設定の温度差っていうのが結構面白くって。あれが地方都市の高校であるということがポイントになってるような気がしました。都心の高校であればあの関係性は変わってきてると思うんです。
- 松谷
- あれは地方の進学校なんですよね。なにがすごいかっていうと、遊びに行く場所がないんですよね。仕方ないのでどこに行くかっていうと、イオンモールに行く。
- 中井
- あの二人が会っちゃう場所は…ていうことですよね。
- 佐藤P
- あの映画館はね、こういう早稲田松竹さんみたいな名画座っていう話もあったんですよ。だけど監督がロケハンであのイオンモールをみて、今はこっちだろうって。
- 松谷
- 素晴らしい。地方都市の何もないイオンモールですよね。90年代、00年代にはそういうシネコンができて、日本の映画館がどんどん増えていったんですよね。まさに的確だったと思います。
- 佐藤P
- (原作者の)朝井さんは自分の出身高校をモデルにしてるんですけど、朝井さんと僕と監督とみんなで、実際にその高校を見に行ったんですよ。岐阜の県立の進学校なんですけど、まあ〜キラキラしてる。
- 松谷
- 『桐島』公開の後くらいに、いじめ問題がいろいろ出たじゃないですか。多くは中学校なんですけど中には高校もあって、高校っていじめ問題おきるんだって、ちょっと思ってたんです。でも『桐島』の高校って、いじめ問題は起きないですよね。
- 監督
- 高校生といじめっていうのは、自分の体験からみてもあんまりピンとこなかった。なんとなく、いじめの次のステージの、もうちょっと違う煮詰まり方をしてるほうがリアリティがあったってことですかね。
- 松谷
- いじめをするほど幼稚な人たちではない、と。
- 監督
- だから逆に、キツい人にとってはもうちょっとキツいところもある。問題としてなかなか表に現れないキツさというか。そういうのが映画としては良いんじゃないかなと。
- 花くま
- もうねえ、好きなシーンっていうか、この2本はねえ、いろいろ考えちゃうんですよねえ! 『サニー』の子たちがもし日本の『桐島』の高校に交換留学生として来たら、屋上で踊りのアレやってるんですよ。
- 中井
- 完全に妄想ですよ(笑)
- 花くま
- (『桐島』の)映画部とサニーのメンバーは、わりと気が合うと思うんです。
- 中井
- 僕もそう思うんですよ。チュナは前田に目をつけると思う。前田に、「私たちサニーの映画撮ってよ」って。
- 花くま
- そうなりますよね。それであのスジっていうとびきりの美少女がいることによって、梨沙の中で何かがちょっと壊れる。
- 一同
- あ〜〜〜(笑)
- 花くま
- サニーにくっついてサンミも来ますから。そうなるとサンミと沙奈がね…。
- 佐藤P
- かすみはそこでも立ち回る(笑)
- 花くま
- かすみのシーンがね、観る度にわかんなくなっちゃうんですよね。僕が一回目に観た時は、神木くん以上にショック受けてたんです。あのシーン…。
- 松谷
- 「あの衝撃のシーン」ですね(笑)
- 花くま
- それで今度『サニー』を観たら、ナミも同じようにショック受けてたから…。
- 松谷
- かすみは優しくてああいう風にみんなに接しているのか、それとも思想的に、民主主義的に…。
- 中井
- そこで民主主義の話出してくるんですか(笑)
- 松谷
- はい(笑) 民主主義的にね、みんなに平等に接しなければならないと思っているのか、それとも自分が嫌われたくないと思っているのか。そこがよくわからないんです。
- 監督
- かすみは、すべて等距離に保つことが一番自分が安全というような処世術を、あの歳で身につけた気になっている。個人的にはね、かすみは何年後かに酷い目に遭うだろうなって思ってるんですね(笑)
- 花くま
- 大学であるかもしれないですね。東京に出てきてね。
- 監督
- 一番大人って評価されるような性質じゃない? かすみって。でも、そんなかすみも一番最後でちょっとゆらぐっていうね。あのゆらぎがかすみの救いというか、こっち側の希望というか、そんな感じでした。
- 松谷
- 台本とは違ったんですよね。
- 監督
- 撮っている中で彼女の見方をみてたら、そうするだろうなっていう気がして。それを橋本さん本人とか周りに言うと、「あーなんで今までそれに気付かなかったんだろうな」って。気付けて良かったなって感じでしたよね、撮影の前の日に。
- 松谷
- 前の日ですか。じゃあ当日現場で書き換えたんですか?
