監督■ジャン=ピエール・ジュネ
1953年フランス生まれ。ビデオクリップやCM作家として活躍後、短編映画“FOUTAISES”(つまらないもの)で91年セザール賞短編賞を受賞。
その後、学生時代からの友人であるマルク・キャロとコンビを組み、『デリカテッセン』で一大センセーションとなる。フランス国内ではその年の観客動員数第3位のヒットとなり、セザール賞作品賞、脚本賞、美術賞の4部門を受賞。続く『ロスト・チルドレン』では謎の教団を支配するクローン人間の世界が悪夢的映像美で描かれ、セザール賞演出賞を受賞。鬼才テリー・ギリアムから「最も驚異的な映像だ。最高の映画!」と言わしめた。その後、『エイリアン4』ではハリウッドから大抜擢され、世界的に地位を不動のものとする。
パリにもどり、4年ぶりの公開となった『アメリ』での世界的成功をもとに、10年間温めていた超大作『ロング・エンゲージメント』を発表。ジュネ監督作の中では、バジェットもスケールも桁違いの規模で制作された。今秋9月4日からは、全世界待望の最新作『ミックマック』が日本で公開される。
・『デリカテッセン』('91)
・『ロスト・チルドレン』('95)
・『エイリアン4』('97)
・『アメリ』('01)
・『ロング・エンゲージメント』('04)
・『ミックマック』('09)
*日本公開作品のみ
みなさんは覚えていますか?2001年、ミニシアターでの単館上映から始まった一本の映画が、アメリ現象と呼ばれる社会現象を巻き起こしたこと。当時住んでいた神戸の街でも、街中のお洒落なカフェではカリカリ焼き目のクレームブリュレがメニューに加わり、ファッション誌では映画から切り抜かれたようなインテリア特集が組まれ、美容院では前髪パッツンのアメリヘアを希望する人がほんとに続出。観る人みんなが幸せになると謳われたこのアメリ現象は当時の『現代用語の基礎知識』にも掲載されてしまう程でした。ジャン=ピエール・ジュネ監督の最新作『ミックマック』の日本公開を記念しまして、今週はゼロ年代のミニシアター作品で最もヒットした映画『アメリ』と、監督自身が『アメリ』の遥か以前から映画化を待ちわび続けていた『ロング・エンゲージメント』の2本立てでお送りします。
『アメリ』の世界的なヒットで一躍時の人となったジュネ監督ですが、それまでに監督した長編は僅か3本。『デリカテッセン』では核戦争後のパリで“人肉”を売り繁盛する精肉店の模様を描き、『ロスト・チルドレン』は一つ目族に弟を誘拐された怪力男が救出のため奔走する物語、そして、ハリウッドに進出した『エイリアン4』は人間のエイリアン化、エイリアンの人間化をブラックユーモアたっぷりで描いた映画でした。そして一転パーソナルな物語となった『アメリ』。主人公アメリの写ったあのポスターだけを見れば、かわいい女の子が恋に恋する爽やかな恋愛映画かにも思えましたが、ジュネ監督です。普通の映画には終わりません。アメリは空想の中でひとり遊びをしていた女の子、“人に幸せを与えること”を楽しんでいる。恋する相手はポルノショップで働き、趣味は捨てられたスピード写真のスクラップという不思議な青年ニノ。そんな2人が不器用な恋を始めようとするのですから。
そして監督の10年来の悲願であった映画化を実現した作品が『ロング・エンゲージメント』。戦争中に行方不明になった恋人を探すある種のミステリーであり、戦争の痛ましさを克明に綴った映画でありながらも、彼は必ず生きていると愛の直感を信じる女の子がどこまでも彼氏を追いかけるというこの構造は『アメリ』でもみられた彼の真骨頂。そしてこの映画を特別なものにしているのは、巨匠アンジェロ・バダラメンティによる音楽。「アンジェロ、君のための映画があるんだ」と電話をかけたそうですが、デビット・リンチ監督のパートーナーとして『ツイン・ピークス』や『マルホランド・ドライブ』など数々の名作を彩って来た彼の手が、ジュネ監督の徹底的に造り込まれたファンタジー映像と混ざり合い、壮大な透明感にそこはかとないグロテスクさが醸し出されたような、まさにジュネワールドを完結させています。
ゼロ年代を象徴する映画『アメリ』、ジャン=ピエール・ジェネ悲願の一作『ロング・エンゲージメント』の二本立て。世界観の全く違う作品でありながらも、観終わったあとに強烈に気持ちを揺さぶる映画を撮り続けてきたジュネ監督。その妙味どうぞご体感下さい。
ロング・エンゲージメント
UN LONG DIMANCHE DE FIANCAILLES
(2004年 フランス・アメリカ 134分 シネスコ/SRD)
2010年8月28日から9月3日まで上映
■監督 ジャン=ピエール・ジュネ
■製作 ビル・ガーバー/ジャン=ルイ・モンチュー
■原作 セバスチャン・ジャプリゾ『長い日曜日』(東京創元社刊)
■脚本 ジャン=ピエール・ジュネ/ギョーム・ローラン
