中学一年生だった時、いったい何を考えて日々を過ごしていたでしょう。自分の周りの世界は、どう映っていましたか?13歳って子供?大人?その境目をまたぎ始める、とても微妙で不安定な年頃かもしれません。だからこそ、幼い子供のように無邪気な心で、思い切り人を傷つけたり過ちを犯したりしてしまう。その犯罪は、時に大人のそれよりも残酷な結果を生むことがあるのです。
今週の二本立てに「?」が頭に浮かんだ方、いらっしゃるのではないでしょうか。
もうどちらも鑑賞したという方は、もしかしたらこの組み合わせにニヤリとするかもしれません。ニヤッとした方、あなた鋭いです。
それもそのはず、今回上映する『害虫』と『告白』というふたつの映画は、同じ中学一年生の教室を舞台としながらも、共通点を見つけるのが難しいくらい対極にある作品だからです。
ではいったい、どんな違いがあるのでしょう。
私はこの二作品を、“語る映画”と“語らない映画”だと思うのです。
今年の邦画界でその過激さから話題をかっさらい、記録的なヒットとなった『告白』は、目にも耳にも“語る映画”。めまぐるしいカット割りにほの暗いながらも鮮やかな色彩、荘厳なクラシックからRadioheadの突き抜けるようなギター、果てはAKB48まで流れてしまうサウンドトラックなど、まるで映画というよりプロモーションビデオを観ているかのような感覚を憶えます。しかも登場人物たちはみな、『告白』というタイトル通り自分の言い分や訴えを好き勝手に“語る”。私たちが息を呑む暇なんてありません。
しかし、それは中島哲也監督の意図したことであり、彼の作風でもあります。「愛娘を生徒に殺された女教師の復讐」という重く暗いテーマを、中島作品特有のたたみかける映像と音楽で、一級のエンターテインメントに仕上げてしまいました。私たち観客は監督が作ったジェットコースターに腰を降ろしてさえいれば、いつのまにか映画の世界に飲み込まれ、まんまと抜け出せなくなるのです。
一方、今ではすっかり国民的女優となった宮アあおいが映画初主演を果たした『害虫』は、“語らない映画”。セリフも音楽もカットも最小限。出てくる人々の生い立ちや心情の説明はほとんどなし。主人公サチ子の心の機微を中心においた物語のはずなのに、肝心の彼女は心をかたく閉ざし日常の世界と関わりをもつことを拒否しています。街をうろつき出会った浮浪者・キュウゾウの住むあばら小屋、その屋根の隙間から見る青空のように、サチ子の心には大きな穴がポカンとあいている。サチ子の行動に私たちは始終「なぜ?どうして?」と思いながら鑑賞していかなければなりません。
けれどそれもまた監督の思惑。塩田明彦監督はインタビューで「作り方そのものがどこか反抗的で、ある強さを持った映画にしたいと思った」と語っています。わかりやすい説明をするのでなく、観ている側に考えさせる余白を与えるのもまた映画の醍醐味なのです。
そんなまるで印象の違う作品だけれども、描かれる少年少女たちの姿はやっぱり似ている。『告白』の中のどんよりとした曇り空は、彼らの心模様そのものなのです。現代に生きる子供たちの弱さや愚かさをどちらも客観的なまでに淡々と映しており、余計に残酷さが観る者に迫ってきます。リアルな中学生の姿を異なる角度から切り取った今週の二本立て、ぜひ劇場で見比べてみてください。そして、自分が13歳だった頃の気持ち、思い出してみてはいかがでしょう。
害虫
(2002年 日本 92分 ビスタ/SR)
2010年12月4日から12月10日まで上映
■監督 塩田明彦
■脚本 清野弥生
■撮影 喜久村徳章
■音楽 ナンバーガール
■日本映画プロフェッショナル大賞作品賞・監督賞・ベスト10(第1位)
北サチ子は、母親の自殺未遂、小学時代の担任・緒方との恋愛などが影響してか、同級生の女の子たちとは違った雰囲気を持つ中学一年生の少女。自分に関する噂が飛び交う、気詰まりな学校をドロップアウトして、街で気ままに毎日を過ごすことにしたサチ子は、万引きで小銭を稼いで生活する少年タカオと、精神薄弱の中年男と知り合う。彼らと小さな悪事を楽しみ、子供らしい笑顔を取り戻すサチ子。一方、クラスメイトの夏子の努力のかいあってか、サチ子は再び登校しはじめる。合唱コンクール、男子生徒との恋、そして何より夏子という親友を手に入れて、順風な学校生活が始まったかに思えたサチ子だったが、残酷な現実が次々と突き付けられて…。
今や国民的女優に成長した宮崎あおいと蒼井優が、それぞれ15歳の時に撮影された本作。主人公サチ子を演じる宮崎あおいは、少女らしい佇まいと、はっとさせられるような大人びた表情で、寡黙で掴みどころのないサチ子の内面までも見事に表現。サチ子を学校に呼び戻し、親友となるクラスメイトの夏子を演じた蒼井優は、サチ子とは対照的な明るさや優しさが瑞々しく印象的だ。サチ子が恋心を寄せる小学校時代の担任、緒方には田辺誠一。殺伐としたサチ子の心を文通によって支える、出番は少ないが心に残る芝居を見せている。不幸な影を引きずる母親を演じたりょうは、難しい役どころながら堂々の演技で強烈な存在感を残した。
告白
(2010年 日本 106分 ビスタ/SRD)
2010年12月4日から12月10日まで上映
■監督・脚本 中島哲也
■原作 湊かなえ『告白』(双葉社刊)
■撮影 阿藤正一/尾澤篤史
■主題歌 レディオヘッド『Last Flowers』
■出演 松たか子/木村佳乃/岡田将生/西井幸人/藤原薫/橋本愛
とある中学校、1年B組。終業式後のホームルーム。担任・森口悠子が“あの事件”…数ヶ月前、学校のプールで彼女の一人娘が死亡した事件…の真相を話し始めた。事故死と判断された娘は、実は、クラスの中の2人=犯人A・Bに殺されたのだと言う。それはまさに衝撃の告白であった。森口は少年法で守られた犯人たちに、想像を絶する方法で処罰を与えると宣言する。これで終わりにはできない――
09年、本屋大賞に輝き、上半期単行本フィクション部門第一位を記録したベストセラー、『告白』(湊かなえ/双葉社)。「生徒に娘を殺された」という女教師の告白から始まり、殺人事件に関わった登場人物たちの独白形式で構成される物語は、虚実入り混じり、驚愕・戦慄・唖然の連続。
監督をつとめたのは、独創的な映像感覚と確かな演出力で『下妻物語』『嫌われ松子の一生』『パコと魔法の絵本』などの傑作を生み出してきた中島哲也。主人公・森口悠子を演じるのは、『ヴィヨンの妻〜桜桃とタンポポ〜』であらゆる映画賞を総なめにし、いま最も注目される女優・松たか子。熱血すぎてかなりウザい新人教師役に岡田将生、殺人犯の過保護すぎる母親に木村佳乃、そして全国から選ばれた生徒=37人の13歳たち。日本中が衝撃に湧いた、極限のエンターテインメントを見逃すな!