- 監督
- 前日にみんなに話したのかな?
- 佐藤P
- そうですね、あのシーンを撮る前日に、みんなにちゃんと話して。
- 監督
- こことかあのシーンとか(笑)
- 佐藤P
- 言っちゃうとね、わかっちゃうから。すみません、好きなシーン全然言ってない(笑)
- 中井
- 『桐島』で言うと、校舎の裏で沙奈が宏樹に、「行こ」っていうシーンがあるんですよ。この映画、ほんとに良いシーンがめちゃめちゃ多いんですけど、あの「行こ」の言い方が、もう戦慄と言いますか(笑) あれはね、タダものじゃないでしょ! 彼女の全てを体現してるかのような「行こ」なんですよ! あれ、監督どう思いました?
- 監督
- ど、あ〜う〜ん(笑) でも松岡さん(女優さん)がね、台詞を自分で消化して出す能力というか、翻訳力というかね。台本と同じ台詞を喋っても、全く違うものに聞こえることがありました。所詮オッサンが書いた台詞じゃないですか(笑) だけど彼女が喋ると、本当に彼女の中から出てくる台詞に聞こえる。「行こ」もそうなのかもしれないですね。
- 松谷
- 松岡さんは、今度「悪の教典」とかね。「鈴木先生」は深夜で再放送やってますけど、良い子の役をやるんですよね。
- 佐藤P
- 今年の学園もののいろんな意味での3本に全部出てる。モノマネもうまいんですよ(笑) 吹奏楽部の後輩の詩織ちゃんが、先輩に対して、「先輩がそういうことしてる姿観たら好きになる男子いっぱいいますよ」っていう前の、「んふ♪」っていうモノマネ(笑)
- 中井
- 小さいところいきますね(笑)
- 佐藤P
- あと、詩織ちゃんの「冬っすね〜もう」ていう台詞のマネとか。しかもその台詞を梨沙が言ったらっていう(笑) どっかでお披露目したいですね。
- 松谷
- 『サニー』はやっぱりね、最初の決闘ですよ。「おい少女時代(ソニョシデ)!」って言うんですね(※3)。これを全部“T-ARA”(ティアラ)が“Roly-Poly”(ロリポリ)っていう曲でぱくっていったんです。(※4)。現代のサブカルチャーとリンクしていた点も面白かったですね。
- 中井
- 韓国伝統のドロップキックを入れてるのも非常にポイント高いですよね。ポン・ジュノ伝統です(※5)。
- 松谷
- 韓国の人は熱いってよく言われるじゃないですか。あれは逆で、日本人がおとなしいんですよ、世界的に見て。女性でもあそこまでガンガンいくんです。あの悪口って日本語の字幕ではなかなか…。
- 中井
- あれは韓国語がわかったほうが面白いんでしょうね。
- 松谷
- 複雑らしいんですよ。韓国の人たちがクリエイティブだって言ってましたもん。
(※3)少女時代: 韓国の女性9人組アイドルグループ。韓国だけでなくアジア諸国、日本、欧米でも活動を行う。映画『サニー』では、この決闘シーンで対決する敵グループの名前が「少女時代」である。
(※4)T-ARA(ティアラ): 韓国の女性歌手グループ。楽曲“Roly-Poly”(ロリポリ)のミュージック・ビデオでは、高校を舞台に制服を身に着けたメンバーが80年代ディスコ風のダンスを踊っている。
(※5)ポン・ジュノ: 韓国映画界の巨匠。監督作『ほえる犬は噛まない』『グエムル ―漢江の怪物―』『殺人の追憶』『母なる証明』等、多数の映画にドロップキックが登場。
- 花くま
- 『サニー』で重要なのは、サンミっていうシンナーの子、あの子が名勝負製造機なんですよ。あの子が3試合連続良い試合して、映画を引き締めてるんですよね。最初は水のみ場から、サンミとナミが戦うじゃないですか。そこにスジが来るんです。サンミVSスジがあるんですよ。サンミVSスジはなにがいいっていうと、スジの凄味を出したんです。スジのキラーな面を。
- 中井
- あんな美人の子のキラーを引き出したんですね。
- 花くま
- その後、軍隊教師VSサンミがある。そこではサンミが軍隊教師に気持ちのいい一撃をくらわして、勝ったんですよ!