■撮影 ブリュノ・デルボネル
■編集 エルヴェ・シュネイ
■音楽 アンジェロ・バダラメンティ
■出演 オドレイ・トトゥ/ギャスパー・ウリエル/ジャン=ピエール・ベッケル/ドミニク・ベテンフェルド/クロヴィス・コルニアック/マリオン・コティヤール/ ジャン=ピエール・ダルッサン/ ジュリー・ドパルデュー /アンドレ・デュソリエ/ティッキー・オルガド/ジェローム・キルシャー/ドニ・ラヴァン/シャンタル・ヌーヴィル
■ヨーロッパ映画賞プロダクションデザイン賞/セザール賞助演女優賞・有望若手男優賞・撮影賞・美術賞・衣装デザイン賞
第一次大戦下のフランス。まるで子供のように純粋に惹かれあうマチルドとマネクは、誰が見てもお似合いの恋人同士だった。だが過酷な運命はそんな2人を引き裂いてしまう。戦場に旅立ったマネクの身を案じていたマチルドのもとにもたらされる悲報。軍法会議にかけられ、死刑を宣告された彼が、ドイツ軍との前線に武器もなく置き去りにされたというのだ。だが、その先のことは誰も知らない。その日から、マチルドの懸命な捜索が始まった。「彼に何かあれば、私にはわかるはず」――その直感だけを信じ、マチルドは途方もなく長い、遠い旅に出る。不思議な愛の直感に導かれながら…。
彼女は真相に近づいた時、同時に戦争という残虐非道な事実、そしてそれに巻き込まれた人々が一人残らず受けている消し難い悲惨な心の傷跡に気付くのであった。果たして、彼女の直感は、奇跡を起こすことが出来るのか――。
監督、ジャン=ピエール・ジュネが「恐ろしく洗練された、まるで精密機械のようなミステリー」と例える、巨匠セバスチャン・ジャプリゾの全仏ベストセラー小説『長い日曜日』。世界中を幸福の渦に巻き込んだ『アメリ』の成功によって初めて、かねてからジュネが熱望していた映画化が可能になった。
構想は実に10年。この最愛の作品を作るにあたってジュネは、もっとも信頼を置く『アメリ』のスタッフを再結集。最新のCG技術を使い、細部にまでこだわったマニアックなまでの完全主義によって、『アメリ』で世界をとりこにしたあのファンタジックな味わいを加味し、1910年代の懐かしきフランスの姿を見事に再現させた。ジュネの真骨頂ともいえるファンタジーと息をのむようなリアリティ、アンティークの温もりを感じさせるこだわりの映像美に貫かれた、映画史に残る愛の傑作ミステリー!
アメリ
LE FABULEUX DESTIN D'AMELIE POULAIN
(2001年 フランス 121分 シネスコ/SRD)
2010年8月28日から9月3日まで上映
■監督 ジャン=ピエール・ジュネ
■製作 クローディー・オサール
■脚本 ジャン=ピエール・ジュネ/ギョーム・ローラン
■撮影 ブリュノ・デルボネル
■出演 オドレイ・トトゥ/マチュー・カソヴィッツ/ヨランド・モロー/ジャメル・ドゥブーズ/イザベル・ナンティ/ドミニク・ピノン/リュフュス
■英国アカデミー賞オリジナル脚本賞・プロダクションデザイン賞/ヨーロッパ映画賞作品賞・監督賞・撮影賞・観客賞/インディペンデント・スピリット賞外国映画賞/放送映画批評家協会賞外国語映画賞/セザール賞作品賞・監督賞・音楽賞・美術賞
空想の中でひとり遊びをしていた女の子、アメリは、そのまま大人になってモンマルトルのカフェで働いている。アメリの好きなことはクレーム・ブリュレのカリカリの焼き目をスプーンで壊すこと、サンマルタン運河の岸で水切りをすること、そして、まわりの人たちを今よりちょっとだけ幸せにする小さな悪戯をしかけること。
しかし、彼女の人生は捨てられたスピード写真のコレクターでありポルノショップで働くニノとの出会いによって、ある日突然混乱をきたす。人を幸せにするどころか、とろけるような優しい笑顔のニノにアメリはなかなか恋心を打ち明けることができない。アメリのもっとも苦手な現実との対決、不器用な恋に必要なのは、ほんの少しの勇気…。
『アメリ』で描かれた情緒あふれるモンマルトルは、フランス人が狂喜した古き良きパリでありながら、あくまでもジュネのパリ。非現実的な色調や、メトロや通りのポスター1枚に至るまですべてを張り替え、ありは合成した画作りなど徹底して作りこんだ映像によって、観るものを魅了するノスタルジックでかつ近未来の魔法の宝石箱のような風変りなおとぎ話が完成した。
世界中が恋をした主人公・アメリを演じるのは、“大きな丸い瞳をした、小さな妖精のような”オドレイ・トトゥ。この映画で一気にブレイクした彼女は、カンヌ映画祭で2001年の最も期待される女優に与えられるショパール賞を受賞、その後も数々の映画で活躍を続けている。相手役ニノのマチュー・カソヴィッツは『クリムゾン・リバー』などで監督としても異才を発揮する俳優であり、ジュネは「彼ほど才能があり、カメラに愛された俳優はいない」と称えている。