- 松谷
- 勝ったんだ(笑)
- 花くま
- その後の3試合目、サニーVSサンミで、サンミは汚れ役になる。あの3試合で、映画『サニー』は良い感じになってます。
- 中井
- 2試合目の先生とのバトルの後、(鏡を)割るじゃないですか。あのシーンは、その後の展開に示唆するものがあるんだろうなと。それも含めて、画で伝えていく能力が非常に高いなって思いましたね。
- 松谷
- サンミはきれいですよね、実は。
- 花くま
- うん。だから影の実力者です。彼女が良い試合をしてくれたおかげで、『サニー』が良い映画になったんですよね。
- 松谷
- サンミに実は共感してるんです。若い頃って、取り返しのつかないことがあるじゃないですか。僕は若い頃にいろいろあったんで、サンミの気持ちがよくわかるんです。
- 花くま
- こんなに爽やかなのに…。
- 松谷
- いや〜ありますよ。相手が病院いったりだとか…。
- 中井
- なんのカミングアウトなんですか(笑)
- 松谷
- だからサンミは、ケンカが強いわけじゃないんですよ。怪我させてしまったんですよ。事故じゃないですか。でも、そういうのは起こるんです。しかも相手が親友とかになると、ずっと(心に)残っていくんですよ。
- 花くま
- でもサンミがああなったのは、ナミがダメなんですよ。ナミはね、サンミに対してはNGワードがあるんですけど、それを2回も言っちゃったの。“シンナー”って言葉なんだけど。それを言うとああなっちゃうからダメなのに、2回も…。
- 中井
- おとこおんなのトミコ的な感じですね。(※6)
- 佐藤P
- みんなわかんないじゃないですか(笑)
(※6)おとこおんなのトミコ: 1979〜1982年にTBS系ほかで放送されていたアクションコメディドラマ「噂の刑事トミーとマツ」より。怖じ気づくトミー(国広富之)に対しマツ(松崎しげる)が禁断のワード「トミコ!」と怒鳴りつけると、トミーが耳をピクピクと震わせてキレてしまい、超人的なパワーで悪党をなぎ倒すと言う展開が定番となっていた。
- 監督
- 喜安さん(※7)の舞台を観て、一度お仕事をしたいなと思っていました。そして今回このようなチャンスがあったので、最初に何回か打ち合わせをして、原作を二人とも読んで、どういう風に進めていこうかっていう話を何ヶ月か続けて、まず喜安さんに書けるところまで書いてもらいました。そこに僕が手をいれて、また喜安さんが書いてっていう。だから、どちらかが完成させてそこに手を加えたというより、交換日記みたいな感じで、20回くらいリレーを続けて最終的な映画に近い脚本になったんです。それが共同脚本の普通の作り方かどうかは知らないけれど、僕はそうやりました。
ゾンビ映画を思いついたのは僕の順番でした。原作では違う感じの映画が好きな映画部だったのを、もうちょっと画にした時に面白いものに変えたほうがいいんじゃないかなって思ったんです。ちょうどその時『SUPER 8/スーパーエイト』(※8)が公開されていたんですが、それがどうもゾンビを8mmで撮る子供たちの映画らしいと聞いて。だから、実際に『SUPER 8』を観に行って、ものすごく面白ければね、やめようかなって思ったんですけど(笑) いや、面白かったですよ。面白かったけど、『桐島』で使ったほうがね、ゾンビも喜ぶかなって(笑) - 中井
- 秘宝(映画秘宝)もその流れなんですか?
- 監督
- 原作ではキネ旬(キネマ旬報)だったんだけど、ゾンビが好きな子たちだから秘宝のほうがしっくりくるかなって思って、あわせていきました。
(※7)喜安浩平: 俳優、声優、演出家、脚本家。劇団ナイロン100℃所属。
(※8)『SUPER 8/スーパーエイト』: J・J・エイブラムス監督、スティーブン・スピルバーグ製作のSF映画。
- 佐藤P
- 僕も前田くんが言うタランティーノのように人が死ぬ映画ばっかり撮ってるんで、今回はいつもと違う感じなんですが、実は『君に届け』という作品も手がけていて、青春映画は大好きなんです。きっかけは、枝見という若い女性、当時はまだプロデューサーでもなんでもなかった子なんですけど、彼女がこの『桐島』の企画をやりたいと言ってきたことですね。僕もその時にはじめて小説を読んで、面白いと思いました。僕の企画の中では、初めて人が言ってきたものをやろうと思ったものです。ビッグバジェットムービーではないんですけど、間違いなく面白いだろうし、吉田監督とはずっと一緒にやりたいと思っていたので。
確かにわかりやすい映画ではないんですけど、わかりやすい映画ばっかりだとそれはそれで面白くない。有難いことに日本テレビが、「挑戦しましょうよ」っていう僕の提案を、「じゃあやってみろよ」とちゃんと受け入れてくれる会社だったから成立したっていうのはありますね。ただ、やっぱり難しいというのはみんなわかっていて、これをどう売ったらいいかわからないっていう配給会社が多い中で、ショーゲートさんが「やりましょう」と言ってくれた。いろんな縁があって成立して、公開13週目でまだこうやって挨拶ができる、そんな形でのびてくれたという意味では、良かったなと思ってます。
- 監督
- 菊池君役の東出くんはモデルをやっていてね、モデルである自分の先行きを考えたりだとか、自分を変えたいというような顔をしていました。演技の経験がないというのは僕も心配でしたけど、最終的にはなんとなく自分が考える宏樹に近かったっていうことにつきるんです。むしろ、演技の経験がないことがプラスになればいいなと。こういう映画だし、そこで一点賭けてみてもいいと思いました。全部に安牌をおくんじゃなくて、もしかしたらそのことで失敗するかもしれないくらいの賭けをやったほうが、映画自体に勢いが出るんじゃないかなと。最後はちょっと思い切りました。あとは彼がどのくらい役に食らいつくか。僕らがどれだけ彼のことを見て、ちゃんと演出できるか。そこでちょうどいい緊張感が映画や現場にも出てきたんで、良かったですね。
- 中井
- 彼は声がいいですよね!
- 監督
- なんかこう…鼻づまってますよね(笑) その色っぽさっていうのかな、やっぱり。ただ大きいだけじゃなくて、声も含めた佇まいというか。彼に決めるまで時間かかってるんですけど、今にして思えば、最初に会ったときに決まってたんだろうなって。
- 佐藤P
- そうかもしれないですね。僕らはぴんとこなかったんですけど、監督はオーディションに5回も呼び続けて(笑) 5回も呼ぶなんてそうないと思うんですけど、最後は監督が彼でいきたい、と。
- 松谷
- 神木くんとか、若手のベテラン勢の存在によって、東出くんみたいな若い人も出てきたっていうところもありますよね。
- 監督
- そうですね。神木君や大後さんがいたことによって、ああいう賭けに出ることができた部分はありますね。
- 佐藤P
- サニーの主役の子(シム・ウンギョン)と神木くんの芝居の質は似てる気がしますね。顔が似てるっていう人もいるんですけど(笑) ちゃんと伝えられる芝居をするっていうか。ナチュラルにね。
- 中井
- 僕は辞めてないと思うんですけど、この映画のすごくいいところは結論を明示しないことで、そこにこそ映画の本当の面白さがあると思うんです。最近の映画ってわかりやすいものが多いですよね。A=Bであるっていうのを明示してしまって、観客の思考を停止させてしまうような。僕が『桐島』を素晴らしいと思うのは、さっきも言った通り、セリフはあるけれどもそれで何かを伝えようとしているわけではなかったりとか、桐島自身がどうなのかという問題も含めて明示しないことなんですね。その行間を含むことによって、観ている側に自分の解釈や想像を広げさせる。映画自体が本来持っている魅力みたいなものを、この作品は包括してるなという印象を持ちました。
今質問してくれた方も、どうなんだろうって思ったわけですよね。それがすごく大事なことで、A=Bであるという風に押し付けない映画に出会えたこと自体が、とても素晴らしいんじゃないかなって思います。 - 松谷
- 中井さんのおっしゃるとおりです。実際、私が『桐島』を観たときは、途中まで「桐島ってほんとにいるのかな」って考えてたんですよね。本当に桐島はいるのか、もしかしていないかもしれないし、いろんな人が桐島を探してるけど、誰か一人がほんとは桐島だったのかもしれないし、とか。どんどん個人で思考して、妄想して、愉しむことができる作品だと思うので、解釈は皆さんお好きにやられるといいと思いますね。
- 花くま
- いろんな解釈がネットに出てますけど、キリストとかいうのはすごくつまらないって思ったんですよ(笑) 観た映画を好きになって、その感想として単純にいいなあって思ったのは、作家の「さらば雑司ヶ谷」の樋口毅宏さん(※9)が言ったことです。桐島がなぜいなくなったかって、実は橋本愛(かすみ)にフられたからなんですよ。それを聞いたらすごいすっきりしちゃって(笑) そうするとかすみの振る舞い方とか、全部しっくりくるんですよ。
- 佐藤P
- 樋口さん、先に誰かに言われるんじゃないかってドキドキしてたって(笑)
僕も監督も、そういう話は全然してないんです。桐島が部活をやめた理由も、桐島がどんな子かも、桐島がその後どうしているかも、スタッフの中で共通見解は持っていない。だからたぶん、スタッフもキャストもそれぞれ思ってることがあるんでしょうけど、いろんな解釈ができる余地をあえて残したつもりです。だから僕も、製作陣として何かを言うつもりはないですし、それこそ屋上にいた人が桐島かどうかも含めて、皆さんに委ねたい気もしています。そういう余韻というか、余白があることが、この映画がこうやって皆さんに愛されたり、ツイッターをはじめSNSで広まったりした理由でもあるのかな、と。
「おっサニー」さんがおっしゃってましたけど、語れる映画、語りたい映画であるというのは『サニー』も一緒だと思うんです。『サニー』と共に『桐島』がこうやって上映されているのは、そういう繋がりもある。2012年のSNSが発達してきた中で生まれたヒットというか、誰かに伝えたい、人それぞれの意見が言いやすい、全員が違うことを考えるかもしれないというような度量をもった映画2つということかなと思っています。
(※9)樋口毅宏: 小説家、編集者。著書に「さらば雑司ヶ谷」「テロルのすべて」「二十五の瞳」など。
- 松谷
- さっき控室でちょっと話に出たのは、この映画は二つとも、ある一人の登場人物を探しまくるっていう映画なんですよね。『サニー』のラストについてちょっと盛り上がりましたよね。
- 監督
- あの『サニー』のラストでね、僕はびっくりしたんですよ。やっぱり顔にキズをもった女性があの歳まで生きると、いろいろあったわけですよ、きっとね。その人がポンと顔を出したから。まさか顔を出すと思ってなかったんです。僕が桐島をはっきりと出さなかったのは、僕が臆病なのか、『サニー』の監督が勇気のある人なのか。そういうことをちょっと考えさせられて、ショックというかびっくりしましたね。
- 松谷
- 現代のスジ役の女優さん。よく私も知らないんですけど、昔CMで人気があって、一時期を境に出てこなくなった人らしくて。
- 監督
- 日本でいうと、松本孝美さん(※10)…て、わかる人どれくらいいるのかな? そういう文脈(かつて人気があったけど現在は表舞台に立つことが少ない)を知った上で観ると、また違うのかもしれないけど。僕は正直びっくりしました。
- 松谷
- 普通にサニーの最後を撮るんだったら、こう、スジの背中がみえて…。
- 中井
- そうですね、スジの背中を通して向こう側のサニーのメンバーの表情で、なにかを推し量るっていう演出があるのかなって思ったんですけど。
- 監督
- 皆さん『サニー』が好きで、やっぱり顔がみたかったわけですよね。「最後に顔がみえて良かった」って思ってる人が多いはずだから。そこはほんとに興味ありますね。桐島は最後に出てきたほうが良かったのかなとか…あ、そんなこと言うと(まだ観ていない人もいるので)、よくないかなあ(笑)
- 中井
- 出てくるかもしれない(笑)
- 監督
- わからないですよ、まだね(笑)
(※10)松本孝美: モデル、司会者。コカ・コーラをはじめ数々のCMに出演し、(初代)CMの女王と呼ばれた。
- 監督
- 僕は早稲田松竹に昔よく来てたんですけど、こんなに広い劇場だったかなって思うくらい人がいて、こんなにぎっしり埋まっている状況はあまり観たことがないので、すごく有難いなって思います。皆さんの話を聞いてくださる表情も、すごく映画を気に入ってくださっている感じがしました。
まだ『桐島』をご覧になってない方の前でいろいろ話をしちゃいましたけど、何回か観てる方もいらっしゃるような映画なので、ネタバレネタバレってよくいいますけど、そういうことと関係なく愉しんでいただければと思います。今日はどうもありがとうございました。